大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 130『シフォンケーキの型』

2023-07-08 10:21:58 | ノベル2

ら 信長転生記

130『シフォンケーキの型信長 

 

 

 ただいまぁ……の声に返事はない。

 

 市も茶姫も、まだ学校から帰ってきていないんだ。

 時計を見ると下校時間にはだいぶある。

 よし、二人が帰ってくるまでに焼きプリンを作っておいてやろう!

 兄妹愛とスィーツ愛がないまぜになって、俺をキッチンに急がせる。

 ペコポコボックスから焼く前のプリンを取り出してオーブンにぶち込む。

 じんわりとオーブンの中が幸せ色に染まる。

 要は、ヒーターに電気が通っただけなんだが、この穏やかな朱色は、まさに幸せ色。

 何十分か後に、美味しい焼きプリンが食べられるのかと思うと、唾が湧くどころではない。体中が美味しさを予感してフワフワしてくる。

 俺は、本当の意味で恋などしたことがないんだが、ひょっとしたら、このフワフワ感は恋に似ているのかもしれない。

 この感覚は男には無いものなのかもしれん。

 女に転生して、最初にビックリしたのは内股の感触だった。小袖にしろスカートにしろ、女と言うのは内股が直に擦れ合う。これは、実に妙な感触で、女としての自意識を刺激する。

 何事かを思考するにせよ感じるにせよ、その核になるのは自分の体と、その感触なんだ。

 フフ……こんな無駄な思索をするのも、焼きプリンへの期待が大きいからだろう。

 

 グゥ~~~~~~~

 

 いかん、腹が鳴る。

 そう言えば、桃太郎の世界では、ろくに食っていなかった。

 虫やしないになにか口に入れよう……冷蔵庫を開けるが、あいにく間に合うものが無い。

 仕方がない、コーヒー牛乳でも飲んでおこう。

 パックに残っていたのを一気飲み…………トイレに行きたくなった(^_^;)。

 

 カチャ…………え?

 

 トイレのドアを開けて驚いた。

 トイレの中は、御山の、あの神域なのだ。

「いやあ、ごめんね」

 天照が現れた。

「ちょっと忘れてたことがあって」

「なんだ、こっちも忙しいんだ」

「あ、手間は取らせないから。これなんだけどね」

 なにやら炊飯器の内釜みたいなのを取り出した、それも一合炊きくらいの小さいのを。

「シホンケーキの型なんだけどね」

 シフォンケーキだ、もう指摘しないけど。

「お兄ちゃんが作ってくれたんだけどね……」

「天照にお兄ちゃんがいたのか?」

「居るわよ。わたしはお父さんのイザナギが黄泉の国から帰って来てから生まれたんだけど、お母さんのイザナミが黄泉の国に行く前に、いっぱい子供を作ってる」

「ああ、思い出した。最後に火の神を生んで焼け死んでしまうんだったな」

「お母さんのイザナミはすぐには死なななかった。お父さんが必死で火を消したからね。でも、苦しんで、いろいろ漏れたり吐き出したり。吐いたものから金山彦って金属の神さまがうまれたのよ」

「ああ、知ってるぞ。美濃の国の金山神社だな。岐阜に移った時に美濃全域の神社を調べさせて、そんなのが入ってたぞ」

「うん、出来はいいんだけど、まだ初心いのよ」

「ああ、調理器具は使い込んでなんぼというからな」

「うん、足りないものと余計なものがあって、このままじゃ、おいしいシホンケーキができない」

「それは残念だな」

 言葉に偽りはない。おいしいスィーツを作るのは天下を取るくらいに大事なことだ。

「これを連れて行ってもらいたいの」

「三国志にか?」

「うん、時どき開いてくれたら、型が自分で呼吸する」

「しかし、三国志はドロドロでろくなもんじゃないぞ」

「それがいいのよ。人間と同じ、清濁併せ呑み、取捨選択してこそ器は大きくなる」

「……で、あるか」

「あ、それから、こんどのお供はね」

「あっちゃんと思金でいいぞ」

「思金は歳だからね、今度は、これだ」

「指輪か……なにが籠められている?」

「一言主(ひとことぬし)」

「あの、なんでも一言で済ますという、鋭いのか横着なのか分からん神か?」

「信長にかかると神も仏も形なしだなあ(^_^;)」

「まあ、ペチャクチャ喋るよりはいい」

「一言主はコスプレの神でもあるんだぞ」

「コ、コスプレに神がいるのか!?」

「ああ、八百万の神だからね。念ずればたいていのコスプレをさせてくれる。コスに見合ったアビリティーもインストールしてくれるし、重宝するぞ」

「そうか」

「それと……」

「すまん、トイレに行きたいんだけどな」

「女の子が『トイレに行きたい』などと言ってはいけません」

「あ、その、お花摘みな……めんどくさい」

「ん? なんか言ったぁ?」

「あ、いや、そういうことだから、なにかあったら夢にでも出てくれ」

「ええ、信長の夢、覗いちゃっていいのぉ(¬o¬)?」

「うっさい!」

「めんごめんご、じゃあ、よろ~(⌒▽⌒)」

 

 軽いノリで消えていくと、神域は我が家のトイレに変わり、やっと無事に用を足せた。

 焼きプリンも無事に出来上がり、帰宅した市と茶姫と三人で美味しくいただいたぞ。

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ)

   

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RE・かの世界この世界:151『大神官の住まい』

2023-07-08 06:08:39 | 時かける少女

RE・

151『大神官の住まい』テル 

 

 

 広場に面した三階建てのアパルトメントだった。

 
「半神がやってくるまでは役目がら神殿に住んでいたのですが、いまは単身者用の2DKです。狭いところですが気楽になさってください」

 気楽と言われても、そもそも椅子が二脚しかなく、姫にお座りいただくと、我々は立っているしかない。

「大神官様、椅子をお持ちしました!」

 元気な声が廊下や階段からしてきたと思うと、少女たちがズカズカと入ってきて、要領よく全員分の椅子を並べてくれた。

「ありがとう。みなさんに神のご加護があらんことを」

 マシガナ大神官が礼を言うと、少女たちは見かけの可憐さには似合わない豪快さで笑った。

「ガハハハ、神のご加護は半神どもが居なくなってからいただきますよ」

「あんたたち、大神殿ごとノヤをやっつけてくれた人たちだろ?」

「その皆さんが集まって、ヨトゥンヘイムにはびこった半神どもをやっつける作戦会議をぶつんだから、期待してるよ!」

「じゃね、なにか必要なことがあったら言ってくださいな」

「じゃ、わたしらは、瓦礫の片づけに行ってますから」

 ガハハハハハ

 豪快に笑いながら少女たちは広場に向かった。

「ギャップに驚いたでしょうが、あの子たちは定年で引退した神殿護衛隊の女戦士たちなんです」

「あんなに若いのに引退?」

 姫の驚きにマシガナ大神官は微笑みを返すのみだ。

「あの子たちは、大神官様同様に若返ったんですね」

「はい、もう腰の曲がった者もおりましたから、あの変化を喜んでおるようです」

 わたしには分かった。喜んで見せることでヨトゥンヘイムの人々が落ち込まないようにしているのだ。あれ以上若返ったら幼女戦士になってしまって瓦礫どころか小石一つ持てなくなってしまうだろう。

「ひとつ聞いていいですか?」

 ロキの肩に止まっていたポチが手を挙げた。

「なにかな、可愛い妖精さん」

「もともと若かった人たちはどうしたんですか? 街の空を飛んでも見かけないんですけど?」

「居なくなってしまいました……若い者が、その年齢以上に若返ってしまったら……」

「存在そのものが無くなってしまう……ということですか?」

「ヨトゥンヘイムの人口は半分に減ってしまいました。減った分だけ半神たちが入り込み、いずれは半神族が取って代わるでしょう。ぶしつけなお願いですが、半神族を駆逐してはいただけますまいか」

「お気持ちは分かりますが、少し考えさせていただけませんか」

 
 思ったのだ。

 巨人族が衰退したのは巨人族が無謀な進撃をしたからだ。いわば自業自得。

 我々が成し遂げたいのはユグドラシルの復活なのだ。特定の種族の肩入れをすることではない。

 かと言って、人も街も際限なく若返って、いずれは消えてしまうというのも見過ごしにはできない。単に人道上の問題であるだけでなく、ヨトゥンヘイムが滅びるということは、ユグドラシルの大きな部分が死ぬことで、いずれは世界樹ユグドラシルを枯死させてしまうことにならないだろうか。

 その迷いが分かったのか、ヒルデが大人びた口調で告げた。

「どこか野営に適したところはないでしょうか、広場では落ち着かないので、我々だけで考えてみたいと思うのですが」

「いやはや、ごもっともです。わたしも、つい余計なことを喋ってしまいました。町はずれにカテンの森があります。野営にも適しております。人を呼んで案内させましょう」

 大神官は、広場の瓦礫撤去をしている少女戦士に向かって手を振った。

 

☆ ステータス

 HP:13500 MP:180 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・900 マップ:12 金の針:1000 その他:∞ 所持金:8000万ギル(リボ払い残高無し)
 装備:剣士の装備レベル38(勇者の剣) 弓兵の装備レベル32(勇者の弓)
 憶えたオーバードライブ:シルバーケアル(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)
 スプラッシュテール(ブリュンヒルデ) 空蝉(ポチ)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  テルの幼なじみ ペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
   ペギー         荒れ地の万屋 
 ユーリア        ヘルム島の少女
   ナフタリン       ユグドラシルのメッセンジャー族ラタトスクの生き残り

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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