読書案内「海は見えるか」真山仁著
東日本大震災から一年以上が経過した津波被災地の街
いたるところに瓦礫の山があり、復興の兆しも人の心も傷ついたまま
だけれど、大人も子供も将来への一歩を踏み出そうとしている。
(幻冬舎文庫 2018.4刊 初版)
連作短編集「そして、星の輝く夜がくる」の続編である。
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「それでも、夜は明ける」
阪神・淡路大震災で妻子を亡くした小野寺徹平は、東日本大震災の津波で壊滅的な打撃を受けた
東北・三陸の小さな町の臨時小学校教員として赴任する。
いささか慌て者の若者であるが、生徒たちに向ける目は温かく優しい。
震災で家も祖母も両親も妹も庄司大樹はその全てを失った。
大阪の叔母のところに引き取られることになっているのだが、「今は行きたくない」という。
避難所で「みんなに可愛がってもらって、頑張れた。その恩返しもしないで、この町から
離れたくない」という大樹を小野寺は一時的に預かることにした。
夜。
大樹はうなされて目を覚ます。
また、あの日の夢を見て叫んだのだ。
強く抱きしめた小野寺は何度も「大丈夫」と繰り返した。
「僕は自分だけ逃げたんです。おばあちゃんもお父さんもお母さんも洋子も、
みんな津波に呑まれた。僕は見てるだけで何もしなかった。みんなが助からなかったのは
僕のせいです。ごめんなさい、ごめんなさい」
嗚咽(おえつ)する大樹の背中をさすってやりながら、小野寺は、
「おまえは悪くないんやぞ、大樹」
それは、神戸・淡路大震災で妻と幼い娘を亡くした小野寺の自分へのはげましでもあった。
そして、最後の一行を次のように結ぶ。
この一行で私は救われ、明日への希望の光を見ることができる。
夜明けを告げる鳥の声が聞こえた。
(つづく)
(2018.9.5記) (読書案内№126)
※ 「そして、星の輝く夜がくる」の読書紹介は以下にアップしています。
興味のある方は、読んでいただければ幸甚です。
「そして、星の輝く夜がくる」(1) 2015年2月16日
〃 (2) 〃 2月20日
〃 (3) 〃 2月23日
〃 (4) 〃 2月24日