大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・173『周温来撃たれる』

2023-07-30 11:03:21 | 小説4

・173

『周温来撃たれる』周温来 

 

 


 流しの坑夫は便利屋だ。

 頼まれれば坑夫以外の仕事もこなすし、話があれば、どこにでも出かけ、たとえ半日の賃仕事だってやる。

 今日は、カルデラの外に出て通信設備の保守点検。

 月も火星も通信設備は多元化されている。

 日ごろはパルス通信だが、万一のことも考えて光通信や電気通信も残されている。電気通信にも二通りあって、無線と有線。無線は中継設備の点検だが、有線の方は長いケーブルを目視確認しなくてはならない。

 何事にもチャランポランな月社会だが、通信インフラに関してだけはキチンとしている。通信がダウンしてしまえば、悪党どもの密売や違法賭博もできなくなってしまうからね。

 ケーブルの点検は二人一組でやる規則になっている。組み合わせはロボットと人間という決まりになっているが、それでは人件費が倍になってしまうので、二人でやったことにして、ベテランの人間一人にやらせる。

 やらせる方も、信用が掛かっているので、そうそういい加減な奴にはやらせない。

 鉱山でも呑屋街でも、そこそこに評判と実績のある流れ者には打って付けのアルバイトだと言うわけだ。



 B区間4000mの点検を終えて作業車を停める。


 4000というのは、いい区切だ。

 古典的に言えば1里。集中を途切らせずに作業をするには1里という単位がベスト。

 顔を上げると、少し先に軍のドームプラントが見える。

 東京ドームほどのそれは、巨大な金魚鉢のようで、金魚鉢の下半分は様々な植物が枝を伸ばし葉を茂らせている。ところどころ、花や実を付けているのが遠目にも覗える。

 たとえ実験プラントであっても、こういうことを大真面目にやるところが扶桑流なんだろう。

 彩の中央にあるのは桜だろうか。

 どこに行っても桜を咲かせたがるのは、扶桑の宗主国である日本の血なんだろう。

 中国人の俺も桜は好きだ。

 ヒムロのシゲ爺が神社を造って桜を植えたとか、西之島紛争で神社は破壊されたが桜は残っているらしい。

 島に帰るつもりは無いが、桜を眺めながら氷室とマヌエリトと三人で酒を酌み交わし、エンドレスの法螺話。

「日本人は、桜を見て『きれい』とか『美しい』とか『潔よさ』とか思うらしいが」

「あ、まあ、そうだね。僕は、ただボンヤリ見ているのが好きだけどね」

「ボンヤリかぁ?」

「ボンヤリ、大事」

「どう大事なんだ酋長?」

「ボンヤリ、先祖や地の聖霊といっしょになる。こころ、たましいキレイになる」

「日本もインディアンもアニミズムだもんな」

「あはは、カタカナで括られると、ちょっと、カックンですね(^_^;)」

「桜というのは豊かさのシンボル。満開になったら大金持ちになる前兆みたいで気持ちいい。大盃でググっとやりたくなるだろうが」

「チビチビがいいです」

「酒はほどほど、飲み過ぎたら白人に土地とられる」

「白人に盗られたら、この周温来が取り返してやる!」

「中国頼む、あと、怖い」

「ああ、マヌエリト、俺はそんじょそこらの中国とは違うんだぞぉ!」

「まあまあまあ」


 てな具合になあ…………あ、星が流れた。

 !?

 プシュ!

 咄嗟に身を躱したたが、スーツ(宇宙服)の肩を射抜かれた。

 体には当たっていないが、エアーが漏れる。

 シューーー

 ハンベをアクトにしてジャンプ。着地してダッシュ!

 ピシピシピシ!

 アクトにしたので、銃撃音も聞こえる。

 いつか来るとは思っていたが、それは鉱山事故に見せかけてか、町の中で事故に見せかけてかと思っていた。

 出来ることなら、ゴールデン街あたりで、華々しくと思っていたんだが。

 バイザーの端にスーツ姿の二人組が見える。

 ここは逃げるにしかず。

 セイ!

 岩を蹴った勢いで作業車にジャンプ。スロットルを上げて急発進!

 ピシピシピシ! ピシピシピシ!

 二連射を躱して、ハンドルを回したところで衝撃がきた!

 ドッゴーーーン!

 瞬間、ひびの入ったバイザーに三人目の姿が映ったが、喰らってからでは遅い。

 ドサ!

 地球だったら完全に五体バラバラという勢いで地面に叩きつけられる。

 ピシピシピシ! ピシピシピシ! ピシピシピシ! ピシピシピシ!

 念押しに撃ってくるが、微妙に窪地になっているせいか当らない。

 当らなくても、十分に死にかけている。

 腹を撃ち抜かれて血が噴き出している。スーツに穴をあけられているので、出血が止まらない。

 バイザーの中にも薄く血がスプレーされていく。

 自分の血で窒息死……ちょっと勘弁してほしい。

 あ……その前にエアーが切れる……もういいか……。


 
☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・かの世界この世界:173『アメノヌホコ・2』

2023-07-30 06:37:46 | 時かける少女

RE・

173『アメノヌホコ・2』テル(光子) 

 

 

 ヒルデと並んで飛んでいくと、カオスは出来損ないの綿アメのように疎らになり、疎らはやがてフワフワと七つの人形(ひとがた)に凝ってきた。

 シュゥゥゥゥゥゥ

 人形はジェット気流に流される雲の切れ端のような速度で突き進んでいく。人形たちの中ほどには、アメノヌホコが見え隠れする。

「あいつら、アメノなんとかを盗むつもりだぞ」

「取り返す!」「おお!」

 シャリン! 

 ヒルデがオリハルコンの剣を抜く、さすがに異世界の名刀、冴えた鞘走りの音だ!

 チャリン

 わたしのはシケた音しかしない(^△^;)

「行くぞ!」

 ブワァアアアアアアアア!

 それだけで100メガバイトは使いそうなエフェクトを残してヒルデは突撃。

「させるかあああああああ!」

 敵に言っているのか、ヒルデに怒っているのか分からない雄たけびを上げて、わたしもつき進む!

 ボン

 レンジの中で卵が弾けるような音をさせて、人形どもが散開する。

 チャリン チャリン

 ヌホコを持った人形に打ち込むと、寸前に別の人形がやってきてパスされてしまう。

 敵ながら、連携の取れたラグビーチームのようだ。

「「くそ!」」

 ヌホコを持った人形に切りかかると、剣を振り下ろす直前にヌホコが消える。

 消えるのは錯覚で、目にもとまらぬ速さでパスされてしまう。残った人形を切っても、煙を切ったように手応えがない。一瞬飛散したようになる人形たちだが、すぐにまとまってしまってキリがない。

 自分では分からないが、ヒルデが空振りした時に分かる。わたしも、ヒルデから見ると、そう見えているに違いない。

 シュワン! ブワン!

 名刀とナマクラが空を切る音ばかりする。

「ラチが明かないわよ(;'∀')」

「人形とはいえ形があるんだ、形ある者どこかに欠点がある!」

「欠点?」

「探るんだ!」

 ブワン! ブワン!

 言いながらも手を休めることなくオリハルコンを振り回している。

 さすがはヴァルキリアの姫騎士、主神オーディンの娘だ、闘志がハンパない!

 接近すると、人形たちの中にボンヤリと神名が浮かび上がる。

 

 ☆クニノトコタチ ☆トヨクモノ ☆ウヒヂニ ☆スヒヂニ ☆ツノグヒ ☆イクグヒ ☆オホトノヂ ☆オホトノベ ☆オモダル ☆アヤカシコネ

 

 さっきよりも輝きが増して、存在がハッキリして来ている。

 放っておいてはロクなことにならない気がする。

「その通りだ! とにかく切りまくれ!」

「分かった!」

 シュワン! ブワン!

 人形たちの神名は一定ではない、追い回しているうちにも、同一の澱の中で神名がコロコロ変わっていく。

「こいつら、まだ神名が定着しないんだ、定着する前に倒すぞ!」

「お、おう!」

 返答はするが、こっちはヴァルキリアの戦士ではない、息切れがしてくる。

 そう言えば、ムヘンではレベル幾つだったか……

 HP:1500 MP:400 属性:テル=剣士

 忘れかけていたステータスが浮かび上がってくる。

 そうか、HP MPのレベル概念があるきりだったな。

 ん?

 待てよ、HPは20000はあったはずだぞ?

 そうか、スタミナを使い果たしかけている!

 ポーションを呼び出そうとしたが、ストックはゼロになってしまっている。

「白魔法をクリックしろ! テルにもケアルぐらいはあるだろ!」

「わたしが?」

 ケアルはケイトに任せていた、そんな白魔法が……あった!

 MPだけは400あったので、100を使って機関銃のように自分にケアルを掛ける。

 ピピピピピピピピピピピピピピピピピピ

「よし、HP10000にまで戻った!」

 気を取り直して再び人形たちに挑みかかる。

 ケアルを掛けるのにかまけ、ヒルデから遠ざかってしまっている。

 今行くぞ!

 急いで戻ると、一つのことに気が付いた。

 オリハルコンの斬撃も暖簾に腕押しの人形たちだが、近くに居てあおりを受けた人形のHPは一瞬減っているのだ。HPが減ると、すぐに近くの人形が寄ってきてケアルをかけて回復させている。

 そうか! 人形たちが無敵なのはヌホコを持っている間だけなんだ!

 手放した瞬間から防御力は急速に落ちるんだ!

「ヒルデ、ヌホコを持っていない人形は防御力が低い! いや、無いも同然だ!」

「分かった!」

 矛先を変えて、ヒルデと二人で手ぶらの人形たちを切りまくる。

 ズバ ズビ ズバズビ ズバ ズブ

 数秒で六体の人形を倒し、最後の一体は、ヌホコに手を伸ばす前にHPを使い果たして消えて行ってしまった。

「よし、ヌホコを返しに行くぞ!」

「こっち!」

 アメノヌホコを回収して、ヒルデと二人、イザナギ・イザナミの二神の元に駆けつけた。

 

☆ ステータス

 HP:10000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・0 マップ:14 金の針:0 福袋 所持金:450000ギル(リボ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケアル ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

    テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官  ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官  ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 ナフタリン       ユグドラシルのメッセンジャー族ラタトスクの生き残り
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする