大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 133『紙飛行機西へ』

2023-07-23 14:07:02 | ノベル2

ら 信長転生記

133『紙飛行機西へ信長 

 

 

 眼下に大森林が広がる。三国志と扶桑を隔てる緩衝地帯。境目の大樹林だ。

 

 その向こうには東西に長城が横たわり、所どころの木の間隠れに長城の物見櫓が窺える。

 このまま進んでは、長城どころか、三国志の北半分からは視認されてしまう。

 茶姫の働きで商人たちの行き来は回復したが、潜在的には敵同士、まして我々(信長・市・茶姫)は曹操から敵認定される身。このまま越境するわけにはいかない。

「お兄ちゃん、どこから潜り込むつもり?」

「西へ抜ける」

「西、卯盃(ぼうはい)か?」

「さらに西、天山山脈と崑崙山脈の間だ」

「テンザンサンミャク? コンロンサンミャク?」

「信長くん、それって、ゴビ砂漠ではないのか!?」

「ゴビサバク?」

 市の地理的知識は三国志止まりのようだ。かく言う俺も平手の爺から聞いた西遊記レベルの知識だがな。

「忠八がルート検索をしてくれたのが、このルートなんだ」

 俺も、詳しいルートを知っていたわけではない『飛行ルートはプログラムしてあります、水平飛行になればモニターに表示されます』という言葉に従って風まかせにしているだけだ。これまでの仕事ぶりから言っても奴のやることに間違いはない。忠八は、どちらかと言うと光秀タイプの辛気くさい奴なのだが、サルに対するに近い信頼を感じるのは、俺も少しは練れてきたのかもしれない。

 ビューーーン

 紙飛行機も人目を避けようと思ったのか、猛烈に速度を上げる。

 よくできた紙飛行機で、高速だが安定した姿勢のまま西に飛び続け、やがて高度を取って巡航速度に戻った。

「あ、長城が途切れてきた……」

「陽関だ……」

「羊羹!?」

 思わず虎屋の羊羹を思い浮かべてしまったぞ。

「王維の詩にある『西の方 陽関を出れば 故人無からん』の陽関だ」

「えと、ちょっと難しんだけど」

「万里の長城の西の果て。陽関という街。そこを過ぎると、ずっとゴビ砂漠が続くのみ。さすがの三国志もここで絶え、その先は言葉も通じぬ西域の世界だという意味だ。逆に東に戻れば、蜀の成都に出られる。そうだったな茶姫?」

「ああ、そうよ」

「なんだ、成都の隣なんだ」

「1000キロはあるぞ」

「1000キロ!?」

「ああ、安土から白河の関ほどだ」

「白河の関ぃ……奥の細道かぁ( ゚Д゚)!?」

「そのくらい時間と距離をかけて、ほとぼりを冷ましてから三国志に戻れということでしょうね……」

「忠八が練りに練ってくれたルートとプランだ、焦らず確実に進んで行くしかない」

「でもでも、手配書とか回ってるんでしょ? 茶姫・ニイ・シイの三人で人相書きとか出てて『賞金首』とか『Wanted!』とか書かれてるんでしょ!?」

「それは、なにか対策があるんでしょ、信長くん?」

「あ、ああ、いちおう天照が、こんなものを寄こして……」

「え、鍋? にしては取っ手が無い」

「真ん中に穴が……中から見ると尖がってるわね」

「シホンケーキの型なんだそうだ」

「シフォンケーキでしょ?」

「天照はそう言ってた」

「古い神さまだから訛ってんのね」

「これを持っていけば、次第に育っていって、美味いシホンケーキ、いやシフォンケーキが焼けるようになるそうなんだ」

「それから、これをくれたぞ」

「え?」

「指輪?」

「ああ、一言主(ヒトコトヌシ)って神が籠められていて、役に立ってくれるそうだぞ」

「あ、なんでも一言で済ましちゃうって日本一ボキャ貧の神さま!」

「大丈夫なのか信長くん?」

「ああ、コスプレの神でもあるって言ってたから、役には立つんだろう」

「前回はお爺ちゃんの神さまだったし、大丈夫かなあ」

 グラリ

「「「わあ」」」

 グラリと傾いたかと思うと、紙飛行機は左に旋回しつつ砂漠に着陸。忠八の力作だけあって、旋回は急だったものの、穏やかに着陸して、俺たちはタクラマカン砂漠に対曹操リベンジ戦の第一歩を記した。

 

「ペッペッ、口の中に砂が入ったぁ!」

「口を開けっ放しにしているからだ」

「水を飲め」

「うん」

「あ、一口だけだぞ! この先、どこで給水できるか分からんからな」

「え、でも、ヨーカンとかって街の近くなんでしょ?」

――いいや、そうでもないわよ――

 声が遠い……と思ったら、茶姫は砂山に上り、手をかざして地形観察をしている。

 ザクザクザク……

 砂山に並んで、同じように周囲を見渡す。

「だいぶ西に流された、陽関のヨの字も見えない」

「ちょっと、大丈夫ぅ?」

「ふくれるな、陽関が見えないということは、陽関からもこちらが見えないということだ」

「そうね、我々が降り立ったのは誰も見ていないということよ」

「よし、今のうちにコスプレしておくぞ」

「変装って言いなさいよ、遊びに来てるわけじゃないんだから」

「遊びも大事だよ、シイ、余裕を持たなきゃ長旅はもたない」

 俺は、左手を掲げて、指輪に命じた。

「ヒトコトヌシ、この旅に相応しいコスに着替えさせろ!」

 

 ボボボーーン

 

 三連発の音とエフェクトがして、俺たちは瞬間で姿が変わったぞ!

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ)

   

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・かの世界この世界:166『帰還』

2023-07-23 06:46:38 | 時かける少女

RE・

166『帰還』テル(光子) 

 
 

 ドグァッシャーーーン!!!

 

 カテンの森で野営の準備をしていると、森の奥から百年分の雷が落ちるような音がした。

 反射的に身を伏せると地震のような衝撃が続き、森の鳥や小動物たちが逃げてくる。

 すぐに四号の仲間と共に駆けつけると、トール元帥の戦車部隊がグチャグチャに撃破され、森の木々をなぎ倒して無残な姿をさらしていた。

 

 なんということだ……

 

 最前線で手ひどくやられ、全滅寸前にワープして撤退してきた様子だ。

 戦車と言うものは、外骨格の怪物で、撃破されてもおおよその形は残るものだ。

 それが、超重戦車の六号でさえ、ひしゃげた缶詰のように形を留めていないものがある。缶詰たちの周囲にはバーベキューの途中で放り出された肉のようなものがいくつも転がり、あるいは缶詰からはみ出ていた。

 その残骸と肉たちに囲まれてトール元帥が瀕死の重傷で横たわっている。

「元帥閣下!」

 タングリスが駆け寄る。

 蘇生術を施すのかと思った……が、違った。

 なにを!?

 タングリスは装具を解くと、野戦服まで脱ぎだし、身一つになったかと思うと元帥の上に裸身を投げ出した。

「お、おまえらは見るなあ(;゜Д゜)!!」

 ヒルデが両手を広げて立ちふさがる!

 とても、その小柄な体で隠しきれるものでは無いのだが、その切実さにたじろいでしまう。

 すると、切羽詰まったヒルデの頭の向こう、空の上からポチがクルクルと舞い落ちてくるのが目に入った。

 あ……ああ…………

 慌ただしく立ち止まったせいか、急に空を見上げる姿勢になったためか、数瞬の間に目にした衝撃的な光景のせいか、視界が鈍色の闇に狭窄されて、意識の糸が切れてしまった。

 

 ……さん。

 …井さん。

 寺井さん。

 

 懐かしい名前で呼ばれて、うっすらと目を開けると和室の天井……胸元まで掛けられたお布団の感触。

 これは…………?

「よかった、目が覚めた!」

「もう、戻ってこないんじゃないかと……心配で心配で」

「泣くんじゃないよ美空。光子、ちゃんと戻ってきたんだ」

「う、うん」

 この人たちは……。

「何度もフリーズして、クラッシュを繰り返して……」

「もう、戻って来れなくなってしまいそうで、時美と二人で回収したのよ。このままじゃみっちゃん、寺井さん、もたなくなっちゃうから」

「あ、もう少し寝ていろ、完全に戻って来るには、もう少し時間がかかるから」

 そう言われて、お布団から出した手を見ると、指の先が、まだ半透明だ。

 この二人は……?

 そこで、指の第二関節まで色が戻ってきて思い出した。

「中臣先輩! 志村先輩!」

 数年ぶり、ひょっとして数十年ぶり、数百年ぶりで、こちらの意識が戻ってきた……。

 

☆ ステータス

 HP:13500 MP:180 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・900 マップ:14 金の針:1000 その他:∞ 所持金:8000万ギル(リボ払い残高無し)
 装備:剣士の装備レベル38(勇者の剣) 弓兵の装備レベル32(勇者の弓)
 憶えたオーバードライブ:シルバーケアル(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)
 スプラッシュテール(ブリュンヒルデ) 空蝉(ポチ)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  テルの幼なじみ ペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目に1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         荒れ地の万屋 
 ユーリア        ヘルム島の少女
 ナフタリン       ユグドラシルのメッセンジャー族ラタトスクの生き残り
 フェンリル二世     狼族の王子

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする