安倍政権の原子力政策 電力市場の競争 不公正に 立命館大教授 大島堅一
エネルギー基本計画で原発維持を決めた現政権下で、そのための政策が急速に形作られようとしている。
主要なものは原子力発電の費用回収方法の再構築と再処理事業への国の関与強化、原発事故賠償の有限責任化の三つで、
前二者は、経済産業省の総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会で、後者は原子力損害賠償制度の見直しに関する副大臣等会議で議論が進んでいる。
なぜ、これらが今急がれているのか。
それは、2016年に発電・小売りが全面的に自由化され、18~20年をめどに総括原価方式に基づく電気料金が撤廃されるからである。
これまで、原子力事業が進められてきたのは、地域独占と総括原価方式で保護された電力会社があってのことだった。
電力会社の経営が揺らげば原子力も生き残れなくなる。
そうならないうちに急いで制度を構築しようというのだ。
政府が行おうとしていることは単純明瞭で、いずれの政策も本来電力会社が担うべきリスクとコストの全てを、国民や電力消費者に転嫁することが狙いだ。
そうしてしまえば、電力会社にとって、原子力は低廉でリスクがほとんど無い電源となり、原発の新増設すらできるようになる。
原子力小委員会では、
使用済み核燃料の処理・処分や廃炉費用などを含め原子力に固有の費用の一切合財を保証する原子力固定価格制の導入すら検討対象となっている。
この他にも、廃炉費用などについて会計処理ルールを変更するなどの優遇策の検討を始めている。
いずれも総括原価方式を原子力について復活させることに等しい。
このようなことをすれば、原発を持つ事業者ほど経営が安定し、電力市場での競争は著しく不公正になるだろう。
内容も内容だが、政策議論の方法にも問題がある。
原発の維持を最初に決めてしまい、後になって原発の本当のリスクとコストを国民に転嫁しようとしているが、本来、議論する順番が逆である。
原発の是非を判断する前の段階で、考え得るリスクとコストを全て国民に提示し、説明する責任があったはずだ。
国民には目の届かないところで政策が作られようとしていることも大きな問題である。
中でも原子力小委員会の運営は極めて異常である。
委員会のビデオ中継は行われていないし、批判的見解を持つ委員の資料配布が認められなかったこともある。
各委員の発言時間は3分に制限され、異論を持つ委員が説得的に主張を展開できないようになっている。
電力会社への実質的な保護制度を構築しようとしている場であるにもかかわらず、電力会社の役員が専門委員として議論に参加し、自らの要望を述べている。
これは利益相反の疑いが強い。
小委員会が、公共政策を形成する場としてふさわしくないのは明らかである。
そもそも、国民にリスクとコストの大部分を負担させてまで原発を維持する意味があるのだろうか。
百歩譲って、原子力で利益をあげている電力会社こそが、リスクとコストを引き受けるのが市場経済の原則ではないか。
東京電力福島第1原発事故を経験した後の政策形成においては、これらの点に立ち返る必要がある。
詳しくはこちら⇒原発再稼働だけでなく新設までもくろむ安倍政権(北海道MY LOVE)