大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくも・03『フフフフ』

2020-11-19 06:10:58 | ライトノベルセレクト

・03『フフフフ』   

 

 

 例えて言うと合わせ鏡。

 

 鳥居の真下に、わたしは居て、前と後ろにも鳥居がある。

 鳥居は前後にいくつも続いていて無限に続いて小さくなって、鳥居の朱色と夕闇色に溶け込んでいく。

 合わせ鏡と違って、前後の世界にわたしは居ない。

 

 これはヤバイ。

 

 鳥居一つが一つの世界で、一歩でも動いてしまったら別の鳥居に行ってしまいそうで、そうすると、もう元の世界には戻ってこれないような怖さがある。

 ジッとしていよう……

 ジッとしていたら、きっと元に戻れる。うちに帰ってお風呂掃除やって、晩ご飯の時にお爺ちゃんとお婆ちゃんに話そう。こんな不思議なことがあったって、ドキドキしたよって、面白かったよって、そして、夜遅く仕事から帰ってきたお母さんにも話すんだ。やくも、またおかしなこと言ってえ。そう言って笑ってもらおう。そうしたら、もちょっとはほぐれるよ。急に始まった祖父母と娘と孫と、不足のない四人家族。家族なのに血のつながりは無い……あ、あ、これは言っちゃダメなんだ。自然に家族であるためには、そういうさりげない日常会話が必要なんだから。だから、だから元の世界に戻らなきゃ。

 グラッときた。

 足許が揺れた……と思ったら、鳥居が前後にフフフフって感じで動いていく。前から後ろへ、後ろから前へシャッフル、もう、どれが元の鳥居だか分からなくなってしまう!

 フフフフてのは、鳥居が風を切る音……たぶん。スターウォーズでライトセーバー振るとフフフってするじゃない、あんな音。それが、ますます大きく高い音になって、まるで女の子が笑っているような感じになった。

 フフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ

 突然女の子が現れた!

「突然じゃないわ」

 怖かったけど声はあげなかった。七つほど前の鳥居だったし、ゆうべテレビで観たアイドルの子と同じコスきてたし、なによりも可愛いし。

「フフフって、ちゃんと可愛い笑い声たててから出てきたでしょ」

「えと、だれ?」

「え……わたしは、あなたよ」

「わたし?」

「うん、わたしって……あなたなんだけど、自覚ないかもしれないけど、こんなに可愛いんだよ」

 ぜったいに嘘だ! もう十年以上可愛いなんて言われたことないもん!

 保育所のころ言われたような気がするけど、大人の社交辞令かわたしの錯覚。

「じゃ、これでどう?」

 その子の目や口元から元気と光が無くなっていき……わたしの顔になった。

 目を背けてしまう。自分の顔なんて、突然には見られない。

 とたんにグラッときて目が回る。

 

 目まいが止まると……もとのお厨子の前だ。

 手に持ったスマホは、自分のキッズスマホに戻っている。

 スマホは時計モードになっていて図書委員の仕事が終わった八分後の時間を示している。

 早く戻ってお風呂掃除しなくちゃ!

 お厨子の前を離れて、庭の角。

 つんのめるように立ち止まって、瞬間お厨子に手を合わせて、それから一目散にお屋敷を出る。

 古いアニメとかだったら、ピューーーー!! って効果音が入りそうな感じでね。

 

 不思議なことに、お風呂はすでに掃除をしたあとみたいに濡れていて、風呂桶やシャンプーやらもきれいに定位置に並んでいる。

 ボンヤリ不思議がっていると、お婆ちゃんがやってきた。

「あら、どこかやり残したの? いいのよ、そんな真剣にお風呂掃除しなくっても」

「あ、わたし……」

 もうすでに別のわたしがお風呂掃除をやったような口ぶりだ。

「おいしい栗饅頭いただいたから、食べよ」

「あ……」

「スィーツは別腹、さ、おいで」

 栗饅頭がスィーツか?

 アハ

 ちょっと笑っちゃったら、いつもの調子に戻って茶の間を目指した。

 

 今日のことは……とりあえず、黙っていよう。

 

 

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まりあ戦記・045『――どんなもんよ!――』

2020-11-19 05:51:04 | ボクの妹

戦記・045

『――どんなもんよ!――』    

 

 

 ヨミの狙撃を避けるために、ほとんどトップスピードのまま地上スレスレを飛び回り、指定されたポッドを掠めるようにしてアサルトライフルをキャッチする。

 そいつのアサルトよりもイカツクて、ほとんどウズメの全長ほどもある。

 ちなみに型式は四菱38式、通称サンパチ。

 77ミリ徹甲弾500発、フルオートで速射すれば二十秒ほどで撃ち尽くしてしまう。カートリッジを三つ持てば2000発撃てるが、重量過多で動きが鈍くなるし、リセットの時間が新らしいアサルトをキャッチするよりも時間がかかる。

 本当を言えば内蔵されているパルスを使いたい。レベルは使ったことのないギガパルスも含めて四段階。

 いちいちポッドからキャッチすることもなく連続使用できる。

 しかし、様々な理由から装着武器を使わざるを得ない。

 パルスを使うことによるエネルギーの消耗、わずかに姿勢制御が甘くなり、強力であるがゆえに外れ弾の影響、機体の損耗等々。

 真の理由は、無視できない産軍複合体への思惑……。

 

 食らえ!

 

 カルデラの山腹を蹴った勢いで、ほとんど180度の進路変更をしてヨミとの反航戦に持ち込む。

 彼我の合成速度はマッハ3を超える。

 つまり、アサルトの77ミリ弾は弾速のマッハ2を加えたマッハ5でヨミを捉え、やつのボディーをイカヅチのごとくに叩いて数秒間の行動不能に陥らせる。

 そこでダメ押しのアタックを掛けられればいいのだが、たいてい弾切れになり新しい携帯兵器をキャッチしなくてはならなくなる。

 ドッドッドッドッドッド ドッドッドッドッドッド ドッドッドッドッドッド ドッドッドッドッドッド ドッドッドッドッドッド ドッドッドッドッドッド ドッドッドッドッドッド ドッドッドッドッドッド ドッドッドッドッドッド ドッドッドッドッドッド ドッドッドッドッドッド ドッドッドッドッドッド

 軸線が合ったところで十二連射! 全弾命中!

 そこで弾切れ、逆放物線を描いて次のアサルトをキャッチ。

 今の全弾命中でヨミは三秒は静止している。数発はコアをぶち抜いているので、運が良ければ次で仕留められる。

 キャッチしたアサルトのセーフティーを解除したところで熱線を感じた。

 ズガーーーン!

 続いて衝撃! ヨミのリペア機能が追い付かず爆砕したのだ。

 え……まだ撃ってないぞ?

 三時の方向に首をめぐらすと、そいつが空中でガッツポーズをとっている。

 

――どんなもんよ!――

 ダダダダダダダダダダダダ(^▽^)/ ダダダダダダダダダダダダ(^▽^)/ ダダダダダダダダダダダダ(^▽^)/

 

 そいつはアサルトの残弾を空に向かって打ち上げて、子どものように飛び回っている。

 なんなんだあいつは!?

 

 まだ一発も撃っていないアサルトが、とてもお荷物に感じるまりあであった。 

 

 

 

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かの世界この世界:137『時の女神ヴェルサンディ』

2020-11-19 05:50:38 | 小説5

かの世界この世界:137

『時の女神ヴェルサンディ語り手:ブリュンヒルデ    

 

 

 

 右も左も 上も下も 遠いも近いも 重いも軽いも 前も後も 表も裏も 明るいも暗いも 太いも細いも 短いも長いも

 

 全ての標(しるべ)がグチャグチャになった。

 全てのものが存在して目には見えるが秩序が無くなり、本来あるべき状態では認識できなくなってきている。

 目をつぶるしかなかった。

 目を開けていては、三半規管どころか全ての感覚がおかしくなって気が狂ってしまう。

 気が狂ったブリュンヒルデなんて、ムヘンの流刑地に生息していたヒルのようなもんだ。ヌメヌメとナメクジのようにイヤらしく、ポタリと落ちて来ては人や動物の血を吸っうしか能がない軟体動物。ト-ル元帥に、その名を教えられた時は――我が名からブリュンとデを取ればヒルになる――そんな自嘲的なギャグを思いついた時よりも鬱になる。

 しっかりしろ!

 何度か自分を叱り飛ばすと、それが功を奏したのか、ゆっくりと感覚が戻ってきた。

 

 右と左 上と下 遠近 軽重 前後 表裏 明暗 太細 長短 そして、さっきは意識さえしていなかった自他の区別がついてきた。

「姫、大丈夫ですか!?」

 真っ先にタングリスが飛んできた。

「ああ、他の者は?」

 見回すと、テルもケイトを抱き起し、ロキは自分の背中に乗っているのにも気づかず、キョロキョロとポチを探している。ポチは、まだ少しボケているようで、自分が乗っているのがロキの背中だとは気づかずにキョロキョロ、まあ、いつもの光景だ。

「どうも、動けるのはわたしたちだけのようです。ヘルムの住人は、まだフリーズしたままです」

「ポチ、ちょっと空を飛んで様子を見ろ」

「ラジャー!」

 飛び上がると、自分が乗っていたのがロキの背中であったことに気づいて「ロキ!」「ポチ!」と、二人でハグ。命じたことは瞬間で忘れている。まあ、ざっと見て四号の乗員以外は、ピクリともしない。呼吸している気配さえないが死んでいるのではない、わたしの直感が、そう言っている。直観? なぜだ、なぜ自分の直観を信じるんだ?

 考え続けられるほどには回復してはいない。

「姫、ユーリアが……」

 テーブルの横で伏せていたユーリアがゆっくりと身を起こした。身を起こすと、立った姿勢のまま薄っすらと光って地上一メートルほどの空中に浮きあがった。

「……わたしは、時を司るノルン三姉妹の次女ヴェルサンディです。ヘルムのヤマタから託されて時間を回復しました」

「ヴェルサンディ……ユーリアは時の女神がったのか?」

「いえ、ユーリアの体を借りているだけです。自分の姿を現すほどの力がありません……そう長く、こうもしていられません。要点だけになりますが聞いてください」

 穏やかな中にも凛とした響きがあるので、我々は居住まいを正した。

「時の女神は三人です。姉のウルズは過去の時間を司ります。わたしは現在の時を、妹のスクルドは未来の時間を司ります。姉と妹は眠っているので、回復できるのは、今の、この瞬間だけなのです」

「それで、他の人たちは……」

「過去も未来も止まったままなので、動くことはありません。姉と妹が眠っているのは世界樹の力が弱っているからです。ヤマタも力を失ったいま、完全な時の摂理を回復することはできません。そこで、あなたがたにお願いがあるのです。世界樹の勢いを取り戻すために、この閉じられた時間の中に湧きだすクリーチャーどもを退治してください。退治しつつ世界樹をを目指してください。それと……わたしが借りてしまったために、わたしが去ってもユーリアはあなたたち同様です」

「同様とは?」

「ユーリアは、この停止した現在に覚醒しています。ひとり、このヘルムに置いておくのは不憫です。姉と妹が目覚め、過去と未来が回復するまで行動を共にしてやってください、それから……ああ、もう戻らなければなりません……ユーリアを……世界樹をよろしく……」

 フッと力が抜けるようにヴェルサンディが消えると、地上一メートルのところから、ユーリアの体はドサリと落ちてしまった。

「あいた!」

 お尻から落ちたユーリアは、痛さのあまり口がきけない。

「大丈夫か!?」

 一番近くのロキが声をかけて、テルとケイトが介抱する。

 その間、わたしとタングリスは考えた。定員いっぱいに乗っている四号に、どうやってユーリアを乗せたらいいのかと……。

 

 

☆ ステータス

 HP:20000 MP:300 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・300 マップ:12 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)

 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)

 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)

 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 

 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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魔法少女マヂカ・185『ノンコが……』

2020-11-18 15:39:07 | 小説

魔法少女マヂカ・185

『ノンコが……』語り手:マヂカ    

 

 

 ちょっと困った。

 

 ノンコが陰でコソコソ言われるのだ。

「まあ、お下品」「むき出しでいらっしゃいますこと」「ちんちくりん」「お足りないのでは」「黙っていればお可愛いのに」 など他にも色々……。

 わたしは根っからの魔法少女なので、女子学習院に見合った立ち居振る舞いなど造作もないんことなんだが、ノンコは、つい昨日までは令和の時代の普通の女子高生だった。

「ごきげんよう」という学習院女子としての当たり前の挨拶もぎこちないし、背筋をまっすぐにして座ることもできなくて、朝から五回も注意されるし、面白ければノドチンコまで剥き出しに笑うし、授業がつまらないとあっさり寝てしまうし、まだ昼休みにもなっていないのにお腹の虫が鳴ってしまうし、その一つ一つが庶民じみていて、クラスメートの笑いにタネになってしまう。

 まあ、令和の時代のようないじめを受けるわけではないんだけど、霧子も気にし始めている。

 霧子は勝気な子なので、このままでは、そういう子たちに何かしかねない。

 わたし達の任務(納得して引き受けたわけではないけど)は霧子が無事に学校生活を送れるように気を配ることだ。任務の相棒であるノンコがハミられたりイジメられているようでは話にならない。

 前回にも言ったけど、小さな原因はノンコの苗字にある。

 華族と言うのは狭い社会で、学習院の生徒ともなれば『野々村』という姓の華族は存在しないことを知っているのだ。華族というのは、元の貴族、大名、大名クラスの武士、維新の元勲と決まっている。口にこそ出さないが野々村などと云う苗字は「どこの馬の骨」とか思っているし、ノンコの立ち居振る舞いが、それを裏付けてしまっている。

「教室の様子おかしくないこと?」

 三時間目が終わると、霧子はわたしに話しかけてきた。

「ああ、あれは国史の先生のせいよ(^_^;)」

「前田先生?」

「だって、家康のことを『タヌキ親父』っておっしゃったでしょ」

「あ、うん。門切り型だけど、特徴を捉えているわ」

「でも、徳川さんと松平さんにはご先祖の『神君』なのよ、きっと顔を赤くして俯いていたのよ、それが可笑しくて……」

「え、そうなの? ご先祖に対する畏敬の念はわたしにもあるけど、授業で習う歴史的な事実は別でしょ?」

「世間の女学生と言うのはそういうものなのよ。霧子さんのように恬淡(てんたん)としていられるのは、まだまだ先進的な例外だと思うわよ」

「そ、そうかな(n*´0`*n)」

「ええ、だから、そっとしておいた方がいいわ」

「そ、そうね」

 霧子は勝気で正義感の強い子だけど、やっぱり華族のお姫様。ちょっとプライドを刺激してやれば気休めにはなる。

 しかし、こんなことが四時間目を超えて続くようなら、こんな説明では済まなくなるだろう。

 いっそ、ノンコに魔法をかけて体調不良とかにして保健室に送ってしまうか……いや、順序としては、まず本人に話しておくことからだろう。

 ノンコには自覚が無いだろうから気休めにしかならないかも……と思いながらノンコの席に向かったところで、始業の鐘が鳴ってしまった。

 カランカラン カランカラン カランカラン

 仕方がない……つぎは古典の授業か。

 

※ 主な登場人物

渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員

要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 

野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長

来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令

渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る

ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員

ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 

春日         高坂家のメイド長

田中         高坂家の執事長

虎沢クマ       霧子お付きのメイド

松本         高坂家の運転手 

 

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やくも・02『お屋敷の中へ……』

2020-11-18 07:03:53 | ライトノベルセレクト

・02『お屋敷の中へ……』   

 

 

 お風呂掃除をかってでた。

 

 お爺ちゃんもお婆ちゃんも、お母さんだって「なにもしなくていいよ」と言ってくれた。

 でも、こんなに立派な家に住まわせてもらって、何もしなくていいというのはかえって気づまりだ。

 それで、頭をグルンとめぐらせて「お風呂掃除をやらせて」と頼んだんだ。

 お風呂掃除なら学校が終わった夕方で間に合う。庭とか家の周りの掃除も考えたんだけど、近所の人と顔を合わせたくなかったし、外回りの掃除は雨が降ったら大変だ。お風呂ならお天気に左右されないし、毎日同じダンドリでやればいいんだし。

 でも、お爺ちゃんが晩ご飯の前に風呂に入る習慣だということには思い至らなかった。

 遅くとも五時には帰って風呂掃除しなくちゃならない。

 

 図書委員の仕事が遅くなって、焦っていた。

 

 普通に帰ったら五時を回ってしまう。

 だから、あのお屋敷の崖下で脚が停まった。

 あのお屋敷は、もうだれも住んでいない。生け垣の隙間から見えた一階も雨戸が閉められている。

 四日前からは工務店の工事に関する看板みたいなのが掛けられ、昨日は取り壊しのための足場が運び込まれ、今朝は工事機材を運び込むために門扉が外されていた。

 ここを抜けたら百メートルの近道だ。

 そう思ったけど、裏の出入り口が閉まっていたら元も子もない。

 

 その裏口も開いている!

 

 わたしは、ドキドキしながら階段を駆け上がった。

 裏木戸を潜ると猛々しく草が茂った庭。モワっと湿っぽい土の匂い、ちょびっとかび臭い。たぶん、取り壊すにあたって中の荷物を出したりしたんだろう。

 土蔵の脇を周って広い庭。

 お母さんとチラ見したお厨子が静もっている。

 ソーラーかなにかでオートなんだろう、お厨子の中のお燈明が点いている。

――すみません、通らせてもらいます――

 ペコリと頭を下げて通り抜けようとしたら、お厨子の下に光るもの……え、スマホだ。

 

 こちらに来るのあたってスマホを買ってもらった。

「好きなの選びな」

 お母さんは言ってくれたけど、離婚したてで大変なのわかってるから、指さしたのはキッズスマホ。

「これでいいの?」

「うん、いろいろ付いてても使いこなせないから」

 ほんとはカタログの表紙を飾っていた最新型。見ないようにするのに苦労した。見れば、お母さんが気を遣う。

 

 その表紙を飾っていたのと同じスマホが落ちている!

 

 わたしは、視界の中心を外してモノを見るのが得意。

 スマホ屋さんで、憧れのスマホはしっかり目に焼き付けてある。

 家の人か工事関係の人が落としたんだろう……思わず手に取ってみた。

 手に取ると、それまで暗かった画面がパッと明るくなった。

 静電気かジャイロのセンサーが付いているんだろう。ま、このくらいでは驚かない。

 

――いらっしゃい――

 

 声がすると同時に、画面にも「いらっしゃい」が現れる。

 やばい、どこか触っちゃったかな。

 うろたえると、文字が消えて鳥居が現れてズンズン大きくなっていき、いつの間にか画面からはみ出した。

 目の前に鳥居が現れた。

 首を巡らせると、鳥居を囲んでボンヤリと長方形の枠が滲んでいる。

 

 これって……わたし、スマホの画面の中にいるの!?

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まりあ戦記・044『そいつ!?』

2020-11-18 06:54:12 | ボクの妹

まりあ・044

『そいつ!?』   

 

 

 四菱のCM撮影に付き合ったので三十秒のロスが出た。

 

 むろん進んで付き合ったんじゃない、司令さえ従わざるを得ない軍産複合体への屈折したイラ立ちからであった。

 えーーと……。

 三十秒前には目視できたヨミの姿が見えない。

 0.5秒遅れて、バイザーコンソールの隅、ヨミの存在を示すドットに気づいた。

 三十秒前とは逆方向の丘の陰になっていたのだ。

 なんで?

 これまでの戦闘でヨミを見失ったことなど無かった。ぬかったか!?

 CM撮影と、それに付き合ってしまった自分がが恨めしい。

 一瞬思ったが、すぐに気を取り直しアサルトライフルを構え直す。

 

 ゴーーーーーーーー!

 

 構え直したライフルの先端を何かがかすめた。

 ドーーーーーーーン!

 反射的に首をすくめると、丘の向こうから衝撃波がやってきた。

 衝撃波に続いてヨミが煙を吐きながら燕のように急上昇、その後ろを赤い人型兵器が追っていく。

 人型兵器はウズメよりも二回りほども小さく、蜂を思わせる軌道を描きながらヨミに迫っていく。両手で抱えたアサルトはウズメのそれよりも小型に見えたが、それでも子供が大人用のそれを構えているような滑稽さがある。

 それに、なによりそいつはバイザーコンソールには映っていない。

 

 なに? ステルス!?

 

 ステルス効果はヨミに対しても有効なようで、ヨミが発する対空ビームは大きくバラけている。

 そいつはヨミと並行になって初めてアサルトの引き金を引いた。

 

 ドドドドドドドドド!

 

 速射タイプのアサルトは確実にコアに当てているようで、シールドの破片が飛び散る。

 ヨミのシールドは高いリペア機能があるので、小口径の弾を食らわせても回復が早い。早いが、この局面だけを見ていると、圧倒的にそいつが強いように見える。

 数発がリペアの間隙を縫ってコアを貫通、ヨミのコアからは血しぶきが上がり二筋ほど煙が尾を引いている。

――あれじゃ、バレルが焼きついて使い物にならない、弾だって……――

 懸念した通り、そいつはアサルトをパージして、直近のポッド目がけて急降下に入った。

 

――なにボサっとしてんのよ! 次はあんたの番でしょ!――

 

 え、ええ!?

 

 いきなり、そいつの思念が飛び込んできて、まりあは、そいつとヨミの間に割り込んだ。

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かの世界この世界:136『標(しるべ)』

2020-11-18 06:41:10 | 小説5

かの世界この世界:136

『標(しるべ)語り手:タングリス      

 

 

 ずっとヘルムを照らしてきましたが、ここまでです……

 

 ヘルム神の姿が薄くなってきた。

「あなたが消えると、この島は闇になるのか?」

「あなた方が思うところの闇ではありません、この世に光をあらしめているのは至高の神より託されたオーディンです。わたしは、オーディンがつつがなく役目を果たせるように、オーディンの世界の標(しるべ)の役割を果たしてきたのです。標を失った地上は闇よりもひどい世界になります……残り僅かの力を振り絞って、あなたたちをアグネスの家に戻します。家に戻れば、ユーリアの意識は戻ります。そこからは世界樹ユグドラシルの根元に住む時の女神ノルン姉妹が標の代わりをしてくれるでしょう……」

「標の代わりとは?」

「……もう時間が……オーディンの娘ブリュンヒルデ、姫に託します、この地上を……ヴァルハラを……」

 そこまでだった、ユーリアに似たヤマタの神は輪郭を失って無数の光の粒子となって我々を包んだ。光の粒子に包まれてホワイトアウトした我々は、次の瞬間、ユーリアとヤコブの母であるアグネスの庭に戻ってきた。

 街の住人が酔いつぶれて、あちこちで眠っている。半身を起こしてボーっとしているのは四号の四人の乗員たちだ。

「出発の朝に戻ったようです」

 ふらつきながらもタングリスが立ち上がって状況を確認している。テルも周囲を見渡しロキとケイトが無事なのを見て肩の力を抜いた。

「みなさーーん!」

 駆け寄ってきたのはユーリアだ。

「ユーリア、憶えているか?」

「はい、ヘルム神は『ユーリアを取り込んでも輝きを取り戻せるのは、ほんの僅かの時間だ。間もなくユーリアを取り戻そうとして仲間たちがやってくる。わたしは、その者たちに全てを託そうと思う、いっしょに帰るがいい』とおっしゃいました。どうやら、今朝の時間まで戻ったようです……時の女神ノルン姉妹に託したというのは、このことなんでしょうか?」

「いや……そうでもないようだ」

 目まいがした。いや、目まいがしたように感じたんだ。

 まるでVRゲームがバグったように空間が歪んでくる。遠近感がむちゃくちゃになり、雲がすぐ目の前に迫ったかと思うと、わたしの顔を覗き込んでいたユーリアの顔が数百メートルの彼方でゆらゆら揺れて、四号の車体がシュールにゆがんだり、風景そのものがバクテリアの鼓動に似た変形を繰り返す。

 気持ちが悪い……世界が標を失うということはこういうことなのか?

 

☆ ステータス

 HP:20000 MP:300 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・300 マップ:12 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)

 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)

 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)

 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 

 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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やくも・01『崖のお屋敷』

2020-11-17 06:15:07 | ライトノベルセレクト

01『崖のお屋敷』   

 

 

 一丁目と二丁目の境には崖がある。

 

 崖と言っても二メートルほどの高さで、石垣やコンクリで固められていて、難しい言葉では法面というらしい。法面って読める? ノリメンと発音するらしいよ。聞き慣れない言葉だしピンとこない。

 でも、越してきて間がないわたしには、人の行き来を拒み続ける崖という感じ。

 

 一丁目に家があって、三丁目にある学校に通うには、この崖が邪魔だ。

 五十メートルほど迂回すると、崖は数十センチほどに大人しくなって、横断する坂道や段差も現れる。

 だから、そういうわたしでも通れるところまで迂回して学校に行く。

 その一丁目側の崖の縁には百坪ほどのお屋敷が並んでいるんだよ。

「お屋敷だねえ……」

 初めて転入の手続きのために通った時、そう呟いたら「やくもの家だって同じくらいじゃん」と、お母さんは笑った。

 わたしは、まだ家に馴染めていなかったので、こういう広くて大きな家を見るとお屋敷と感じてしまう。

 お母さんは、わたしが新しい環境に物怖じしないように軽く言ったんだ。

 お母さんにとっては生まれ育った家と街だから物怖じなんかしない。わたしを元気づけようとして言ったんだ。けして百坪の家を軽んじて言ったわけじゃない。

「わたしのころはお友だちの家があってね……ええと……ほら、この家」

 それは昭和の初めごろからあったんじゃないかと思うくらいの木造二階建て。瓦が重々しくて、屋根はお城みたい。壁は杉かなにかの木の皮が貼ってあって、窓なんかは木製の雨戸が閉められている。庭は手入れされていない庭木やなにかが猛々しく茂りっぱなしになっている。生け垣の隙間から一階の一部が覗いていて、木製のサッシが見えたので、まだ人は住んでいるんだろうか。聞いてみたい気持ちはあったけど、なんだかはばかられた。

「脇のくぐり戸を通って庭を抜けさせてもらってたの、ほら、お厨子の屋根が見えるでしょ?」

「おずし?」

「神社のミニチュアみたいなの……」

 ピョンとジャンプしたら見えた。会社の庭とか屋上とかにありそうなやつだ。色褪せた小さな鳥居があって、銅の屋根が錆びまくって、そこだけ鮮やかな薄緑。

 

 続きは崖を迂回してからだった。

 

「ここに出てくるのよ」

 お屋敷の裏手はお城のような石垣になっていて、古城のように苔むしている。

 少し窪んだところがあって、お母さんが指差したのは、その窪みにしつらえられた石段だ。

 石段は道路に沿って十段ほどあって、クニっと窪みのところでLの字に折れ曲がり崖の上の裏門に続いている。なるほど、ここを通れば五十メートルの倍で百メートルは近道できる。

 でも……他人様のお屋敷。

 人は住んでるようだけど、お化け屋敷ぢみて見える。お母さんの口ぶりでも、このお屋敷の住人とはとっくに付き合いが無くなっている感じだ。

 

 それから一か月。

 

 わたしは近道することもなく、大きく崖を迂回して学校に通ったのだった。

 今日まではね……。

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まりあ戦記・043『三か所のカメラ 二機のドローン』

2020-11-17 05:24:39 | ボクの妹

・043

『三か所のカメラ 二機のドローン』   

 

 

 イラ立ちの原因は予感だ。

 

 ウズメはパルスという固有兵器を内蔵している。パルスの出力は臨機応変に変えられる。

 肌に密着するコネクトスーツはまりあの筋電や脳波をリアルタイムで拾って、ウズメのアクティビティーを制御している。

 だからこそ、まりあはウズメを意のままに動かせる。

 リアルで喧嘩したとして、相手のパンチを屈んでかわしながら、お返しのフックを炸裂させるとかするのは、ほとんど反射運動だ。

 パルス攻撃も同様で、呼吸するような自然さの中で発揮される。

 しかし、まりあは、その自然さを封じられているのだ。

 カルデラの周辺に配置された携帯兵器をリリースすることを義務付けられている。

 いちいち拾って装着し、攻撃姿勢をとらなければ使えないので、タイムロスが大きいだけではなく、戦いのテンポを崩されて、はなはだ精神衛生に良くない。

「今度のヨミは成熟体ではない、二度ほど装備を替えれば仕留められる」

 司令は、そう言って出現したばかりのヨミが映されているモニターを指さした。

 確かに、体のあちこちがいびつでバランスが取れていない。装甲も均一ではなく、一部はムーブメントが透けて見えるほどに薄い。

 

――アサルトライフル装着!――

 

 指令が届くと同時にカルデラ南端のポッドからライフルが射出された。

 ライフルが高度二百メートルに達し、上昇速度を失う寸前にキャッチし、セーフティーを解除すると同時に初弾を装填する。

 反動をつけて高度をとろうとすると指令が入る。

――もう一つリリースする、二丁拳銃でやってくれ――

 

 チ!

 

 舌打ちはしたが、分かってる。

 地上のポッド周辺に三か所カメラの反応がある。ドローンも二機待機していて映像を撮っている。

 ライフルを製造している四菱工業がPR映像を撮っているのだ。

 たぶん司令の横にはディレクターが居て「二丁拳銃でいきましょう!」とか言い出したんだろう。

 

 じゃ、サービスしてあげる! 

 セイ!

 

 背筋を伸ばすとウズメは跳躍して二丁のライフルを放り上げ、新体操のバトントワリングのように旋回を加えた前転でキャッチして決めポーズ!

 周囲のカメラが撮りやすいように、それぞれのカメラに向かって三度決めてやった。

 地上でカメラマンが親指を立てるのが分かった。

 まりあも親指を立てて応えたが、このまま親指でカメラマンをダニのように潰してやりたい衝動に駆られるのであった。

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かの世界のこの世界:135『ヘルム島のイメージ』

2020-11-17 05:09:01 | 小説5

かの世界この世界:135

『ヘルム島のイメージタングリス     

 

 

 例えばこれなのです。

 

 ヘルムの頭上に郵便ポストほどの大きさの懐中電灯が現れた。

「懐中電灯というのは、機能別に表現すると、こうなります」

 懐中電灯は、三つに分かれた。

 

 ボディー  電球   電池

 

「ほかにスイッチや配線やレンズ等がありますが、それをボディーに含めると、この三つです」

 ボディーと電球と電池は、いったん元の懐中電灯に戻ってから、また三つに分離した。小学生に説明するように分かりやすく、こういう授業めいたことが苦手なわたしでもよく分かる。

「ボディーにあたるものがヘルムの島です」

 ボディーの下にヘルム島のイメージCGが現れた。

「電球がわたしです」

 分かりやすく神という文字が現れた。

「そして、電池が女の子です」

 電池が女の子の姿になった。

 もう一度、三つのものが合体し、懐中電灯が点滅し、やがて、電球の輝きが弱くなって消えてしまった。

「電池が切れました……切れた電池は廃棄されて、新しい電池が入れられます」

 懐中電灯のお尻の蓋が開いて、電池が入れ替えられる。電池は別の女の子の姿をしている。

 

 これって……?

 

「そう、生贄の少女たちは、この電池なのです。だが、誤解しないでください。神は電球のエネルギーを少女の姿でお遣わしになるのです。電池は十七年かかって島の人たちに愛しまれることによってフル充電されます。そして、いま入れ替えようとされている電池が……」

 またも電池が入れ替わって、ユーリアの姿になった。

 しかし、電球は、一度灯ったきりで消えてしまった。

「……お分かりになったでしょうか」

 姫が、感に打たれたように立ち上がると、かすれた声でおっしゃった。

「それって、電球に寿命がきたってことだよね」

「はい、灯りが灯らない懐中電灯に存在理由はありません」

「それって……懐中電灯を辞めてしまうと言うことなんだよね」

「はい、ですので、電池はお返ししますね」

 

 エメラルドの上のヘルム神の姿がダブったかと思うと、一つがハッキリとユーリアの姿になって我々の前に降り立った……。

 

☆ ステータス

 HP:20000 MP:300 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・300 マップ:12 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)

 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)

 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)

 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 

 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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銀河太平記・018『修学旅行・18・陛下のお気持ち』

2020-11-16 14:38:33 | 小説4

・018

『修学旅行・18・陛下のお気持ち』大石一   

 

 

 ダッシュ、おまえがまとめるとメチャクチャになりそうだから、僕がやるよ。

 そう言って、ヒコは自分のインタフェイスを広げた。

 

 陛下は、こういう意味の事をおっしゃったと、我々は理解している。

 

 陛下を襲った人たちにも理屈がある。

 むろん暴力に訴えることは間違っているが、あの人たちの理屈に耳を傾けることは必要なことだと思う。

 あの人たちは、陛下個人に恨みがあるわけでは無い。

 陛下が天皇であることに異議を唱えている。

 二十五年前、陛下は先帝が崩御された時に政府と国民の総意を受け、先年改正された皇室典範に則って皇位に就かれた。二千有余年の皇室の歴史始まって以来の女性天皇だ。

 先帝のお子には今上陛下である和子内親王殿下しかおられなかった。

 改正前の皇室典範では男系の家系を遡って、五代前に分かれた森ノ宮家からお迎えしなければならなかったが、すでに百年以上昔に枝分かれした家系で、国民の馴染みも薄く、先帝が広く国民に敬愛されていたことも鑑みて、国民の総意を汲み、皇室典範を改正して和子内親王殿下が131代目の皇位に就かれた。

 しかし、それは二千有余年の皇室の歴史から踏み外したもので、正しい森ノ宮家の皇位に戻さなければならない。

 彼らが言う正しい皇統に戻すことによって、日本の平和と繁栄、さらには世界と宇宙の安定的発展がもたらされる。

 彼らの行動の基礎には日本と皇室の弥栄(いやさか)を思う気持ちが潜んでいるので、そこは汲み取らなければならない。

 その上で暴力に訴えるという手段をとったことは非難され、取り締まられることは仕方がない。

 そして、それでも国民の総意と皇室典範に則った現在の皇室は正統なものであると締めくくられた。

 

 以上が、三十分にわたって漏らされた陛下のお言葉を我々の心で理解したことである。

 

ダッシュ:「なんだか、固くねえか、ヒコ」

ミク:「うん、もっと優しくおっしゃった気がする。それに、もっと御熱心にお聞きになったことがあるじゃない」

ダッシュ:「あ、将軍の事な」

ミク:「『たけくん、お元気?』って聞かれた時には驚いた」

ヒコ:「竹千代ってのが将軍の幼名だって気づくのに五秒ほどかかったな」

ミク:「子どものころに将軍が日本留学してたことは知ってたけど、陛下と同窓生だってのは知らなかった」

テル:「将軍、出べそだったあ( ´艸`)」

ダッシュ:「早食い競争の決着がついてないのはいちばん笑えたな(≧▽≦)」

ヒコ:「チャンスがあったら再試合しますかって聞いたら、子どもみたいな笑顔で『うん!』ておっしゃってたなあ」

ミク:「このことは書かないの?」

テル:「書けるわけないわさ」

ダッシュ:「なんでさ、テル?」

テル:「らって、あそこに陛下の本音がありゅから……」

ミク:「本音?」

ヒコ:「陛下は将軍に会いたがっておいでなんだ」

ダッシュ:「ああ……だったら余計に」

ヒコ:「これは記録には残せない、チャンスがあったら、直接将軍にお伝えしよう」

ダッシュ:「あ、ああ」

 そこまで書いて、陛下と元帥と六人で撮った写真を添えてヒコはインタフェイスを閉じた。

 

 ちょうど、そのタイミングで車寄せに元帥の車がやってきて、俺たちは皇居をあとにした。

 車窓から振り返ると長和殿の屋根に陽が落ち始めて、あたりを温もりの秋色に染めていた。

 

 

 ※ この章の主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い

穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子

緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた

平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女

 ※ 事項

扶桑政府   火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる

 

 

 

 

 

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まりあ戦記・042『大尉とまりあのイラ立ち』

2020-11-16 06:28:31 | ボクの妹

・042

『大尉とまりあのイラ立ち』    

 

 

 疑似ペーパーチケットは、ゲート横のマシンにスマホをかざせば記録され、列で待っている家族や恋人の所に戻ってゲートを潜ると、自動改札に似たディスペンサーから疑似チケットが吐き出される。

 これだと、ほんの数分列に並んで入場を待つという体験ができる。

 たいていの客は、それで入場する。

 金剛少佐は完全アナログで、チケットを買うところから並んで、アナログチケット専用のゲートを使う。

 おかげで待ち時間は十五分ほどと、疑似ペーパーチケット組の五倍ほどの時間がかかる。

「だって、おかしいだろ。入場してからチケットを受け取るなんてさ。親とか恋人が列に並んで買ってきたチケットを手に取って『ああ、これから入場するんだ!』というワクワクを感じて入るのが仕来りだ。な、これから楽しむんだって気になってきたろ?」

 少佐の言うことは分かったが、I lobe You! のネオンサインが背中で点滅するスタジャンを着せられているみなみ大尉は面白くない。

 

 ウズメの発進を数分後に控え、数日前のサンオリデートのことを思い出していたのは、やっぱり腹立たしかったのか、意識の底で楽しかったと思っているのか区別がつかなくなってきているせいかもしれない。

――システムオールグリーン、インターフェースクリアー、リリースインジェクション完了――

 ヨミの変異体が数週間ぶりに出現。バージョンアップしたCISからのオペレーションは快適でさえあったが、先日サンオリで並んだ時のようなイライラがある。

 リリースチーフの自分がこんなことではいけないと思う大尉であったが――おや?――と思った。

 

 まりあのコクピットコンソールも、まりあのイラ立ちを示すゲージが上がっているではないか……。

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かの世界この世界:134『ヤマタ……ヘルムの神』

2020-11-16 06:18:39 | 小説5

かの世界この世界:134

『ヤマタ……ヘルムの神ブリュンヒルデ        

 

 

 クレーターの中心へポチを含めた四人で飛び込む!

 

 ちょっと前なら、準備も偵察もなしに飛び込むような真似はしなかっただろう。ストマックとその変異体をやっつけて確信めいたものが湧いてきた、テルにもタングリスにも迷いはない、わたし(ブリュンヒルデ)もいつもの意地っ張りではない、ポチも小さな体に自信をみなぎらせている。

 穴には無数の横穴があって四人を惑わせる。惑わせるばかりではない、ほとんどの穴からは出くわしたことのないクリーチャーが攻撃を仕掛けてくる。しかし四人は、戦い慣れたダンジョンのように、あらかじめクリーチャーの出現が分かっているかのように切り抜けていく!

 ……この先に空がある!

 地下に向かって落ちているはずなのに空を予感した。落下しつつバク転をくわえると、予感の通り重力が反転し、急速にブレーキがかかった。

 スポ スポポポ スポポポポ ポン!

 小気味よくビール瓶の栓を開けたような音をさせて、旋回しつつ空中に躍り出た。

 

 そこは、本来のヘルムの奥つ城であった。

 ヘルムは分断されておらず、灌木林の向こうにはヘルムの自然や街が地続きで広がっている。

 四人が旋回する中心は穏やかな野球場ほどの草原があり、草原の真ん中には像ほどの大きさのエメラルドが鎮座している。エメラルドはキラキラ光り、あたかもヘルムの自然にエネルギーを供給しているかのように外に向かってエネルギーを発しているのが分かる。

 眩しくて目をつぶりそうになるが、こいつから目を離すと遠心力で振りとばされて何もかもがお仕舞になるか振り出しに戻されそうな予感がする。

「みんな、あれから目を離してはいけないぞ! 指の隙間からでも目を細めてもいい、あれをしっかり見ておくんだ!」

「わ、分かった」

「ラジャー!」

「承知!」

 四人が旋回するにつれ、エネルギーの中心がエメラルドの頂点に凝縮して人の形をとった。

 それは、ユーリアの形を結んだ。

「クリーチャーではないな……」

 声に出したのはわたし一人だったが、他の三人も同じ気持ちなのだろう、穏やかに着地した。

「「さすがはオーディンの姫君とお仲間、正しく理解していただけているようで心強く思います」」

 不思議だった、喋っているのはユーリアなのだが、声には二人分の響きがある。

「あなたは?」

「「ユーリアであったものであり、ヤマタであったものです」」

「つまり……」

「「この身をなんと呼ぶか、それは、わたしが伝説となっていく間に定まっていくでしょう……とりあえずはヘルムとでも呼んでください」」

「ヘルム」

 一歩前に出たタングリスが続ける。

「戒めを解いて、ユーリアを家族の元に帰してはもらえないだろうか」

「「それについては、少し話を聞いてもらえますか」」

「はい、謹んで」

 きっぱり言うと、タングリスは一歩退いて、わたしの斜め後ろに収まる。

 ここでは神域の序列を守らなければならないと思ったようだ。

「わたしはオーディン以前の神によって遣わされました、神としての有りようが違うのです」

「違うと言われると?」

「長い話になるが、聞いていただけるだろうか……」

「はい、みんなもいいだろうか?」

 三人は、草の上に腰を落ち着けることで賛意を示した。

 ヤマタの……ヘルムの神との対話が始まった……。

 

☆ ステータス

 HP:20000 MP:300 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・300 マップ:12 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)

 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)

 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)

 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 

 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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せやさかい・178『代理でお見舞い』

2020-11-15 13:18:06 | ノベル

・178

『代理でお見舞い・1』さくら   

 

 

 あ、さくらちゃん。

 

 キョロキョロしてたら看護師さんに声をかけられた。

「え?」

 一瞬分からへん。

「いつも留美がお世話になって(^▽^)」

 マスクの上の目がへの字になって分かった。留美ちゃんのお母さんや!

「あ、え、こんにちは(^_^;)」

「お見舞い?」

 胸に抱えた花束を見て聞いてくれはる。

「はい、内科で入院してはる橘謙譲さんのお見舞いなんですけど、病室が見当たらへんで……受付で聞いた病室は、ここなんですけど」

 教えられてやってきた病室には別の人の名前がかかっていたんですわ(^_^;)

「あら、内科のフロアは一つ上よ」

「え……?」

「ここは六階で泌尿器のフロアだから」

「え! え? 七階やなかったんですか? ここ(;'∀')?」

 エレベーターで、ちゃんと⑦を押したはずやねんけど。

「あー、エレベーター修理中でね表示パネルが間に合わせなんで、時々迷う人がいるのよね」

 書いてある番号の上のボタンを押したんやけど、ほんまは下のボタンをさ押さならあかんみたい。

 アハハハ

 照れ笑いをして、ちょうどやってきたエレベーターに乗りなおす。

 乗ってから、たった一階やねんから階段を使たらええねんと思いなおす。焦るとろくなことはありません。

 ほんまは詩(ことは)ちゃんが来るはずやったんやけど部活で唇を切ってしもて、これ以上切れたらヤバイんで、わたしにお鉢が回ってきた。

 橘謙譲さんいうのは、専念寺のゴエンサン(浄土真宗では住職のことをゴエンサンという)。お祖父ちゃんと同年配やねんけど、後継ぎがいてはれへんので、まだ現役でやってはる。

 持病を持ってはって、去年の春も入院して、うちのおっちゃんとテイ兄ちゃんがゴエンサン代行をやってた。今度も、おっちゃんとテイ兄ちゃんに加えてお祖父ちゃんも、ちょっと手伝うてる。

 おばちゃんが見舞いに行くと気ぃつかいはるということで、うちが花束抱えて専念寺さんの病室を目指してるというわけですよ。

 あった、ここや!

 病室の前の名札に『橘謙譲様』の名札がかかってる。

 病室の前のアルコールで消毒し……ようと思たら、言い争う声がして、花束抱えたまま固まってしまう。

 

『鸞があと継がんと、寺には居れんことになるんやでえ』

『そんなん言われても、坊主は嫌や』

『なあ、鸞、今は如来寺さんが助けてくれてはるけど、いつまでも頼ってるわけにもいかへん』

『お兄ちゃんが居てるやんか』

『親(ちか)を当てにしてたら、いつになるか分からへんやろ』

『戻って来るて、お祖父ちゃんも、まだ七十にもなってへんねんから、気弱になったらあかへんやんか』

『たとえ直っても、元のようにはでけへん』

『元気出しいや、鸞がしっかり看たるさかいに。元気になったら、そんな気弱さどっかいってしまうさかい。お祖父ちゃん、病気で気弱になってるだけやねんて』

『鸞……』

『うちは、まだ中二やねん、そんな大人になってからのこと言われても』

『なにも、今すぐに坊さんになれ言うのんとちゃうや。な、せめて得度だけでも、得度は子どもでもでける』

『堪忍してえよ、もう』

『鸞が得度もせんままにお祖父ちゃんが逝ってしもたら、ほんまに、寺には居られへんねんで』

『もう、この話はおしまい!』

『鸞』

『ちょっと、外の空気吸うてくる!』

 ガラ!

「うわ!」

 いきなりドアが開いてビックリした(*_*)!

 なんとか身をかわして、鸞いう子ぉは速足で階段の方に行ってしまう。

 病院のドアいうのは、開けたら自動で閉まるもんやけど、あんまり勢いよう開けたもんで、なにかが引っかかったか外れたかして、開けたまま止まってしまう。

「あ……どちらさんかな?」

 専念寺のお爺さんと目ぇが合ってしもた……。

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まりあ戦記・041『ケティのスタンドバイミー』

2020-11-15 06:21:31 | ボクの妹

・041
『ケティのスタンドバイミー』    


 

 えーーーなに考えてんのよ!

 頭のてっぺんから声が出てしまったみなみ大尉だった。


 金剛武特務少佐が、いそいそと大尉を誘ったのはサンオリのケティランド、そのデコレーションケーキのようなゲートの前だ。

「小さいころにケティちゃんで遊んだことないかい?」
「ないわよ! 五歳の時にヨミの浸食が始まって、逃げ回ってばかりだったんだから!」
「だったら、ちょうどいい。オレ入場券買ってくるから」

 

 意外だった。たいていのアミューズメント施設はスマホなどの携帯端末で入場券を買うのが常識だ。
 チケット売り場に列をなして入場券を買うなんて古典的な設定は映画やドラマの世界にしかない。

 それでもスマホのデジタルチケットをアナログなペーパーチケットにしたい人はいるので、それなりの列は出来ている。

 でも、金剛少佐のように一からチケットを買おうというのは、システムを理解していない八十歳以上の老人か、よほどの好事家である。

 で、ゲートの前には、お父さんや彼氏が疑似アナログチケットに交換するのに並んでいる間、ワクワクしながら待っている家族連れやローティーンの女の子が結構いる。
 実際より若く見えるとはいえ、自分と同じ年頃の女性は、みんな子供連れの母親だ。
『ね、あの人のスタジャン『ケティのスタンドバイミー』の……』
『ほんとだ、あれはシブイよねー』
 そんな会話が聞こえてきた。どうやら自分のことを言っているらしい。さりげなくゲートのガラスに映る姿をチェックする。

 大尉が着ているのは、先日、少佐に押し付けられたデート用の衣装だ。

 スタジャンは、裏地こそピンクのチェック柄だが、表はカーキ色のタンカースジャケットだ。ちょっとレトロだけども、年齢に関係なく着られるアイテムで、ここで待っている人たちの中にも似たようなものを着ている人が結構いる。あまり目立たない衣装なので、すっかり安心していた。

 

「あのう、突然ですみません!」
 高校生ぐらいの二人連れの女の子が声を掛けた。
「え、あ、はい!」
 女子高生みたいな返事をしてしまった。
「そのスタジャン、どこで買ったんですか?」
「ぶしつけですみません!」
 二人は目をキラキラさせていて、周囲の人たちも憧れのまなざしで見ている。なんとも居心地が悪い。
「あ、えと、人からもらったものなんで……」
「そーなんですか!」
「ひょっとしてプレゼントしてくれた人って、いっしょに来てます?」
「あ、えと、それは……ていうか、この地味なタンカースジャケットが、なんで?」
 周囲の人たちから笑い声が上がった。
「あの、そのスタジャンはですね『ケティのスタンドバイミー』って不朽の名作でですね、あーーー思っただけで涙があーーー」
「えと、ケティちゃんが家出してですね、家出にはふかーい訳があるんですけど、ウウウウウ……」
「グス、けつろん言いますとね、ケティちゃんが彼の愛情に気づいた時に、なんでもないスタジャンに愛のシグナルが現れるんです」
「シグナルは、気づいて現れるんですけど、彼氏が、すぐそばにやってくると輝きを増すんです!」
「あーーー、でも、これはただの……」
 大尉が見た限り、ただのタンカースジャケットなのだ。

 オーーー!!

 その時、周りの人たちから感嘆の声があがった。
「せ、背中です、背中!」
「いま、輝きが!」
 大尉は、ジャケットを脱いで背中を見てみた。

 背中には、ケティの満面の笑みと I love You! の文字がキラキラ輝いていたのだ!

 人だかりの向こうには、少佐がニタニタ笑って二枚の入場券をヒラヒラ振っていた……。

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