読書案内「下山の思想」五木寛之著
幻冬舎新書 2012年1月 第五刷
社会が病んでいく
すでにこの国が、そして世界が病んでおり、 急激に崩壊へと向かいつつあることを肌で感じている……。 知っている。感じている。 それでいて、それを知らないふりをして日々を送っている。 |
「世界はひとつ」、といいたいところだが現実は紛争の火種は消えないし、
経済世界も一国主義がはびこり、貿易摩擦も一向に解決しない。
相手国が関税を引き上げれば、これに対抗して関税が引き上げられる。
結局、このような繰り返しは何の解決にもならず、
互いの首を絞めあい、双方の不利益しか生み出さない。
豊かな時代を求め、均整の取れた調和を保つために世界が努力してきたにもかかわらず、
結果は混迷漂う生きづらい社会の出現です。
調和の歯車がきしみを立てて歪んでいる。
力のバランスが崩れれば、その被害に遭うのはいつも弱者です。
持てる者(強者)はいつも恩恵を享受し、持たざる者はいつも不安を抱えることになります。
不都合なことは、『知らないふりをして日々を送っている』と五木寛之は言う。
そうした傾向の裏には、ある種の諦観が発生する。
「…どうせ」とか、
「そんなことを言っても…」等々である。
だから、著者は次のように述べる。
明日のことは考えない。 考えるのが耐えられないからだ。 いま現に進行しつつある事態を、直視するのが不快だからである。 明日を想像するのが恐ろしく、不安だからである。 しかし、私たちはいつまでも目を閉じているわけにはいかない。 事実は事実として受け止めるしかない |
「夢よ再び」。
繁栄と成熟をもう一度、昔日の夢を追いかけるか。
再びの経済大国を目指すことはできない。
ヨーロッパ社会は100年以上もかけて高齢社会を迎えたが、
我が国はたかだか20年足らずで高齢社会に突入してしまった。
この歪みが私たちの社会を先の見えない不透明な社会にしている。
介護費は年々増大し、国民皆保険制度の根幹を危うくしているし、
追い打ちをかけるように、人口は年々減少し、
少子高齢社会はこの国を、過去にないほどの窮地に追いやろうとしている。
成長神話はとうの昔に崩壊してしまった。
先が見えないから、身の回りの小さな幸せを維持するのに汲々してしまう。
みんなの幸せではなく、私が幸せであればそれでいいという、利己主義が
蔓延しているのかもしれない。
頂上を極めた者はやがて、下山しなければならない。
下山とは、敗者の思想ではなく、
次の高みを極めるためのステップなのだと著者は言う。
新書版のこ本は、誰にも理解できるエッセイ風の軽い内容で構成されている。
時代の流れを把握し、私たちは今、何を考え行動しなければならないか。
そのヒント、或いは道しるべとなれば幸いである。
また、若い人にとっては、「人生論」として読むこともできる。
(2019.4.19記) (読書案内№139)
先が見えない閉塞感が漂うから、何とかこの窮地から脱出しようともがき苦しんでしまう。
行き着く先は社会の幸せではなく、個人のささやかな幸せを求めてしまう。残念なことですが、知らず知らずのうちに利己主義に走ってしまう。
地方議会の衰退。そして、その議員を選ぶための投票率の低さなど、決して無関係ではないと思います。
義務を放棄して、権利のみを主張する社会的風潮のもとには、調和する社会は望めないと思います。
つたない私のブログにコメントをいただき大変励みになりました。
『頂上を極めた者はやがて、下山しなければならない。下山とは、敗者の思想ではなく、次の高みを極めるためのステップなのだと著者は言う』
本当に本当にその通りだと思います。
私ごときがブログなどを書き、人さまにうったえようとしていること
それはまさにこれなのだと思うのです
素晴らしいことばのご紹介
ありがとうございました