雨あがりのペイブメント

雨あがりのペイブメントに映る景色が好きです。四季折々に感じたことを、ジャンルにとらわれずに記録します。

逝きて還らぬ人を詠う ⑤ この世での最期の言葉は「ありがとう」…

2021-04-08 05:30:00 | 人生を謳う

逝きて還らぬ人を詠う ⑤ この世での最期の言葉は「ありがとう」…

 

      『大切な人が逝ってしまう。
    
人の世の宿命とは言え、余りに辛い体験はいつまでたっても心が癒されない。       
    悲しいことではあるけれど、
人間(ひと)はいつかはこの試練を乗り越えて生きていかな
 ければならない。
死は予測された時間の中をゆっくり訪れる場合もあり、突然訪れる
 場合もある。
どちらの場合も、無常観と切り離すことはできない』

   〇 妻の死を看取りて後に気付きたり励まされたのは自分だった 
                        
…… 島田章平 朝日歌壇 2019.12.15
         寄り添うように生きて来た長い年月。辛く苦しい介護もあった。だが、看取って初めて妻を
         愛しいと思い、励まされていた自分に気づき、愛しさが一層募ってくる。

   〇 見出しぬ妻の遺品の箱一つわが生涯の給与明細 
                     
……  鶴貝敬司 朝日歌壇 2020.02.16
         遺品整理は悲しい作業であるが、故人を偲び懐かしい思い出に浸る作業でもある。
         「わが生涯の…」とあるように、妻との懐かしい生活の場面が新婚当初の給与明細から
         丁寧に箱に収められている。一枚一枚の給与明細に込められた妻の思いが伝わってくる

  
   〇 
傘持って行きなさいよと亡き妻の声聞く様な午後の外出 
                    
     …… 井村おさむ 朝日歌壇 2020.03.08
         玄関を開けると、今にも降って来そうな曇り空だ。空を見上げて一瞬躊躇する。
         背中に妻の声が聞こえたような気がした。「傘持って行きなさいよ……」

  
    
妻の逝きし病室を出づ夜の窓に映る列車の灯の懐かしき 
                     
  ……石島崇男 朝日歌壇 2020.04.26
         たった今妻が身罷(みまか)った。その病室を出ると窓の外に夜の闇がひろがっている。
         その闇のなかを通りすぎてゆく列車の灯りが、かけがえのない妻を喪った寂寥感の
         漂う作者の心に懐かしい風景が流星のように通り過ぎていく。

  
   〇 「此処からは一人ですよ頑張ってね」と棺のひとにささやく夫人
                        
…… 中村睦世 朝日歌壇  2020-05-24
         冷たくなって棺の中に横たわる夫に向かって、やさしく、ささやくように呼び掛ける。
         死してなお、精いっぱいの愛情で繋がる二人。生きている人に語りかけるように……

  
    
この世での最期の言葉は「ありがとう」父待つ空へとかあさん還る 
                            
…… 久野茂樹 朝日歌壇 2020-07-05
        「母さん、父さんがいなくなってからよく頑張ったね」。
        「ありがとう」の最期の言葉を残して旅立った母への、感謝と鎮魂の歌だ。

                                (人生を謳う)                (2021.4.7記)


    







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