スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

ナポレオン主義&能動と意志

2023-09-23 19:23:45 | 歌・小説
 『ドストエフスキー 黒い言葉』の第一章で,ナポレオン主義について説明されています。
                                        
 ドストエフスキーの作品の登場人物で,僕が最もナポレオン主義と関連が深いと思っているのは『罪と罰』のラスコーリニコフです。ラスコーリニコフが金貸しの老婆を殺害したのは,選民思想によるものでした。簡単にいえばラスコーリニコフのような特別な人間は,老婆のような凡人の生命を奪っても許されるとラスコーリニコフは考えていたわけです。つまり僕はこの種の選民思想をナポレオン主義と解しているのであって,それでもみれば『悪霊』のピョートルなども僕にはナポレオン主義者にみえます。
 ところがドストエフスキーの処女作である『貧しき人々』と同時期に書いていた『プロハルチン氏』では,主人公のプロハルチンにナポレオン主義のレッテルが貼られていると亀山は指摘しています。プロハルチンはかなり禁欲的で貧しい生活を送って死ぬのですが,死後に莫大な金貨や銀貨が発見されます。つまりプロハルチンは財を蓄えることに夢中になった吝嗇家で,この人物がナポレオン主義といわれているのです。ここから亀山は,ドストエフスキーにとってナポレオン主義とは,拝金主義のことだったのではないかといっています。
 プロハルチンはラスコーリニコフのような選民思想とは縁のない人物で,それをナポレオン主義とドストエフスキーが名指ししている以上,少なくともそのときのドストエフスキーにとってのナポレオン主義は,拝金主義を意味していたと解するのが妥当でしょう。なぜ拝金主義とナポレオン主義が結びついたのかは分かりませんが,事実そうだったといわなければなりません。
 ラスコーリニコフの殺人は,思想を別にみれば生活に困窮して強盗を働いたとみることができるようになっています。そのあたりは,拝金主義とナポレオン主義がドストエフスキーの中で結びついていたことが影響しているのかもしれません。

 現実的に存在するAの精神mensのうちにXの真の観念idea veraがあるということは,Aの能動actioで,AがXを神Deusに帰しているという意味です。ですがそれはAの任意の思惟作用によるものではありません。いい換えればAはXを,任意に神に帰したり帰さなかったりすることを選択することができるわけではありません。つまり,Aの精神の能動actio MentisはAの任意の思惟作用に依存するわけではありません。
 したがって,もしもこのことが理解しにくいのであれば,AがXを神に帰しているということ,つまりAの精神の能動というのは,Xの観念がAの精神のうちで神に帰せられている,あるいは同じことですが,Xの観念がAの精神の本性essentiaのみによって説明されるという意味であり,AがXを神に帰していないということ,つまりAがXの誤った観念idea falsaを有していて,Aの受動passioとなっているということは,Xの観念がAの本性のみによっては説明されないという意味であるというように解しておいた方が安全です。僕は,Aの精神の能動がAを何らかの観念を神に帰していることであるということが誤っているとはいいませんが,神に帰しているというAの思惟作用は,Aの任意によるものではないという点には注意が必要です。なので,ある観念を神に帰しているか帰していないかということについては,その観念に対してその観念を形成する知性intellectusが十全な原因causa adaequataであるか部分的原因causa partialisであるかという意味で理解しておく方がよいと思います。
 おそらくこのことは,第二部定理四八にあるように,スピノザが自由な意志voluntas liberaを認めていないということから理解する方が容易であるかもしれません。現実的に存在する人間がある観念を神に帰したり帰さなかったりすることがその人間の自由な意志に依拠しないということはこのことから明白であるからです。つまり,自由意志と能動との間には実な何の関係もないのです。いい換えれば,僕たちは僕たちの意志によって能動的であることができるというわけではありません。あるいは同じことですが,僕たちは僕たちの意志によって事物の真の観念を有することができるというわけではないのです。この点にはよく留意しておかなければなりません。

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