RE.乃木坂学院高校演劇部物語
横丁を曲がるまで心配だった。
何かって……決まってるじゃん。
あれよ、あれ、ジジババのコスプレ。
顔から火の出る思い。で、尻に帆かけて……って慣用句で合ってたっけ。文才のあるはるかちゃんなら、こんな時でもぴったしの表現が浮かぶんだろうけど、ラノベ程度のものっきゃ読まないもんだから……でも、はるかちゃんに教わってシェ-クスピアの四大悲劇とか、チェーホフの何本かは読んだけど、後が続かない。これも根気がない江戸っ子の習い性。ええい、ままよ三度笠横ちょに被り……これ、おじいちゃんがよくお風呂で唸ってる浪曲じゃんよ!
とにかく、めちゃ恥ずかしかった。また、あのコスプレで出迎えられてはかなわない(≧Д≦)!
横丁を曲がると、そこは雪国だった……なんか間違ってるよね。
でも、いつもの我が町、我が家がそこにありました。はるかちゃんの「東京の母」秀美さんにも会ったけど、ごく普通。
「あら、まどかちゃん、お帰りなさい」
で、これは家の中に入ってからだな……と、見当をつけ、深呼吸した。
「ただ今」
「「お帰り」」
当たり前の返事。おじいちゃんもおばあちゃんも、いつもの成りでいつもの返事。
「タバコ屋のおたけ婆ちゃんに『無粋だね』って言われたのが応えたみたい。なんせジイチャンの寝小便時代も知ってる、元深川の芸者さんだったからな」
狭い階段ですれ違う時に兄貴が言った。すれ違う時に胸がすれ合った。
「まどかでも、ちゃんと出るとこは出てきてんだな」
「なによ、このメタボ!」
ハハハ……と笑って行っちゃった。これって言い返したことになってないよね。
自分の部屋に入ると、思わず横向きになって自分の姿を鏡に映す。
その夜、スゴイ夢を見た。
正確には、スゴイ夢を見た余韻が残っているだけで、中味は覚えていない。
起きあがろうとしたら、まるで体が動かない。金縛りでもない、指先ぐらいは動く。
でも、寝床から起きあがろうとすると、身もだえするだけで体が言うことをきかない。
時間になっても起きてこないので、お母さんがやってきた。
「まどか、どうかした?」
「……体が……重くて、動かない……(;▽;)」
☆ 主な登場人物
- 仲 まどか 乃木坂学院高校一年生 演劇部
- 坂東はるか 真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
- 芹沢 潤香 乃木坂学院高校三年生 演劇部
- 芹沢 紀香 潤香の姉
- 貴崎 マリ 乃木坂学院高校 演劇部顧問
- 貴崎 サキ 貴崎マリの妹
- 大久保忠知 青山学園一年生 まどかの男友達
- 武藤 里沙 乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
- 南 夏鈴 乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
- 山崎先輩 乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
- 峰岸先輩 乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
- 高橋 誠司 城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
- 柚木先生 乃木坂学院高校 演劇部副顧問
- 乃木坂さん 談話室の幽霊
- まどかの家族 父 母(恭子) 兄 祖父 祖母