大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

かの世界この世界:143『ユグドラシルを目指して・1』

2020-11-25 05:45:29 | 小説5
かの世界この世界:142
 
『ユグドラシルを目指して・1』タングリス          
 
 
 
 
 ロキの元気がない。
 
 船尾の手すりに寄り掛かってウェーキ(船の航跡)ばかり見ている。
 ウェーキと言っても時間が停まっているので、ほんの五十メートルほどしかないのだが、見ていればウェーキが伸びて、自分の記憶も戻るのではないかと祈っているようにも感じられる。
 
 トール元帥がパラノキアとクリーチャーを引き受けてくれたので、やっとユグドラシルを目指して進めるようになった。
 
 しかし、いざ目指すことになると、ユグドラシルについての知識が致命的に乏しいことに気づいた。四号の乗員の誰もユグドラシルには行ったことが無いのだ。
 島の中央には世界樹ユグドラシルが生えていて、その麓の泉には時を司る三姉妹の女神が住んでいる。
 
 過去を司る長女のウルズ  現在を司る次女のヴェルサンディ  未来を司るスクルド
 
 ヘルムの守護神ヤマタが力を失って、それを補うためにヴェルサンディだけは姿を現したが、ウルズ、スクルドは消息不明だ。
 
 だからロキに聞いてみた。
 
 ロキはウルズの子どもなのだ。この旅の目的の一つがロキを母親の元に帰すことだった。先の大戦で戦災孤児になったロキはシュタインドルフの孤児院に従弟妹のフレイ・フレイア共々預けられていた。狭い四号に三人は乗せられないので、とりあえずロキ一人を預かったのだ。
 
 しかし、ロキが母親とはぐれたのは、ほんの幼児のころだ。
 
「うん、ユグドラシルというのはね、大きな泉があって、お母さんや叔母さんが水を汲んではユグドラシルの樹にやるんだ。空気は澄んでて、小鳥たちは夜明けとともに囀りだして、俺たちに『早く遊びに出ておいで』って呼びかけるんだ。お母さんは長女だから、一番ユグドラシルの幹に近いところに住んでいて、ユグドラシルに水をあげたあとは、おれの事を抱っこして、ゆっくりユグドラシルの見回りをするんだ。所々に休憩するところがあって、遅れてやって来る叔母さんたちを待ち合わせ、その日一日の予定を話し合ったりしてね、ブルーベリ-とかストロベリーとかが実っていたりしたらジュースにして飲ませてくれたり……」
 
 楽し気に話してはくれるのだが、では、そこに行くにはどこを通ればいいのか?
 
 
「えと……えと、それはね……」 
 
 肝心なことを聞くと、ロキは答えられない。
 
 ヴァィゼンハオスで、フレイとフレイアと喋っているうちに故郷ユグドラシルの話が出来あがってしまったのではないだろうか。
 
 毎日話しているうちに、ほんとうにそうであったかのように思い込んでしまい。行き方や詳しい様子を聞いてみると詰まってしまって、なにも答えられなくなる。
 
 そして、自分は何も知らないことに気づいて、落ち込んで過ぎ去るウェーキばかり見ているというわけなんだ。
 
「でも、世界樹っていうくらい大きいんだったら、遠くからでも見えるんじゃない?」
 ケイトが気楽に言う。
 ちょっと唖然だ。
「ユグドラシルというのはよほど近くに寄らなければ目には見えないものなのだぞ」
「そうなの?」
「それに、ユグドラシルの島は世界樹ユグドラシルの根に絡まったもので出来ていて海に浮かんでいるだけのものだから、ヘルムの島のように一定のところには居ないのよ」
 ユーリアが補足してくれる。
 
 思い出した、ケイトとテルは異世界の住人なのだ。この数か月の旅で完全に仲間になってしまったのだが、この世界では微妙に常識が違うはずだ。
 
 はてさて、取りあえずはチームワークの醸成であろうか。
 
 気づくと、ポチが寄り添って元気づけてくれていた。
 日が暮れることのない航海だが、夕飯までには元気になってくれるだろう。
 
 

☆ ステータス

 HP:20000 MP:300 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・300 マップ:12 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)

 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)

 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)

 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 

 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 
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オフステージ・145『ミリーの頼まれごと・1』

2020-11-24 15:08:24 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)145

『ミリーの頼まれごと・1』ミリー    

 

 

 わたしの日本語は基本的に大阪弁。

 

 シカゴの実家の隣がタナカさんという日系のお婆ちゃんで、大阪出身。

 もう100歳目前という年齢なので、喋る日本語はコテコテの大阪弁。

 物心ついた時からタナカのお婆ちゃんとは大の仲良し。だから自然に身に着いた日本語は大阪弁で、それも70年ほど昔のね。

 お尻のことを「オイド」と言って、ホームステイ先の千代子に通じなかったし。夕べの事を「ゆんべ」と発音して「お婆ちゃんみたい(* ´艸`)」と笑われたり。阪神巨人戦を観に行って「うわあ、さすが阪神ファンはしこっとるなあ!」と感激して千代のパパさんにまで「年寄りみたい」笑われてしまう。

 それからは、どうも「うちの大阪弁は古いらしい」と自覚して、テレビやYouTubeなんかで勉強して、高校二年の現在では現代大阪弁を喋れるだけでなくて、標準語もマスターした。

 その甲斐あってか、今年で五年目になる大阪では、ご近所でも学校でも、みなさんと仲良くやれている。

 心がけているのは――つかず離れず――人には親切にするし、親切にされたら、キチンと感謝の気持ちを伝える。だけど、感謝以上には人の心には踏み込まない。

 まあ、アメリカ人だし、日本に居る限りは『外人さん』で『お客さん』だしね。

 アメリカからやってきた交換留学生のミッキーには油断した。どういう油断かは、まあ、バックナンバー読んでちょうだいな。

 

 なんで、こんな前振りしてるかって言うと、頼まれごとをしたからなのよ。

 頼みごとの主は一年のSさん。

 演劇部に入りたいということだった。

 普通ならね「わ、嬉しい! 今日からでも部室に来てよ!」てことになるんだろうけど、わたしは一歩引いてしまった。

 だってさ、うちの演劇部って演劇しない演劇部なんだよ(;^_^A。

 今までの物語を読んでくれた人には分かると思うんだけど、うちの演劇部って演劇しないことで有名な演劇部なんだよ!

 文化祭で『夕鶴』やったけど、あれは例外的事情からだし(どんな事情かは、これもバックナンバー読んで)、みんな仲良しだけど、放課後マッタリ過ごしたいってだけの、生徒会には絶対内緒のグータラ志向からなんだからね。

 だから、入部希望って聞いて「嬉しい!」じゃなくて「え、どうして!?」になるわけなのよ。

 二人とも、かなりドラマチックの予感だから、次回から改めて経緯(いきさつ)を語ることにするわ。

 次回は。Sさんが、どうやってわたしに接近してきたか、その真の狙いはなにかを語るわ!

 乞うご期待! 刮目して次回を待て!

 

 ヘヘ、むつかしい日本語知ってるでしょ(^▽^)/

 

 

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やくも・08『猫尽くし』

2020-11-24 06:10:55 | ライトノベルセレクト

・08『猫尽くし』   

 

 

 図書室当番が終わった。

 

 本来の図書室当番だったら一週間つづく。それが四日で終わったということは、もともと当番だった女子が学校に戻ってきたということなんだろうけど、その説明は無い。「小泉さん、今日からはいいから」。終礼で担任から言われておしまい。

 ま、いいんだけど。

 四日もピンチヒッターやったんだから説明くらいあってもいいんだけどね。

 この四日間で本の貸し出しと返却が二件ずつあっただけ。四時半を回ると、ほとんど杉野君と二人っきりだった。

 ま、いいんだけど。

 杉野君とは、マップメジャーのことと近道の事で、ちょこっと話しただけ。

 なんか、お互いに気を使ってるみたいな四日間だった。

 わたしも杉野君も人間関係苦手みたいだけど、まあ、よくやったんじゃないかな。

 ま、いいんだけど。

 

 もうちょっとで崖に突き当たるとこまで来た。

 ささやかなことを悩む。右に曲がるか左に行くか……。

 右に曲がれば160メートルの遠回り。

 左に行けば、路地っぽいのを抜けてつづら折りの道。つづら折り通ったら、また時間が巻き戻ってしまうかも。

 終礼終わって真っ直ぐ帰ってるから、あの調子で巻き戻ったら、まだ授業をやってる時間に家に着いてしまう。「おや、早いわね」では済まなくなるだろう。

 でも……ウジウジしてるうちに左に曲がってしまった。

 路地っぽいを抜けてつづら折りが見えてくる。

 

 トトト……音もなく猫が駆け下りてきた。白いネコだったから印象的。

 音もなくと言って、トトトって表現はおかしいんだけど、なんか擬音めいた表現しないと頼りない。

 トトト……今度は黒猫が駆け下りてきた……と思ったら、茶猫が駆け下りてきた。

 次に三毛猫が下りてきたら笑っちゃう……思ったら、ほんとに三毛猫が下りてきたよ!

 アハハ!

 久しぶりに笑った。

 つづら折りを半分上がって振り返ると四匹の猫も振り返っていて「「「「ニャー」」」」と鳴いた。なんだか挨拶みたいだ。

 残り半分を上りかけると虎猫が下りてきた。こいつは挨拶もせずに、わたしの足元を駆け下りて行った。

 ということは……四毛猫とかが下りてきたりして?

 トトト……ほんとうに四毛猫が下りてきた、白黒茶に虎模様。

 めちゃくちゃ面白い!

 

 家に着いたら、別に時間は巻き戻っては居なかった。

 

 でも、お風呂掃除しながら思った。でもさ……四毛猫って存在してたっけ?

 ひょっとして世紀の大発見?

 人には言わないでこう、コミュ障少女の痛い妄想と思われるから。

 コミュ障少女って言いにくい(^_^;)、つづめてコミュ少女……コミュ障女……?

 ああ、だめだ、こんなこと考えたら、本当にそう呼ばれてしまう。

 湯船の中に手を潜らせて、ひそかにエンガチョをしてみる。

 一人でエンガチョができるかって?

 できるんだよ、内緒だけどね。

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かの世界この世界:142『トール元帥のミョルニルハンマー』

2020-11-24 05:53:58 | 小説5

かの世界この世界:142

『トール元帥のミョルニルハンマー』ブリュンヒルデ    

 

 

 身の丈三十メートルのトール元帥はムヘン駐留の一個連隊の親衛戦車部隊を引き連れている。

 

 親衛戦車部隊は空を飛べる。

 日ごろ、ムヘンの警備任務にあたっているのは国防軍で、国防軍の戦車は飛ぶことができない。

 我々が苦労して積み込んだことで分かる通り、我々の四号は国防軍仕様の四号だ。テルやケイトは羨ましそうな顔をしているが、空飛ぶ戦車は燃費が悪い。飛行していると満タンでもニ十分が限度。それが一個連隊の大編隊で飛べるのはトール元帥が飛行しながら補っているからだ。

 トール元帥の図体が大きいのも、その全身にエネルギーを貯めているからなのだ。

 かつて、父オーディンから辺境の討伐を命ぜられた時、元帥は父に言った。

「一年や一年半なら、存分に暴れまわって見せましょう。しかし、二年三年となっては、まったく目途が立ちません。それでもやれとおっしゃるなら、オーディンの歴史には書けない非常の手段を用いなければなりませんが。よろしいか?」

 父は、黙って頷いた。

 父はずるい。

 困ったときは、相手に喋らせ、自分は頷くだけだ。

 わたしの時も、そうであった。

 わたしは、そんな父が許せなくてヴァルハラを飛び出してしまった。父は、わたしの討伐を命じたが、トール元帥はムヘンの流刑地に押し込めるだけで済ませてしまった。それも、いずれは、わたしが抜け出し、独自に行動に出ることを見越していた……でなければ、こんな風に仲間を募ってヴァルハラを目指すことなどできなかったであろうからな……。

 トール元帥のエネルギーが尽きる時……耐えがたいことが起こる。

 クリーチャーの上空を旋回しながら攻撃のタイミングを見計らっているトール元帥。もう、そのことを覚悟したのだろうか。

 それとも一撃で敵を屠って、エネルギーをリチャージすることなく終わらせる奇策があるというのだろうか。

 

 元帥がミョルニル(聖なる大鉄槌、ミョルニルハンマー、以下ミョルニル)を振りかぶった!

 

 鬼神であろうとゴジラであろうと大魔神であろうと一撃で粉砕する聖なる大鉄槌ミョルニルが巡洋艦を取り込んだクリーチャーのど真ん中に振り下ろされる!

 グヮッシャーーーーーーン!!

 ミョルニルの炸裂にクリーチャーは粉々に粉砕! さすがはトール元帥!

 しかし、本体は粉砕されたものの、破片の多くが独立したクリーチャーになって四方八方に逃げ始めた。

 追え!

 元帥の一言で、一個連隊の戦車部隊がクリーチャーを追いかけ、三次元行進間射撃を加える。

 一つも残さず、地の果てまで追いかけてせん滅せよ!

 戦車たちは水平線の彼方までクリーチャーどもを追撃していった。

 

 元帥は、マーメイド号に並んで飛行しながら語り掛けてきた。

 

「姫、パラノキアとクリーチャーは、この元帥にお任せあれ。姫は、ひたすら障害を乗り越えつつヴァルハラを目指されよ」

「元帥!」

「大丈夫、時の女神がそろって目覚めるころには方がつきましょう」

「元帥、わたしもお供を!」

 タングリスが手を差し伸べる。分かっている、元帥が立ち上がったのだ、副官であるタングリスは付いていかざるを得ないだろう。過酷な任務と知りながらでも……でも、こういう時のタングリスって、わたしが見ても震えが出るほどに美しくなる。アンビバレンツな美しさを、わたしは正視出来ないぞ。

「おまえは、姫のお供をしろ。今度の出征にはタングニョーストが付いてくれている、心配するな」

「元帥……」

「テル、ケイト、ロキ、ユーリア、おまえたちにも苦労をかけるが、なにとぞよろしく頼むぞ」

「元帥、あたしにもお!」

「ポチ、この戦が終わって、姫の旅が成就したら、このトールが新しい名前をつけてやろう。それを楽しみにわたしも戦う。姫も皆も息災でな!」

 身体を捻り、二度旋回すると、元帥は西の水平線を目指して飛び去ってしまった。

 大丈夫だろうか……空飛ぶ戦車もミョルニルも恐ろしくエネルギーを消費するのだが……。

 

 

☆ ステータス

 HP:20000 MP:300 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・300 マップ:12 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)

 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)

 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)

 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 

 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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やくも・07『つづら折りの近道』

2020-11-23 06:37:28 | ライトノベルセレクト

・07『つづら折りの近道』   

 

 

 それなら、この道がいいよ。

 杉野君が指差したのは崖道をほんのちょっと北に行ったところだ。

 

 図書室当番も四日目。

 マップメジャーは見当たらないんだけど、国土地理院の地図を見ていた。

 この街に少しでも慣れなきゃという気持ちと、三日も見ているんで、ちょっと愛着。

 すると、返却された本を書架に戻しに来た杉野君と目が合って、少し話してるうちに「家までの近道」ということになって教えてもらったんだ。

 

 右に曲がると崖下道というところで反対の左に折れる。

 狭い路地っぽいんだけど、なんとか通れる。

 抜けると四メートル幅の生活道路。ちょっと行ってつづら折りの小道が崖の上まで通じている。

 なんだか大きなお城を裏口から攻め上る感じ。プライムビデオで観た戦国時代のドラマが頭をよぎる。

 わたしは竹中半兵衛、敵の大将首はすぐそこだぞ!

 まなじりを上げてつづら折れを駆け上がる!

 

「おや、早いわね」

 家につぃて「ただいま」を言おうとすると、ちょうど玄関に出てきたお婆ちゃんに言われた。

 ちょっと驚いたという感じ。孫としては喜んでほしいんだけど――なんで、こんなに早く帰って来たのよ――早く帰って来たことが迷惑みたいな響きを感じてしまう。

 ああ、こういうのをひがみ根性ってゆーんだろうなあ……。

 家にも街にも不慣れなんで、ついネガティブに受けとってしまうんだ。

 反省反省、すぐに着替えてお風呂掃除。

 わたしの部屋からお風呂場へはリビングを通る。暖炉の上の時計が目に入る。

 

 え?

 

 時計の針は六時間目が終わって五分しかたっていない時間を指している。

 部屋に引き返してスマホでチェック……やっぱ五分しかたっていない。

 図書室当番をやって帰って来たんだから、いくら近道をしたっていってもおかしいよ。五分後なんて、教室を出て図書室に向かっている時間だ。

 深く考えないでおこう……念入りにお風呂掃除をすることで気を紛らわせる。

「お風呂ピカピカになってたね、ありがとう」

 お風呂をあがったお爺ちゃんが喜んでくれたんで、よかったよかった。

 

「この道を通ったんだよ」

 帰ってきたお母さんに、時間が巻き戻ったみたいなことは伏せて説明する。

「へー、知らなかったなあ、こんなつづら折り」

 この街で生まれ育ったお母さんが知らない。

「わたしが出てからできた道なんだろうね」

「あ、あ、そうだろうね」

 合わせておいたけど、あのつづら折りは百年はたってますって感じに苔むしていた。

 さっさとお布団にもぐりこんで寝ることにした。

 

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かの世界この世界:141『絶体絶命!』

2020-11-23 06:21:14 | 小説5

かの世界この世界:141

『絶体絶命!』語り手:タングリス        

 

 

 マーメイド号の最高速度は十五ノットでしかない。

 

 パラノキアの巡洋艦と融合したクリーチャーは三十三ノットで迫って来る!

 三十三ノットは巡洋艦の最高速度だ。このままではすぐに追いつかれる。

 前回の戦いでは、かろうじて勝てたが。今度の本体はクリーチャー、乗っている船は一万トンを超えるシュネーヴィットヘンではなくて二百トンそこそこのフェリーボートのマーメイド号なのだ。

 まっすぐ突っ込まれてくると、全速力で逃げても相対速度十八ノット(時速三十二キロ)で追われることになる。サッカーのフォワードが全速で小学生を追い回すようなものだ。

 できることなら戦いたくないが、戦闘配置だけはとっておいた方がいいだろう。

「テル、戦闘配置だ!」

「もう完了している!」

 デッキの四号は、クリーチャーに向けて砲口を指向しているところだ。これまでの戦闘でみんな慣れてきたんだろう。戦闘配置をかけるまでもなく、自分で目的をもって行動できるようになったんだ。

 しかし、こんな小さな戦闘集団の技量が上がっても、目の前のクリーチャーに太刀打ちできるものではない。

「姫、逃げることを専一にします。緊急時以外は発砲しないでください!」

――分かってる。操舵は任せた、逃げ切ってくれ!――

 ブリッジのスピーカーに姫の声が響く。

 クリーチャーは我々を襲うよりも、どう変態していいかを試しているようだ。巡洋艦のパーツを様々に組んでは解していく、

 まるで巨大なナメクジがファッションに目覚めてしまったようで、見ようによってはユーモラスでさえある。マーメイドを追いかける方向も、かなりのブレがある。我々を敵だとは認識しきれていないのかもしれない。追ってくるのは、動物的というかクリーチャーの習性なのだろう。時間が停まった洋上では、動いているものは当のクリーチャーの他は、我々のマーメイド号だけなのだ。

 ニ十分ほどもすると、クリーチャーは空飛ぶクジラのような姿に固定され、ゆっくりと海面を離れ、それ以上変異することをやめた。

――タングリス、間合いを取ってくれ!――

 直ぐに姫が反応する。気持ちは分かる。空を飛ばれては四号の主砲を最大仰角でかけても狙えないのだ。

 しかし、十五ノットの速度ではいかんともしがたい!

 悪いことに、変態し終えたクリーチャーはマーメイド号の我々を指向し始めた。

 もう、出来ることは、奴の指向とタイミングを見計らって突っ込まれる寸前に舵を切るしかない。

 二度は躱したが、次は危ない……舵輪を握りなおす……今だ!

 奴の微妙な姿勢変化に進路予測をして、その反対方向に舵を切る!

 しまった!

 敵は右に回るフリをしたが、鼻づらを左に向けると、体をよじってきれいなカーブを描いて突っ込んでくる。

 奴に読まれていたのだ、尻尾を勢いよく振ってさらに進路を修正すると、真っ直ぐに迫ってきた!

 

 絶体絶命! 

 まるでモビーディックに迫られたキャッチャーボートだ。

 このままエイハブ船長のように海底に引きずり込まれるのか!?

 

 ザーーーーー!

 ドゴーーーン!

 

 一瞬黒い影が過り、砂を噛んだ時のような音が響いたかと思うと、マーメイド号の左舷に大きな水柱が立った!

 今のはなんだ!?

 首を巡らすと、四時の方角、高さ二百メートルのあたりに、抜剣した剣を緩やかに下段に構える姿があった!

 わたしの本来の上司にして、辺境軍総司令官トール元帥の雄々しき姿が!

 

☆ ステータス

 HP:20000 MP:300 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・300 マップ:12 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)

 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)

 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)

 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 

 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

 

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銀河太平記・019『修学旅行・19・上野の成駒屋』

2020-11-22 10:22:59 | 小説4

・019

『修学旅行・19・上野の成駒屋』大石一   

 

 

 ウッヒョーーーー(^▽^)!

 

 箸に絡めた納豆を頭の上まで伸ばしてテルが喜ぶ。

「ちょ、浴衣の前(^_^;)!」

 箸を上げたまま立ち上がってはだけた浴衣の前をミクが注意する。

「だってさ、こんなに伸びりゅんだよ! やっぱり本場の納豆は違うのよさ!」

「ああ、分かったから。帯もこんなに上がっちゃってえ」

 自分の箸をおいて、着崩れた浴衣を直してやるミク。

 なんだか、家族旅行にやってきた母親と幼子だ。

 皇居を後にした俺たちは憧れの修学旅行専用の宿に向かった。

 不忍池のほとりにある成駒屋は三百年続く伝統的旅館だ。

 修学旅行専用というのは看板の文句で、シーズンオフなら一般の宿泊客も受け入れているんだがな。まあ、心意気だよな。

 今どき、オートどころかアルミサッシですらなく、二十年に一度は取り換えると言う正面玄関の四枚の硝子戸は、国産ヒノキの木製で金文字の『成駒屋』もゆかしい。

 玄関を上がると一面に敷かれた赤じゅうたん。左側のフロントにはコンピューターのインタフェイスも見当たらず(後で聞いたら、カウンターの下に目立たないようにしてあるらしい)。右手のお土産売り場と相まって、二百年の時空を超えて旅人を令和以前の日本に誘ってくれる。

 この雰囲気を平成ノスタルジーと捉えるか昭和レトロと捉えるかで、楽しい論争をしながら本物の水道水をを使った風呂に入った。

 二十三世紀のいまは、水はパルス殺菌されて、ほとんど超純水と変わりがないんだけど、この成駒屋の風呂は文化庁の許可で二十世紀の水道水と同じ塩素殺菌をやった上に日替わりの『温泉の素』を入れているという念の入れようで、塩素でゴリゴリ殺菌した皮膚に温泉の素の養分が乱暴に染み込んでくる感覚は、ほどよく心身を刺激してくれて、二十世紀の野生を取り戻す。

 ニ十世紀の野生は、浴室前の卓球台を見逃さず、四セットも卓球をやって、また風呂に入りなおした。

 そして、入浴後の晩御飯に俺たちはシビレまくっているというわけだ。

「でもしゃ、火星の重力って地球の半分もないのに納豆のネバネバはこんなには伸びにゃいよ」

「レプリケーターだからな。それにテル面白がってかき混ぜすぎだ」

 たしかにテルの納豆は白いスライムのようになっている。

「ハンバーグもエビフライもOGビーフのサイコロステーキも付け合わせにナポリタンスパゲッティも椀そば(お椀に一杯だけのそば)も味噌汁も卵焼きもサラダも浅草海苔も、お新香しゃえも微妙に違うニャ!」

「そうね、重要文化財は建物だけじゃないのよね」

「これも、御在位二十五周年の特別メニューなのかなあ」

「いや、成駒屋は日ごろからだそうだよ。お客に出すものは絶対レプリケーターを使わないんだそうだ」

「ってゆうことは、これ、みーんな人間が作ってゆってことにゃの!」

「ああ、特別なのは料金の方さ。これだけのものを人の手で作ったらレプリケーターの五倍くらいの値段になってしまうけど、ご大典の期間は二十世紀の値段に据え置きなんだそうだ」

「そうなんだ」

「でも、高校生の修学旅行に、こんな贅沢していいのかなあ」

「アハハ、ミクは貧乏性にゃ、ラッキーな時に来たって喜べばいいのにゃあ(^▽^)/」

「そうだ!!」

「うっ……喉に詰まるじゃないか!」

 ミクがテーブルを叩いて立ち上がった。

「ね、明後日の富士登山もアナログで登ってみようよ!」

「あ、しょれいいのよしゃ(^▽^)/!」

「え、3776メートルもあるんだぞ!」

 ミクとテルがその気になって、ヒコはニヤニヤ。

「おい、ヒコ、なんか言えよ」

「まあ、明後日の事だ。明日は上野近辺で休養、のんびり考えよう」

 そう言うと、残ったご飯にお新香を載せてサラサラとお茶漬けにするヒコであった。

 

 

※ この章の主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い

穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子

緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた

平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女

 ※ 事項

扶桑政府   火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる

 

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やくも・06『マップメジャー・2』

2020-11-22 06:54:28 | ライトノベルセレクト

・05『マップメジャー・2』  

 

 

 今日も杉野君と二人。

 

 マップメジャーで遊んでいる。

 いろんな地図で試しては、小さく「へー」とか「ほー」とか言う。

 そんなに面白いというわけでもないんだけど、こういうことに程よく熱中していた方が距離がとれるし、ひょっとしたら可愛げのある女子と思われるかもしれない。

 程よい可愛げというのは大事なんだ。ハミゴはごめんだし、へんにベタベタされるのもいやだ。ちょっと愛嬌のあるNPCぐらいの存在でありたい。杉野君はあいかわらずラノベばっか、その横に座っているだけと言うのは、三日目にもなるともたないもんね。変に話しかけるのもあれだし……それに、杉野君はラノベ読みながら、時々、時々だけど、ニヤッと笑ったり、ポッと頬を赤くしたりする。人間関係もほとんどないのに、そういう人の横には、ちょっとね……。

 国土地理院の地図は、この街しか分からない。

 他の地図は知らないとこばかりなので興味が湧かない。

 それで、地図の付いている本を適当に出してはマップメジャーを転がしてみる。

 東京大阪間は550キロと出てきた。逆に大阪東京間で計ると570キロになる。

 まあ、アナログなんで転がし方によって出る誤差なんだろう……三回測ってみる、数キロの違いは出てくるけど、どう測ってみても、大阪からの方が遠い。

 歴史の本を出して、江戸大坂間を測ってみる……縮尺が書いてない。ま、適当に……140里。

 え?

 140里という数字が地図の東海道の上に浮き出てきた。

 変だよね、ふつうマップメジャーの文字盤に矢印が指すんだ。それが地図の東海道に沿ってホワ~っと現れた。

 十秒もたつと消えてしまう。もう一度あてがうと、また出てくる。

 これは、アナログに見えてたけど、デジタルなのかもしれない。ほら、バーチャルキーボードってあるじゃない。パソコンの前にキーボードが投影されたのをリアルキーボードみたく操作できるやつ。

 今度は戦国時代の地図。

 信長のいる京都と秀吉のいる備中を測ってみる……100と出てきた。むろん地図の上。

 光秀のいる丹波と京都、めちゃくちゃ近いにちがいない。近いからこそ、光秀は謀反を起こす気になったんだ……あれ?

 ∞?

 8の横倒し……無限大だと分かるまで、数秒かかった。

 無限大って?

 戸惑っていると――心理的距離――と出てきた。

 京都丹波間……110?

 ああ、信長は秀吉と同じくらい光秀を信用していたんだ。光秀が一人距離感じてたんだよなあ。

 レトロなスタイルしてるのに、このマップメジャーはスゴイ!

 

 今度は、ポケットから図書委員のローテーション表を出す。

 

 図書部の先生と自分を測ってみる……350、無限大よりはマシだけど、まあ、こんなもんか。

 杉野君とわたしを測ってみる……30……うそ!?

 方向を逆にして、わたしから杉野君……180? これって、杉野君がわたしを?

 あり得ない、今もカウンターでラノベに夢中だ。

 

 う~ん

 

 ロ-テーション表の裏に、うちの家族を書いてみる。わたしを中心に、お爺ちゃん、お婆ちゃん、お母さん。

 お爺ちゃんが100 お婆ちゃんが90 お母さんが20   ま、こんなもんか。

 逆にわたしからの距離を測ってみる。

 お爺ちゃんへは2000 お婆ちゃんへは1800 お母さんへは800  なんだこれは……。

 

 すみませーん、貸出おねがいしまーす。

 

 カウンターで声。女子がわたしを呼んでいる。杉野君はトイレにでも行ったんだろう。

「はーい、ただ今」

 カウンターに戻って貸し出し手続きをしてあげる。

 図書カードをボックスに入れていると、ハンカチを仕舞いながら杉野君が戻ってきた。

「あ、ごめん……」

 自分が席を立った間に貸し出しがあったので、ポッと顔を赤くしている。

「ううん」

 180を100くらいに縮める笑顔で返事して、マップメジャーに戻る。

 

 あれ? どこを探してもマップメジャーは見当たらなくなってしまった。

 

 少し遅れて完全下校のチャイムが鳴った。

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かの世界この世界:140『パラノキアの幽霊船』

2020-11-22 06:41:37 | 小説5

かの世界この世界:140

『パラノキアの幽霊船』語り手:テル        

 

 

 体が夜を欲している。

 

 R18的な言い回しだが、そんな意味ではない。

 ヘルムの守護神ヤマタが活動を停止して地上から光が無くなった。

 そのピンチヒッターに世界樹ユグドラシルの三神の一人ヴェルサンディが現れたのだが、いかんせんヴェルサンディは現在の時間を司る女神。過去の時間を司るウルズ、未来の時間を司るスクルドの三神が揃わなければ時間は動かない。

 我々は世界樹の島ユグドラシルを目指して船出した。ウルズ、ヴェルサンディの二神を起こすためだ。

 当直を終えてキャビンに戻るのだが、なんせ二百トンのフェリーボート。駅の待合室ほどでしかないキャビンはカーテンを閉めても真っ暗にはならない。アイマスクなどもしてみるのだが、体が夜とは認識しないのだ。露出した手足だけではなく、服を通しても光は感じるようで、熟睡することができない。

 エンジンがうるさいから!

 ケイトは言う。たしかにマーメイド号のエンジンはうるさいし、振動もハンパではないが、四号のそれと比べるといい勝負だ。それでも四号の狭い車内で睡眠はとれた。

「おい、次の次の当直だろ、そろそろ起きておけよ」

 ケイトの方を揺さぶる。

 キャビンに戻ったら、次の次を起こすことになっている。起こしておかないと交代の時にブリッジが無人になる時間ができてしまうためだ。

 ……ところが、ケイトは起きない。

 あれほど「熟睡できない!」と文句を言っていたが、疲労のレベルが高くなると自然に眠れるのだろう。これが子どもの健康さだ。他の者を起こしてもまずい、時間になったら起こしてやればいい、どうせ微睡む程度の眠りしか得られないのだからな……。

 

 そろそろ起こそうかと体を起こすと、スピーカーからタングリスの声がした。

――テル、ちょっとブリッジまで来てくれ――

 わたしが眠れないでいるのはお見通しのようだ、ケイトをそのままにしてブリッジに向かった。

 

 ブリッジへのラッタルに足を掛けたところで気づいた。左舷十時の方角に見覚えのある船が見えるのだ。

 パラノキアの巡洋艦……

 シュネーヴィットヘンを襲ってきた巡洋艦……たしか撃沈させたはずなのに。

 一人では判断できない、一気にブリッジに向かった。

「同型艦か?」

「これで覗いてみろ」

 タングリスの双眼鏡で覗いてみる。あちこち傷だらけで、第二砲塔のあたりはハッキリと断裂の痕がある。そうだ、あの巡洋艦は艦首がぶっ千切れて、砲塔が吹き飛んでしまったはずだ。やはり、同型艦?

 いや……あきらかに五海里ほど彼方の海を白波を蹴立てて進んでいる。

 洋上を航行中だったら、時間が止まった時に静止してしまって動けないはずだ。

「おそらく、クリーチャーと融合してしまったんだ」

「クリーチャーと?」

「パラノキアは、クリーチャーとの共存を謳っている。沈没したところに時間が止まってしまって、クリーチャーに憑りつかれてしまったんだろう、クリーチャーは時間が停まっても活動できるからな。まだ憑りつかれて間が無いんだろう、修復と変態の真っ最中といったところだな」

「逃げを打つしか手が無いな」

「面舵三十度……逃げるぞ!」

 タングリスは、ソロリと舵輪を回した……。

☆ ステータス

 HP:20000 MP:300 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・300 マップ:12 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)

 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)

 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)

 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 

 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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やくも・05『マップメジャー・1』

2020-11-21 04:57:05 | ライトノベルセレクト

・05『マップメジャー・1』   

 

 

 今日も図書委員の仕事だよ。

 

 図書委員の仕事というのは放課後の図書室当番。

 中学の図書室というのは司書の先生が居ない。

 いちおう図書部というか図書係の先生がいて、いちおう責任者なんだけど、管理責任ということだけでカウンター業務とかは図書委員が交代で当番に当たっている。

 男女二人一組の当番なんだけど、女子の当番が三日連続で休んでいる。

 それで、繰上りだかなんだか分からないんだけど「小泉さん、わるいけどお願い」ということで頼まれてしまっているんだ。

 転校して来て間がないわたしはアドバンテージが低くって、断ることはおろか、嫌な顔もできない。

 

「今日もよろしくね」

 相棒の男子にはあいさつしておく。転校生は過不足のない笑顔と挨拶が大事なんだ。ほどよく、付かず離れずを心がける。

「今日もよろしく」に「ね」を付けて、さりげに距離感を詰めている。精一杯の工夫。「今日もよろ~」とか、前の学校じゃ言ってたけど、さすがにねえ……。

 男子は杉野君という。

 男子はシフトが違って、杉野君とは最初の一日だけいっしょのはずだった。

 

 暖房が故障しているせいだろうか、放課後の利用者は少ない。

 文芸部の子が三人本を借りていったら開店休業状態。

 杉野君はカウンターに並んでラノベを読んでいる。

 規則では、図書係はカウンターに座っていなければならない。でも、閉館まで杉野君と並んで座っているのは気づまりだ。

 図書室のマニュアルを読んでみる……やったあ(^▽^)/ 図書係は適宜図書室内の見回りをする云々……とある。

「ちょっと見回りしてくるね」

「え、あ、うん……」

 ラノベに集中して杉野君は生返事。

 ゆっくりと見回った。

 奥の書架の横に八段ほどの引き出しがある。上から二つ目が少し出ていたので閉めようと手を掛ける。

 いっぱいの地図と時計みたいなのが入っているのに気付いた。

 地図は国土地理院発行の、ちょー真面目地図。お勧めのお店とか観光スポットとかは絶対載っていない、公民の授業のように退屈。その下にも種類の違う地図がありそうなので探ってみる。

 いっぱいある中に、この街の地図が目に留まる。

――けっこう広いんだ――

 通学路しか知らないので、他の地図よりは興味が出てくる。

――でも、これはなんだろう?――

 時計みたいなのが気になる。

 

「ね、これなんだろう?」

 

 杉野君に示した。

「わ!?」

 よっぽどラノベに集中していたのか、ビックリさせてしまった。

「あ、ごめん。おどかしちゃったね」

「ううん、いいよ。えと、近くで見せてくれる」

 カウンターの所まで持って行って、杉野君の前に置く。

「ああ、マップメジャーだよ」

「マップメジャー?」

「下の方に車が付いてるだろ、これで地図の上をなぞるんだ道路とかね。するとメーターに実際の距離が出るんだよ」

「杉野君、詳しい!」

「あ、ああ、実はいま読んでるラノベに出てくるんだ」

 ラノベのページをめくって挿絵を見せてくれる。女の子の手に同じマップメジャーが握られている。

 ちゃんとネタバラシをするところは、ちょっと好感。

 使い方までは詳しくないようで、二人であーだこーだいじくる。

 最初に地図の縮尺を入力することが分かって、けっこう便利なものだと分かる。

 地図に載っている学校の敷地を計ってみる。正確に間口150メートルと出てくる。

 次に、例の崖道を計ってみる。

 なんと84メートルと出てきた。てっきり50メートルと思っていたのに。

 

 無意識に、障害となる道を短く思ってしまったんだろうか?

 

 だとしたら、苦難を小さく見るわたしって、ちょっと健気で前向きってことになる……かなあ?

 

 

 

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かの世界この世界:139『みんなで協力……なんだけど』

2020-11-21 04:41:44 | 小説5

かの世界この世界:139

『みんなで協力……なんだけど』タングリス        

 

 

 乾ドックに海水を満たし、マーメイド号のエンジンを始動した。

 

 二百トンのマーメイド号は一万トンのシュネーヴィットヘンとは比べ物のならないほど振動する。

 ア・ア・ア・ア・ア・ア・ア・ア・ア・ア・ア・アハハハ……

 ロキが振動で声を震わせて喜んでいる。ポチは甲板の振動をお尻で受けて煎り豆のように弾んで遊んでいる。

「もう、あんたたちは子どもなんだから・ら・ら・ら・ら・らららららら~🎵」

 二人に呆れたケイトも、語尾がトレモロになってくると、陽気に『ら』を転がして可笑しがっている。

「水位が海と同じになった」

 機械小屋のランプがグリーンになった。珍しモノ好きの姫がテルといっしょにポンプを操作しているのだ。

 ドックに水を満たし海面と同じ高さにしなければ、船を海に出せないのだ。

 

「マーメイドも準備OKです! ゲートを開けてください!」

 操舵室からメガホンで叫ぶ。数秒、ウィーンというモーターの音がしたが、ガクンという音がしてモーターは停まってしまった。機械小屋で、二人が焦っているのが分かる。二度三度と試してみるが、モーターは直ぐに停まってしまう。

「あれって、安全装置が働いているんじゃないかしら?」

 ユーリアが眉を寄せて推測する。

「どこかで負荷がかかり過ぎているのだろうか?」

 時間が止まってしまっているのだ、予期せぬ不具合が起こっているのかもしれない。ひょっとしたら、我々の船出を喜ばない者たちが妨害しているのかもしれないとまで思った。なんせ、ヘルムの守護神であるヤマタの力が消滅してしまったのだ。なにが起こるか知れたものではない。

 手分けしてドックの周囲を警戒してみよう……そう思った時、ポンとユーリアが手を打った。

「ゲートにも注水しなくっちゃ!」

 

 あ!?

 

 盲点だった。最大三千トンの船が入れるドックはゲートもいかつく、幅が二十メートル、高さが十メートル、厚みが一メートルもある。しかし、中はガランドウで、ドックに水を張れば浮力を持ってしまう。そのためゲートの回転部分に異常な力が加わって開かなくなってしまったのだ。

「ゲートの注排水ポンプはありますかーー!?」

 メガホンで聞くと姫が×印のサインを返してきた。

「タングリス、あれじゃないかなあ?」

 ケイトがゲートの横を指さすとロキがポチに指示を与えて調べさせに行かせた。

「なにか、スイッチがあるの~🎵」

「それだ!」

 機械小屋を飛び出した姫とテルがドックの縁を周って制御盤に取りついた。

 構造は簡単なようで、すぐにスイッチが入れられると、くぐもった音がしてゲート内部のタンクに海水が満たされていく。

 

 三十分後、満水になったゲートを開き、無事にマーメイドは海に乗り出した。

 

 これからは、なんでも、この六人とポチでやっていかなければならない。なんせ時間が停まって、動けるのは我々だけなのだ。協力しあわなければな。

 あらためて岸壁に着けて四号を載せて本格的に海に乗り出す。

「陽が落ちたら、交代でブリッジに立とう」

 日没から日の出までを五つに分けて当直を決める。それまでは、わたしが舵輪を握る。

 あと一時間ほどか……そう思ったが、いっこうに日は傾かない。

 

 そうだ……時間が停まっているのだから、日が暮れるわけがない……。

 ずっと太陽に照らされっぱなし、それが海面への照り返しと相まって光の強さは陸上の比ではない。目的地のある航海なので雲の陰ばかり拾って行くわけにもいかないだろう。なるべく短時日で着かなければならないし、小型船に不慣れな者たちばかりだ。

 あ、ああーーーーー

 ドッと疲労感が押し寄せてきた。

 

☆ ステータス

 HP:20000 MP:300 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・300 マップ:12 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)

 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)

 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)

 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 

 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

 

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せやさかい・179『代理でお見舞い・2』

2020-11-20 12:11:04 | ノベル

・179

『代理でお見舞い・2』さくら   

 

 

 専念寺のゴエンサンとは五十分も話してしもた。

 

 病人さんのお見舞いとしては喋り過ぎやと思う。

 ゴエンサンは、たった今まで口喧嘩してた孫娘(たしか鸞ちゃん)のことは一言も喋らんと、お祖父ちゃんとの昔話やらお寺の面白いお話やらしてくれはって、かえってうちが楽しんでしもた。

 五十分言うのは授業の時間や。

 日ごろ五十分いうのに慣れてるから、五十分で一区切りいう顔をしてたんかもしれへん。

 帰ってからお祖父ちゃんに聞いたら、専念寺さんは学校の先生をやってはったらしくて、それで五十分やったんかもしれへん。

 まあ、無事にお役目を果たせたんで、病室のドアを閉めた時には正直ホッとした。

 廊下をエレベーターの方に歩いて行くと、ナースステーションの前の休憩コーナーに鸞ちゃんが座ってた。

 改めて見ると、どこかのアイドルグル-プのセンター張れそうなくらいのベッピンさん。

 一瞬目が合う。

 ペコリと頭を下げるんやけど、返ってきたのは敵意剥き出しの目ぇ。

 ベッピンさんやさかいに睨んでくる目ぇが、よけいにキツイ。

 頭の中でフラッシュバック。小さいころにお母さんにこんな目ぇで睨まれた。

 そうや、鸞ちゃんの怖い顔は、あの時のお母さんにソックリや。

 なんか見てはいけないものを見てしもた感じ。

 そんな顔せんでもええやんか! と、思う。

 反発した心もいっしょや。

 エレベーターで降りながらも鸞ちゃんの目ぇが離れへん。

 

 気分転換せんと家につくまで引きずりそう……待合の自販機でコーンポタージュを買ってベンチで休む。

 

 診察の順番の掲示板が八人分進んだところで飲み終えて「よし!」と気合を入れて外に出る。

 うちは、用事を済ませただけや。あの子に睨まれる筋合いは無いっちゅーねん!

 思たら空き缶持ったままなんで、その場から投げると、見事にストライクでゴミ箱に収まる。

 よし!

 気を取り直して、病院の敷地を出る。

 病院を出て道路一本行ったところに、さっきお見舞いの花を買った花屋さん。

 その店先に鸞ちゃんの後姿が、棚の花瓶を指さしてる。

 あ、そうや。病室には花瓶が無かった(-_-;)。

 うちが持ってきた花を活けるために、お爺さんが言うたんか花瓶を買うことになったんや。

 ちょっと申し訳ない気持ちになる。

 お祖父ちゃんは「花瓶が無いようなら、ナースセンターで借りたらええさかい」と言うてたのを忘れてたあ。

 

 もう、さっさと行こ!

 向けた目の先にネコ。

 道路を渡ろとして、キョロキョロしてるとこに睨まれて、ネコは固まってしまう。

 後ろに子ネコが付いてる、おそらく親子や。

 子ネコが居てるさかいに、普段よりも慎重に道路事情を見極めてるんや。

 邪魔したらあかん(^_^;)、サッと目をそらして歩き出す。

 

 ドン

 

 鈍い音がして、わたしの横をバイクが走り去っていく。

 ハッとして振り返ると、たった今目ぇが合うたネコが、捩じれてアスファルトの路面に叩きつけられてる!

 道の端っこでは、子ネコが目をいっぱいに見開いてガタガタ震えてる。

 花屋さんやら通行人の人らが――ショック!――という顔で口を押えたり立ち止まったり。

 え、え? うちのせい?

 うちは、二三歩後ずさりして、速足で、その場を離れてしもた……。 

 

 

 

 

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やくも・04『街灯』

2020-11-20 06:20:16 | ライトノベルセレクト

・04『街灯』  

 

 

 あのお厨子は一晩で無くなった。

 

 本格的な解体工事が始まるようで、生け垣の一部が取り壊され怪獣みたいなショベルカーが入っていた。

 お厨子は、ショベルカー入れるのに邪魔なんだろう、三本ほどあった庭木といっしょに無くなっていた。

 当然五十メートルの崖道を迂回して学校に行く。

 裏側に出た時には、もう、バリバリと音がして母屋が取り壊される音がした。

 その音が恐ろしくて、視界の端に捉えることもしないで三丁目の学校に急いだ。

 

 帰りは、また図書委員の仕事がまわってきて遅くなった。

 

 黄昏時のあの道を歩く勇気が出なくって、十五分以上余計にかかる大回りの道を通って帰った。

 途中、道幅の割には人通りのないところにに差し掛かる。

 真っ直ぐな道の彼方には自分の家がある一丁目が小さく見える。でも、一丁目につくまでは薄暗い一本道、二車線あるから車も通るんだろうけど、この瞬間は車の陰どころか、音もしない。

 街灯の間隔が長いのも不気味だよ。

 おまけに、一つ向こうの街灯は切れかけていチカチカ……と思ったら、プツン、ほんとうに切れてしまった(;゚Д゚)。

 ほんの五分ほどで一本道は突き抜けられる。

 よし!

 図書室に並んでいた本たちを思い出しながら行こう。

 委員会で、図書室の見取り図をもらっていた。それを手に広げる……分野別の本棚や、本棚の中の推薦図書などが書き込まれている。

 それを、きちんと読みながら白線で区分けされてるだけの歩道を歩く。

 

 二百冊ちょっとのタイトルを読んだところで、一本道を通り終える。

 

 やったー!

 

 嬉しくなって、振り返る。

 暗い一本道の先が闇に溶けている。こんな怖い道を通ったんだ、自分を褒めてやりたい気分になる。

 

 あれ?

 

 この暗い道……どうやって、見取り図を読んだんだろう?

 ぜったい暗くて読めないよ。

 でも、ずっと明るいまま見取り図を見ていたよ。

 え? え?

 街灯を見上げて、上から下に目線を移して……ビックリした!

 街灯の下半分は道路に接していない……下からは四本の脚が出ていて、がに股になっていて、後ずさりするわたしに合わせてヨチヨチと歩いてくるではないか!

「あ、ありがとう。も、もう、いいからね」

 そう言うと、街灯は残念そうにため息ついて立ち止まった。

 

 そこからは走った!

 お風呂掃除が間に合わなくなるし!

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まりあ戦記・046『B区の切り欠きを目指して』

2020-11-20 06:04:50 | ボクの妹

・046

『B区の切り欠きを目指して』   

 

 

 ま、いいんだけども釈然としない。

 

 釈迦堂観音(しゃかどうかのん)からのメールに――ありがとう、また会いたいね――と返事を打ってため息をついた。

 影武者のマリアが学校で襲撃を受けた。あれから半年、まりあは学校に行っていない。

 だって、あの襲撃で死んだことになっている。

 影武者のマリアは損傷が激しいので、リペアしてもソックリと言うわけにはいかずに退役してしまった。

 家がお寺で、自身副住職でもあるカノンは、僧侶の勘だろうか、まりあの生存に気づいて連絡をくれる。

 

 先日のヨミを撃破したのは『そいつ』……あれからナユタだという名前とツインテールが良く似合う高校一年生だということが分かった。

 四菱のソメティという機体に乗ってヨミを蹴散らしたということで、そのモテカワのルックスと相まって学校の人気者だというこらしい。

 え、学校に通ってるの?

 疑問に思うと、タイミングよく写真が送られてきた。

 なるほどね。

 ソメティの搭乗者でなくても、これなら男子は放っておかないだろう。

 

 いやいや、そういう意味じゃないんだ(^_^;)

 

 あの戦いはウズメがヨミHPを削り倒し行動不能にしたところにトドメを刺したというのが事実だ。

 それが、まるでソメティが小気味よく攻撃を仕掛け、鈍重なウズメは、ほとんど後れを取ってる的な報道になっている。

 テレビやネットの動画を観ても、ほとんどソメティのアタックばかりが報じられている。

 真実を報じないことに違和感を感じるのであって……ああ、もうやめた!

 

 みなみ大尉に連絡をして二時間の外出許可をもらった。久々に愛車のオレンジを引っ張り出し、ベースの周辺を走ってみることにしたのだ。

 ベースの周辺と言ってもカルデラの中、周囲は外輪山に囲まれていて、巨大なんだけども、すり鉢の底を走っている窮屈さは否めない。

――今日も一周は無理か――

 ヨミの浸食と言ってもいい攻撃で、カルデラのあちこちは穴ぼこだらけ。運用に差し障りのあるものは直ぐに修復されるが、そうでないものは『危険 立ち入り禁止 特務旅団』の札が立つだけで事実上放置されている。規模の大きすぎるものはベースの施設を移転した方が早いので、これも放置されている。

 まあ、B区まで行って引き返すか。運が良ければ外輪の切りかきに沈む夕日が拝めるかもしれない。

 ベース内には様々なジンクスがあって、その一つがB区の切り欠きだ。

 きれいなV字になっていて、Vの底に大きな石英があるとかで、季節と時間と運が良ければ虹のように煌めく夕陽が拝めるんだそうだ。

――いっちょう、行ってみるか!――

 決心してペダルを踏む足に力を入れる。

――わたしもおおおお!!――

 後ろで声が掛かる。

 ちょっと驚いて振り返る。

 ゲゲ!?

 そいつ……ナユタがツインテールをはためかせながら付いてくるではないか!?

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かの世界この世界:138『動いていたものは動かせない』

2020-11-20 05:53:52 | 小説5

かの世界この世界:138

『動いていたものは動かせないブリュンヒルデ       

 

 

 わたし(車長)とケイト(装填手)の間にシートを付けた。

 

 シートと言ってもパイプ椅子の上半分をくっ付けたもので、横のハッチから出入りするときは折りたたむ。

 まあ、小柄なわたしとケイトの間なので、なんとか収まる。

「お客さんで乗っているのも申し訳ないですから、仕事を教えください」

 ユーリアの申し出ももっともなので、取りあえずはケイトと交代で装填手をやってもらうことにした。

 そして、日中はともかく、寝る時は窮屈すぎるので納屋の中からテントを出してゲペックカステン(砲塔後部の物入れ)に括り付けた。

 

 二時間ほどで準備を整えると出発だ。

 

 ユーリアは眠ったように時間の止まっている母のアグネスと兄のヤコブに別れを告げた。

「じゃ、行くよ、ユーリア」

「…………はい」

 ふっきるようにユーリアが乗り込むと、四号は、取りあえずの目的地であるヘルム港を目指した。

 乗って来たシュネーヴィットヘンはドックに入ったままだ。たとえ動いたとしても、この人数では一万トンを超える輸送船を動かすことは出来ない。なんとか四号を載せられて、外洋を航行できる船を見つけなくてはならない。むろん、四号の乗員だけで操縦できる小型の輸送船、あるいはフェリーボートだ。

「ヘルムには大小六つの小島があって連絡船が通っています。運が良ければ、出港前の船を掴まえられると思います」

 港に舫っている連絡船が居ることを願うばかりだ。

「あそこに居ます!」

 ゲートを潜って岸壁沿いに走り出したところでユーリアが指差した。一つ向こうの桟橋に二百トンあまりの連絡船が見えたのだ。舳先がはね橋式になっていて車が乗せられるタイプだ。

「……だめだ」

 連絡船は出港ししたばかりで、舳先のゲートは閉じられ、二メートルほど海に乗り出している。

「俺が飛び乗って停めてやる!」

「よせ!」

 ロキが飛び出し、砲塔の上からジャンプした。

「うわ!」

 勢いよく飛び移ったところまでは良かったが、舳先の上でバランスを崩して海に落ちてしまった。

 ポヨヨーン

 なんと、連絡船の周囲の海面はゼリー状に固まっている。ロキは、そのまま歩いて岸壁に上がってきた。

「動いているうちに時間が止まったものは固まってしまうんだろう、周囲の海面も影響を受けて固まっているんだ」

 そう言うと、タングリスは石ころを海に投げた。

 船の周囲は、ちょっと弾んで、石は海面に乗ってしまう。数メートル離れた所では、普通に石は沈んでいくのだ。

「時間が止まった時に動いていたものは動かせないんだ」

「しかし、停まっている連絡船はあるのか?」

「……そうだ、ドックに行けば!」

「シュネーヴィットヘンは動かせないよ」

「違うんです、小型船舶用のドック。きのう皆さんを出迎えた時にメンテナンスの終わった船があったんです!」

「行ってみよう!」

 

 港の外れのドックに向かうと、乾ドックにメンテナンスを終えたばかりの連絡船マーメイドが鎮座していた。

 

 

☆ ステータス

 HP:20000 MP:300 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・300 マップ:12 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)

 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)

 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)

 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 

 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士

 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 

 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児

 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

コメント
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