大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・122『ずっこけアルルカン』

2022-08-23 14:27:28 | 小説4

・122

『ずっこけアルルカン』心子内親王  

 

 

 どうか、ご安心ください(^o^;)。

 

 穏やかに言うと、アルルカンさんは数歩後ろに下がった。

 害意が無いことを示すためなんだろうけど、とびきり美人のアルルカンさんがやると、魔女がなにか企んでいるような感じで、サンパチさんは、わたしの前に立ちはだかるのを止めない。

 ウワ!

 さらに一歩下がったところで、なにかに躓いて仰向けに倒れ込むアルルカンさん。

「艦長!」

「このブーツ、グリップが効きすぎる!」

「マントもブーツも艦長の注文なんすけど」

「そうなのか?」

「はい、最大戦速で舵を切っても滑らない仕様にしてくれって、被服科長、調整すんのに苦労してたっす。試着の時に試さなかったんすか?」

「いや、試着の暇がなくってな(^_^;)」

「じゃ、ちょっと調整するっす」

「ツナカン、できるのか?」

「こんなこともあろうかと、被服科からアドジャストもらってます」

 副官さんが、ハンベを近づけてタッチする。

「よし、いや、お恥ずかしいところを……」

「艦長、まだ……」

「ウワワ!」

 今度は不思議なスピンがかかって、左足を軸に半回転してうつ伏せにひっくり返った。

 プ(灬º 艸º灬)  

 ブリッジのみんなが噴き出しかける。

「まだ右しか調整してないっすよ」

「そ、そうか」

 パリ

「ウ!?」

 なんと、起き上がろうとしたアルルカンさんのキャプテンパンツが音を立てて破れてしまった!

「花柄じゃ」

 サンパチさんが、目ざとく裂け目から覗いた下着の柄を呟く。

 サンパチさんの外見は小柄な女の子だけど、元の仕様はお侍タイプのおじさん仕様。

「いや、これはいかん(#꒪꒫꒪#)」

「もう、早く着替えるっす!」

「すまん、ツナカンあとは頼んだぞ!」

 アルルカンさんは、お尻を押えて出て行ってしまった。

 アハハハハハハハハハハ(ᕑᗢूᓫ)

 ブリッジのみんなが盛大に笑って、わたしも、サンパチさんもつられて笑ってしまった。

 

「仕方がない、代わりに説明するっす。サケカンもくるっす」

「やれやれ……」

 ウイング近くに居た乗員が副官さんの横に並んだ。

「航海長のサケカンです。副官のツナカンの足りないところを補充します」

「実は、殿下を亡くなったことにした上で火星に送ることになっているっす」

「え、死んだことに!?」

「どういうことでござるか?」

「実は、艦長は、先の事を考えているっす」

「先の事ですか?」

「はい、火星では扶桑幕府に身を寄せるおつもりなんですよね?」

「左様、日本国の分家でござるし、将軍の扶桑道隆殿も皇室への尊崇の厚いお方でござる」

「そこなんすよ、心子内親王殿下は皇嗣であられるので、そのままでお預かりすると、将軍は、いろいろと痛くも無い腹を探られるっす」

「あ、ああ……」

 ツナカンさんの言葉が刺さってきた。

「古来、摂関家や幕府は、天皇家に近づくことによって、その権力基盤を固めようとしてきたっす」

 そうだ、江戸幕府の二大将軍秀忠は娘の和子(かずこ)を皇后にすることで幕府の信用を上げようとしたし、十四代将軍家茂は孝明天皇の妹の和宮を御台所にした。他にも、有力大名や摂関家とは幾度も姻戚関係になっている。

「それに、扶桑将軍の初代は、皇孫の扶桑宮殿下でした。いわば平清盛的な家系です」

 サケカンさんの補足で、わたしは事の重さを理解した。

「そうですね、いざとなったら『皇嗣を盾にして宗主国の日本に影響力を持とうとしている』的にかんぐられてしまいますね」

「それは……そこまでは思い至らぬことでござった!」

 サンパチさんも腕を組んでしまった。

「そういうことですから、うちの艦長は、シャトルを粉々にして殿下がお亡くなりになったと擬装したっす」

「そうだったんですね……」

「しかし、いらぬ心配を陛下や関係の方々にお掛けすることになるのではござらぬか?」

「ごく限られた方々には、内々にお知らせする腹であると思うっす」

「なにせ、うちの艦長は、銀河一の盗賊ですから……」

「蛇の道は蛇っす」

「手練手管はお手のものですし、信用と怪しさの塩梅もちょうどいいかと……」

「「なるほど」」

 うん、なんだか納得してしまう。

 

 それから部屋に通されて考えた。

 もし、マントが引っかかるとか、ズッコケるとか、パンツが破れるとかのハプニングが無くって、いきなりアルルカンさんから聞かされたとしたら……こんなに素直に納得しただろうか?

 ひょっとして?

 いや、面白いことは、そのまま面白がっていよう。

―― ココちゃん、あなたの無邪気さは才能かもしれないわねぇ ――

 亡くなったお母さんの言葉が聞こえたような気がした。

「どうやら、火星への進路についたようでござる」

 サンパチさんの声に振り返ると、キャビンの窓から、遠ざかっていく地球の姿が見えた。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首 パイレーツクィーン:メアリ・アン・アルルカン(手下=ツナカン、サケカン)
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  •  

 

 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・43『今日は小菊の入学式なのだ』

2022-08-23 08:17:45 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

43『今日は小菊の入学式なのだオメガ 

         

 まだ着替えてないの!?

 トースターに食パンをぶち込んでいると、後ろから非難された。

「お、似合ってるじゃないか」

 ピカピカの制服を誉めてやると、小菊の表情が一瞬だけ緩む。

 べつに誉めてイナそうと思ったわけじゃない、ほんとにそう思ったんだ。

 こないだ不用意に試着しているところを見た時は張り倒されたが、今朝の小菊は青筋を立ててはいない。入学式本番の朝だから緊張はしているんだろうけど、こないだほどにはナーバスにはなっていないようだ。

「じゃなくって、もう着替えなきゃ学校間に合わないじゃん!」

「え、在校生は休みだぜ」

「えーー、入学式よ、かわいい妹の!」

「お袋が付いていくだろーが」

「お母さんは学校のことなんか分かんないじゃんよ!」

「入学式なんて、言われた通り起立と礼と着席やってりゃいいんだよ」

「もーー! どこかのミサイルとか飛んでくるかもしれないじゃん!」

「どーいう発想なんだよ(^ω^;)」

「世の中なにが起こるか分かんないってことでしょーがあ!」

「んなこたー、万に一つも起こらないから安心しろ」

 さらなる文句を言うために息を吸い込んだところでお袋の声。

――菊ちゃん、もう出るわよ~――

「もー、その呼び方やめてよ、学校で定着したらヤダー」

 プータレながらも玄関に行く小菊、二言三言あってドアの閉まる音。

「ハハハ、元気に行ったな」

 居眠りしていた祖父ちゃんが陽気に笑う。

「あ、今まで寝たフリ」

「菊ちゃんがプータレてる時は、余計な半畳は入れない」

「ま、ややこしくなるだけだけどな……でも、小菊の制服ピッタリすぎやしない? じきに小さくなるよ」

「制服を大きめにあつらえんのは中学までだ、女子高生ってランクは、まず身だしなみだ。小さくなりゃまたあつらえりゃいいさ」

 どうやら小菊の制服代は祖父ちゃんが出したようだ。

 チーーーン

 納得したところでトーストが焼き上がる。

 半分まで食べたところでスマホが鳴る。

「え、ヨッチャン!?」

 案の定、ヨッチャンの連絡ミスだ。冷めたトーストを頬張りながら制服に着替える俺。

「ごめんねぇ、まだ学級委員とか決めてなかったから~(^人^;)」

 学校に着くと、とりあえずは詫びてくれるヨッチャン。で、次の呼吸で用事を頼まれる。

「あれ、妻鹿くんも学級委員?」

 廊下で一緒になった木田さんに聞かれる。ほら、二年のクラスでいっしょだった副委員長。

「ピンチヒッター、ヨッチャン抜けてるからさ」

「アハハ、そうなんだ」

 言われたかないよ、合格者登校日には木田さんのピンチヒッターやらされたんだからな。

 職員室に行くと新入生のクラスに持っていく諸々の物品が入った段ボール箱を渡される。

 チラ見すると、十種類以上のプリントやら冊子。

 こんなもの一度に渡されたって読まねえよ(渡しました=伝えました)って学校のアリバイだ。

 でも文句も垂れずに一年三組への階段を上がる。

「配布物を持ってきました」

 告げると担任は入学式の説明の真っ最中。黒板には諸注意や式場までの経路や席順が書いてある。

 こんないっぺんに言ったって分かんねーよなあ……思いつつも口には出さない。

「失礼しました」

 挨拶して廊下に出て階段にさしかかったところで、後ろから足音。

「ちょっと兄ちゃん!」

 振り返るとヘタレ眉の小菊ではないか。

 え、え? こいつ、いま「兄ちゃん」て呼んだよな?

 で、小菊は、俺に難題をふっかけたのだ……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校二年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校一年
  • 妻鹿小菊           中三 オメガの妹 
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校二年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校二年 幼なじみの神社の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)

 

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魔法少女マヂカ・286『八丈島沖空中戦・2』

2022-08-22 14:06:45 | 小説

魔法少女マヂカ・286

『八丈島沖空中戦・2語り手:マヂカ 

 

 

 ズビビーーーーーン!!

 ウワアアアアアアア!?

 

 第二斉射を発した瞬間、脱水モードの洗濯機のように北斗は前後を軸とした左回りに高速回転し始めた!

「スタビライザーが効いてないぞぉ!」

 コマンダーシートにしがみ付きながら安倍隊長が怒鳴る。北斗には発射後のトルクを打ち消すスタビライザーが付いているのだが、それが効いていない様子だ。

「オートになっているんじゃないのか!?」

「火力と姿勢制御が同期してない!」

 ズビビーーーーーン!

「トリガーを戻せ! ファイアのままだ、エネルギーを使い果たしてしまう!」

「ダメだ、手を離したら飛ばされてしまう。二回クリックのオフができない! 先にスピンを停めてくれ!」

 ブリンダの言うことももっともだ、手を離したら、そのとたんに振り飛ばされて二度とグリップを握れない。

 ブリンダとサムもコンソールの枠やトリガーグリップにしがみ付いて、なんとか耐えているのだ。

 わたし(マヂカ)は、いつでも飛び出せるように前部ハッチの窪みに収まっていたので、振り回されてはいるが比較的に手足の自由は利く。

『手動でスタビライザーの調整をしてみてくれんか』

 モニター画面の来栖司令が申し訳なさそうな顔で指示を飛ばす。

「Gがかかって、とても……」

 言いながらも、安倍隊長はコンソールのダイヤルに手を伸ばす。

 シュィーーーーーン

 制動音をさせながら北斗は回転の速度を緩め、これで停まると思った……

「トリガーを戻せ!」

「おう!」

 ウィーーーーーーン

 今度は逆回転し始めた。

「まずい、トリガーが戻らなくなったぞ!」

 ズビビーーーーーン!!!

 今まで以上の勢いで北斗は右舷に指向したままの搭載兵器を発射し続ける。

 わたしは、回転軸の真芯にいるので体の自由が利く。

 ハッチに足を掛け、狙いを定めてジャンプすれば後方にある緊急制動装置のスイッチが押せる。

 ただし、緊急制動を掛けてしまえば、復帰に時間がかかって、その間に定遠・鎮遠の二艦に逃げられる。あるいは袋叩きにされるだろう。

 この瞬間にも、攻撃されて八丈島沖の藻屑になるかもしれないのだ。

『緊急制動を掛けると同時に機体を離れろ!』

 司令も同意見のようだ……が、大塚台公園の司令所から言うほど簡単なことではない。

『早くしろ! 燃料を使い果たしたら、自然に停まるのを待つしかないぞ!』

 分かってる、タイミングを計ってるんですよ、司令……

 むかし、鞍馬の山で牛若丸に剣術を教えてやった時のことを思い出した。

―― いいか、剣術の要諦は避けることだ。相手の打ち込み、切り込みを避ければ、隙が見えてくる。見えた隙に打ち込めば、一合で倒せなくとも、繰り返すことで倒すことができるんだ。これをタイミングと言うんだ ――

 言いつけを守って、牛若丸は五条の橋で弁慶に勝利した。

 その時の牛若丸の緊張感が理解できた。

 

 今だ!

 

 弁慶の憎ったらしい顔が浮かんで、ここだと閃いた。

 セイ!

 ハッチの裏側を蹴って跳躍!

 パシ!

 過たず、制動ボタンを押す、押せた! 弁慶の脛に一撃を食らわせて勝負を付けた牛若丸のドヤ顔も、今は理解できるぞ。

 ガックン!!

 すごい衝撃があって、北斗は緊急停止した。

 

 コンコン コンコン

 

 北斗の車体を叩く音で覚醒した。

 他のクルーも無事なようだが、まだ意識は戻っていないようだ。

 予備電源が使えるのを確認して、モニターを点ける。

『みんな無事か?』

 孫悟嬢の心配げな顔が写った。

「ああ、緊急制動を掛けて、なんとかね……定遠と鎮遠は?」

『北斗の右舷側に占位していたんで、まともに喰らって擱座したよ。お蔭で、命拾いした。どうだ、自力で出られるか?』

「ああ……なんとかね、みんな気絶してるから、起こして外に出るよ」

 起こすまでもなく、振り返ると、二人の話声で意識の戻った三人は、こちらに向かって親指を立てていた。

 

「怪我の功名、こっちの勝ちでいいのか?」

 

 大破して空中で擱座している二艦を見てブリンダが振り返る。

「擱座する直前に船霊が抜けた形跡がある。油断はできないよ」

「うちの北斗もロートルだけど、定遠・鎮遠もたいがいだったんだ」

「フフ、隊長だって」

「あたしは、そこまでロートルじゃない!」

 ジト目のサムに安倍隊長の目が三角になる。

「どうします、隊長、定遠・鎮遠の撃破はできたけど、ここにポチョムキンが来たらお手上げですよ」

 担任でもあるので、少し穏やかに聞いてみる。

「そうね、とりあえず北斗は後退させるしかないでしょ。サム、自力走行は可能なのかしら?」

「微速ならなんとか、羽田沖に着くころには、テディ―部隊に牽引してもらわないと空蝉橋の格納ハッチは潜れそうにない。あそこでグズグズしていたら位相変換も間に合わなくなる」

「そうね、こないだも緊急発進で実態をさらしてるし……」

「アナログ誘導ならオペレートに三人はいるぞ」

 ブリンダも眉を寄せている。

「……一人でも残せるんなら、わたしが残ります」

「マヂカ」

「わたしなら大丈夫です、あいつらと長い付き合いだから駆け引きは分かってます。たとえ引き分けでも、アドバンテージとって終わりにしたいですから」

「孫悟嬢もついてる」

 悟空の孫娘も胸を叩く。

「決着つけるところまではやりません。今夜は大塚台の基地で対策を練りましょう、その材料集めのためにもね」

「そう……じゃ、くれぐれも無理はしないで。行くわよ」

「「イエス、マム」」

 

 グギギギィ……

 これでも特務の高機動車かというような無様な音をさせて、北斗は空域を離れて行った。

 

「大連以来だからお茶でもしたいけど、どうも、その余裕も無いみたいね」

「ピッタリのタイミングだね」

 孫悟嬢の視線を追うと、擱座した二戦艦の斜め後ろから船霊が浮かび出はじめている。

「おや……」

 八割がた明らかになった姿は、予想した中国風ではなかった……。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長 アキバのメイドクィーン(バジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン一世)
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔
  • サム(サマンサ)     霊雁島の第七艦隊の魔法少女
  • ソーリャ         ロシアの魔法少女
  • 孫悟嬢          中国の魔法少女

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査
  • ファントム      時空を超えたお尋ね者

 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・42『4月6日は始業式』

2022-08-22 06:27:35 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

42『4月6日は始業式オメガ 




――笑顔は苦手です( ノД`)シクシク…――

 ハワイからのメールだ。

――シグマちゃんも元気してま~す!(^0^)!――

 松ネエからもメールをもらっていたので、ちょっと戸惑う。

 でも、両方とも本当なんだと納得する。

 松ネエは人を見る目が暖かい。だから、シグマが頑張っているところに重心を置いている。メールを読んだ俺が「ハワイでも頑張ってんだな!」と、明るく肯定的に接するだろうことまで見越している。

 シグマも深刻に悩んでいるわけじゃない。深刻に家に籠っているのならハワイくんだりまで三泊四日で行こうとはしないだろう。

 でも、こういう緩い悩みでも積み重なれば山になることもある。

 それに――先輩は笑顔が上手くていいですね――という気持ちが底にある。

 ω口の笑顔にも悩みはあるんだぜ……。

 

「真剣に話してるんだから笑わないでよ!」

 ヨッチャンが眉を逆立てた。今朝のヨッチャンは気が立っている。
 
 噂によると、ヨッチャンは担任を下りると叫んだんだそうだ。

 三年の担任は進路がかかっているから責任の重さを感じたイラ立ちがあるんだろう。

 先生が気を揉まなくったって、たいていの生徒は自分で折り合いを付けた進路に進んでいく。そう前のめりになることもないと思うんだけど、これがヨッチャンの性分だ。

 だから、始業式が終わってのクラス開き、ヨッチャンはホームルームの半分以上を使って演説した。

 黒板には『四当五落!』とか『成功の女神には前髪しかない!』なんてスローガンだか脅迫だか分からんものが書いてある。

 秋には決まってしまう、決めてしまわなきゃいけない進路だから、もう時間ないのよ! あんたたち分かってるぅ!?

 そういうことを言ってるんだけど、俺を含め三年A組の生徒は聞くふりをしているだけ。

 でも妨害はしないし、きちんと教壇のヨッチャンを見ている。

 気の回らない先生だけど、やっぱ担任の先生なんだという敬意は払っている。でも、聞くふりになってしまって、頭ではスマホのメールがループしていたんだ。

 そいで、俺的には、ちょっと寂しく思い出していたんだけど、その顔がヨッチャンには笑っているように見える。

「よう、三年もよろしくな!」

 ホームルームが終わると、ノリスケに肩を叩かれた。これでノリスケとは三年連続のクラスメートだ。

――麺類だけだけど、今日から食堂は開いてます――

 きょう唯一有益だったヨッチャンの情報で学食に向かう。

「オバチャンは、やっぱ学食の服装があってるよな」

 牛丼屋にパートに行っていた南さんが八面六臂でオーダーをこなしている。たくましいなあ~。

「「ども」」
「アハハハ」

 これだけで南さんとは通じてしまう。で、南さんが視線を移した。

「あ……」

 視線の先、入り口の近くの席にスぺ蕎麦をすすっているシグマが居た。帰ってくるのは今日の午後だと思っていたのでビックリした。

「なんだ、もう帰ってたのかぁ?」

 スぺ蕎麦をトレーに乗っけてシグマの前に向かう。

「始業式はパスかと思ったぜ」

「朝いなかったしな」

「遅刻でさっき来たとこ……」

 箸を止めて上げた顔、なぜか目には光るものがあった。

「お、おい」

「やっぱ、ハワイの笑顔は疲れますぅ(´;Σ;`)ウッ…!」

 あいかわらずのΣ顔だけど、とびきりの泣き笑いだというのが分かる。

 なんだかシグマが戦友のように思える始業式の昼下がりだった。
 


☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校二年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校一年
  • 妻鹿小菊           中三 オメガの妹 
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校二年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校二年 幼なじみの神社の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)

 

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くノ一その一今のうち・16『丸の内 徳川物産』

2022-08-21 10:38:18 | 小説3

くノ一その一今のうち

16『丸の内 徳川物産』 

 

 

 けっきょく学校の制服にした。

 

 丸の内の狸オヤジの会社に行くのに、困った。何を着て行けばいいのかなって。

 アルバイトとは云え、百地事務所を代表……なんかしてないんだけど、一員として行くわけだから、それなりのナリでなくっちゃと考えた。

 だけど、百地の制服めいたものは、あのヨレヨレで石鹸くさいジャージしかない(;'∀')

 だから、学校の制服。

 女子高生の制服って、一種の迷彩服……て云うのは『リコリスリコイル』の中の台詞だけど、ほんとにそうだよね。

 髪は自然なブラックで、スカートの丈が五センチくらい膝上で、それ以外はちゃんとしていたら、人畜無害の女子高生で、それだけで風景に溶け込める。

 

 ところが、丸の内っていうのは、この女子高生迷彩がかえって目立っているような気がしないでもない。

 今は、四時過ぎなんだけど、この時間て、日本中どこでも下校時間のピーク。

 たいていの日本の街で高校生が歩いてる。帰宅組だったりバイトに向かうのだったり、仲間同士でブラブラだったり。

 それが、この丸の内では見かけない。

 

 ひょっとして、丸の内辺に高校って無いのか?

 スマホを出してググってみる。

 あ…………無いよ。

 丸の内が頭に付く学校は、一つあるけど高知県。東京には一つもない。

 千代田区には六つほど高校があるんだけども、丸の内には一つもない。

 チ

 思わず舌打ちしてしまう。

 !!?

 とたんに真後ろで人の気配がして、跳躍しながら振り返って、五メートルほども飛んでしまう。

「君は、どこの高校なのかなあ」

 目だけ笑わない笑顔で警察官が、わたしを見てる。

「あ、え、バイトの面接に行くところ……です」

「そうか、お巡りさんは『どこの学校』かって聞いたんだけどね」

 こいつ、あたりは柔らかいけど、疑りの眼差しだ。

 それに……こいつ、すごくデキる。

 わたしに気取られないで真後ろに立つなんて、並みの警察官にできる技じゃない。

「アハハ、ビビらせたのなら、ごめんなさいね。ここ、丸の内でしょ、皇居と東京駅の間だし、国会議事堂とかお役所も多いしね。ついね。警視庁は奈良県警みたいな失敗はできないしね」

「そ、そうですよね(^_^;)、いきなり声かけられちゃって、ビックリしちゃって。あ、生徒手帳見せますね」

 背中のカバンを下ろして、胸元で開けようとしたら、すごい殺気!!

 セイ!

 今度は10メートルもジャンプ!

 ニャンパラリンをきめて、着地すると、もう殺気はおろか、警察官の姿も無い。

 チ…………なんなんだ、あいつは?

 すると、幾人もの視線が足もとから突き刺さって来る。

 しまった、わたしってば、信号機のポールの上までジャンプしてしまっていたんだ(;'∀')。

 

 徳川物産

 

 八階建て……そんなには高くないんだけど、戦前からあったんじゃないかと思われるビルは、ちょっとした神殿みたい。

 で、まさか、その八階建てがまるまる徳川物産だとは思わなかった。

 だって、わたしの生活圏にあるビルって、みんな雑居ビル。

 区役所や図書館とか郵便局とかも合同ビルで、ビル一個まるまるっていうのは警察と消防署ぐらいのものだから、会社一個で一つのビルっていうのは見たことない。

 それに『徳川物産』って看板が、真鍮製とはいえ、学校の看板よりも小さい。

 普通は、入ったとこにテナントの看板が並んでて、共同の郵便受けとかがズラッと設置されてるって感じでしょ。

 受付で挨拶すると、IDをくれて、四階の総務部に言ってくれと言われる。

 たかがバイトだから、受付のうしろの1~5まである出入り業者用の、あるいは玄関払い用の応接の一つだと思ったから、なんというか、お城で云ったら本丸って感じ?

 恐るおそる総務部のドアをノックして来意を伝えると、「あ、これは総務二課ですので、八階の総務二課の部屋になります。ご案内しますので、こちらにどうぞ」

 ちょっとレトロな事務服のおねえさんが案内してくれる。

 終始穏やかに微笑んでるんだけど、余計な話はしませんというオーラ出まくりで、八階の総務二課へ。

 チーン

 事務服オネエサンとエレベーター。

 コーン コーン コーン

 天井の高い廊下に事務服おねえさんのパンプスが響く。

 仰いだ部屋の表示は……社長室!?

 

 なんと、総務二課は社長室の隣だ。

 

「はい、総務二課は社長室直属の配置になっています。少々お待ちください」

 そう言って、総務二課に入って行って二十秒ほどだれかと話して出てきた。

「どうぞ、ここからは総務二課の者がお相手いたします」

「は、はひ」

 なんか緊張して間抜けた応えをしてしまう。

「失礼します、百地芸能事務所から参りました、風魔そのと申します」

「ご苦労で御座った、暫時、それにてお待ちくだされ」

 まるで『吠えよ剣!』の台詞みたいな返事。

 

 顔を上げると……そいつはロボットだった!

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん

 

 

 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・41『ハワイ@ホーム・4・試運転』

2022-08-21 06:45:26 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

41『ハワイ@ホーム・4・ 試運転シグマ 




 歳の差は二つだけだ、あたしと小松さん。

 でも、チョウチョと毛虫くらいの違いがありますよ。

 お祖母ちゃんちに着いた日は、ハワイ@ホームで働く女の子たちも集まってパーティーになった。

 女の子たちは歳こそ近いけど、民族的には、白人、黒人、ネイティブ、ヒスパニック、日系、中国系、韓国系とバラバラ。お祖母ちゃんが、わざとしたのか、ハワイの民族構成が反映されているのかは分からないです。

 でも、民族はバラバラだけど、中身はみんなアメリカ人。

 明るく表情も豊かで、とってもフレンドリー!

 彼女たちがやってきて、わずか五分で握手の新記録。

 彼女たちを含め三十人のゲストがみんな握手。あたしは、これまでの十六年間で、この日の半分も人の手を握っていない。

 なんだか、もう握手会みたいで、アイドルは偉いと思った。

 五人目くらいでくたびれて、慣れない笑顔が引きつってくるんです。

 握手によるハッピーは基準値があるのか、あたしの笑顔が弱くなってくるとアメリカネエチャンたちの握手力が強くなる。

 ノブヨという日系ネエチャンは、なんと、あたしにハグしてきた。

 パッと見は日本人なので、ビックリは倍になる。

 ノブヨはほっぺたをくっ付けてスリスリまでする。心臓がドックンで、なんだか百合フラグが立ってしまったのではないかとオタオタ(;'∀')。

 でも、小松さんたちは余裕で対応していた。

 小松さんは、なんだか銀行の案内係のオネエサンみたいに大人びていましたよ。
とっても優雅で、アメリカネエチャンたちが子どもじみて見えてしまった。

「ハーーーあたしなんか、まだまだよぉ」

 洗面でいっしょになったら、歯ブラシ咥えながら、小松さんはため息ついた。

「メイドは永遠の十七歳で、夜にはタンポポの毛に掴まって雲の上のお家に帰るんだもん。さっきのあたしは、そんなメルヘンじゃなかった」

 小松さんの志は高いのです。

 

 昨日は一人でパールリッジショッピング センターのオタクショップに行ってきました。

 

 ハワイ@ホームの開店祝いに配るグッズを買うためだけど、正直エスケープなんです。

 日米16人のやる気ムンムンの中に居たら、空気を壊しそうだし。

 教える方も教えられる方も、まぶしいくらいにキラキラしているんですよ。ひとりだけ手持無沙汰でポツンとしていたら、Σ顔が尖がりすぎて、誰かを傷つけてしまうかもしれないもの。

「自分のは買ってこなかったの?」

 アキバに比べれば数段見劣りするグッズにも、メイドとメイド候補生たちはキャピキャピの反応。新しく店を開くというのは、こんなにも人をキラキラさせるんです。

「だって、ハワイにはエロゲないんだもん!」

 精一杯の強がりを言ってみる。

 今日はハワイ@ホームの試運転。

 お祖母ちゃんの仕事関係や交友関係の人たち、メイドさんたちのお友だちなどが午前と午後の二回に分かれてやってくる。

 制服(メイド服)の力はすごいです。

 押し出しの強すぎたアメリカンメイドたちも程よくメルヘンになっている。

「「「「「「オカリナセマセ、ゴシュジサッマ~!」」」」」」

 制服でない彼女たちから挨拶されたら、お客さんたちは鏡に映る自分の姿を確認しただろう。

 だって、ハリポタの呪文で魔法をかけられたに違いないと思ってしまうから(^_^;)。

 あたしは記録係という仕事を与えられ、すこし時代物のプロカメラ担いで、ひたすら撮りまくりました。

 これだと自分がカメラの付属物になったみたいでラクちんなのだ。

 お祖母ちゃんも、あたしの性格を知っていての上手いはからいです。

 明日は日本に帰ります。

 

 あとはエンターキーを押すだけ…………でも、バックスペースに指を掛けて、ダーーっと消してしまう。

 こんなメール、やっぱり送れないよ。
 

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校二年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校一年
  • 妻鹿小菊           中三 オメガの妹 
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校二年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校二年 幼なじみの神社の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任



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せやさかい・343『ジャガイモ尽くし』

2022-08-20 10:15:04 | ノベル

・343

『ジャガイモ尽くし』さくら   

 

 

 夕べのディナーはジャガイモ尽くしやった(;'∀')

 

 お料理が出てきて思い出した。

 ヤマセンブルグは、ご先祖の遺徳をしのぶため、慶弔の行事があったときは、ご先祖が食べてたのと同じものを食べる。

 ジャガイモのソテー、 イモサラダ、 ジャガイモのスープ、 ベーコンとジャガイモのボイル、 ジャガイモのガレットなどなど……

 そうなんや、初代のヤマセンブルグ辺境伯がスコットランドで汚れ仕事をしてたころに食べてたメニュー。

 これでも味付けは現代風にしてあって、見かけほど不味いものでもない。

「お祝い事の時は、まだいいの。不幸があった時は、ほんとに味が付いてないんだよね」

 こそっと頼子さんが言ってくれる。

「でもね、いっそう不幸な顔をしていられるから、そういう時にはピッタリなの」

 もちろん、夕べは頼子さんが正式に王女になったので目出度い方のジャガイモ尽くし。

 モグモグ ムシャムシャ ハムハム……

「あ、ひょっとしたら!!?」

 思わず叫んでしもて、みんなの注目を浴びてしまう!

 頼子さんはポーカーフェイスで、女王陛下は――思い出したぁ?――というお茶目な顔でうちの顔を見はる!

 留美ちゃんは俯いてるし、詩(ことは)ちゃんは顔いっぱいに?マークを浮かべてる!

 

 ああ、やっぱりこれやったあ(,,꒪꒫꒪,,)!

 

 エディンバラ以来馴染んだジャージに麦わら帽子を被って、ジャガイモの収穫をやってる。

 宮殿の庭にある60アール(プールの水面二枚分くらい)の畑でジャガイモの収穫。

 むろん、これもご先祖の御遺徳を偲ぶための王室行事。

 日本の皇室でも、天皇陛下は田植えと稲刈り、皇后陛下はお蚕のお世話をなさっています。

 女王陛下が若いころ来日して天皇陛下と、この農耕儀礼の話で盛り上がって、大いに発奮して規模を大きくしたんやとか。

頼子:「お父さん(亡くなった皇太子)は、この芋尽くしが嫌いでね、お祖母ちゃんに反発してて、芋畑の縮小を主張したんだけど、天皇陛下のお話を聞いて勇気百倍になって……ウンショ! 今の規模にしたの」

留美:「三年前は、外の御用畑だったですよね? ヨイショ」

さくら:「せや、ここの十倍はあったよねえ……ドッコイショ!」

詩:「十倍!?」

頼子:「お祖母ちゃんも歳だからね……ほら、エディンバラじゃ張りきり過ぎてたでしょ」

 ミリタリータトゥーで、ニ十歳は若く見えるステップを踏んでたのを思い出す。

みんな:「ああーーーーー」

頼子:「でもね、それがきっかけで、お父さん、国を飛び出して世界中を放浪してお母さんに出会ったの」

詩:「ということは、この、ジャガイモ畑の一件が無かったら、頼子さん、生まれてない?」

頼子:「うん、人間万事塞翁が馬だよね」

さくら:「お祖父ちゃんが言うてた。悪事が善を善が悪事を呼ぶこともある。ことの良し悪しは分からんもんや」

詩:「だから、阿弥陀さんは人間全てを極楽に連れて行ってくださる!」

詩・さくら:「ナマンダブナマンダブ……」

頼子・留美:「アハハハ(^▽^)」

みんな:「ワハハハハハハ」

ソニー:「そこ、喋ってないで手を動かして!」

頼子:「うう、妹の方は容赦なさすぎぃ、ヨイショ!」

 

 ソフィーはメグさんやジョンスミスといっしょに、午後からの行事の為、すでに警備配置に就いてる。

 安倍さんの一件から、世界中でVIPの警備は厳しくなってる。

 世界に警鐘を鳴らした安倍さん、改めてナマンダブです。

 

 王立墓地は全体としては森の形をしていて、いかにも深淵な墓地の風格。

 中に入ると『の』の字型に渦を巻いてる。『の』の字の真ん中に初代ヤマセンブルグ辺境伯のお墓、その横にお妃、二代目、三代目と渦巻き状に続いて、一周したとこで周囲に木を植えて、それが連続して、いつしか『の』の字の形になったらしい。

 むろん、木々の間を抜けてショートカットすることも出来て、急いでるときや、お忍びのときは、ショートカット。

 出方は幾通りにも出来るわけで、警備はしやすいらしい。

頼子:「あ、もう用意してある!」

 ほとんど真ん中に来た時、皇太子のお父さんのお墓で頼子さんの足が停まる。

詩:「この区画?」

 お父さんのお墓の横の区画は、草が刈られ、境界の石も磨かれてた。

頼子:「わたしは、ここに葬られるんだねぇ……」

 なんとも、ヤマセンブルグは打つ手が早い(^_^;)

 

 その後、女王陛下もお出ましになって、先祖代々の王様に正式な王女になったことをご報告。

 それを後ろから見うと、うちらの頼子さんが、ちょっと手の届かんとこに行ってしまうみたいで、ちょっとウルウル。

 

 それからは、国立軍人墓地にまわって、五人の戦死者にお花を捧げました。

 むろん、国内はもとより世界中のマスコミやらユーチューバーやらが取り巻いて、正式な王女になったことと併せて、ニュースやら動画で世界中に流されました。

 それから、一日の猶予があって、うちらは残暑厳しい日本に帰ります。

 

「殿下、新しいパスポートをお持ちしました」

 

 軍服に身を固め、ビシッと敬礼しながらソフィーが真新しいパスポートをテーブルに置いたのは、その日のディナー。

「ありがとう、ソフィア少尉」

「では、失礼します」

 きれいな回れ右で退出するソフィー。

 わたしも、三年前よりかは賢くなって、これくらいのことは分かる。

 パスポートは、一日や二日ではでけへん。

 おそらくは、うちらが日本を飛び立つ前には決まってたことやねんわ。

 そろっと開かれたパスポートの発行は、その通り8月8日になってたよ。

 

 ※ エディンバラ・ヤマセンブルグ編は、ここでおしまい。また、月に五六回の不定期になりますけど、よろしくお願いいたします(^▽^)/   8月20日  酒井 さくら♡

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー       ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 女王陛下      頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 
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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・40『ハワイ@ホーム・3・メイド修業』

2022-08-20 06:46:08 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

40『ハワイ@ホーム・3メイド修業小松 



 やっぱり日本人なんだ。

 どうなることかと思ったけど、十三人のアメリカ人を前に研修を始めてみると一生懸命になってしまう。


 メイドの基本は笑顔と姿勢なんだ。

 日本人は一般的に笑顔は苦手。スナップ写真なんかで「笑って~」と言われて、いい笑顔になれる人はめったにいない。「はいチーズ!」とかやっても虫歯を堪えているような顔になったり、バラエティー番組のようなアホバカ笑いにしかならない。

 だけど、アキバのメイドは違う。

 ソフトで可愛くてちょっぴり上品に笑顔が作れる。

 アキバの萌え文化というのは、ひょっとしたら魔法なのかもしれない。

 @ホームで働き始めたころは妖精さん(社員さん)から「パインの笑顔はキャビンアテンダントだよ」と言われた。

 なるほど鏡に映してみると、大人の笑顔だ。

 大人の笑顔というのは「歓迎はしますがルールは守ってくださいね」というスーツを着たような硬さがある。むろんアキバにも無言のルールはある。人に迷惑を掛けたり嫌な気にさせたりしてはいけないとかね。

 でも、スーツにネクタイというような硬さはない。ゆるキャラのユル的な感じ。

 水が合っていたのか、あたしは二日で馴染んだ。

「えと、メイドは永遠の十七歳で、夜にはタンポポの毛に掴まって雲の上のお家に帰るんですよ(^o^;)」

 あせったけど、この言い回しが通じた。イエスとかアンダストゥッドの声が上がる。

 習うより慣れろで、一通りのレクチャーが終わったあとは、ご主人様とメイドに分かれてロールプレイング式の実習。

「オカリナセマセ、ゴシュジサッマ~」

 日本語では意味が通じないので英語にする。「Please return,master」とか「Have a good time,master」とかに訳してみるが、十三人の見習いメイドは納得しない。

「みんなも頑固ねぇ」

 ミリーさんも呆れたが、みんな諦めない。けっきょく通じなければ意味が無いということで、二人のメイドが日本語と英語でやるということに落ち着く。まあ、同時通訳です。


「オカリナセマセ、ゴシュジサッマ~」
「Please return,master」

 なんとかなったところでメイドの制服に着替えてもらう。

 制服には魔法のような力がある。

 十三人、二十六個の目がキラキラしてきた。

 悔しいけど脚が長くて姿勢がいいものだから、私服の時よりも二倍はサマになっている。

「笑顔はタンポポのように(*^0^*)ね」

 ちろるさんが見本を見せるが、みなさんバラとかヒマワリ、中には花の女王ラフレシアかというようなゴージャスな笑顔になる。

「どうなんだろね( ˊᵕˋ ;)

 もなかさんが苦笑いになったところでコーヒーブレイク。

「ちから付けていきましょ!」

 ミリーさんが、お皿に山盛りのフライドチキンを出してくれる。ほら、ミリーさんがアキバに来た時にうちの@ホームでこさえてくれて、うちの新メニューにもなっているやつ。

 あたしは思った……このフライドチキンにはバラやヒマワリ的な笑顔の方が似合うかも。

 夕方になってシグマが戻って来た。

 シグマはパールリッジショッピング センターにオタクショップがあると聞いて朝から出かけていたのよ。

 両手に一杯の戦利品……と思いきや、彼女は手ぶらだ。

「気に入ったのなかったの?」

 そう聞くと、シグマは口を尖らせたまま笑った。

「もう着くわ(o^Σ^o)」

 店の外にはワンボックスが停まっていて、オニイサンが何箱もの段ボール箱を台車に移している。

「あ、あれ全部!?」
「まさかーー!?」

 運び込んできて分かった。

 シグマはミリーさんに頼まれ、お店の開店祝いにお客さんたちに配る景品を探しに行っていたのだ。

 一部はメイドの子たちへのプレゼント。愛着を持ってもらいたいのでお客さんに配るのと同じものだ。

 仕分けすると何も残らない。

「自分のは買ってこなかったの?」

 頬杖ついたまま目だけ向けて、こう答えた。

「だって、ハワイにはエロゲないんだもん(ㅎ.ㅎ)」

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校二年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校一年
  • 妻鹿小菊           中三 オメガの妹 
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校二年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校二年 幼なじみの神社の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
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せやさかい・342『涙腺崩壊』

2022-08-19 13:25:43 | ノベル

・342

『涙腺崩壊』さくら   

 

 

 特別番組?

 

 窓辺でスマホをチェックしていた詩(ことは)ちゃんが呟いた。

 詩ちゃんは、うちの十倍は賢い。

 その賢さは、才能もあるんやろけど、日ごろの努力によるところが大きい。

 暇な時間があると、ゴロゴロとかボーっとかしてるのがうちやけど、詩ちゃんは、なにかしら調べものとか読書とかしてる。

 この旅行に来てからも、スマホを開いては現地のニュースやらトレンドを調べるのが日課。

 この酒井さくらも半分は同じ血が流れてるんで、素養はいっしょやと、小さいころから自分に言い聞かせてる。

 ちょっと手遅れ? ほっといて!

「え、また24時間テレビ? 鳥人間コンテスト?」

「ばかね、ここは日本じゃないんだよ」

「アハハ、せやせや」

 

「ねえ、なにか設営してるよ!」

 今度は、朝から宮殿の図書室に行ってた留美ちゃんが、息を切らして戻ってきた。

 で、両方の情報を突き合わせると、午後から、王族の人たちがバルコニーにお出ましになって、宮殿前に集まる国民にスピーチをするらしい。特番は、その実況中継であるらしい。

「それで、頼子さん会議とかで抜けてたんやねえ」

 さすが一国の王女さま(暫定やけど)、夏休みでも自由にはなれへんのや。

「「たぶん」」

「あ、頼子さんから(^_^;)」

「う、うん。ヤマセンブルグの戦死者が五人になったって、オリエント急行に乗ってるときに……」

「わたしも、ネットで見ました」

 知らんかった。

「ヤマセンブルグの五人は、日本に当てはめたら百倍だろうからね」

「そのための、追悼のスピーチなんだろうね」

「おそらく、亡くなられた人たちには勲章授与とか」

「その段取りとか、勲章の種類とか、難しいことがあるんでしょうね」

 さすが、留美ちゃんと詩ちゃん。洞察力がちゃいます。

 

 せやさかい、うちらは、宮殿の皆さんに気を遣わせないよう、お邪魔にならないように、静かに半日を過ごして午後を待ちました。

 

 せやけど、現実はうちらの想像を超えていました。

 うちらは侍女のコス(正確には、王女さまのご学友コス=むかし、王室にあった王族貴族学校の制服)を着て、バルコニーの端っこに並びました。

 ファンファーレが鳴って女王陛下がお出ましになると、前庭と、そこからはみ出して王宮前広場に集まった人々から歓声が起こります。

 ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!

 陛下が肩の高さまで右手をお上げになると、数秒で静かになる。

 中学の全校集会を思い出す。

 全校集会は、校長先生が立っても静かにはなれへんので、春日先生とか生活指導の先生が「じゃかましいんじゃ!!」と一喝せんと収まれへんかった。

 この一つをとっても、女王陛下の権威と人気はすごいもんやということが分かる。

「ここにお集まりのみなさん、テレビなどで中継をご覧のみなさん、今日は大事なお話をしなければなりません。おそらくは、あの大乱の中で即位宣言をした時以来の重大なスピーチになるでしょう」 

 フワリと吹いてきた風が陛下の前髪を乱して、それを、そっと直してお続けになる。

「我々の五人の軍人が、かの地で戦死を遂げたことは記憶に新しいところです。本来ならば、国を挙げて喪に服さねばならないのですが、彼らが生前に残した言葉『万一、戦死することがあって、その知らせに接しても、喪に服すのは戦争が終わってからにしてほしい。まだまだ戦いは続くのですから』に従って、彼らの意思を尊重して、今しばらく辛抱することにいたしましょう。ただ、このままでは、わたしたちの思いと感謝の行き場所がありません。まずは、この場を借りて、彼らに感謝の心を捧げるために彼らにヤマセンブルグ栄誉勲章を授与するとともに、彼ら五人を男爵位に列することを宣言します」

 満場の拍手がとどよめきが沸き起こった。

 その満場の人々一人一人の目を見つめるように、言葉を停めたまま、幾度も頷かれる。

「もうひとつ、お伝えすることがあります」

 

 再び、万余の人たちが息を整えて陛下に注目する。

 

「本日、わたくしの孫が、正式にヤマセンブルグの王位継承者になります」

 ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオ! ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!

 今まで以上の歓声が王宮前広場に木霊し、広場に面した窓ガラスがビリビリと振動するほどになった。

「ヨリコ、ここへ」

 呼ばれた頼子さんは、緊張しながらも笑みをたたえて陛下と並んだ。

 その頼子さんの背中を、女王陛下はそっと押して、一歩後ろに下がられる。

「もう少し考えようと思いましたが、女王陛下並びに国を代表する総理大臣はじめ三権の長、議会のみなさん、そして、なにより国民の皆さんの、わたしへの期待と気持ちを受け止めるのは、今を置いて他に無いと思い至りました。まだまだ未熟なヨリコですが、陛下と国民のみなさんのご期待と負託にお応えするために、本日ただいまをもって……日本国籍を離れ、ヤマセンブルグ王位継承者たる王女になることを、ここに宣言いたします!」

 ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオ! ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!

 ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオ! ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!

 今度は、なななか静まれへん(^_^;)

「迫水日本大使閣下……」

 頼子さんが呼ぶと、バルコニーの端っこに居った風采の上がらんオッサンが寄ってきた。

 そして、頼子さんが手にしたのは日本のパスポート。

「十八年間お世話になりました。ここに謹んで日本のパスポートをお返しいたします」

「謹んで、ヨリコ王女よりパスポートをご返納いただきました」

 8888888888888888888888!!!

 オチョケて拍手を888で表現せなあかんくらい、ちょっと涙腺崩壊。

「すこしだけ我がままを許してください」

 頼子さんが向き直ると、また水を打ったような静けさになる。

「わたしは、まだ18歳で、日本の聖真理愛学院高校の三年生です。来年の四月には卒業します。それまでは日本に滞在することを許してください。そして、18歳のこの日まで、わたしをはぐくんでくれた日本と日本のみなさんに、少しでも恩返しすることと日本とヤマセンブルグの橋渡しをすることをお許しください……宜しいでしょうか……」

 8888888888888888888888!!!

 さらなる満場の拍手、今日最大最高の拍手が沸き起こって、そのあと、頼子さんは女王陛下と並んで、いつまでもいつまでも手を振ってたのでした。

 

 そのあと、控室に戻ってスマホを開くと、何本もツイートやら書き込み。

 その、どれもがプリンセスを、女王と同じ色の赤にしていました。

 気が付くとサッチャ-……イザベラのオバハンが覗いていて「この赤をヤマセンレッドと云うのです」と注釈を垂れて行った。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー       ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 女王陛下      頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 

 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・39『ハワイ@ホーム・1・13崩しのマッジ』

2022-08-19 07:32:25 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

39『ハワイ@ホーム・2・13崩しのマッジ

 

 

 整理してからお話します。

 

 ホノルル空港で出迎えを受けて、お家に着くとすぐに@ホーム歓迎パーティー。

 シグマちゃんが言ったとおり、やることに無駄のないお婆ちゃ……いえ、ミリーさん。

 パーティーの直後「あの子たちどうかしら!?」とミリーさんに聞かれて、そう答えたところ。

 十四人の女の子たちは、年齢こそ17歳から22歳と近いんだけど人種はバラバラだった。アジア系が五人、白人三人、黒人二人、ネィティブ三人、ヒスパニック一人。

 アジア系も、日系、中国系、台湾系、韓国系と色とりどり。性別や年齢以外の共通点はアメリカ国籍ということと、アニメとアキバが大好きだということ。

 トリプルAだ!

 十四人の自己紹介を受けて、シグマちゃんが嬉しそうに言った。

「あらあら、さっそくトリプルAの及第点? ミコ、嬉しいけど、ちょっと気が早くない?」

「あ、じゃあ、なくてみんなの特徴よ。アニメ! アキバ! アメリカ!」

 なるほど、ANIME AKIBA AMERIKAでトリプルAになる。

 女の子たちもトリプルAは新発見だったようで喜んでいる。

「だって、誰でも、そう思うでしょ?」

 シグマちゃんは言うけど、新発見には頷ける。アメリカ人は、自分の国をスティツとかUSAとか呼ぶのが一般的でアメリカのAというのは盲点のだろうね。

「シグマちゃんすごいよ!」

 正直に誉めると「ありがと、でも、シグマにちゃん付けするのは勘弁してください」ということなので、ここからはシグマ。

「アキバのメイドをまんまやるのはどうなんだろ……」

 これが、@ホーム生え抜きのちろるさんともなかさんの印象だった。

「アジア系の子もいたけど、やっぱりアメリカ人なんだよね……」

 三人で部屋に戻ってもなかさんが切り出した。

「アメリカ人の明るさとか、表情の大きさとかがね……」

「うん、アニメを実写でやるような違和感がね……」

 二人の表情は冴えない。

 二人の言うことも分からないではない。二人には本場アキバのメイドとしての自負があるんだ。

 自負は悪いことではないけど、時に自分のところが一番というエスノセントリズムに陥る。

「でも、マッジって子は違ったんじゃない?」

「あ、最後に自己紹介した子?」

 一人マッジ・ヘプバーンという子は、立ち居振る舞いも控えめだけど当を得た受け答えが群を抜いていた。

 出身はマサチューセッツ、日本人にとってはハワイやワシントン、ニューヨークほどの馴染みは無いが、聞いたことはあるという感じ。その表情を読み取って――マサにチュウくらいの州です――と返してくる。

 ちょっとタイプが違うなあと表情に出たんだろう、小さく微笑んで、こう言った――少し硬いと言われますが、両親ともに工科(硬化)大学ですので仕方ないのです――

 的確でウィットもあるんだけど、アキバ的『萌え』からは距離がある。

「うん、あのまんまバッキンガム宮殿でも務まりそうな感じ!」

「なんちゅうか、いい学級委員長が務まりそう」

 あたしは、マッジの評から話を広げて行こうと思った。

 店長やオーナーからは、多少違和感があっても前向きであれば笑顔でOKを出してあげてと言われている。

「完璧な状態でオープンしなくても、ご主人様(お客さま)たちといっしょに変化していけばいいんじゃないかなあ。とりあえずマッジみたいな子もいるんだから、多様性ととらえようよ」

「うん、だよね!」

 もなかさんが手を叩いた。

「あたしたちだって、最初からできたわけじゃないもんね」

 

「あ、マッジはうちでは働くんじゃないのよ」

 

 朝食のテーブルでミリーさんが意外な発言。

「あ、どういう……」

 納豆をかき回す手が止まってしまう。

「13崩しでしょ!?」

 シグマが盛大に納豆の糸を引きながら手を上げた。

 13崩し?

「ええ、そうよ。十三人で始めたら縁起が悪いから」

 思い出した、アメリカでは13は日本人が4を嫌う以上にタブーの数字なんだ。

 一人増やして14人、ダメなときは14番目の席にクマのぬいぐるみなどを置いて、13になることを回避する。

 ちょっと残念だったけど、ちろるさんももなかさんも「そうなんだ」と感心して、今日は朝からアキバ流メイド術の講習会になった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校二年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校一年
  • 妻鹿小菊           中三 オメガの妹 
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校二年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校二年 幼なじみの神社の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
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せやさかい・341『妖精の標識・2』

2022-08-18 10:11:33 | ノベル

・341

『妖精の標識・2』さくら   

 

 

 やっぱり詩(ことは)ちゃんの観察力はすごいよ。

 宮殿に着くまでの道で、日本とはちがう交通標識に気が付いた。

 黄色の丸い標識の中に黒塗りの子どもが走ってる姿を描いたもので、うちらも前に来た時に見たことがある。

 交通標識やと思てた――子供の飛び出しに注意――のね。

「あ、そう言えば、標識によって、微妙に姿が違ったっけ?」

 うちより賢い留美ちゃんでも、あれは交通標識やと思てたみたい。

「今日見ただけで、ドアーフ、エルフ、ティンカーベルみたいなのがあったよ!」

 それで、ランチの時にソニーに聞いてみた。

「え、ああ……交通標識だよ『子どもの飛び出しに注意』の。日本にもあるんでしょ、子どもが学校に通う道とかに、どこにでもあるよ」

 なんで、そんなものに興味持つんだって感じで、軽くスルーされてしもた。

 いつもやったら頼子さんかソフィーに聞くねんけど、初日と二日目は二人とも姿が見えへん。

「三年も開いてしまったから、いろいろ儀式とか話し合いとかあるからね」

 ソニーは、そう説明してくれて、その午後と明くる二日目は自分が運転して、あちこちを案内してくれた。

 

 その二日目

 

 王立植物園は夏の花が真っ盛り、うちのお寺もささやかやけど、檀家のお婆ちゃんがらが丹精の花々がある。

「お婆ちゃんたち、喜ぶよ!」

 詩(ことは)ちゃんの発案で、一つの花に三十秒ずつ解説動画を作る。

 シャクヤク  ゼラニウム  デイジー  アイリス  サルビア  ヤグルマギク  ペチュニア

 三十秒の解説やねんけど、解説(英語)を読んで、喋ることに決めて、リハーサルやって本番やって、仕上がりの確認したら十分くらいかかってしまう。

「もう、ぶっつけ本番でやろうよ!」

 詩ちゃんが提案して、四つ目のアイリスからは、嚙みまくり、とちりまくりのまんま。

「さくら、笑いすぎ!」

 留美ちゃんに怒られる。

 失敗するんちゃうか思うと、うちは笑いがこみ上げてくる体質。

「もう、笑ったままでいいよ。さくらのとこはテロップ付けるから!」

 NHKのアナウンサーみたいな詩ちゃん。カチコチの留美ちゃん。一歩下がらんとフレームに収まらんメグリン。

 ほんで吉本みたいなうち。

「ちょ、ソニー、なに撮ってんの!?」

「面白いから、あとで陛下やプリンセスに見せようと思って( *^皿^)」

 ソニーは、ちょっと根性ワル。

 最後に向日葵を見た。とたんに、みんな静かになる。

「え、なんで、みんな大人しなるのん?」

「だって、向日葵はウクライナの国花だよ」

 あ、そうか……

 思わず、ナマンダブが出てしまいました。

 

 午後は、ヤマセンブルグ陸軍の第三連隊にお邪魔しました。

「第三いうことは、一とか二とかあるんよね?」

「いや、陸軍は、この第三連隊だけだ」

 草薙素子みたいなそっけなさで、ソニーが言う。

「一と二は欠番なんだ」

 あ、野球チームの背番号みたいでかっこええかも。

 軍事に関してはメグリンの独壇場。

 営庭に並んでる戦車や大砲のスペックをスラスラと言う。

「ねえ、あの戦車、大砲おっきくて強そうやんか!」

「あれは自走砲」

「え、ちゃうのん?」

「ドイツのPzH2000、155ミリりゅう弾砲を装備していて、ウクライナにも7両貸与されてる」

「ふーーん」

「自走砲は戦車じゃなくて、火砲に分類されていて、所属は砲兵科。強そうに見えても、装甲は最大で25ミリしかないから、敵の戦車がやってきたら、とにかく逃げる」

「ふーーん」

「いや、だから……」

 花の話みたいに食いつかへんあたしらに、メグリンは懸命に説明してくれる。

「君たち、日本から来たんだね?」

 きれいな日本語で声を掛けられて、振り向くと陸上自衛隊のおっちゃんが立ってる。

「日本から派遣で来てるんだ。陸自の栗林です、よろしく……あ……きみは、ひょっとして古閑一佐のお嬢さん?」

「あ、栗林副官!?」

「「「え?」」」

 なんと、栗林さんは、メグリンのお父さんの、かつての部下。

 いやあ、世間は狭い!

 栗林さんに誘われて、基地のカフェテリア。

 他の兵隊さんも寄ってきて、期せずして交歓会ですわ(^▽^)。

 気が付くと、ソニーがお茶くみとかやってて、一人忙しそう。

「なんで?」

「言ったろ、ヤマセンブルグの陸軍は、ここしかないんだ」

「え……あ、ソニーも、ここの所属?」

「あのテーブルに居るのは最低でも中尉だ」

「え……ソニーて?」

「伍長だ」

 伍長て、よう分からんけども、お姉ちゃんのソフィーが少尉やから、その下、もっと下?

 

 キャフェテリアの窓から見える基地内の道路にも、例の妖精の交通標識が見えた。

「基地の中に通学路があるんですか?」

 詩ちゃんも気ぃついて栗林さんに質問。

「ああ、あれは妖精に注意の標識」

「「「ええ?」」」

 ちょっと混乱してきて、昨日からの事情を説明する詩ちゃん。

「それは……」

 口を開きかけた栗林さんに大尉の階級章を付けたオニイサンが耳打ち。栗林さんは、ソニーに笑顔を向けてから説明してくれた。

「子どもが通る道は、昔から妖精が通る道って言われててね。じっさい、ヤマセンブルグじゃ妖精は存在してるって考える人も多いし。子どもの飛び出しと妖精の両方を掛けて注意書きの標識にしてるんだ。だから、ソニーの説明も正しいよ」

「うん、こんなハナシもあるよ」

 日本語のできる中尉さんが付け加える。

「子どもが人の悪口を言うとね『妖精が聞いてるよ』と言って、天井を指さす」

 あ、なるほど『仏さんのバチあたるで!』といっしょなんや。

 うちらが大きく頷くと、最初の大尉さんがソニーにウィンクした。

 そうなんや、そうやって、伝統と交通ルールを重ねて、その両方を大事にしてるんや。

 

 それから、ソニーも入って三十分ほどお話して、立ち上がって……見えてしもた。

 

 交通標識のとこを渡ってる半透明の妖精。

 瞬間目が合うと『シーーーッ』って感じで、人差し指を口にあてて見えんようになってしもた……。

 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • ソニー       ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 女王陛下      頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 

 

 

 

 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・38『ハワイ@ホーム・1・いきなりハワイ』

2022-08-18 05:58:15 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

38ハワイ@ホーム・1・いきなりハワイ





 信じられないけどハワイに来ている(^_^;)。   

 

 昨日、開店準備中に店長に呼ばれて、いきなり聞かれた。

「パスポート持ってるよね?」

「はい」

「じゃ、決まり。ちろるともなかもいっしょだから、今日はもうあがって準備して」

「は?」

 その足で神楽坂に帰って三泊四日の旅行の準備。

 いきなり旅支度を始めたので、妻鹿家の人たちは、あたしが静岡の実家に帰るんじゃないかと心配顔だ。

「いえ、バイト先の都合で仲間とハワイに行くことになったんです。だから仕事なんです」

 ザックリのザの字ほどのことを説明。

「いいなーーーいいなーーー松ネエいいなーーー(´Д`;)」

 小菊ちゃんが「いいなーーー」を連発。

 だけど、昔のように「あたしも、あたしもおおおおおおお!」と駄々をこねることはなかった。

 この四月からは高校生だ、自覚するものがあるんだろうね。

 でも、駄々をこねる小菊ちゃんは、それはそれで可愛かったんだけどね。ちょっと残念。

「たいへんだね」

 ゆう君は、いつものω口で労ってくれる。ゆう君は生まれながらの気配りさんだ。

 もう少し発散した方がいいと思うんだけど、ま、彼の周辺も変化の兆しがあるようだし、見守っていよう。

 ハワイ行きの詳しいことは言わない。

 だって、このハワイ行きは、百地さん(シグマ)のお祖母さんの依頼だから。

「よかったわ、パスポートを持ってらっしゃらなかったらどうしようかと思ってたの」

 ダイアモンドヘッドを借景にしたお家に着いた時、あたしたちをハグしながらミリーさん。

 ミリーさんはお祖母さんの名前。

 お祖母さんは、グランマとかおばあさまとかの呼び方を好まない。

「言いにくいだろうけど『ミリーさん』て呼んであげて」

 飛行機がホノルルに着くころに百地さんに言われた。

「分かったわ、ニノミヤさんでもかたくるしいでしょうし」

「フランクな人だから、じきに慣れるわ」

「さ、今夜は@ホームのみなさんの歓迎パーティーよ(^▽^)!」

 ミリーさんの狙いは分かっている。

 パーティーに呼ばれるのは2/3が女性で、そのほとんどがハワイ@ホームで働くことになっている女の子だ。

 つまりですね……あたしたちが呼ばれたのは、ハワイ@ホームのオープンに向けてのメイド指導だったのですよ。

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校二年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校一年
  • 妻鹿小菊           中三 オメガの妹 
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校二年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校二年 幼なじみの神社の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任

 

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せやさかい・340『妖精の標識』

2022-08-17 10:48:52 | ノベル

・340

『妖精の標識』詩(ことは)  

 

 

 悪魔祓いとか魔物との戦いなんて、ゲームかアニメの話だと思っていた。

 

 でも、ワンオクロックガンが鳴った直後に戻ってきたソフィーはフルマラソンを完走してスタジアムに戻ってきた選手のようだった。

 いや、足りない。あの生々しい闘気はチャンピオンベルトを激戦の末に守り抜いた世界チャンピオンのようでもあった。

 そのマラソン選手、世界チャンピオンが、汗だけを拭いて身だしなみを整えただけで現れた、そんな感じ。

 迎えたわたしたちは、一様に驚いたけど。わたしを除く五人は――さもありなん――と納得顔。

 聞くと、三年前に退治し損ねた魔物との戦いに、やっとの思いで勝利したとのこと。

 

「なぜ、ソフィーが戦わなくてはならなかったんですか?」

 

 お屋敷に帰ってから、イザベラさん(さくらたちからサッチャーの二つ名を頂戴しているメイド長)に聞いてみた。

 イザベラさんは、一見『アルプスの少女ハイジ』に出てくるロッテンマイヤーさんみたいで、正直とっつきいくい人なんだけど、玄関ホールで出迎えた時は、ソフィーを見つけるやいなや、母親が出征から帰ってきた子どもにするように抱きしめていた。すごく意外だったんだけど、わたし以外は涙ぐみながらも納得顔。

「それについては、陛下がお答えになると思いますよ」

 そう言って、陛下に連絡してくれて、五分後には陛下の居間でローズヒップを頂きながらお話をうかがった。

「我が王家は、元々は大陸に派遣された辺境伯でした。出自は武装商人の長であったとも海賊王であったとも言われています。その辺境伯が一国の王として認められる過程でスコットランド防衛の一翼を担うことになったのです。当時のエディンバラは、街の地下に大勢の貧しい人たちや移民、敵の捕虜たちが暮らしていました。その人たちの中には、スコットランドの危機に乗じて内紛を起こす者も多く、また、長引く地下生活のために病が流行ったりもしました。スコットランドの騎士たちは、あまり褒められたことではない手段で彼らを退治して、その結果、彼らは悪霊となってしまったのです。その悪霊を鎮めたのがヤマセンブルグ一世と、その部下たちだったのですよ」

「退治したんですか?」

「いいえ、鎮めて封印しただけ。何十年に一度は力を盛り返して、ヤマセンブルグに災いをもたらすの。ヨリコは千羽鶴を折って鎮めようとしたんだけれど、うまく行かなかった。ソフィーが、魔法でねじ伏せて仮の封印をしたのが三年前。でも、それはほんの一時しのぎ。ヨリコとヤマセンブルグの事を考えて、乾坤一擲の大勝負に出たというのが、今日のソフィー。これで100年は大丈夫でしょう」

「そうだったんですか……」

 なるほど、三年前のソフィーの戦いを見ていたから、みんなああいう反応だったんだ。

 でも……メグリンは三年前には居なかった、どうして、さくらたちと同じ反応になったんだろうか。

 

「父に、よく聞かされました」

 

 隣同士のシートだったので、水平飛行になってから、メグリンと昨日のことを話していたんだ。

「自衛隊って七十年の歴史ですけど、施設の多くは旧軍のものを引き継いでいるせいか、そういう話は多いんですよ」

「そうなのか?」

「一般には公開していないものが多いですけど、慰霊祭とか、よくやってますし、たいていの駐屯地には神社とか祠とかがあります」

「そうなんだ」

「海外派遣される時には、見送りの中に旧軍時代の軍服着た人が写り込むこともあるんですよ」

「そうなの!?」

「はい!」

 メグリンが明るく頷いて、飛行機はヤマセンブルグの空港に着陸。

 

 驚いたことに、タラップの下では先に着陸した女王陛下が出迎えに立っていらっしゃった。

 

 陛下の後ろには、王族の方々と政府の要人、日本大使の姿まで。

 空港ビルや、駐機場の周囲には大勢のヤマセンブルグの人たちが国旗や横断幕を掲げて歓迎してくれている。

「さあ、まずは記念撮影よ」

 迎えの人たちとの握手が終わると、空港ビルを背景に記念写真。

 屋上の出迎えの人たちも鈴なりになって、嬉しそうに旗を振ってくれて、延べ千人ぐらいの記念撮影になる。

 横断幕の女王陛下の名前は赤の飾り文字、頼子さんのは黒の飾り文字で、少し地味。

「あれでいいの、赤は正式な王女にならないと使えないの」

 ちょっと、ホッとしたような頼子さん。

 ちなみに、わたしたちはメイド服に似たコスを着ている。

 これは、行動の自由を得るために、暫定的にプリンセスの侍女という待遇になっているためで、三年前もそうだったらしい。

「控え目くらいで手を振って」

 宮殿に向かう車に乗って、ソフィーに言われる。

 日本の場合、皇族方が移動される時にお付きの人たちが手を振ることは無いと思う。

―― え、いいのかな? ――

 迷ったんだけど、沿道の熱狂的なのや暖かいのやらの歓迎ぶりを見ていると、とてもポーカーフェイスではいられない。

「やりすぎ!」

 さくらは二度ばかり注意されてた。

 子どもたちの中には、女王陛下や頼子さんの可愛いイラストを描いてあるのもあった。

 中には、描き損ねて妖精じみたアニメのキャラみたいになっている子もいて微笑ましい。

 たとえ似ていなくても、一生懸命の歓迎の心は紙一杯に描けている。

 プリンセスの名前は黒なんだけど、チラリとめくると赤くなっているものもあって、頼子さんも涙目の苦笑い。

 小さな女の子たちが、わたしたちの侍女服に似たワンピを着て、車といっしょに走って来る。

「転んじゃダメよーー」

 手をメガホンにして頼子さん。ちょっと異例なことなんだろう、一瞬みんな注目。

 でも、そのあとは歓声になって、ますます盛り上がる。ヤマセンブルグの王室は愛されてるんだ!

 

 え?

 

 一瞬、目を疑った。

 速度制限の標識の向こうにシルエットのドアーフが走っている標識が立っている。

 ほら、日本だったら『子供の飛び出しに注意』的なやつ。

 しばらく行くと、今度はエルフ、次はティンカーベル的な。

 四つ目を見た時にソフィーに聞いた。

「あれって?」

「ああ、妖精の飛び出しに注意の標識よ」

「え?」

 それ以上は、沿道の人たちに応えるのに忙しいまま、車列は宮殿の正面ゲートに入って行った。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • ソニー       ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 女王陛下      頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 

 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・37『だって今日はエイプリルフールだ』

2022-08-17 06:21:45 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

37だって今日はエイプリルフールだ 



 今日、初めて見たのなら信じなかっただろう。

 だって今日はエイプリルフールだ。


 神社のお祭りに、あんなものを使うなんて、まるでテレビのドッキリだもんね。

 いや、テレビでも放送コードにひっかかる。

 アレは、ボカシをかけるとかモザイクにするとかしないと放送どころか人前に出せる代物じゃない。

 アレは三メートル近くあったけど、実物はどのくらいの大きさなんだろうか。

 小さいころに、お風呂でお父さんのを見たけど、状態が違うので比較材料にはならない。

 先輩に頼むわけにもいかないし……て、なに考えてんだあたしは(-_-;)。

 でも、神社での体験は希望だ。

 勢いだけで発車したサブカルチャー研究会だけど、心のどこかでは早まったと感じていたんだ。

 女子のくせにエロゲなんかに興味を持って、やりこんでいるのはヒンシュクと言うか後ろ指というか。

 むろん、生まれ持ったΣ顔とこの性格だから、そうそう人に好かれることはないと思ってる。

 でも、醜いアヒルの子みたいにスポイルされるのは勘弁だ。あたしが耐えられるのは堂本先生の偏見までだ。

 でも、風信子さんを見て勇気づけられた。

 巫女服姿でアレにしめ縄を掛けるところなんて清々しさまで感じてしまった。なんというかカッコいい。

 サブカル研で勧誘ビラ撒く時なんか巫女服姿のコスプレがいいと思うよね。エロゲの中でも巫女服姿というのは鉄板だもんね。

 要は、いかに偏見を持たれないように活動していくかってことなんだよ。

 ……四月一日で検索してみる。

 なんと、四月一日という苗字がある。ワタヌキって読むらしい。四月に綿の収穫を始めたことが由来らしい。

 読めないよね。

 あたしの苗字は百地だ。小さいころは同姓のアイドルにちなんでモモチとかモッチとか呼ばれていた。

 いつのまにかシグマになってしまった、馴染んでいるからいいんだけどね。

 四月一日生まれは早生まれだそうだ。

 つまり、学年は同年の三月以前の生まれといっしょになる。なんでだろう?

 あの戦争で米軍が沖縄上陸したのが四月一日。狙ったとしたらブラックジョークだ。

 ピピピピ ピピピピ

 スクロールしているとスマホが鳴った。

 

 シグナルはお祖母ちゃん。

 

 お祖母ちゃんは要注意。年に一回くらいの割りで手の込んだドッキリをしかけてくる。

 こないだはお祖父ちゃんの幽霊が出たというスカイプだった。

 なんとお祖母ちゃんの隣に幽霊の(半透明だった)お祖父ちゃんが映りこんで「大きくなったね」とか「女の子らしくなった」とか話しかけてくる。

 そのうち「あんた喋り過ぎ」とかお祖母ちゃんに言われてケンカを始める。

 あたしはパソコンの画面に向かってケンカの仲裁。

 そのうち、画面の外側でドシンバタンと音がしたと思ったら、急に静かになる。

 あんまし静かになったので「ね、ね、どうしたのよ……」おずおず聞くと、お祖父ちゃんが現れた。

「ミコ、なんだかお祖母ちゃん動かなくなっちまったよ」
「え、ええーー!?」

 救急車を呼んで! 人工呼吸をして! とか、あたしはわめき散らした。

「幽霊は電話をかけられないんだよ」とか「幽霊には肺がないから人工呼吸もできないよ」とか言ってくる。

 ワタワタしていると、お祖母ちゃんが画面に復活、それも半透明の幽霊姿。

「お、お祖母ちゃん!」
 
 けっきょくは、コンピューターに長けたお祖母ちゃんの友だちが、お祖母ちゃんのアイデアを面白がって仕掛けてきたドッキリだった。

 ほんとはた迷惑な婆さんだ! 

 あたしは眉に唾を付けながら電話に出た。

「ミコ、今から言う人たちを掴まえて、すぐにハワイに来てちょうだい!」

 とんでもないことを言い出した!

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校二年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校一年
  • 妻鹿小菊           中三 オメガの妹 
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校二年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校二年 幼なじみの神社の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任


  

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せやさかい・339『ヤマセンブルグへ』

2022-08-16 09:43:28 | ノベル

・339

『ヤマセンブルグへ』留美  

 

 

 大砲というのは撃った後もすごい。

 

 ワンオクロックガンは、一時の時報を撃ったあとも、砲口からモワ~っと煙を吐いて、一仕事終えた後の一服の煙みたいなんだけど、電柱の太さほどの筒先から漂い出てくる煙は、ちょっとした狼煙という感じ。

「あれは、時報のための空砲で、弱装薬だら、実包の半分もないよ」

 メグリンは、さすがに幹部自衛官の娘さん、動じません。

 

 その実包の発射直後を思わせるような顔で、ソフィーが戻ってきた!

 

「ソフィー!」

 声を上げて抱き付いたのは、さくら。

 わたしとさくら、それに頼子さんは分かっている。

 三年前の、ソフィーの壮絶な戦いを知っているから。

 

「Run away! dont look back!」

 ソフィーは、杖を持った右手を闇に向け、一瞬横顔を見せて叫んだ!

 ワオオーーーーーーーン ワオオーーーーーーーン

 地下からのうめき声は、もう、すぐ下の階層まで上って来ていて、いまにもわたしたちを呑み込んで地獄の底に引きずり込んでしまいそう!

「殿下!」

 ジョンスミスが懐に抱え込むようにして、地上への階段を駆け上がる。

「ソフィア!!」

 渾身の叫び声で、気遣う頼子さんを押し上げるようにして、わたしとさくらも地上に急ぐ!

 ガチャピーーーーーン!

 地下一階まで上がると、待機してたマスターはドアを閉める!

「ソフィアがあああああ!」

「閉めておかないとお祓いができない!」

 ジョン・スミスが目を吊り上げる。

 その直後、扉の下では、まるで台風と火山の噴火が一度に来たような音がして、頑丈な樫のドアを取付金具ごとガタガタと震わせていた。

 頼子さんとジョンスミスは、早口で神の御名を讃えながら幾度も十字を切って、さくらはナマンダブを、わたしは「お母さんお母さん」を繰り返す。

 一瞬、音と振動が緩んだ隙に、ドアを蹴破るようにしてソフィーが、やっと上がってきて、それから、何分か何十分か、地上の六人でドアを押して、そしてやっと凌いだ(053:『エディンバラ・9』)

 

 三年前のソフィーと自分たちの姿が蘇った。

 

 そうだ、ソフィーは三年前の勝負に決着をつけてきたんだ。

 ソフィーは、ヤマセンブルグの諜報部員で頼子さんのガードで、いつのまにか少尉の軍服がよく似合う軍人さんになっていたんだ。そして王室付き魔法使いの末裔でもあって、そういうことであるための義務を、たったいま果たしてきたんだ。

 でも、でも、わたしたち散策部のメンバーでもあり、学校の先輩でもあり、ううん、姉妹同然の仲間だから、さくらは瞬間で飛びついて涙でグチャグチャになってるんだ。

「殿下、これで、後顧の憂い無くヤマセンブルグに向かえます」

「ご苦労でした、ソフィア少尉」

 この三秒間だけ公式のやり取りをして、ちょっと遅いランチを食べに行った。

 

 そして、今朝は二機の飛行機に分乗してヤマセンブルグに向かっている。

 

「どうせやったら、みんな、おんなじ飛行機に乗ったらよかったのにぃ」

 ちょっとむくれ顔のさくら。

「複数のVIPを移動させるときは、複数の機体を用意するのが警護の常識だよ」

 メグリンが指を立てる。

「わたしとお祖母ちゃんが、いっぺんにお陀仏になるわけにはいかないからね」

「そんな、縁起でもないことを(^_^;)」

「リスクマネジメントの常識」

「ああ、ソフィーはすっかりガードモードになってしもてるしぃ」

「でも、正式な王女になるって大変なのね、わたしが大学出るのは二年後だけど、頼子さんに比べたら、まだまだノホホンとしてるもんね」

「せやせや、まだまだ先の話やのに外堀埋めるのん早すぎやよ、頼子さん!」

「賢い鳥はね、風に合わせて羽ばたくんだぞ」

「ソフィー、今日は操縦せえへんのん?」

「ジョンスミスが女王陛下の方に行っちゃって、こっちはメグさんの操縦なんだけど、メグさんは教官のライセンス持ってないから」

「あ、そうなんや」

「エディンバラじゃ、あんまり遊べなくてごめんね」

「ううん、あちこちは行かへんかったけど、中身は濃かったし」

 うんうん(*・ω・)(*-ω-)(*・ω・)(*-ω-)と揃って頷く。

『着陸態勢に入ります、シートベルトをお願いします。ちょっと気流に乱れがあるようなんで、下噛まないようにしてください』

 メグさんのアナウンス。

 エディンバラからヤマセンブルグは拍子抜けがするくらいに早い。

 まあ、今回の旅は日本から三日もかかっちゃったから、余計に短く感じる。

 

 ガクンガクン

 

 武者震いをするような音をさせながら、飛行機は着陸態勢に入って行った……。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • ソニー       ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 女王陛下      頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 
コメント
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