「天声人語」で今年も終わる
「英知の矢」を磨け
『 (……略)エボラ出血熱のウイルスは、アフリカの密林深くでコウモリを自然宿主としていたらしい。活動域を広げた人間と遭遇し、恐ろしい疫病として登場してきたという。病原体は1976年に発見された。
大流行による死者は8千人に近づきつつある。米誌タイムは年末恒例の「今年の人」に、西アフリカで治療などに当たる「エボラと闘う人々」を選んだ。世界から駆けつけた専門家や地元のスタッフたちだ。
だが、世界共通の脅威はエボラに限らない。新型のインフルエンザなど未知のウイルス。異常気象をもたらす温暖化。資源の枯渇。あれやこれや、熟れた文明と繁栄を謳歌する人間は、未来に向けて賢さを試されている。(……略)
その人間同士にも、貧と富、幸と不幸の著しい格差がある。地上に蔓延するこの「怪物」は、人心をむしばみ、世界をゆがめ、テロや紛争を呼ぶ。火薬は要らない。さまざまな共通の困難を退治する「英知の矢」を磨きたいと思う。』
格差社会が蔓延し、経済社会の根底に流れる弱肉強食の考え方が広がっていけば、誰もが持っている幸せを求める夢や希望が少しづつ遠ざかって行ってしまう。「英知の矢」は私たち一人一人が、細くて微力だけれども、将来に向かって放たなければならない希望の矢でなければならないと思います。
除夜の鐘を聞きながら……今年もあと数分で終わる静かな夜。
(昨日の風 今日の風№15)