鳴かぬなら 信長転生記
20ノットか……
そう呟くと、信玄は背後の騎馬隊を振り返った。
これから……川中島の合戦が始まろうというわけではない。
実際、馬上の信玄は鎧兜の戦装束ではなく、赤のタンクトップにショートパンツ。暑さに耐えかねた女性騎手が規定ギリギリの薄着で天皇賞のレースに挑むような形(なり)だ。
信玄の背後には、同じ装束の武田の騎馬娘50騎が二列で続いている。
騎馬列の間にはロープがあって、ロープからは左右に25本ずつの枝が伸びて50騎の鞍壺に括り付けられ、先端は信玄の馬に連結されている。
そして、ロープの末は俺たちが乗っている特大の紙飛行機に結わえられ、この双ヶ岡の南斜面には学院学園のスタッフや見送りの者が200人以上集まっている。
「すみません、信玄さん。御山の南斜面では滑走距離がどうしても足りんのです! 合成風力が30ノットを超えるのをお待ちください!」
直立不動の軍服姿で応える二宮忠八。
なんだか、これから203高地に突撃する兵隊のようだが、忠八が突撃するわけではない。
忠八は、ギリギリの条件で離陸させなければならない紙飛行機の制作者として緊張の極みなんだ。
「緊張するな忠八。武田騎馬隊の中でも選りすぐりの五十騎だ。それも、来世でのさらなる戦功を決意し、儂同様に女子化して転生してきた者どもばかりだ。万に一つのしくじりも無い。ただ20ノットと言われて20ノットではつまらん、武田の騎馬隊は22ノットでこいつを牽引する。よいな、皆の者!」
「「「「「「「「「「オオ!!」」」」」」」」」」
「「「御屋形様あああ!」」」
三人のジジイが駆け寄ってきた。
「おお、年寄どもか」
そう、こいつらは武田騎馬隊の隊長を務めていた者どもだ。生まれ変わってなお勝頼を支え長篠の合戦で俺に撃ち勝とうとしている。
ならば、女子化して学院で励めばいいのだが、それでは従来の武田軍の戦法やスキルを否定することになる。戦法やスキルはそのままに、勝頼に忠言し決戦の時期や作戦を変更し、来世で再び俺に挑んでこようというジジイどもだ。
むろん所属は学園。生徒会長の乙女は、こういうジジイやババアも大事にしてやってる。
学院にも女子部がある。俺たちのことじゃない。俺たちは区分されているわけではないが男子部だ。女子化した転生者は理念的には男子だ。女子部は生前女であったやつが男子化してやってきた奴らだ。まあ、日ごろ交流があるわけでは無いし興味も無いからな。
「こたびの上総之介殿御遠征、射出の任に就けず、まことに申し訳ござりませぬ!」
「気にするな、お前たちは討ち死にしたときの爺のままなのだ。十代の我々には並ぶべくもない」
「言葉もござりませぬ」
「そなたたちが、そのままというのは武田の戦法や仕置きが完成されたものであるという証である。そうであろう」
「「「いかにも!」」」
「しかし、いかに戦法や仕置きが優れていようとも、上に立つものがボンクラであっては詮方なきこと。儂も来世では子育てを考えてみる所存じゃ。お前たちも来たるべき時に備えて励め」
「フフフ、わたしも楽しみが増えるというものだな」
謙信が不敵な笑みでエールを送る。
こいつら勘違いしている。
今日の主役は、俺たち三人だ。
信長、妹のお市、そして魏王曹操の妹にして三国志最高の女将軍・曹茶姫。
まあいい。俺たちに安っぽい承認欲求はない。この三人で、新しい転生の歴史の幕を切って落とすのだからな。
「風力10ノットを超えました!」
「射出!」
風速係りの声に忠八の指令が即座に飛ぶ!
ダダダダダダダダ
信玄と武田騎馬隊の50騎が飛び出し、数瞬遅れて紙飛行機が浮き上がる。
ググーーーーーン
紙飛行機は一気に32ノットの合成風力を受け三国志の空を目指して飛び立った。
☆彡 主な登場人物
- 織田 信長 本能寺の変で討ち取られて転生 ニイ(三国志での偽名)
- 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
- 織田 市 信長の妹 シイ(三国志での偽名)
- 平手 美姫 信長のクラス担任
- 武田 信玄 同級生
- 上杉 謙信 同級生
- 古田 織部 茶華道部の眼鏡っ子 越後屋(三国志での偽名)
- 宮本 武蔵 孤高の剣聖
- 二宮 忠八 市の友だち 紙飛行機の神さま
- 雑賀 孫一 クラスメート
- 松平 元康 クラスメート 後の徳川家康
- リュドミラ 旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ 劉度(三国志での偽名)
- 今川 義元 学院生徒会長
- 坂本 乙女 学園生徒会長
- 曹茶姫 魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
- 諸葛茶孔明 漢の軍師兼丞相
- 大橋紅茶妃 呉の孫策妃 コウちゃん
- 孫権 呉王孫策の弟 大橋の義弟
- 天照大神 御山の御祭神 弟に素戔嗚 部下に思金神(オモイカネノカミ)