「逝きて還らぬ人」を詠う ④ 父が逝き母も逝きたる秋の日の……
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「俺に出来ることはないか」と問えば「見舞いに来るな」と癌の友逝く
……(高槻市)東谷直司 朝日歌壇2019.08.25
※ 生涯の友っていいなぁ。「見舞いに来るな」といってベッドの上で寝返りを打つ。
見せた背中の震えが、「ありがとう」と言っていた。
今生の汗を語らず母逝けり
……(長崎市) 下道信雄 朝日俳壇2019.07.21
※ たくさんの苦労をのり越え、悲しみに耐えて、母は黙して語らず。
小さくつぶやいた最後の言葉。ありがとう……
われ老いて頼みゐし子は先立ちぬ静かに墓石を貴方を洗う
……(横浜市) 坪沼 稔 朝日歌壇2019.07.21
※ 親が子に先立たれる。「どうして…なぜ…」思いは逡巡し、愛しい子どもの背中を
なでるように墓石を洗う。一輪の花、かすかな香の匂いにも目頭が熱くなる。
去年共に洗ひし墓に夫(つま)眠る
……(香川県琴平町) 三宅久美子 朝日俳壇2019.07.21
※ 「あなた、どうして私を置いて先に逝ってしまったの」。
いまはただ夫の眠る墓を洗う。「去年共に」という表現に残された妻の無念さが伝わってきます。
父が逝き母も逝きたる秋の日のただに明るしこの世にひとり
……(羽咋市) 北野みや子 朝日歌壇2019.10.22
※ ふりそそぐ優しく明るい秋の日差しつつまれて、独りぼっちになってしまった自分を慈しむ。
季節の秋と人生の秋が心の中で溶け合ってきます。
「おなかいっぱい食べさせられなくて、ごめんね」と書きし母と子餓えて死ににき
……(静岡県) 半田 豊 朝日歌壇2019.07.21
※ 戦時下の食糧難の時代に、十分食べ物を確保できずに逝ってしまった親子が哀れ。
二度とこんなことは起こしてはならない。悔恨と戒めがただよっている。
参考ブログ
「逝きて還らぬ人」を詠う ① 永遠に座る人なき椅子ひとつ…… (つれづれに…心もよう)201811.04
「逝きて還らぬ人」を詠う ② 悲しみは深爪に似て…… (つれづれに…心もよう)2019.02.28
「逝きて還らぬ人」 を詠う ③ 逝く者に見送るものに…… (つれづれに…心もよう)2019.06.04
(2019.10.27記) (人生を謳う)
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