大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・53『図書室のガイダンス』

2022-09-03 07:12:48 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

53『図書室のガイダンス』小菊 





 わたしじゃありませんから……。

 涙目になりながら、増田さんが言う。

「わかってるわよ、増田さんは……」

 後の言葉を飲み込んだ。

―― 言えるくらいなら、もう友だちできてるわよね ――

 入学してから半月近く、増田さんは、あたし以外には友だちってか、まともに口の利ける相手がいない。だから目撃者だとは言え、彼女が広めた話ではない。

 なんの話?

 あれよあれ、寿屋さんの前であいつといるところを目撃された話。

 お花見の幔幕を借りに行ったんだけど、寿屋さんがラブホだってことが飛んでしまっていた。

 だって、ご近所で、子どものころから出入りしてるんだし、娘さんの幸ちゃんは、あたしの憧れのオネエサンだったし。

 でも、ラブホはラブホ、地域以外の部外者が見れば、男女二人が出てくるのを目撃したらドキッとするよね。

「増田さんは信用できるから」

 言い直してからまずいと思った。

 信用できるからというのは、増田さんなら人に言ったりしないよねってことで、そこから読み取れるのは「増田さんが見たのは真実だよ」ということになり、弁明することがいっそう難しくなる。

「うん、人に言ったりしない。ああいうことが出来るということが、わたしは素晴らしいと思ってますから(;'∀')!」

 あー、完全に誤解してるよ(=゚Д゚=)。

 けど、ま、いいや。現時点であいつと兄妹であることがバレるよりはましだ。

 今日は二時間目に図書室のガイダンスがあった。

 司書の先生が図書室の案内やら本の借り方を説明してくれる。

 なんでも、卒業するまでに図書室の説明を受けられるのは、この一回限りだから、しっかり聞いておくようにって枕詞が付く。

 自慢じゃないけど、図書室で本を借りたことも無ければ借りる予定もない。

 だから、お行儀よくボーっと聞いてるふりだけしておく。

「……ということで、残りの時間は、実際に本を手に取ってみてください。もし借りたい本があれば、この時間に限って貸し出しをします」

 司書の先生が締めくくる。

 五台あるパソコンから埋まっていく。

 みんなポケットにスマホを忍ばせているんだろうけど、図書室で出すわけにはいかない。

 他の子たちは、団地のように並んだ書架に向かう。

 あたしは入ってきたときにチェックしておいた雑誌コーナーに。

「お……」

 Pティーンが有ることまではチェックしきれていなかった。

 中学の図書室には絶対置いてない雑誌なので少し興味が湧く。

 載ってるモデルには興味ない。みんなバカに見えるかバカそのもの。モテカワ系も媚びてる感じがしてやだ。

 ま、彼女たちのファッションに、あーだこーだと思いながらページをめくるのが楽しいっちゃ楽しい。

「ん……」

 ツンデレモデルのところで手が止まる。

「似てるなあ……」

 作ったんじゃなくて、地のままツンデレですって感じなのが、なんとなく、あのシグマに似ている。

 Σ口も地のままだと魅力あるのかも……。

 なんで、このページで停まってるんだ!?

 癪になって雑誌ごと書架に戻す。

「へへ、借りてきちゃいましたー」

 増田さんが嬉しそうに本を抱えてやってきた。

「あら、読みたかった本なの?」

「『耳をすませば』ですよ」

「え、耳?」

「ほら、ジブリアニメの!」

「あ、あーーー」

 思い出した。

 図書館の貸し出しカードが元になって、中学生の男女が付き合い始めて夢を追いかけるとかって話だ。実写版もできたとか云ってた、主人公は雫って言ったっけ?

「そうそう、月島雫です。素敵ですよね、あの出会いは(*’▽’*)!」

「ハハ、増田さんは、ああいうのに憧れてるんだ」

「はい、わたしの汐(しほ)って名前はここからきてるんです!」

「え、汐?」

 たしかに増田さんの名前は汐だけど、アニメとおりなら雫でしょ?

「フフ、雫のお姉さんが汐ですよー♪」

「あー、そうだっけ(^_^;)」

「こうやって本を借りれば、わたしにも開けてくるかもしれませんよ」

 あー、でも、今はバーコードの読み取りで、貸し出しカードなんてないから出会いなんかありえないんだけど。

 思ったけど、もう一度言葉を飲み込んだ。

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田汐(しほ)        小菊のクラスメート

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