読書案内「ルポ イチエフ」福島第一原発 レベル7の現場 布施祐仁著 岩波書店2012.9刊
「誰かがやらなければいけない仕事」と単純には言えない、過酷な仕事。
命を削り、被曝することをいとも簡単に「食う」という。
「今日の作業で0.6(ミリシーベルト)食ったよ」などと表現する。
まるで、飯を食うというごくありふれた日常の言葉として「食う」という。
放射能汚染のなか、原発事故の現場で作業にあたる作業員が「イチエフ」と呼ぶ福島第一原発の現場で、
事故の後始末に従事する作業員の肉声を丹念に拾い集めたルポルタージュ。
作業員ひとり一人の言葉から浮かんできたものは、
劣悪な労働環境、横行する違法派遣・請負、労災隠し。
危険手当さえ、ピンハネされる。
事故原発現場で働く人たちに光を当てる。
「誰かがやらないといけない……。自分が生まれ育った地元を、もう一度みんなが住める街にしたい」
郷土愛や責任感で原発作業に携わる人もいるが、
会社に対する「義理」で参加する人、日当の高さに惹かれる人。
さまざまな作業員が、各地から寄せ集められ連帯意識のないまま、
つまり何の組織にも属さないで、多くは雇用保険や健康保険にも加入せず、
何かあれば、「自己責任」で闇に葬られてしまう。
この労働体系のもとでは、
最前線で過酷な労働に従事する作業員の悲痛な叫びは、どこにも届かない。
こうした悲惨で理不尽なこの労働現場には、
何か得体のしれない気味悪さが漂っている。
それは、目に見えず、匂いも味もない放射能が漂う事故現場のなかを、
線量計の音だけを命綱代わりとして働く人たちの無言の声なのかもしれない。
東電は原発作業の下請け会社を、三次下請けまでしか認めていない。
しかし、実際には労働のヒエラルキーは7~9次下請けまであり、
得体のしれない作業員まで導入することになる。
規定の線量を超えてしまえば、「解雇」になり、失業保険もない。
原発の深い闇をのぞかせてくれる本である。
「ルポルタージュ」という表現形式が、
ありのままの現実を、読者の前に披露する。
その現実を、読者がどう捉えるか。
原発労働の過酷さを知らせてくれる好著です。
評価☆☆☆☆☆(5/5) (2015.12.11記)