大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・168『ピタゴラスゴールデン街・2』

2023-07-04 14:35:16 | 小説4

・168

『ピタゴラスゴールデン街・2』緒方未来 

 

 

 扶桑の月面領土(正確には管理地)を3PAと書く。

 

 三つのPカルデラ(パスカル・プラトン・ピタゴラス)で3P。それにアルキメデスのAを合わせて3PA。

 英語読みしてスリーパ。

 月面開発勢力として後発組の扶桑は、他の勢力からは警戒されて先代将軍さまのころまでは、これをもじってスリーパーと呼ばれていた。

 まあ、眠れる獅子的な感じ。

 それが、御当代の道隆さまが将軍位に就かれてからはスリッパと呼ばれるようになったんだよ。

 

 これにはエピソードがある。

 

 将軍位に就かれた道隆さまは、最初に征夷大将軍の大礼服でお写真をお撮りになったんだけど、誤ってスリッパのまま撮影されてしまった。黒皮のスリッパだったので、前の方から写したお写真では、ほとんど靴と区別がつかない。

 そのお写真が、全火星、全地球に配信されてから奥女中御年寄(御年寄と言ってもお婆さんじゃない、役職がそういう名前)が気づいて、ちょっと問題になった。

 一時は「撮り直し!」とか「担当女中を処分しろ!」とかの声が内外で起こった。

「いいよいいよ。僕の不注意だし、あのスリッパは気に入ってもいたし。一人ぐらい、こんな将軍がいてもいいでしょ」

 と、笑って済ませられ、その後も、上さまは、この黒スリッパを奥で使われている。

 この話が評判になると、それまでスリーパーと通称されていた扶桑の月面管理地はスリッパと親しみを籠めて呼ばれるようになった。

 

 そして、月面宙返りのポップな曲を聴きながら向かっているのが、ゴールデン街で一番古い居酒屋のスリッパ。

 もともとは、そのまんま3PAだったけど、道隆さまのエピソード以来『スリーピーエー』とは読まれずにスリッパと呼ばれている。

 慣れるまでに五回も迷った路地を拾ってスリッパの見える通りに出てきた。

 ちょっと、店の中で言い争っている。

 

「ちょいと、うちはスリッパに履き替えてもらうのが決まりなんですよ。靴箱はそこですから、どうかお履き替えになって、ご入店くださいまし」

「ふん、なんで扶桑人でもない俺たちが扶桑のしきたりに倣わなきゃなんねえんだ!」

「そうだ、バカ将軍の言い訳が、ちょっとウケたからって、下衆な真似して、みっともねえじゃんよ」

「うちはね、四代さまのころから店出してるんですよ。そのころからご入店の際は下足を履き替えてもらうことにしてるで、よろしく願いますよ」

「俺たちゃ、人手不足のスリッパに来て生産性をあげてやってるんだ、四の五の言うんじゃねえ!」

「それなら、このゴールデン街には、他にもお店はございますから、どうぞ、そちらの方へ」

「んだとぉ、客を締め出そうってか!?」

「入店拒否たあ、いい度胸してんなあ」

「……………(-_-;)」

 

 だめだ、女将さんキレる!

 

「ねえ、ちょっと、あんたたち」

「あん?」

「なんだぁ?」

「女の出る幕じゃねえ!」

「あたし、ここの客で、医者なの。女将さんがお客に履き替えさせるのはバイ菌持ち込ませないためなのよ。月面は無菌だけど、人間が生活してるところには地球並みの雑菌がいっぱいいるんだからね」

 理屈が通る相手じゃないとは分かってるけど、いちおう筋道は通しておく。

「ああん……おまえ、俺たちのことを雑菌だっていうのかあ!」

「はいはい、じゃあ、表に出なさい」

「未来ちゃん、相手にしちゃダメよ!」

「大丈夫よ女将さん、わたしも火星育ち、ちゃんと相手を見て喋ってる。いちおう警務には連絡しといて」

「フン、警務が来る前にはぶっ倒して売り飛ばし……グホ( ゚Д゚)!」

「やると決めてから、能書き垂れてんじゃないわよっ!」

 ドゲシ!

「このあまぁ!」

「しつこい!」

「いっ、イデデデ」

「火星の医者はね、みんな一度はこういうとこで働くから、一応のスキルは持ってんのよ!」

 半分はウソ、もともと並みのちょっと上くらいにケンカはできる。ダッシュほどじゃないけど。

 ドス!

「ゲボ!」

「あんたは、関節外しとこう……ねっ!」

 グギ

「ウオオ!」

「こっちは、もう一発!」

 ドゴ!

「こっちもっ!」

 セイ!

 ……と、次にぶん回したキックは空中で停まってしまう。

 いや、だれかに掴まれてる!

「こういうじゃじゃ馬は、俺の好みだ……」

 しまった、もう一人いたんだ! ゴリラみたいに大きい、それも腕が立つ!

「ほれ」

「ウワアア!!」

 

 天地が180度ひっくり返った……

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・かの世界この世界:147『ユグドラシルの時霧』

2023-07-04 06:58:15 | 時かける少女

RE・

147『ユグドラシルの時霧』ケイト 

 

 

 ユグドラシルというのがよく分からない。

 
 途方もなく巨大な世界樹で、その葉っぱの茂みや幹や根っこ中に八つの世界があって、その中には我々の住む人間界も含まれているらしい。

 だったら、その八つのうちの一つに過ぎない人間界の海に浮かぶユグドラシルってなんだ? 

 ユグドラシルの中にユグドラシルがあるってことにならないか? そのユグドラシルの人間界の海にはまたユグドラシルがあって、その中にまた人間界があって、そのまた中に……はあぁ、もう分からん(╥﹏╥)。

 
 ため息をつくとベンチで横になったナフタリンと目が合った。

 
「海に浮かんでいるユグドラシルはデバイスさ」

「デバイス?」

「ごめん、分からない言葉を使っちゃった」

 いや、一瞬パソコンとかスマホとかが頭に浮かんだけど、それが何なのかは分からない。

「たとえばな……これ」

 乗客の忘れ物だろうか、週刊ヘルムという雑誌を手に持った。表紙には『日帰りで行けるヘルムの名所100選』の見出しがある。

「ここにヘルムの海や山のグラビアが載っている。これを見ると、人はヘルムの海や山を思うだろ。潮騒や山を吹き渡る風を感じるやつもいるかもしれない。でも、このページにあるものは紙とインクだけなんだ。人は雑誌というデバイスを通してヘルムの世界を感じたわけだ」

「ああ、そうだよな」

「つまり、海に浮かんだユグドラシルを通して、本物のユグドラシルに入るわけさ」

「うーーーーーん」

「分からんちんだな、てめえは( ̄д ̄)」

「う、うっせえ(≧皿≦)」

「これなら、どうだ?」

 ナフタリンはページの端に100×35と書いた。

「3500」

「正解。つまり、そういうことさ。ページに書いた数字と記号で3500という世界に、ケイトは入ったんだ」

「あ、ああ……」

 分かったようで分からない。

 

「見えてきたーー!」

 

 マストの上の方からポチの声がした。ポチは見張りの役をかってくれていたのだ。

 水平線の向こうだからデッキにいる我々にはなかなか見えない。ロキがスルスルとマストに上ってみるがまだ見えない。ポチはマストのさらに十メートルほど上でホバリングしているんだ。

「見えた!」

 ロキが叫んだのは、さらに五分後で、もう十分もすればデッキのわたし達にも見えるだろう……と思っていたら、急に霧が湧いてきて視界を遮った。

「時間が停まっているのに……」

「なんで霧……」

 時間が停まった海はマーメイド号の周囲だけが液体で、その向こうは3Dの写真のように波さえフリーズしいる。

「よかったぁ……」

 ナフタリンが腰砕けになった。

「霧がいいことなのか?」

「ユグドラシルの時霧(ときぎり)。ユグドラシルが、まだ生きている証拠だぜぇ」

「それで、ユグドラシルのどこの世界に向かっていくんだ?」

 タングリスが目を凝らしながら聞いた。

「近づいてみないと分からない、取りあえず引き寄せられたところから入ってみるしかねえ」

「そうか……」

「それじゃ、車体と装具の点検をして乗り込んでおかないか? 着いた時にバラバラになったら困るぞ」

「姫のおっしゃる通りだ、今のうちにやってしまおう」

 姫が提案しタングリスが指示して作業に入った。

 

 慣れたもので、二分ほどで点検を済ませて全員四号に乗り込んだ。定員五人のところに七人が乗っているのでギュウギュウだ。

「ナフタリンはテルの背中に掴まって」

「うん」

 ナフタリンが車長のハッチから入って器用に砲手席に周ったところで衝撃が来た。

 
 ドーーーーーーーン

 
「ユグドラシルの重力場に捕まった!」

「みんな、しっかり掴まれ!」

 
 ゴーーっと風吹きすさぶ音がして船も戦車もギシギシ揺れる。

 
 貼視孔(てんしこう=砲塔のスリット)から覗くと、四号を縛着していたフックやらワイヤーやらが外れてしまって景色がグルンと回った!

 マーメイド号のデッキが遠のいて、すぐに船の全景が見えたかと思うと、グルグル回って、さらに遠のき時霧に包まれて見えなくなった。

 

 ウワアアアアアアアアアアアアア!

 ギョエエエエエエエエエエエエエ!

 オワアアアアアアアアアアアアア!

 ウヒョオオオオオオオオオオオオ!

 グガガガガガガガガガガガガガガ!

 オオオオオオオオオオオオオオオ!

 アアアアアアアアアアアアアアア!

 
 七つの悲鳴が尾を引いて、四号はいずことも知れず吹き飛ばされていく……。

 

 グワァッシャーーン!!

 

 世界が壊れたような衝撃がやってきて、気が遠くなっていった……。

 

☆ ステータス

 HP:13500 MP:180 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・900 マップ:12 金の針:1000 その他:∞ 所持金:8000万ギル(リボ払い残高無し)
 装備:剣士の装備レベル38(勇者の剣) 弓兵の装備レベル32(勇者の弓)
 憶えたオーバードライブ:シルバーケアル(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)
 スプラッシュテール(ブリュンヒルデ) 空蝉(ポチ)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  テルの幼なじみ ペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
   ペギー         荒れ地の万屋 
 ユーリア        ヘルム島の少女
   ナフタリン       ユグドラシルのメッセンジャー族ラタトスクの生き残り

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする