読書案内「海は見えるか」真山仁著
④ 白球を追って
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津波が奪ったものは、家や職場だけではない。
たいせつな人を喪い、途方にくれながらも 、
時間が過ぎれば、人は時間の経過の中で日常を取り戻し、
明日へ向かって新しい一歩を踏み出そうとする。
新しい職場を求め、住み慣れた故郷を去って行く者、残る者 。
被災者それぞれが抱えた問題を解決するために、
時によっては辛い決断をしなければならない。
小野寺が関わる地元少年野球チーム「遠間アローズ」は、
優勝経験を持つほどの実力を持っている。
年子の兄弟栗田克也と栗田豊はどちらも体格に恵まれ、チームの最有力選手だ。
兄はチームのキャプテンでホームランバッター。
弟は小5ながら他校からも注目されるエースだ。
夏休みまで残り一週間を切ったある日、小野寺は兄弟の母親から、
父親の仕事の関係で大阪に引っ越しすることになった旨を告げられる。
優勝候補とは言え、メンバーは大会出場資格ギリギリの11人しかいない。
同然、栗田兄弟が抜ければ、優勝どころか大会出場もで危うくなってしまう。
チームの存続も大切だが、小野寺は兄弟の気持ちを第一に考えたいと思う。
親の気持ちはわかった。
だが栗田兄弟の気持はどうなのか。
チーム監督の気持ちは、校長の考えは。
チーム仲間の考えは。
それぞれの気持ちを聞きながら、
小野寺は子供たちの気持ちを尊重する。
この短編にも、小野寺の考え方や行動を通じて、
作者の温かい目が注がれる。
(2018.9.14記) (読書案内№129)