老いをみつめる
③若さよりきっと大事なものがある
妻の名も時に忘るる義母なれど老人ホームは退屈と言う ………(町田市) 冨山俊朗 朝日歌壇2017.10.02
老いという淋しい文字がそこにある介護施設の無言の食卓(テーブル)
……森本義臣
知人を訪ねて老人ホームに行った。
広い廊下と自分の部屋の間を何度も行き来しながら老女は、呟いていた。
「家へ帰りたいんだよ。家へ帰りたいんだよ…」
どんなに良い待遇をされても、やっぱり家より良いところはない。
食事の風景は淋しい。沈黙が漂う中で箸を持つ手と口が緩慢に動く。
昼のニュースが、誰も聞いていない食堂に惰性のように流れている。
娘の家へ引き取られゆくご近所の老老介護の限界見たり
………京都市 足立 猛 朝日歌壇2017.07.24
80歳を過ぎた兄は、認知症で徘徊が始まった妻を施設に送る時、
大きな涙を数的落として泣いた。「すまない、申し訳ない」と。
その兄は末期がんが発見され、妻より先に彼岸に旅立った。
老老介護では、介護するものが先に逝ってしまう例をよく耳にします。
介護に疲れ、療養をせずにいる老体にいつの間にか病魔が忍び込むのか。
若さよりきっと大事なものがある年を重ねていい顔の人
………堺市 一条智美 朝日歌壇2017.03.27
老いは、記憶を失い感情の起伏を失くしてしまうが、子どものような顔に還っていくその顔が、
生きて来た幸せの証なのだろう。
健康で歳を重ねると、記憶が消去され、体力や判断力、決断力が衰えてくるが、
世の中の雑事に追われることから解放されるので、(きんさん、ぎんさんのように)多幸感だけが残り、
たのしい余生を送れる人も珍しくない。
あてどなき、よるべなき、また後のなき、「なき」を生きゆく身にふる霙
………福島市 美原凍子 朝日歌壇2017.03.20
無い無い尽くしの人生は淋しく心細いが、これも人生。
老いの身に降る霙(みぞれ)。独りぼっちが身に染みる。
それでも、歩んで行く人生行路に幸あれと願う。
死なせない死ねない時代たらちねの母の呼吸器はずす夜明けよ
………東京都 無京水彦 朝日歌壇2017.06.26
「お母さん、やっと楽になれたね」。大切な人を喪う哀しみと、安堵感が混ざる。
病室の窓から、朝の光が差し込み、心の内でつぶやく、「お母さん、さようなら…」
(2018.9.12記) (人生を謳う)
今回は辛い歌ばかりになってしまいましたが、「老いをみつめる」(つれづれに…心もよう)
は次のところにもアップしています。
2018.1.14 老いをみつめる
2018.5.25 老いをみつめる ② 忘れないでとささやく