読書案内「ガラパゴス」 (2) 日本の労働現場の闇を見る
被害者が遺した「新城 も」「780816」というメモに含まれた被害者のメッセージは何を意味するのだろう。
高等専門学校を優秀な成績で卒業した被害者が、
なぜ派遣労働者として働かなければならなかったのか。
単なる殺人事件ではなく、被害者の哀しい過去にもページを割いて物語に厚みを加えている。
35歳の若さで家族も身寄りもなく、
殺されてしまう被害者の人生っていったい何だったのだろう。
巨大な闇が見えてくる。
産業構造の中で熾烈な競争に打ち勝ち為の低価格競争の果てに、労働者が歯車の一つとして扱われる現実が浮かんでくる。
怨恨や隠蔽、強盗や喧嘩などによる殺人ではなく、産業構造のひずみで起きた殺人であることが見えてくる。
誰が、どんな組織が関わっているのか。
田川と木幡刑事の行く手に立ちはだかる、厚く高い権力の壁を二人は超えることができるのか。
田川は事件を振り返って最後につぶやく。
「働きたい、単純にそう思うことがこんなに面倒なご時世になっているとは考えもしなかったよ」照り付ける太陽を見上げながら、田川は自分に言い聞かせるように呟いた。「普通に働き、普通にメシが食えて、普通に家族と過ごす。こんな当たり前のことが難しくなった世の中って、どこか狂っていないか?」
田川の言葉がこの小説の全てを語っている。
「ガラパゴス」とは。
経済界を支え、景気を牽引してきた国産メーカーが、進化(成長)の袋小路に入り込み、国際競争力を失っていることを、進化の止まった孤島「ガラパゴス」にたとえて表現する言葉だが、本書がイメージする『ガラパゴス』は、産業構造の中で深刻化していく労働問題の延長線で次第に孤立化していく労働者の孤独という意味を含んでいる。
表紙の絵は上下とも古代ギリシャ等で壁に彫刻された、労働現場の模様である。
評価☆☆☆☆☆/5
「労働現場の闇」がテーマなので、全体的に暗いトーンになっているが、久し振りで読んだ極上の小説だ。
著者のベストセラー「震える牛」でも田川刑事が活躍する。こちらの小説は、食肉偽装問題に絡む大手スーパーの暗部を描いている。両作品に共通するものは、利益のために人をないがしろにし、部品として扱う企業への怒りだ。
二作品ともお勧めの小説です。
(読書案内№87-2)