大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

かの世界この世界:133『スキルアップしたのだ!』

2020-11-15 06:10:08 | 小説5

かの世界この世界:133

『スキルアップしたのだ!ブリュンヒルデ       

 

 

 わたしが本物だから!

 

 そう主張するユーリアは、八メートルほどの間隔を開けて、それぞれにこんぐらがっていた。

「ハーネスを切って下ろして!」の声も前後して五人分聞こえる。

「うかつに下ろせないぞ……」

 タングリスの言う通りだ、クリーチャーというのは擬態する。五人のうち四人のユーリアは擬態したクリーチャーだ、下ろしたとたんに襲い掛かって来るだろう。

「早くして! 頭に血が上る~!」

 ほとんど逆さになったユーリアが顔を赤くしている。

「腕が千切れそう~!」

 右腕を絡み取られたユーリアの指先が痙攣している。

 他の三人ももがいているうちに増々苦しくなっていく。

「ウグッ!」

 一人が蔦を首に絡ませてしまった!

「じっとしてろ!」

「待て、テル!」

 タングリスの制止も間に合わずテルが飛び出した。わたしもタングリスも飛び出す! 万一の時はテルを助けるためだ。

「来るな!」

 叫びながらテルは地面を蹴る! 

 セイ!

 ユーリアのすぐ脇を通る瞬間に剣を抜き放って蔦を切断した!

 自由になったユーリアは地面に落ちる寸前に大きな蜘蛛に変身、糸を吐き出しながら密林の中、テルを追い掛け回す。

 

 シャーーーーーーー!

 

 たった今までユーリアだったそれは、溶けた飴のように糸を引きながらテルを追いかけ回す!

「いま助けるぞ!」

 地面を蹴った! 瞬間でクリーチャーに追いつきツィンテールを振り回して、そいつの背中をたたっ切る! わずかに届かなかったが、引きずった糸を切断した。

 ベチャ!

 糸の切れたそいつは、その瞬間のエネルギーの方向にすっ飛んで木の幹にぶつかってプリンのように四散した。

「姫!」

 タングリスの叫びを最後までは聞かなかった。視界の端に迫りくる三体のクリーチャーを認めたからだ!

「セイ!」

 横っ飛びにジャンプ! 旋回しながらツインテールの一閃をくれてやる! クリーチャーの伸びきった糸を切断! さっきのと同じように地面に激突すると四散した!

 空中で一回転! 次に供えようとしたら、テルとタングリスも一体ずつ倒していた。

 

「……ということは、こちらが本物か」

 

「ありがとう、低空を飛んでいたら、急に触手のようなのが伸びてきて絡み取られたの(^_^;)」

 見えない敵に四の字固めをくらったような姿勢で礼を言うユーリア。

「いま、助けるから。テル、そっちを、姫は頭の方を」

 三人で囲むようにしてユーリアに絡まったハーネスやら蔦を切り取る。

「ありがとう、やっと助……」

 その瞬間、ユーリアは手足を広げたかと思うと八畳敷きのチューインガムのように広がって三人を包み込んだ!

 グシュッ グシュグシュ グシュッ

 数秒で捕らえた三人を圧縮すると、圧縮に反比例して地面が口を開ける!

 ズボッ!

 瞬間の吸引力で吸い込まれると、地面は閉じてしまって静寂が訪れた。

 

「もういいですよ……」

 

 ポチの声がかかって、我々は茂みから顔を出した。

 ちょっと信じられない光景だった。四体のクリーチャーをやっつけて、振り返ると、わたしを含めた三人がユーリアを助けようとしているところだった。「隠れて」という囁きで身を隠していたら、いまの顛末になったのだ。

「ポチ、いまのは空蝉の術だったな」

「なんか、とっさにやっちゃった……」

 どうやら、ポチの新しいスキルが覚醒したようだ。

「少し後退しよう」

「後退?」

「すれば分かります」

 タングリスの言うままに。密林の中を五十メートルほど後退した。

 ズズズズーーーーーン

 くぐもった地響きがしたかと思うと、次の瞬間、それまで居た密林が山のように膨らんでから爆発した!

 

 ズッボーーーーーーーーーン!!

 

「ポチの空蝉に思念爆弾を仕掛けました」

「わたしも、何かを仕掛けた気がする。もう少し下がろう」

 みんな知らないうちにスキルアップ! なんか面白くない!

 

 ドッガーーーーーーーーーーン!

 

 前の数倍の爆発が起こり、我々も吹き飛ばされたが、空中で二回転して着地した。

 密林の中、野球場ほどに木々がなぎ倒され、その中央はクレ-ターとなって口を開けていた。

 目的の場所、ヤマタの居場所は、このクレーターの向こうのようだ……。

 

☆ ステータス

 HP:15000 MP:200 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・280 マップ:11 金の針:60 福袋 所持金:400000ギル(リポ払い残高0ギル)

 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)

 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)

 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 

 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

 

 

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魔法少女マヂカ・184『久々の登校初めての登校』

2020-11-14 14:50:55 | 小説

魔法少女マヂカ・184

『久々の登校初めての登校』語り手:マヂカ    

 

 

 うわあ…………!( ゚Д゚)!

 

 クマさんがドアを開けてくれて、パッカードを下りたノンコが可愛い歓声を上げる。

 女子学習院の門を入ると、そこだけでちょっとした小学校のグラウンドくらいの車寄せになっている。

 真ん中が一里塚のような植え込みになっていて、そこを中心に生徒を乗せた車がグルリと周って本館の玄関前に至って、生徒たるお嬢様方を下ろしていく。

 一度に何十台と言う車がひしめき合うので、半ば以上の車は適当なところにお嬢様を下ろしては、車だけぐるりと周って帰っていく。

 詰襟の制服を着た先生数人が立って、交通整理をしている。さすがは学習院、登校風景だけでもエスタブリッシュな空気がある。

「すごいねえ、みんな木造校舎だよ(o^―^o)」

「震災で被害は無かったの?」

「無駄に頑丈な造りになっているからね」

 ノンコの感嘆に霧子は陰のある返事。

 無駄に頑丈な校舎も昭和二十年の空襲では木造ゆえに松明のようによく燃えて、その後は敷地ごと放棄され、跡地は秩父宮ラグビー場になるはずだ。

 わたしは数年前に終わった第一次大戦後のヨーロッパで大立ち回りをやっていて、昭和も十年代になるまでは、ほとんど日本にも帰れていない。

 この時代に飛ばされたのは、ひょっとして、そういう条件があったからなのかもしれない。

 もし、この時代のわたしと出会ったら、タイムパラドクスの原理で消滅してしまうかもしれない。

「では、お嬢様、終業の三時半にはお迎えに上がります」

「ご苦労でした、虎沢」

 ノンコが――アレ?――っという顔をしている。

 ついさっき「使用人でも敬称を付ける」と霧子が言ったからだ。

 霧子は聡い、登校し始めた学友たちの注目が集まってきているのを意識しているんだ。

 パッカードが去っていくと、さっそくご学友たちが寄ってきた。

「ごきげんよう高坂さん(^▽^)」

「ごきげんよう高坂さん、もう、お体はよろしくって?(^▽^)」

「ごきげんよう高坂さん、お元気そうでなによりでございますわ(^▽^)」

「ごきげんよう高坂さん(^▽^)」

「ごきげんよう高坂さん(^▽^)」

 同じような顔をしたお嬢様がたが、紋切り型ではあるが好奇心剥き出しの笑顔で寄って来る。

「あら、ごきげんよう(^▽^)、浅野さん、松平さん、岩崎さん、伊達さん、徳川さん」

 霧子は、彼女らと同じ笑顔で、きちんと相手の顔を見て挨拶を返していく。

「あら、そちらのお二人さんは?」

 右目に眼帯をした伊達さんが、わたしとノンコに視線を向けてきた。

「渡辺さんと野々村さん、西郷様のおかかりで、今日からいっしょに登校いたしますの」

「まあ、西郷様ゆかりのお方ですの?」

「ごきげんよう、渡辺真智香です。こちらは妹分の野々村典子、よろしくお見知りおきくださいませ」

 ノンコの背中に手を回していっしょに頭を下げる。瞬間ご学友の視線がバチバチと体のあちこちでスパークする。一瞬の挨拶で品定めをしているのだ、みなそうそうたる華族の姫君、頭の中で渡辺と野々村という苗字を華族録の中から検索して、自分との軽重を計っているんだ。

 渡辺姓の華族は八家あるが野々村は……あったか?

 ご学友たちも笑顔の底で測りかねている。彼女たちの基本的なヒエラルヒーは家格だ。前提は華族であること、華族でなければ、維新以来なんらかの勲功があった平民に限られる。

 知識としては知っていたが、これほどとは思わなかった。

 ノンコだけなにか偽名を考えてやった方がよかったかもしれない。

「クラスも一緒ですので、みなさん、わたくし同様にお見知りおきくださいな。さ、二人とも参りましょうか」

 霧子が助け舟を出してくれて、三人で昇降口に向かうのであった。 

 

※ 主な登場人物

渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員

要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 

野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員

安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長

来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令

渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る

ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員

ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 

春日         高坂家のメイド長

田中         高坂家の執事長

虎沢クマ       霧子お付きのメイド

松本         高坂家の運転手 

 

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まりあ戦記・040『金剛武特務少佐』

2020-11-14 05:33:40 | ボクの妹

戦記・040
『金剛武特務少佐』     



「わかったわ、あたしがなんとかする」

 大尉は、そう言ってやるしかなかった。


「ありがとうございます、やっと本務に戻れます」
 中原光子少尉は、せいいっぱい微笑んで礼を言ったつもりだが、くぼんだ目は、その疲れたクマに縁どられ痛々しいばかりである。
 まりあの御守りと尾行を頼まれてひと月になるが、毎度振り回されてばかり。かと言って責任感の強い少尉は、いいかげんなこともできず憔悴していくばかりであったのだ。

 ドタン!

 デスクに向き直ったところで、ドアの外で倒れる音がした。
「中原少尉?」
 廊下に出ると中原少尉が気絶している。まりあの任務から解放された安堵から気を失ってしまったのだ。
「急を要するなあ……」
 軍用スマホを取り出すと、大きなため息をついて、あの男を呼び出した。

「おう、みなみ、嫁になる決心がついたか」

 士官用サロンに入ってくると、ガムを噛みながら大尉の横に腰を掛ける男。
 軍服を着ていなければ、このニヤケタおっさんは、とっくに保安隊に身柄を拘束されていたであろう。

「肩に手を回すの止めてもらえます」
「やれやれ、プロポーズの返事じゃないようだ」
「横じゃなくて、前に座ってください」
「気乗りはしないが、仕事の話だな」
「少佐、まりあの監督をお願いします」
「未成年には興味はないんだが」
「任務です。なんなら司令の命令書を用意しますが」
「そういうシャッチョコバッタことは御免だね。高安みなみの頼みでなきゃいやだ」
「だったら、高安みなみとしてお願いします。まりあの面倒みてやってください」
「まあ……いいだろ。でもな、結婚の約束をしろとは言わないけども、一度、その軍服を脱いで付き合ってもらえないかなあ」
「考えときます」
「そりゃないよ、半日でいいから付き合えよ」
「半年先まで任務で埋まってますから」
「空きができればいいんだね」
「だから、半年先まで……」
「大丈夫」
 少佐は軍用スマホを取り出すと、軽くタッチをして、画面を大尉に見せた。
「四日後、みなみ君は一日休暇だ」
「あーーーダメじゃないですか、師団のCPに侵入なんかしちゃーーーー!」
「僕は、ベースのCPの保守点検を任されているんだ」
「それって公私混同!」
「任務の目的は、旅団全体の任務処理の円滑化だ。君の休暇は、その円滑化に無くてはならないものなんだよ。この金剛武特務少佐のやることに無駄は無いぜ。なんなら正式な命令書にするけど」
「もーー、じゃ、二時間だけ付き合います」
「え、休暇は丸一日なんだぜ」
「久々の休みなら、美容院にも行きたいし、その、だいいち着ていく服もないから買いに行かないと」
「なら、この服を着ればいい」
 少佐は、シートの横から紙袋を取り出した。
「え、えーーー!」
「この流れは想定していたから用意しておいた。美容院はこれ……」
 なんと美容院のメンバーズカードを出した。
「みなみ君の名前になってる。サロンマツコ、当たり前なら三か月待ちだよ。時間は三日後の三時、その日の演習プログラムの確認はもうやっておいたから、六時までは時間が空くはずだ」
 みなみ大尉は歯ぎしりした。
「でも、半日、三時間が限度です!」
「どーして? 丸一日休暇なんだぜ」
「あたしの心の限界なんです!」
「そっか……ま、それでいいよ」
 少佐は、しょんぼりと肩を落とした。
「あ、いや、その間はきっちりお付き合いします。高安みなみに二言はありません」
「それはよかった! 三時間あれば子どもを作るのには十分だ!」
「しょ、少佐あーーーーヽ(`#Д#´)ノ!」
「じゃ楽しみにしている、お互い任務に戻ろう!」

 金剛武特務少佐はスキップしながらサロンを出て行った。

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かの世界この世界:132『発見』

2020-11-14 05:16:40 | 小説5

かの世界この世界:132

『発見語り手:タングリス          

 

 

 ヤマタの根城に近いのか、灌木林は鬱蒼としたジャングルのようになってきた。

 

 灌木の背丈はせいぜい三階建ての高さほどだが、ジャングルのようになった今は木や草の丈はほとんど十メートルはあろうかと思われた。

 かなりの草木が自分で発光していて、それも草木の種類によって色が違う。上空では風が吹いて小梢を揺さぶっているようで、地上に近い枝や葉っぱが蠢動し、それにつれて光が怪しげに重なり、あるいは交差したりするので不気味さはこの上ない。その上、猛獣ともクリーチャーともつかない咆哮や鳴き声が混じり合って耳から侵入し、ただでさえ混乱しそうな意識を切れ切れの混濁の中に封じ込められそうになる。

「何か聞こえる!」

 テルの声でみんなが停まる。たいていは聞き間違いか幻聴なのだが、聞こえるたびに全員が立ち止まることにしている。聞こえた者が勝手に動き出しては密林の中でバラバラになる恐れがあるので、全員が納得というか共通の認識ができるまでは動かないのだ。納得するには確認が必要で、ポチが、その役目をはたしている。

「ポチ、確認してくれ」

「ラジャー!」

 目印のために風船をあげる。音や気配の正体を確認したポチは密林の上まで出された風船を目当てに戻ってくるのだ。

 四五分もあれば、正体がわからなくとも戻って来る。分からない時は、その方向を避けて進むのだ。時間はかかるが安全で確実だ。

「十分過ぎたぞ」

 姫が呟く。たしかに、十分もかかるのは初めてだ。

 もう少し待ちましょうと目配せすると姫を挟んだテルと目が合う。テルも同じことを考えているようだ。

 さらに五分すぎてポチが戻ってきた。

「どうしたんだ、ポチ?」

「……見つけた、ユーリアが居たよ!」

「ほんとうか!?」

「うん、切れ切れの気配で迷ったけど、何度も確認したよ」

「どっちだ?」

「見に行く?」

「もちろんだ」

「じゃ、こっち!」

 ポチの後を付いて密林をかき分けること数分、少し開けたところにユーリアは居た。

 ハングライダーが枝に引っかかり、伸びたハーネスが絡み合って、複雑な姿勢でぶら下がっていた。

 姫が身を乗り出そうとすると、ポチが押しとどめる。

「なぜ、止める?」

「これが一人目だから……次行くよ!」

「「「次?」」」

「こっち!」

 

「「「え!?」」」

 

 ポチに引き回されて、我々は五人のユーリアを発見してしまった……。

 

☆ ステータス

 HP:11000 MP:120 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・180 マップ:10 金の針:50 福袋 所持金:350000ギル(リポ払い残高0ギル)

 装備:剣士の装備レベル45(トールソード) 弓兵の装備レベル45(トールボウ)

 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)

 白魔法: ケイト(ケアルラ) 

 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

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オフステージ・144『展望室からの視線を感じて』

2020-11-13 14:45:03 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)144

『展望室からの視線を感じて』松井須磨    

 

 

 二人の間に恋が芽生えているのは確かだ。

 

 どちらかが、もう一歩踏み出せば二人は空堀高校の伝説に成れるだろう。

 二人には程よく粉を振ってある。

 二人は同じ演劇部の先輩と後輩だから、コクった後に上手くいかなかったらどうしようかという気持ちがあるんだろうね。

 たった四人の部活で気まずくなったら居場所がないもん。

 もっともな心配よね。

 千歳には下半身まひというハンデがある。

 千歳はね、仮にこの恋が実っても啓介に心配や迷惑をかけるんじゃないかと思っている。

 啓介は一見迷っている。千歳への気持ちが同情心なのか恋なのか区別がつかない。

 いや、本人たちは意識していないけど、それを理由に可愛く立ち止まっているだけだ。

 千歳の障害なんて問題じゃない。一年余りいっしょに部活をやって啓介は分かっている。分かっているから、ヘリコプターの不時着の時も反射的に体が動いて千歳を救助しているんだ。

 啓介の迷いは、結局のところ『臆病』なんだ。

 断られたらどうしよう……告ることで千歳の心に負担をかけたらどうしよう……とかね。

 ちょっとイラつくけど、こういう二人の気持ちは嬉しいんだよ、わたしは。

 高校三年を六回もやってるとね、分かってくるんだよ。

 教師も生徒も上っ面の付き合いなのがね。

 まあ、世間なんて、基本、上っ面でいいんだけどね。上っ面だけって言うのは寂しいっていうか、色彩の抜けたカラー写真のように味気ない。

 

 本館の展望室から美晴が覗いている。

 

 演劇部には天敵みたいな女だけど、それは生徒会副会長という立場だったから、根っこの所では情に厚いところがあると思っている。いや、情に弱いというべきか。

 美晴自身よく分かってるから、それを戒めているんだ。

 先日は十日ほども休んで山梨の田舎に行っていた。ほんの二三日で済む用事だと踏んだんだけど、美晴は十日もね。ひょっとしたら情にほだされて、このまま帰ってこないんだと寂しく思ったわよ。

 美晴が曾祖母のことで思い悩んでいることは知っていた。

 瀬戸内家といえば、武田信玄のころから続く甲州の名族で、元旦の地方紙には県知事と並んで新年の挨拶が載るほどの存在だ。むろん今でもけっこうな山林地主だ。

 その瀬戸内家の実質的な跡継ぎが、あの瀬戸内美晴だ。

 当主は今でも『御屋形さま』と呼ばれている。殿様って江戸時代の呼び方じゃなくて戦国時代だよ。いや、御屋形様って呼称は平安時代からあるから、もっと古いかもね。美晴は跡継ぎだから『姫』とか『姫様』かな?

 あいつが『姫様』って呼ばれて、どんな顔するんだろう。

 プ(´艸`)

 悪い、ちょっと吹き出してしまう。

 六回目の三年生のうち五年はタコ部屋に居た。退屈だからいろんなことに興味持って調べた中でいちばん面白いことだったりするんだよ。

 わたしも素直じゃないから、正面だって話したことは無いけどね。

 だけど、この一年、いろんなことで関わって、思った以上に面白い女だと思ったわよ。

 

 あ!?

 

 いつの間にか二人の姿が無い。

 くそ、あの女のせいだ。

 展望室からの目線を気にしていたら、いろんなことが頭を巡って、つい見落としてしまったぞ(-_-;)!

 コクっていたとしたら、大河ドラマの最終回を見落としたようなもんだ。半沢直樹の決め台詞を聞き落としたようなもんだ。

 くそ、あの女の事なんか考えるんじゃなかった(-$-;)!

 

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まりあ戦記・039『司令の息抜き・2』

2020-11-13 05:29:27 | ボクの妹

・039
『司令の息抜き・2』   



 酔っぱらい⇒飲み屋のアルバイト女子⇒飲み客⇒コンビニ店員男子⇒コンビニ客の少女

 まりあが後をつけている間も四回入れ替わった。
 いずれもアクト地雷(炸薬は抜いてあるので、ただのアンドロイド)で、司令が捨てた後は、普通に初期設定の人物として行動している。

 いま司令はコンビニ客の少女になっている。

 少女はレジ袋をプラプラさせながら公園を斜めに横断しようとしている。
――今だ!――
 まりあはダッシュすると少女を捕まえて、公園で一番大きな木の上に跳躍した。
「なにするのよ!」
 少女は文句を言ったが、逃げようとはしなかった。どうやら、この高さから落ちれば故障のおそれがあるようだ。
「普通、こういう状況では、悲鳴をあげるわよね」
 少女はシマッタというように表情をゆがめた。
「司令だと言うことは分かってます」
「……どこで気づいた?」
「それは言えません。あたしの脱走ルートが分かっちゃうから」
「まりあも賢くなったな」
「司令の娘だもん」
「わたしはとんだ間抜けだったな」
「お兄ちゃんの父親だもん」
「口も上手くなった」
「司令も脱走ですか?」
「見逃してくれたら、今夜のことは黙っていてやるが」
「聞きたいことがあるんです」
「もう一回乗り換えたら、今夜の目的が達せられるんだがな」
「質問に答えてくれたら、この木から下ろしてあげます」
「やれやれ、半年ぶりの息抜きなのになあ」
 司令は髪をかきあげた。実に様になっていて、仕草だけならヤンチャな中三くらいの少女だ。
 まりあは、この仕草が答えてくれるサインのように思えた。

「どうして効率の悪いレールガンなんか使わせるの?」

「特務師団がアマテラス(日本政府のマザーコンピューター)の支配から独立していることは知っているだろう」
「うん、だから余計に思うの。なんでまどろっこしく携帯兵器を取り換えるのか。デフォルトのパルス弾を使えば時間もかからないし犠牲も出さずにすむでしょ」
「それがアマテラスとの交換条件なんだよ」
「交換条件?」
「旅団の独立性を保証する代わりに、最先端通常兵器であるレールガンを使うという」
「それって、軍需産業との癒着?」
「これ以上は勘弁してくれ、これが現状では最高の体制であることは確かなんだ。さ、もう下ろしてくれないか」
 司令の目は――ここまでだ――という光を放っていた。
「分かった」
 一言言うと、まりあは木の上から司令を突き落とした。
「ノワーーーー!」
 素早く飛び降りたまりあは落下してくる司令を木の下で受け止めた。
「こういう時は『キャーーーー!』って悲鳴を上げるもんよ」
「化けているのはカタチだけだ」
 司令はスタスタと公園の出口を目指した。
「最後にひとつ」
「なんだ?」
「その義体の名前はなんていうの?」
「……時子だよ」

 意外な名前に言葉を失うまりあだった。

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かの世界この世界:131『ポチに救われる』

2020-11-13 05:18:20 | 小説5

かの世界この世界:131

『ポチに救われる語り手:タングリス        

 

 

 油で揚げる前の天ぷらという感じだ。

 

 ストマックから吐き出された三人は胃粘液やら溶けた自分たちの服やら訳の分からない粘着質でベトベトになり、それが灌木やら下草に絡まって、起き上がることもままならなかった。

「なんだ、おまえたちはあああああ!」

 頭上で声がした。なんとか首をもたげると、灌木の梢でポチが吠えている。

 葉っぱの盾と小枝の剣を構えて威嚇している姿は、健気とも可愛いとも言えるが、我々三人に、そんな余裕は無い。まとわりついているネバネバが急速に固まりはじめて、このままでは身動きどころか呼吸さえできなくなってしまいそうなのだ。

「ポチ、わたしだ、タングリスだ。いまクリーチャーの胃の中から吐き出されてきたところだ」

 首を巡らせてテルと姫を確認。二人は口にまとわりついたネバネバのせいで喋ることもできないようだ。

「ウィンドウを開くから、リペアアイテムの中から洗浄液を探してかけてくれないか」

「ほんとにタングリスなの?」

「タングリスだ、疑うんなら、とりあえず顔だけ洗浄して確かめればいいだろう」

「わ、分かった!」

 盾と剣を放り出すと、ホバリングして、なんとか開いたウィンドウを操作し始める。

 一抹の不安はあった。ポチ自身はウィンドウを持っていないし、ウィンドウを操作してファイルを開いたこともない。ただ、我々がやるのを傍で見ているのでやれるとふんだのだ。不安を口にすればポチは自信を失ってオタオタしてしまうだろう。じっさいポチは我々の危機的状況を感じ取ってワタワタと画面をスクロールしている。

「あった! でも、解凍してインストールしなきゃダメみたい」

「ああ、いつもわたしがやっているように……」

 口に周りの粘液が固まりはじめた。

「解凍して……展開して……Updater……管理者権限で実行、エイ!」

 まとわりついていたネバネバが粘土を失ってサラサラになって蒸発していく。思った以上にうまい操作だ。姫とテルもネバネバから解放されていく。

 解放されると、最後に残った下着も心もとないので、ファイルから着替えを選択して身づくろいする。

「でかしたぞ、ポチ!」

「ふぎゅーー(;゚Д゚)」

 感激した姫が抱きしめるので、ポチは危うく抱き殺されそうになる。

「ポチが窒息するぞ!」

 テルが引き離して、やっと三人も落ち着いた。

「しかし、ポチはなんで呑み込まれなかったのだ?」

「呑み込まれたよ、でも、ノドチンコみたいなのに引っかかってさ。そのあと鼻の方によじ登ったら草叢みたいな鼻毛にひっかっかって、そいでジタバタしてたら、クリーチャーのやつがクシャミをして吹き出されたんだ」

「そうか、お蔭で助かったぞ。なにかご褒美を考えてやらなきゃな」

「ご褒美だなんて、そんなあ……(n*´ω`*n)」

「ご褒美は事が片付いてからでしょう、先を急ぎましょう」

「そうだな、さっきのクリーチャーには気を付けなければな」

「あいつに名前はないのか?」

 テルが真っ当なことを聞く。

「ヘルムの固有種で未発見のものだからなあ」

「それなら、ストマックにしましょう」

「即物的だなあ」

「しかし、注意喚起にはいいと思いますよ」

「そうだ、たった今から、あいつはストマックだ!」

「それで……あいつは、どこに行ったんだ?」

「「「……」」」

 

 そのストマックは我々を吐き出した後の行方がしれない……。

 

☆ ステータス

 HP:11000 MP:120 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・180 マップ:10 金の針:50 福袋 所持金:350000ギル(リポ払い残高0ギル)

 装備:剣士の装備レベル45(トールソード) 弓兵の装備レベル45(トールボウ)

 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)

 白魔法: ケイト(ケアルラ) 

 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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まりあ戦記・038『司令の息抜き・1』

2020-11-12 12:33:38 | ボクの妹

戦記・038
『司令の息抜き』   




 司令がベースの外に出ることはめったにない。

 俺の三回忌にやってきたのは、よくできたアンドロイドだ。だれも気づかなかったが、ホトケさんの俺には分かった。
 箱根の秘密基地はベースに居るのと変わらない。どちらも軍務だし、国防省の横やりが入ってからは足を運んでいない。

 常に臨戦態勢のベースだから、当たり前といえば当たり前なんだけど、どうやってリフレッシュしているんだろう?

 !……なんとか声を飲み込んだ。

 まりあは訓練に身が入らない。ウズメに慣れてくると自己流に動きたくなるまりあだが、反比例して縛りがきつくなる。
 パルス攻撃がかけられれば、短時間に、もっと効率よく戦える。
 八発しか撃てないレールガンを何度も装着し直さなければならない戦闘方に嫌気がさしている。
 だから、通り一遍の訓練を消化したあとは、勝手にベースを飛び出している。
 高安みなみ大尉は、力づくでまりあを従わせることはやめ、副官の中原光子少尉に見守らせるだけにしている。
 先日、粘着シートで絡めとってからは、まりあのへそが曲がりっぱなしで、元に戻らないからだ。

――すみません、またまかれてしまいました( ノД`)シクシク…――

 少尉の尾行は四日目で不発になった。
――しかたないわ、今夜は様子を見ましょう――
 少尉の失敗ではない、それだけまりあに知恵と力が付いたということだし、少尉にだけ荷を負わせることもできない。
――司令に報告するか――
 ヘッドセットを外して立ち上がるが、一歩踏み出しただけで止めた。
 バフ!
 乱暴に当直用シートに尻を落とすと、司令のCPに報告だけを打ち込み、120度のリクライニングにして目をつぶった。

 トランポリンがあることは確認しておいた。

 駅のホームに上がるや否や、まりあはベンチを跳躍台にして、八メートル下の袋小路に飛び降りた。
 トランポリンは、地元のクラブが練習場所の確保に困って、この袋小路に置いてあるものだ。
 まりあは、腰を沈めて反動を殺すと南側の塀を超えた。そのまま十メートルも歩けば三叉路でドブ板通りに入れる。
 三叉路の手前に呑み屋の違法な増築部分があって、すぐには見通せない。これが適度な目隠しになっていて、少尉にトランポリンの仕掛けに気づかれても、姿を見られることを防いでくれる。

 !……なんとか声を飲み込んだ。

 増築の陰に二人の人間がいた。
 一人は、この界隈どこにでもいる酔っぱらい、もう一人は呑み屋のアルバイト風の女の子。
 酔っぱらいが女の子にしなだれかかり、女の子は酔っぱらいをさばいてビールケースに座らせた。
 その瞬間に見えてしまったのだ。いや、感じてしまった。
 二人はアクト地雷で、瞬間的に並列化して、酔っぱらいはスイッチが切れたように酔いつぶれた。
 つまり、アクト地雷を動かしている主体が代わったということであり、代わった主体は、一瞬洩れたパルスで分かった。

――あれは、司令だ……!―― 

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かの世界この世界:130『イン ザ ストマック』

2020-11-12 12:17:53 | 小説5

かの世界この世界:130

『イン ザ ストマック語り手:テル      

 

 

 蠕動運動を起こした美容院は数秒で巨大な口になった!

 

 二十畳ほどあった床は舌に変わって、我々はロレロレ転がされて口の向こうの食道の方へ呑み込まれてしまった。

 ダスターシュートのような食道を抜けると遊園地のバルーンハウスのような所に墜ちた。

 フワフワしているところはバルーンハウスだが、ネバネバしている。

「せっかくシャンプーしたところなのにい!」

「姫、ここは巨大なクリーチャーの胃の中と思われます」

「胃の中!?」

「きっと、灌木林の中で開けた口を美容院に偽装して誘い込んだのでしょう、うかつでした」

「シャンプーは、シャンプーリペアーと言って、瞬間でシャンプーとトリートメントをするだけのようだぞ」

 フォルダーを確認すると効能書きのテキストが出てきた。我々の不注意か、そういう魔法が掛かっていたのか、さっきまでは認識できなかったのだ。

「このままでは胃酸に溶かされます……溶解防止のアイテムは……」

「あった、消化防止リングだ」

 裁縫に使う指ぬきのようなものだ、各自フォルダーから出して指に装着する。お茶を口に含んだ時のような爽やかさ、お茶のそれと違うのは、その爽やかさを全身をで感じることだ。しかし……護ってくれるのは生身の体だけのようだ。

「服が溶けだしてきたぞ!」

「ということは、裸にされて化け物の体内を巡って…………出されるわけか?」

「消化の早さから見て……おそらく四時間後ぐらいには出られるでしょう」

 我々が収まったことで刺激されたのだろう、巨大な胃袋が消化活動を活発にしてきた。胃壁が収縮してもみくちゃにされる。そのたびに胃壁に擦られ、他の者とぶつかって服がほぐれて溶けていく。

「こんなみっともないことが四時間も続くのか!」

 あまりの気持ち悪さにブリュンヒルデは自慢のツィンテールをお下げほどの長さに縮こまらせた。

「腸の方へ行ったら、こいつが先に食ったものと一緒になるのではないか?」

 先の事を予想して、我ながら不吉な想像をしてしまった。

「先に食ったモノって……?」

「それは、子どもが大好きな仮名文字三字で表現されるものでしょう」

 タングリスが無表情に言う。

「それって、ウ〇コのことか!?」

「死ぬよりはましでしょう」

「死んだ方がましだあ!」

「胃から十二指腸にいくには、まだ間があるだろう、グチってないで考えよう」

「なるべくなら、服が溶け切る前に考えが浮かぶといいがな」

 三人の衣服はあらかた溶かされて、胃液を含んで半透明になった下着を残すのみとなっている。

「ところで、ポチの姿が見えません」

「あいつ小さいから、もう溶かされてしまったのか?」

「痕跡さえありません」

「不憫なやつだ……」

「いや、痕跡もないということは、胃の中には居ないのではないか?」

「そうか……とすると?」

 その時、胃がギュっと収縮して、三人は満員電車の中に居るようになった。

 ムギュ~~

「タングリス、寄るなあ!」

「仕方ありません、こいつの生理現象でしょう……」

 次の瞬間、巨大なダムが決壊したような衝撃に襲われた!

「「「ウワーーー!!」」」

 闇と光と胃液がグルングルンと交錯し、我々は上下の感覚を失った……。

 

☆ ステータス

 HP:11000 MP:120 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・180 マップ:10 金の針:50 福袋 所持金:350000ギル(リポ払い残高0ギル)

 装備:剣士の装備レベル45(トールソード) 弓兵の装備レベル45(トールボウ)

 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)

 白魔法: ケイト(ケアルラ) 

 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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まりあ戦記・037『まりあの事情』

2020-11-11 05:40:06 | ボクの妹

戦記・037
『まりあの事情』   



 

 チ!

 もう百回は舌打ちした。


 レールガンを装着するたびにタイムロスが出る。
 一回につき0・2秒から0・8秒のタイムロスだが、十回装着すれば2~8秒のロスになる。
 これでは確実にヨミの攻撃に追い越されてまう。
 むろんウズメは改造されていて、ヨミのパルス弾を1000発受けても致命傷を受けることはない。
 一発の命中弾を受けると、ウズメは一秒ちょっとで衝撃を大気に逃がすので装甲を削られることがなく、いつも完璧な状態でヨミに対することができる。これをリペア機能という。
「でも、百回に一回は複数の命中弾を受けて、ダメージが蓄積されるのよ。で、百回に一回が十三回続くとウズメのリペア機能が低下し、反撃することができなくなってフルボッコされてしまう」

――だからこそのリバースでしょ――

「「リバース!」」

 大尉の声と重なったのが癪だけど、まりあは、シートごとウズメの後頭部から射出され、これで七回目のリバースを行った。
 アクトスーツはヨミが予測不可能な軌道を描いて飛翔して、その間は確実にヨミの攻撃を引き付ける。その間にウズメはフルリペアを済ませて、まりあの帰還を待つ。
 このセパレートアタックを続けていれば、時間はかかるがヨミを倒せる。

「だけど、見てよ、このありさまを!」

 ヨミに勝利した後、カルデラの内も外も25%の被害である。
「これを四回繰り返されたら、ベースも首都も壊滅するわよ!」
――だからこその訓練でしょ、タイムロスが無くなれば被害も小さくなる。さ、もう一度最初から――

「もう、おしまい!」

 プツンとノイズがして、大尉はまりあと会話できなくなった。

 ブチギレたまりあは、ウズメのジェネレーターを切って、シュミレーターを飛び出した。
「まりあがエスケープしたわ、みっちゃん追いかけて!

 大尉に命ぜられて、みっちゃんこと中原少尉はCICを飛び出し、まりあの軌跡をトレースした。
 五分後、みっちゃんは第三ブースに入ったところで動けなくなっていた。

――セキュリテイーガ……ス……――

 その一言を連絡したところで気絶してしまった。
「知恵がついたわね、ダミーをかましてセキュリテイーを乗っ取ったのね」
「大尉、ベースからマリアの痕跡が消えました」
「行先は分かってる、ちょっと行ってくるわね」

 大尉は、指令室のあるフロアーに上って行った。

 フロアーに上がって、二つ目の角を曲がると、不機嫌マックスの唸り声が聞こえた。
「卑怯よ、こんな超アナログで足止めするなんて!」
「アナログもデジタルも何でもありなのが、高安みなみさまなのよ」
 マリアは畳一畳分はあろうかと思われる巨大粘着マットにギトギトに絡めとられていた。
「ヌーーー! パルス弾の直撃にも耐えられるスーツがああああああ!」
「司令への直訴を諦めて訓練を再開するなら開放したげるわ」
「だあから~、あの訓練は~、え、みなみさん、粘着マット平気なの?」
 大尉は涼しい顔で、ゴキブリのように絡めとられたまりあの横に立った。
「それ、アクトスーツの組成にしか反応しないの」
「き、きったねーー!」
「だって、他の人間がかかったらまずいでしょ」
「かくなる上はーーっ!」
 まりあは左肩にある緊急脱衣ボタンを押した。まるでバナナの皮がオートで剥けるような感じでスーツに切れ目が走り、脱皮するようにまりあは抜けて行った。
 成功!……と思ったら、抜け出たすぐそこで、再び絡めとられてしまった。
「グ、ググ、なんで? スーツ脱いだのにさあ!」
「緊急脱衣したら、十分間は保護機能が働いて、まりあの皮膚をスーツと同じ組成にして保護するのよ。最初に説明したでしょ」
「く、くそ、こんな状態で十分間も~」

 スーツを脱いだまりあはカエルのように這いつくばった格好で十分間の我慢である。

「ね、スーツを脱いだあたしって、素っ裸のスッポンポンなんですけど!」
「ま、十分間だけの辛抱だから」
「だ、だってーー!」

 廊下の向こうから休憩時間になって持ち場を離れた隊員たちの気配が迫ってくるのであった。
 

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ポナの新子・91『池の向こうで』

2020-11-11 05:22:25 | 小説6

・91
『池の向こうで』
             
  

「へえ……竹下通りにこんなとこがあったんだ」

「うん、通りからほんの何十メートルだけどね。穴場だよ」
「ポナがこんなとこ知ってるなんて意外だな……ほ……見直した」
「フフ、言いなおしたわね。ほ……なにかな?」
 東郷神社は、もう十月初旬の涼しさ。でも、ポナに見つめられて大輔は汗が流れてくる。
「ここね、先月お父さんとお母さんのお誕生会をやったの。それまではあたしも知らなかったんだ……電話もらったときに、会うならここだと思った。正解だったわね」
「そ、そうだな……」
「池の向こうにベンチがあるの、座ろっか」
「あ、うん」
 中州を貫いて、池の向こう側にかかるカギ型橋の中ほどにさしかかると、どちらともなく立ち止まった。
「うわあ、コイがいっぱい!」
 エサをもらおうと赤や錦のコイが目の下に群れ集まっている。
「すごいな、コイのエネルギーって……」
「ちょっと待っててね」
「うん……」
 ポニーテールをぶん回し、ポナは小走りに橋のたもとへ。残ったシャンプーの香りに大輔はうろたえた。
「はい、コイのエサ。二人でやろう」
「そうだな」

 エサを撒くと、コイの数はさらに増えてきた。

「アハハ、すごい、すごい!」
「すごいって言葉はコイが語源なのかもな」
「プ、駄洒落だ……はい、コイさんたち、おっしま~い! 行こう」
 二人がベンチに腰掛けてもコイたちは群れている。
「ほんと、コイってすごいね……大輔くんも」
「ん……?」
「今日は一度もあたしの目を見てないよ」
「そ、そうか……?」
「そうだよ、なんだか苦しんでる……あたしが悪いんだよね」
「そんなことないよ」
「ううん、前はもっと……男のくせにって思うほどお喋りだったし、まっすぐあたしを見ていたよ」
「……あのさ、オレ夢を見たんだ」
「どんな?」
「それがさ、バッカな夢。結婚式の直前で、ポナはきれいなウェディングドレス着ててさ、オレはちっぽけなミツバチ。で、ポナがオレの名前を呼ぶんだ、するとオレは人間の姿にもどるんだけど、その……」
「その……?」
「そういう夢、バカだろミツバチなんて。ゆうべ『ウェディング』って映画観てたらミツバチが迷い込んで大騒ぎしたからだろうな」
「それ、肝心なとこ抜いてるでしょ、きちんと言いなさい。ちゃんとあたしを見て」
 ポナは両手を添えて大輔の顔の向きを変えた。
「その……」
「その……やらしい夢なの?」
「やらしくないよ。ただ、結婚式の前にキスの練習しようって……ポナが言うんだぞ」
「あたしが?」
「うん、大輔くんは下手だから、式の前に練習しとこうって。あ、映画にそんなシーンあったから」
「で……?」
「ここが笑っちゃうんだけど、二人の顔が近くなるとミツバチに戻ってしまって、離れると元に戻って、その繰り返し。そのうち鐘が鳴ってさ、ポナが時間だよって。そこで目が覚めたら授業が始まってて、つまり、ポナとの関係はそこまでって、神さまの戒めだな。まあ、そういうことだから、笑って安心してくれよ」
「アハハハ」ポナが笑う。
「アハハハ」大輔が笑う。
「あ、あそこ!」
「ん……ウッ!」

 大輔が指差した方を向いている間にポナは大輔の頬にキスをした。

「ごめん……こんなキスで。あたしって、一度にいくつも追いかけられない子だから……」
「分かってるよ、ポナにはSEN48があるからな」
「それだけじゃ……ううん、そうだね、SEN48だけでも……だよね」
「ポナ……」
「ね、さっき言いかけた(ほ)ってなに?」
「あ……ほ、誉めなくっちゃ、だな」
「ん……惚れなおし……かと思った」
「う、うん……」
「いつか、もっときちんと大輔くんに向き合えたらね……それまでは……」
「ポナ……」
「ごめんね、いまは……」

 ポチャンと池で音がして、大きなコイがはねた。ピリオドにもスタートの徴にも思えるコイだった。


※ ポナと周辺の人々

父      寺沢達孝(60歳)   定年間近の高校教師
母      寺沢豊子(50歳)   父の元教え子。五人の子どもを育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員、その後乃木坂の講師、現在行方不明
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長
浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊
吉岡先生  美術の常勤講師、演劇部をしたくて仕方がない。
佐伯美智  父の演劇部の部長
蟹江大輔  ポナを好きな修学院高校の生徒
谷口真奈美 ポナの実の母
平沢夏   未知数の中学二年生

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かの世界この世界:129『灌木林の中に美容院!』

2020-11-11 05:11:56 | 小説5

かの世界この世界:129

『灌木林の中に美容院!語り手:テル        

 

 

 努力の甲斐あって開けたところに出てきた。

「もう、髪がビチョビチョのネチャネチャーーー!」

 

 ブリュンヒルデの髪は獰猛な植物たちの樹液に染まって薄っすらと緑色に染まり、その水分で重くなって、ぶん回すことを止めると大雨に降られたライオンのタテガミのようになった。

「よく頑張られました、すこし休憩しましょう。姫、シャンプーさせていただきます」

「こんなところでシャンプーできるの?」

「回復アイテムの中にシャンプーがあります……」

 タングリスがホルダーにタッチすると、美容院のシャンプー台が出てきた。

「立派なのが出てきた!」

 それだけではなかった、シャンプー台の周囲がムクムクと変化して本格的な美容院になった。

「おお、すごい!」

「ここまでとは!」

「ドライシャンプーくらいのものかと思っていた」

「ああ、これはいい! 一瞬の魔法でやるよりもリラックスできるし!」

「美容師までは付いていないようだな」

「セルフサービスだよ、この方が面白いかも!」

「テル、わたしたちもやろう、気分転換になる」

「あたしもやりたい!」

 ポチも手をあげて交代でシャンプーすることにした。

「わたしは最後でいいぞ」

 ブリュンヒルデが似合わぬ遠慮をする。

「そうですか、それではポチからやってやろう」

 女と言うのは髪をいじるのが大好きだ。人をシャンプーしてやることも十分癒しになる。

 ブリュンヒルデが遠慮したのが意外だったが、最後にやってみて分かった。

「なんで、こんない長いんだあ!」

 リラックスしたブリュンヒルデの髪は五メートルほどの長さになった。まるでラプンツェルだ。

「ふだんは短くしているのだ、フン!」

 気合いを入れると普段の長さに縮む。

「おもしろーい!」

 ポチが面白がって髪を体に巻き付ける。フンッ! ホー フンッ! ホー オッサンがメタボの腹をペコペコさせるように気合いに加減をくわえると、ブリュンヒルデの髪はピュルピュルと伸び縮みを繰り返す。夏祭りや縁日で売っている『ふきもどし』にそっくりだ……ん? なんで見たこともない『ふきもどし』を知っているんだ?

 ときどきおこるデジャブに思考をとられていると、周囲の様子が変わってきた!

 美容院の床や壁がグニャグニャに波打ったかと思うと、美容院は袋状になって急速に縮みながら蠕動運動を始めた。

「しまった、罠だぞ!」

 タングリスが叫んだ時には蠕動運動が起こって、ポッカリ穴の開いた床に飲み込まれていった……。

 

 

☆ ステータス

 HP:11000 MP:120 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・180 マップ:10 金の針:50 福袋 所持金:350000ギル(リポ払い残高0ギル)

 装備:剣士の装備レベル45(トールソード) 弓兵の装備レベル45(トールボウ)

 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)

 白魔法: ケイト(ケアルラ) 

 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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まりあ戦記・036『司令の事情』

2020-11-10 06:26:01 | ボクの妹

戦記・036
『司令の事情』   




 首都大が……

 そう言いかけて、みなみ大尉は吹き出してしまった。

「まずいところを見られてしまったな」

 司令の声は異様に小さい。
 小さいはずである、デスクに収まった司令は呼吸をしているだけの抜け殻で、喋っているのはカップ焼きそばのカップの中でお湯に浸かっている体の一部だからだ。

「どう見ても十八禁ですね」
「それを見て笑うのは君ぐらいだがね」
「以前は、この姿は絶対、人には見せませんでしたよね」
「くだらん作戦会議のあとは風呂に入るのに限るからね」
 司令はカップ焼きそばの風呂の中で大の字になってプカプカ浮いた。
「お背中流しましょうか?」
「すまん、頼むよ」
 大尉はデスクの上の綿棒を持って、司令の背中を流してやった。
「司令こそ有機義体に乗り換えてみては?」
「この姿だからこそ非情になれる。非情でなければ司令なんぞは務まらんからな……もう少し強くこすってくれんか、体中凝りまくってるんでな」
「なけなしの理性が飛んでしまいますよ」
「……これだけが無事に残ったと言うのも不便なものだ、個人的には、ヨミの最初の出現で死んでいたらと思うよ」
「で、お話なんですが」
「あ、そうそう、大尉が司令室まで来るんだ、さぞかし重要なことなんだな?」

 風呂からあがり、特製のバスローブを羽織りながら話を続ける。

「首都大の薬学部、ちょっと問題なんじゃないかと思うんです」
「市民や学生の反応は度を越していた……と言うんだね」
「大学構内に被害が出たとはいえ、まりあの助けが無ければ命が無かったかもしれません」
「まりあのスーツに飛行機能を付けておいて正解だった」
「あの大学、なにかあるんですね?」
「ああ、ちょっとね……ん?」
「どうかしたんですか?」
「義体に戻ろうと思うんだけど、義体が動かない」

 義体への出入りは義体にプログラムされたメモリーで行われるのだが、義体は電池の切れたロボットのようにカタカタいうだけだ。

「わたしがやりましょうか?」
「あ、いや……」
「恥ずかしがる歳でもないでしょ、手袋しますし」

 そう言うと、大尉は司令を掴んで義体本体に戻してやった。

「やっぱり、この方が話をするにはいいな」

 義体が人らしい表情を取り戻し、いつもの司令らしく冷たい表情で大尉に目を向けた。

「あの……チャック閉めたほうが」
「あ、すまん」

 マジメな顔でチャックを閉める司令は、見ていてギャグそのものなんだけど、大尉は笑わなかった。

「大学でやっているのは何なんですか?」
「鎮静ガスだよ」
「鎮静ガス?」
「ヨミとの戦いは先が見えない。都民の間には不安やら不満が高まっていて、いつどんな形で暴発するか分からない」
「お気づきだったんですね」
「ああ、カルデラで隔てられていて、一見首都は平穏に見えるがね、潜在的には不穏だ。昨年のハローウィンが異様に盛り上がったのは覚えているだろう?」
「ええ、まりあも友だちと仮装して、ずいぶんハジケていましたし」
「ああいうところに現れるんだ、潜在化した閉塞感は、時に、とんでもなく陽気で明るい姿になる。大学の研究者たちは、人々の神経が昂り過ぎないように、鎮静効果のあるガスを流してパニックが起こるのを未然に防ごうと研究をしていたようだ」
「それが上手くいかなかったんですね?」
「マリアがまりあの身代わりになって火だるまにされた時に申し入れはしたんだがね、失敗を認めたくないのか、軍の介入と思われたのか、よけい頑なになってしまってね」
「なにか手を打った方がよくはありませんか」
「アマテラスは静観しろと言っている」
「AIの指示に従うんですか?」

 大尉の目が一瞬険しくなった。

「そんな顔をするな、美人が台無しだぞ」
「この顔は司令がプログラムされたんです」
「やっぱり有機義体にしたほうがいいと思うよ」
「お気に召しませんか」
「気に障ったのならすまん、もう少し考えて答えを出すよ」

 司令は椅子の背もたれに背中を預けると椅子ごとモニターの方を向いた。モニターには修理完了間近のウズメが映し出されていた。

 

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ポナの季節・90『ちょっと大輔くん!』

2020-11-10 06:14:22 | 小説6

・90
『ちょっと大輔くん!』
     


 白い花が一面に咲いている。

 花畑……と思ったが、地面まで白い。よく見ると地面は土ではなくシルクのようにきめ細やかにさざ波だっていて地平線のかなたまで続いている。
――いい香り……この先に何があるんだろう……――
 ミツバチは地面すれすれをドローンのように飛んでいる。

 さざ波は、いつか無限に続くレースのヒダになり、白い花たちともにそびえていって壁のようになった。
 ミツバチは壁に沿って上昇していく。上昇するにしたがって、いい香りはますます強くなっていく。
――この香り……どこかで……――
 記憶をまさぐろうとしたら、白い壁は反り返ってミツバチに迫ってきた。
――ぶつかる……!――
 海老ぞりになって反り返りをかわす。それから横ざまになって壁にぶつからないように飛ぶ。壁は丘を横倒しにしたような丸みになっている。丸みの頂点まで来ると、その向こうにもう一つ丘があり、二つの丘はゆっくりと隆起と沈降を繰り返していることに気づく。
 ミツバチは二つの丘の間の谷間を上昇、香りはますます強くなってくる。
――お、これは……――
 一叢の花々を超えると唐突にペールオレンジの艶やかな壁に変わった。壁はしっとりとした潤いと熱気に溢れていて、ミツバチは上昇を止めホバリングした。
――花畑は、このペールオレンジを隠していたんだ――
 見下ろすと、白い丘は二つのペールオレンジの丘を包んでいるにすぎないことが分かる。眼下に丘の谷間、いい香りはそこから匂い立っている。
――あそこに行きたい……!――
 ミツバチがダイブの姿勢をとったところで声がかかった。

「ちょっと、大輔くん!」

「あ、ポナ…………」
「見とれてくれるのはいいけど、もうじき式だからね」
 ウェディングドレスのポナが頬を染めて言った。
「え……式って?」
「しっかりしてよ、今日は……あたしたちの結婚式じゃないの」
「そうなんだ……ポナ、とってもきれいだ」
「えへへ(〃´∪`〃)ゞ大輔くんだって、タキシード……とっても似合ってるよ」
「え、俺タキシード?」
「そうよ……あ、ネクタイ曲がってる」
 ポナが頬を染めたまま大輔に近寄った。目の下にポナの胸が迫って、さっきの香りが立ち上ってくる。
「……あの、ネクタイ直った?」
「……ねえ、キスの練習しとこ」
「え……」
「だって、大輔くん下手なんだもん。本番で失敗したくないでしょ」
「うん……」
「じゃ……」
 ポナは爪先立ちして目を閉じた。
「うん……」
「ポナ……」
 大輔は両手をポナの頬に添え、間近に唇を近づける……とたんに大輔はミツバチにもどってしまう。
「どうしたの?」
 言われて大輔は人間にもどる。
「なんでもない……じゃ」
「うん……」
「ポナ……」

 もう一度大輔は唇を近づける……再び大輔はミツバチに。繰り返しているうちにアラームが鳴りだした。

「時間がないわ」
「うん……」
「始まっちゃう」
「結婚式」
「ううん、授業」
「授業……?」
「うん、もう先生来てる」
「え?」
「蟹江、起きたら、この問題やれ」
 目が覚めると数学の先生に当てられた。

 大輔は、遠慮していたポナへの電話を半月ぶりにした。


☆ 主な登場人物

父      寺沢達孝(60歳)   定年間近の高校教師
母      寺沢豊子(50歳)   父の元教え子。五人の子どもを育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員、その後乃木坂の講師、現在行方不明
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長
浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊
吉岡先生  美術の常勤講師、演劇部をしたくて仕方がない。
佐伯美智  父の演劇部の部長
蟹江大輔  ポナを好きな修学院高校の生徒
谷口真奈美 ポナの実の母
平沢夏   未知数の中学二年生

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かの世界この世界:128『灌木林を進む!』

2020-11-10 06:06:22 | 小説5

かの世界この世界:128

『灌木林を進む!語り手:テル       

 

 

 灌木林の獣道を進む。

 

 灌木とは言っても人の背丈の何倍もあって、その灌木たちはノンノンと葉を茂らせているので薄暗い。

 おまけに低木の枝とか蔓とかも手で避けられる量ではないのでアイテムフォルダーから出した鉈を振り回して道を広げなければならない。

 えい!……えい!……せい!……それ!……

 いちいち掛け声をかけて鉈を振りかぶるが、タングリスはほとんど無言で道を切り開いていく。

「力を入れていては直ぐにバテるぞ」

「ああ、分かるんだけど、声をあげないと力が入らない……せい!」

「そうか、なら、わたしがペースを合わせよう。ひとまず汗を拭け」

「あ、そうだな」

 言われて気が付いた、顎の先から汗がしたたり落ちている。ざっくり拭いてから首にタオルを巻く。ほんとうなら腕まくりをしたいところだが、蔦や小枝で手を傷つけるので我慢する。

「人間は図体が大きくてたいへんだね(^^♪」

 ポチのやつが喜んでいる。

 ポチは1/6フィギュア程度の大きさしかない。枝や葉っぱの隙間をスイスイと飛んでいける。

「ポチの基準で道というのは、こういうのも入るんだ」

「獣道だから仕方ないよ」

 言うことはもっともだ。獣道でないところは下草がハンパでは無くて鉈を振り回しても進めるものではない。

 

 ブイーーーーーン!!

 

 突如、斜め後ろで派手な音がした。

「これだとラクチンであろう🎵」

 ブリュンヒルデがチェ-ンソーを使いだした。

「姫、それはいけません」

「どうしてさ」

「音が大きすぎます、ヤマタに気取られてしまいます」

「気取られて、姿を現してくれたら勝負が早くなるのではないか?」

「こちらから仕掛けるのと、相手から奇襲をかけられるのでは勝率が全然違います」

「そんなものなのか?」

「はい、地味ですがコツコツとお願いします」

「ブリュンヒルデのツィンテールをぶん回せばいいじゃないか。いつだったかのプレパラート戦のときなんか大活躍だった」

「か、髪が汚れるだろ! 葉っぱとか湿ってるし、訳の分からない虫とかもいるし、そんなの付いたらあとの手入れが大変だ」

「口ではなく手を動かして!」

 タングリスのこめかみに青筋が浮く。ポチの力では鉈は振り回せないので、これはブリュンヒルデ一人に言ったのと同じである。

「ンモーーー」

 クリーチャーとの戦いでは大人びた口で冷静に戦闘指揮もできるブリュンヒルデだが、お姫様然とした我儘が出てくる。自分より年下のロキやケイトが居ないこととタングリスというおもり役がいるからこそのことなんだろう。

「ほら、しっかりやれー! フレーフレー! ブリュンヒルデーー🎵」

「ポチも手を動かせ! タングリスも言っただろーがあ!」

「動かしてるもん、ブリュンヒルデ応援するのに手を振ってるよ🎵」

「叩き落すぞお!」

「おっかなーーーい🎵」

「姫!」

「うい」

「ポチも、しっかり進路を警戒しろ」

「らじゃー……まだ百メートルも進んでないよ、まだ五キロはあるよ」

「いつまでかかるか分からんなあ」

 みんなの手が止まってしまった。

「ブロンズフラッシュを使ってみる」

 わたしはスキルを使うことにした。スキルはHPとMPを馬鹿みたいに必要とするが、回復系アイテムもふんだんにある。

「試してもらおうか……」

 わたしは「ブロンズフラーーッシュ!」と詠唱しながら勇者の剣を振った。

 ブリュン!

 ザザっと頼もしい音がして、枝やら木の葉やらが盛大に舞い散った。

 半径三メートルほどの灌木がきれいに薙ぎ払われた。しかし、たったの三メートルでしかない。もう少しいけると思ったのだが。

「ダメだ、我々の進路を暴露するだけだ」

 そうだろう、百回使って六百メートルほどは進めるが、同時に幅三メートルの空白を灌木林に着けてしまうことになって我々の存在を暴露してしまう。

「わかった、わたしがやろう……」

 ブリュンヒルデが俄然大人びた口調になって、ツィンテールのリボンを解いた。

「いくぞ……スプラッシュテール!」

 ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク!

 解かれたテールが数百の枝切ばさみになり人一人が通れるほどのトンネルを灌木林の中に穿って行ったのだった。

 

 

☆ ステータス

 HP:11000 MP:120 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・180 マップ:10 金の針:50 福袋 所持金:350000ギル(リポ払い残高0ギル)

 装備:剣士の装備レベル45(トールソード) 弓兵の装備レベル45(トールボウ)

 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)

 白魔法: ケイト(ケアルラ) 

 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

 

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