巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
写真館最初のアルバイトは結婚式の記念撮影だ!
「グッチには早いかもしれないけど、勉強になるわよ」
直美さん(わたしの雇い主)はライトバンのハッチを締めながら刺激的なことを言う。
記念写真だから、カメラと三脚ぐらいだと思ったら、レフ板やら照明機材やら、なにが入っているのか見当もつかないボックスやら、けっこうな機材でライトバンの後部座席は完全な物入れ。
「えと……」
助手席に収まって、軽くパニくる。
「どうかした?」
「あ、シートベルト……」
「え?」
しまった、1970年の車はシートベルトとかは付いてないんだ。
「そうだよね、シートベルトぐらい付けたら、ちょっとましに見えるかもねぇ……」
気を悪くさせたかなあと思ったけど、直美さんは、とても静かに発進させた。
「学生時代、ケーキ屋さんでバイトしててね」
「あ、可愛かったでしょうね(^0^)」
アンナミラーズみたいな制服着て「いらっしゃいませ~」とか言ってる直美さんを思い浮かべた。
「売り子じゃなくて、配送の方。高校三年で免許とってたから、履歴書に書いたら配送の方に回されて。時給も良かったしね、春休みにはお父さん乗せて、あちこち走ってたし」
「お父さんを?」
「うん、免停くらってて、運転できなかったの、お父さん」
「なるほど」
「ケーキ積んでると、気を遣うんだよ。急発進とか急ブレーキとかは、ケーキ潰しちゃうからね」
「なるほど……」
「それに、安全運転してると、地味に評判よくなるし。ボディーにロゴ入ってるでしょ『須之内写真館』て」
「あ、学校の制服といっしょですね」
「そうそう、世間は個人じゃなくて、制服とか車のロゴで判断するからね」
「さすがですぅ!」
「フフ、それは理由の半分でね」
「あとの半分は?」
「もうガタがきてるからね、労わりながら乗ってるの」
「でも、ホンダですよね、この車」
ハンドルのHのマークで見当がつく。
「ホンダN360」
「あ、なんかカッコいい」
巡と書いてメグリと読ませるよりもいいと思う。ホンダって丈夫で長持ちだし。
「N360って、どういう意味か分かる?」
「360は排気量ですよね」
「うん」
「Nは……ニッポンですか? NHKって日本放送協会だし」
「乗り物の頭文字のN」
「あ……」
「なんか子どもじみてて好きなんだけどね、そういうノリ。あ、ゲバゲバ90分見てた?」
「え?」
「あ、まあ、面白いだけの番組なんだけどね、ナンセンスなんだけどギャグの感覚が良くって、つい見てしまう……あ、まあ、グッチは中三だったよね、去年は」
「あ、あんまりテレビとか見ないですし」
「ああ、うん、賢明だね。あ、えと……そういう感覚で見るとNに籠めた意味は面白いと思うのよ。天下のホンダだから、すごい意味があるように思うでしょ? それが『乗り物』のNってスカシテるとこが……アハハ、へんな写真家だよね、わたしって(^_^;)」
「いえ、そんなことないです(^▽^;)」
結婚式場は隣町の公民館。
公民館といっても立派な鉄筋の建物で、ちゃんとした結婚式場も備えられていて、そこでの結婚式。
公民館の周囲は団地になっている、看板を見ると『宮之森希望が丘ニュータウン第一公民館』とあった。
希望が丘の地名は令和の時代にもあるんだけど、足を運んだことはない。
なんたって、やっと十六歳で、こないだまでは中学生だった。そんなに行動半径は広くない。
「……ちょっと機材動かさなきゃダメね」
式場には付属のスタジオが付いているんだけど、どうも直美さんは気に入らない。
「……時間は、大丈夫だから、ちょっと手直しするか!」
腕まくりすると、式場の脚立を出して機材の修正。
「あ、わたしやりましょうか?」
「重いよぉ」
「大丈夫です」
「じゃ、そっちの脚立で。ライト動かす時は、まずチェーン掛けてから、必ず手袋してね」
「はい……よいしょっと」
「おお、けっこう力持ちなんだ」
「アハハ、バカのなんとかです(^_^;)」
魔法のアシストがあるとは言えない。
「設備は豪華そうだけど、撮影とか照明とかには素人の設計だからね……」
「写真屋さんて、大変なんですねえ」
「まあ、ほどほどにやるって手もあるんだけど、結婚式って一生に一度でしょ、出来るだけのことはしてあげなくちゃ」
「はい」
三十分ほどかけて、照明やレフ板、背景のカーテンの調整やらやって、いよいよ撮影。
「うわあ……」
新郎新婦さんが入って来て、思わず声が出てしまう。新婦さんは赤くなりながらも、こっちを向いて微笑んでくれる。
これは、いい仕事しなくっちゃ!
「では、こちらにお立ちください。メイクさん、手直しがありましたら今のうちに」
「じゃ、失礼して……」
若いけど、テキパキしたメイクさんが、新郎新婦の最終仕上げ。
新郎は二十五才、新婦は二十才だそうだ。
初々しいと言うよりは、ちょっと幼い……と感じるのは令和の感覚なんだろうね。
五枚、二人だけの写真を撮ったあとに、仲人さんと、次に両家のご両親といっしょの写真。
続いて、双方の親族揃っての集合写真……これが大変(^_^;)。
「スッゲー!」「ひろーい!」「かっけー!」「きれい!」「ケイコねえちゃんきれい!」「シゲニイ、にあわねえ!」「うるせえ!」「およめさん、なりたーい!」「これ、タケシ!」「おかあさん、おしっこ!」「おばあちゃん、ダッコぉ」「オンブぅ!」「しずかに」「しずかにおし!」「いってー!」「やーい、怒られてやんの!」「アハハハ」
親類の子どもたちが十人ほどもいて、幼稚園の休憩時間みたいになってきた。
どうなることかと思ったけど、親や親類の人たちが、怒ったりなだめたりはり倒したりしたり……それでも五分ほどで落ち着いて、総勢六十人ほどの集合写真も無事にこなすことができた。
『それでは、ただいまより、門脇・小手川ご両家の……』
無事に結婚披露宴となった。
「さあ、一休み」
披露宴開式とウェディングケーキ入刀の撮影を終えて、わたしたちも休憩。
「披露宴の写真は、もういいんですか?」
「写真屋の仕事は、お酒が入るところまで。お弁当もらってるから、とりあえず休憩ね」
「凄いんですねぇ、御親族の集合写真でも二クラス分ほどいたし、披露宴は百人近いでしょうね」
「うん、でも普通よ」
「普通なんですか!」
「グッチは結婚式とか出たことないの?」
「はい、まだ無いです」
「フフ、いろいろ見て勉強しておくといいわ」
「は、はい」
撤収までには時間があるので、公民館の屋上に出てみた。
「うわあ……」
公民館はニュータウンを見下ろす丘の上にあって、眼下には四階や五階建ての団地がいっぱい並んでいる。
「こんなところだったんだ、希望が丘って……」
子どもたちのさんざめき、干したお布団をパンパン叩く音、チリ紙交換、宣伝飛行機の爆音とアナウンス、配達の車やバイクの音、犬がワンワン、ネコがニャンニャン……
チンチチン トントン チンチチン トントン……
お伽話めいたお囃子がしたと思ったら、団地の間をチンドン屋さんが通って行く。
それに、犬たちがワンワンと応えて、街は生きている!
そんな感じ。
スマホを出して十枚ほど写真を撮った。
十分ほどして戻ると「仕事入ったわよ」と直美さんに言われて公民館のロビー。
久々に親族が盛装して集まったので、キチンとした写真を撮っておきたいという人が居て、そういうのを三組ほど撮る。
「お天気いいですから、表でどうですか?」
「おお、それはいい(^▽^)」
直美さんの勧めで表に、公民館の名前を彫った石がある植え込みの前。
「グッチ、レフ板お願い」
「はい!」
集合写真の時と違って、みなさんリラックスしていらっしゃる。
「椅子を用意しましょうか」
お年寄りがいらっしゃるので聞いてみる。
「いやいや」
「だって、爺ちゃん、西南戦争の年の生まれだろ」
西南戦争?
「まだまだ自分の脚で立てるわい」
「ま、手っ取り早く頼みますわ、写真屋さん」
「はい、じゃあ、撮りまーす」
二組六枚の写真を撮る。
披露宴では、自分のカメラで撮ることが多いけど、時どき、こういうのを頼まれることがあるらしい。
当然、その日の売り上げが増えるわけで、写真屋にとってもめでたしめでたし。
あとで、ググってみたら、西南戦争は西郷隆盛の反乱戦争だよ。ビックリした。
彡 主な登場人物
- 時司 巡(ときつかさ めぐり) 高校一年生
- 時司 応(こたえ) 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
- 滝川 志忠屋のマスター
- ペコさん 志忠屋のバイト
- 猫又たち アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
- 宮田 博子(ロコ) 1年5組 クラスメート
- 辻本 たみ子 1年5組 副委員長
- 高峰 秀夫 1年5組 委員長
- 吉本 佳奈子 1年5組 保健委員 バレー部
- 横田 真知子 1年5組 リベラル系女子
- 加藤 高明(10円男) 留年してる同級生
- 藤田 勲 1年5組の担任
- 先生たち 花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
- 須之内直美 証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。