大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・422『毎朝テレビ』

2023-07-17 14:35:47 | ノベル

・422

『毎朝テレビ留美   

 

 

 生まれついてのコミュ障はだいぶマシになった。

 

 普通に学校に通えてるし、クラスメートとも普通に喋ることができる。

 ときどき来られる檀家の方々との応対でも「留美ちゃんがいちばんええなあ」とテイ兄さんに言ってもらえるようになった。むろん人あたりの良さとか元気さでは、さくらに敵わない。

 でも、お寺の応対って、法事や月参りのこと、時どきお葬式や報恩講などのお寺の行事やお付き合いの話。

 きちんと内容をお聞きして、メモを取って住職のおじさんや副住職のテイ兄さんにお伝えすること。あらかじめ分かっていることなら、それに沿ってご返事をしておくこと。連絡係り、大げさに言うと秘書的な感じ。

 それに、お寺の人間として対応の型というのがあって、それを身に付けてしまえば、さほど難しくはない。

 メインはもちろん坊守さんのおばさんと隠居されたお爺ちゃん。

 でも、この春にヤマセンブルグに留学中の詩(ことは)さんが大けがをして、その看病のため二か月近くお寺を留守にされ、その間実質おばさんの代わりを務めたことが大きかった。

 おばさんは、地域のコミュニティーや、ボランティアの仕事も引き受けて「そっちの方に力を注げるようになったわ」と喜んでくださっている。

 コミュ障のわたしがお寺や人の役に立ってると思うと、中学入学時までは考えられないくらい充実して自信がついた。

 

 でも、今日は無理!

 

 無理!って拒絶の言葉は使いたくないんだけど、やっぱり無理!

「だから、わたしたちが付いてきたんじゃない」「しっかりしろ!」

 メグリンとソニーが脇を固める。

 177センチのメグリン(高校に入って2センチ伸びたらしい)と、母国に帰ったら現役軍人のソニーに付いて来てもらうと、なんかVIP的な感じ。

 この二人が居なかったら毎朝テレビの正面玄関なんかには踏み込めない。

「本日、『たこやきテレビ』に出演を依頼された榊原留美のガードだ。本人は、あそこに控えている。ディレクターを呼んでもらいたい」

「は、はい、榊原留美さまですね。少々お待ちください」

 受付のオネエサンが笑顔のまま緊張している。

 ナリは女子高生だけど、現役軍人の押し出しに圧倒されている。メグリンの視線の方向に目をやると、女子高生戦士が悪をやっつけるアニメの等身大ポップが立っている。

「ちょっと、似てるかも……」

 ポップはデコボコの三人組で、ボレロ風の上着的なところが似てる。一人は外人風の三白眼、一人は高身長、一人は眼鏡のボブ。それが、そろって軍用拳銃を持ってポーズを決めている。

 慌てて眼鏡をはずす。

 受付のもう一人のおねえさんが「あ!」っという顔をする。

 やっぱり面が割れている。

 今日は、例の自転車ヘルメット啓発ポスターに関する出演。

 あのポスターが人気で、警察に問い合わせが殺到し、ネットでは背景の景色と一緒に写っている女性警官の瀬川さんの装備から所轄署を割り出した人も居て、一昨日はとうとう学校まで特定されてしまった。

『これは、もう露出した方が身を護れますよ』

 毎朝テレビは、テイ兄さんという搦手から攻めてきて、今日の出演となった。

 眼鏡を取ったのが薮蛇で、ロビーの視線が集中して来て昔のコミュ障に戻りそう!

 その時、ロビーにいる人たちの視線が微妙にズレた。

 視界の端で捉えると、女性警官の立ち姿。

「あ、瀬川さん!」

 ピシッと敬礼を決めると、わたしの傍に寄ってきた。

「榊原さん、申し訳ない。こんなに目立ってしまって(-_-;)」

「あ、いえ、瀬川さんは?」

「お仕事よ、うちにも一応要請が来てね。いちおう署長命令でね。ほんとうにごめんなさいね(-_-;)」

 ものすごく申し訳なさそうな瀬川さんに申し訳なくて、思わず空元気を発してしまう。

「あ、いえ、大丈夫です! わたしも、一度はテレビ出てみたかったですし!」

「いやあ、それは良かったぁ!」

 声に振り返ると、見覚えのあるディレクターが揉み手して近づいてくるところだった。

 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバンシー、リャナンシーが友だち 愛称コットン
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 愛称リッチ
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 
  • 声優の人たち      花園あやめ 吉永百合子 小早川凜太郎  
  • さくらの周辺の人たち  ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん) 瀬川(女性警官)
  •   

 

 

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・040『サラダパスタとパストフィックス』

2023-07-17 10:05:39 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

040『サラダパスタとパストフィックス』   

 

 

 葦船の話で盛り上がった帰り道。

 

 戻り橋を渡っていると、無性に志忠屋のサラダパスタが食べたくなる。

 サラダパスタと銘打ってるけど、まあ、冷やし中華のパスタ版、志忠屋の夏の限定メニュー。

 なんか秘密の薬味が入ってるとかで、ちょっとクセになる味。

 ちょっぴり汗は出るけど、食べた後、半日ぐらいは元気でいられる。

 戻り橋に差し掛かったところで、スマホが着信のシグナルを奏で、渡りながら見ると、音信不通と言っていいお母さんのボーナスが振り込まれ、わたしへのおすそ分けが振り込まれたというラッキーなお知らせ。それで、瞬間でサラダパスタが思い浮かんだわけ。

 戻り橋を渡って、一つ上の寿橋を渡って戻る。

 寿橋を渡れば令和の宮之森。

 MS銀行でお金を下ろして角を曲がると、銀行の通用口から猫又のアイさんが出てくる。

 志忠屋に入るまでは耳も尻尾も出さずに普通のOLさん。

 

 でも、なにかあったんだ。

 

 猫又さんたちにも慣れたので、その後ろ姿でただの昼食休憩じゃないことが分かる。なんとなくだけど。

「「サラダパスタ!」」

 オーダーの声が揃って、アイさんはわたしに気づく。

 ポニョン

 気づくと同時に耳と尻尾が出る。

「メグリには隠す必要ないもんね(^_^;)」

「ネコミミの方がかわいいのにね」

「リアルじゃ出せないからね、志忠屋はくつろぐわあ……」

「ハローウィンは一晩中出しっぱなしやけどな」

「年に一回っすよ」

「おまえらのオカンの時代はハローウィンでも出されへんかった」

「ええぇ、それってGHQとかが居た時代でしょ」

「ここまで来るには先人の努力があったちゅうこっちゃ。ほら、感謝して食え」

 ドン

「え、もうできたんですか!?」

 サラダパスタは時間がかかる。ちょっと早すぎ。

「ちょっとだけ魔法をつことる」

「ええぇ、調理に魔法を使うって、志忠屋のコンセプトから外れてません?」

「サラダパスタだけや。その分値上げはしてへんし」

「「あ!?」」

 二人でメニューに目を停めてビックリ、サラダパスタ以外は100円の値上げになってる。

 まあ、よそのお店はとっくに上げてるしね。

「あっちゃの方は終わったんかい?」

「マイとミ―は、まだ向こう」

「なにか幽世(かくりよ)の仕事だったんですか?」

 アイ・マイ・ミーの三人、表面はここらへんのOLだけど、本業は妖仕事の請負人。

「これですよ……」

 アイが指を振るとパスタの上に大海原が現れて、見覚えのある船がノロノロと進んでいる。

「あ、葦船ラー号!」

「またPFの仕事かい」

「PFって?」

「パストフィックス、過去の修理っちゅう意味や」

「過去って修理できるもんなんですか!?」

「ちゅうか、ほっとくと変わってしまうもんがあってな。放置してると違う歴史が分岐してしまうんや」

「まあ、小さいのはほっとくけどね。滝さんが魔法でパスタ作っちゃうとかね」

「文句あんのんか」

「ああ、無いっす無いっす!」

「ほんで、なんかお節介してきたんか?」

「お節介はないでしょ。みんな世のため人のためなんすから」

「滝さん、ほんとはパスタフィックとか嫌いなんじゃないですか?」

「パストフィックスにゃ!」

「あ、それそれ(^_^;)」

「あ、まあな」

「でも、今度はなんにもしてないっすよ。前回は失敗したんで、まあ、念のために付き添ったんすけど、人間は自分たちの力だけで大西洋横断したニャ」

「うん……せやったら、なんでマイとミーは残っとんねん?」

「え、ああ、帰りですよ。帰り道で沈没しちゃいけませんからね」

「帰りは船ごと貨物で運ぶんやろ」

「う~~ん『家に帰るまでが遠足』的な?」

「その念の入れ方は特務がらみの仕事やなあ」

「え、あ……」

 ほとんど食べ終わったパスタの上に制服姿のお祖母ちゃんが浮かび上がる。

「え、お祖母ちゃんが絡んでたんですか!?」

「あ、あはははは……」

 

 そのあと、ドッとお客さんが入ってきたので、お勘定を済ませて店を出る。アイさんは、滝さんに言われて洗い物とセッティングの手伝いをやらされてる。

 ちょっとオッサン一人で回すには大変、パートかバイトを雇えばいいのに。

 そう思って寿橋を目指すと、向こうの方に蜃気楼みたいなのが湧いて、みるみる人の形をとって、こっちに向かって来る。

 え……妖!?

「あ、メグリちゃん、お店行ってたの?」

 その女の人は親し気に話しかけてきた。

 え、誰だろ?

「ランチタイムには間に合うようにって、近道したら、道に迷っちゃって(^_^;)」

「あ、はい……」

「お客さんいっぱい?」

「あ、ちょうど入れ違いに……」

 そこまで言って、その人の笑顔で思い出した。

「ペコさん!?」

「あ、そうよね、立ち話してる場合じゃないわ。じゃあね(⌒∇⌒)」

 

 後姿を見送りながら、今の今までペコさんのことを忘れていたのを思い出した。

 

 多分、いや、間違いなく滝さんもアイさんも忘れていた。

 いや、世界が分岐し始めていたんだ。ペコさんが存在しない世界に。

 葦船ラー号は、世界と時空をぐるっと回ってこんなところにも影響を及ぼしていたのかもしれない。

 

 家に帰ると、お祖母ちゃんが鼾をかきながら絶賛昼寝中だった。

 

彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。

 

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RE・かの世界この世界:160『国民的大衆車フォルクスオーパー』

2023-07-17 06:13:19 | 時かける少女

RE・

160『国民的大衆車フォルクスオーパー』ポチ 

 

 

 

 二号戦車のゲペックカステンにソウルを入れてやると古いセダンに化けた。

「これは二世代前のフォルクスオーパーだ」

「フォルクスは国民的……オーパーは歌劇場だったっけ? 車が歌劇場?」

「丈夫で燃費もいいんだけど、走らせると、いろいろ賑やかでね。開き直って、そんな名前をつけたんだ。国民的大衆車だったんだけど、デザインも垢ぬけないし、社会が豊かになると売れなくなったんだ」

 フェンは、そう言うけど、カクカクしたボディーは四号や二号に通じるものがあって、とっても実直なイメージで好ましい。

 ドアを開けると銀行の金庫のような、閉めると大砲の尾栓を閉じるような音。シートにお尻を沈めると象さんがオナラをしたような音がして、体格に合わせてシートを前にやるとライフルがリロードするのにそっくりな音。エンジンをかけると、まるでSL。フェンがゆっくりとアクセルを踏むと、あちこち共振して、まさに歌劇場。

「でも、こういうの好きよ」

「ぼくだって好きだよ。ノイズも慣れると逞しいし、地に足が付いた感じは、いまの僕たちにも通じるところがある」

「フフ、そうかもね」

 そう応えると、フェンは目尻をシワクチャにして笑った。

 いまのわたしたちは、乗り慣れた車で定年後の旅に出た初老の夫婦という感じになっている。

「いこうか、ベス」

 運転席のフェンは、何十年も言い慣れたように、わたしをベスと呼んだ。

「首にスカーフを……巻いてあげる」

「くすぐったい」

「よしよし、五歳は若くなったわ」

「五歳かい、十歳は若いだろ」

「あつかましいわよ、ダグ」

「おれはダグかい?」

「ミスター・ダグラスって呼んで欲しい?」

「よせよ、他人行儀な」

 エンジンが暖まって街道に出たころには、ダグとベスのベテラン夫婦になりおおせていた。

 カーラジオから流れるオールディーズの曲に耳を傾けていると、前方の反対車線にエンコしたワゴンが見えてきた。

 いったん通り過ぎてからUターンしてワゴンの後ろに停車させる。

「あの車、棺を載せてるわ!?」

「訳ありなのかな……」

 一言呟くと、ダグは車から降りて、うちのより一世代若いフォルクスオーパーに声をかけた。

「どうかしましたか?」

「ブレーキの調子が悪くて、今度走り出したら停まりそうもないんで途方に暮れてるんです」

「JAFには?」

「電話はしたんですが、立て込んでて、半日はかかるってことで」

「半日なんて待ってられないわよ、やっととった休暇なんだから」

 どうやら、休暇を利用したドライブでエンコした中年夫婦のようだ……でも、ドライブに棺?

「よかったらみてみましょうか、多少は車が分かりますから」

 夫婦は、わたしたちの車を見て納得の表情。二世代前のフォルクスオーパーを乗りこなしているのは車のメンテにも長けていると判断したのだろう。

「ありがとうございます。よかったわ、これで間に合う」

 奥さんがバックシートの棺に話しかけた。

『ああ、頼むよ……おまえたち』

 

 ギョエ! 

 棺の中から声がした!

 

☆ ステータス

 HP:13500 MP:180 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・900 マップ:12 金の針:1000 その他:∞ 所持金:8000万ギル(リボ払い残高無し)
 装備:剣士の装備レベル38(勇者の剣) 弓兵の装備レベル32(勇者の弓)
 憶えたオーバードライブ:シルバーケアル(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)
 スプラッシュテール(ブリュンヒルデ) 空蝉(ポチ)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  テルの幼なじみ ペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
 ペギー         荒れ地の万屋 
 ユーリア        ヘルム島の少女
 ナフタリン       ユグドラシルのメッセンジャー族ラタトスクの生き残り
 フェンリル二世     狼族の王子

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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