脳卒中をやっつけろ!

脳卒中に関する専門医の本音トーク
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奇跡が!

2008年05月02日 | 閑話休題
くも膜下出血は重症度によってグレード分けされるのですが、そのうちグレード5というのは「手術適応なし」とされるほど悪い状態です。
つまり治療を行っても生存できる可能性が少ない状態です。生存率10%ともいわれてきました。
しかし我々はこの最重症の症例に対しても積極的にコイルによる塞栓術を行ってきました。
すると驚くことに半数近い人が社会生活を送れるほどに改善しています。

ただしグレード5といってもその中にも重症度の違いがあります。
我々は世界脳神経外科連合(WFNS)グレードを用いて判定を行っていますが、このWFNSグレード5の中でも3点から6点までの範囲があり、比較的状態の良い6点の人が多ければ、結果が良くなる可能性があるわけです。
しかし先日治療を行った患者さんはグレード5の中でも4点で最重症の状態でした。
しかもこの患者さんは刺激に対して両方の手足をのばす「除脳姿勢(じょのうしせい)」という示していたのです。
これは両側の大脳からの連絡が途絶えた状態であることを示していて、両側に出ている場合には通常は治療不可能、あるいは治療を行っても植物状態になる可能性が非常に高いといわれています。
しかしこの患者さんの家族は「寝たきりになるのは覚悟しているから治療してほしい!」と強く希望されました。
このため緊急で動脈瘤をコイルで塞栓し、頭蓋内圧センサーを留置して集中治療を行いました。

治療はうまくいって、MRIでも脳に異常がないのですが、やはり人工呼吸器がなかなか外れません。
先日やっとのことで外れたのですが意識がありません。植物状態になったと思っていました。
しかし昨日、回診に回った時、両手がわずかに動いていたため「わかりますか?わかったら手を握ってください!」というと、なんと手を握ってくるではありませんか!
気のせいかと思い、再度「握って」「開いて」と指示してみると見事に応じます!
家族の方はまだ知りません。回診に回ったうちのチームのメンバーと看護師さんだけが気づいて、「やった!」と喜びの声を上げました。

最重症の患者さんにコイル塞栓術を行って、その後にうまく集中管理を行うと、こういった奇跡のようなことが時々おこります。
動脈瘤治療とその後の管理、両方がそろってはじめて達成できると感じています。
最重症でもあきらめないで治療すれば可能性があるんだなと再認識しました。
またがんばるぞ!
コメント (3)
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未破裂動脈瘤の治療法選択ー血管内手術(近未来編)その2

2008年05月01日 | 動脈瘤
コイル塞栓術後の再開通を防ぐ秘策とは!?

まずコイルに血栓や細胞がくっつきやすくする方法があります。
コイルは金属で出来ていますので、細胞がくっつきにくいのです。
これは再開通予防と言う観点から見るとマイナスです。
ですので、コイルに何らかのコーティングをして、血栓化、組織化を起きやすくするのです。
こういったコイルのことを「バイオアクティブコイル:bioactive coil」と呼んでいます。

この発想は単純ですが、実際に製品を作るのはずいぶんと大変なようです。
つまり、あまりに血栓化がおこりやすいコイルだと、治療中の血栓が出来やすくなって合併症につながる。
細胞がくっつきやすくすると、滑りが悪くなって塞栓率が上がらない。
などのことから、「両刃の剣」と言った感じです。
究極のバイオアクティブコイルの出現が待ち遠しいですね。

しかしすでに欧米で商品化されているものもあります。
ボストンサイエンティフィック社のマトリックスコイルがその代表です。
これは東京慈恵医大の村山雄一先生がアメリカで開発したんですよ。
すごいですね!
村山先生が開発したんだし、そろそろ日本にも入ってきてほしいですね。

ただ、他社も負けてはいません。
続々と新しいコイルを開発中です。
目からウロコ!というコイルもあります。
次回はその一つを紹介しますね。
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未破裂動脈瘤の治療法選択ー血管内手術 その課題

2008年05月01日 | 動脈瘤
お久しぶりです。
しばらくホームページの仕上げに取り組んでおり、ブログが止まっていました。
ごめんなさい!


さて、未破裂動脈瘤に対するコイリングの課題についてお話しします。
言うまでもなく、治療中の合併症(出血や脳梗塞など)が最も重要な課題です。
しかしそれ以外にも課題はあります。
その一つが、塞栓術後の再開通です。
うまく塞栓が行えても、動脈血の拍動によってコイルがだんだんと片寄ってしまい、動脈瘤が開通してしまうことがあるのです。


コイルが片寄ることをコイルコンパクション(coil compaction)と言います。
またコイル自体にはそれほど変化がなくでも、動脈瘤自体が徐々に増大する(regrowth)こともあります。
再開通、再増大、いずれにしても破裂とつながるとすれば問題です。
どの程度からを「再開通」と呼ぶかは色々と考え方があります。


個人的には、破裂につながるかどうかが重要と考えています。
私自身の経験では、ここ数年で未破裂脳動脈瘤を塞栓した100人の患者さんを調査したところ,再塞栓が必要となったのはわずか1名でした。
もちろん塞栓した動脈瘤が、後になって破裂した患者さんもゼロです。
つまりほとんどの症例が一度治療すれば大丈夫ということになります。


しかし一般には未破裂脳動脈瘤の塞栓術後の再開通率は5-8%といわれており、無視できない数字です。
しかも動脈瘤が大きかったり、種々の条件で動脈瘤が十分に塞栓できず、ルーズな塞栓に終わった場合には高率に再開通が起きることが知られています(上の図)。


では、なんとかこの再開通率を下げられないか!
色々な発想がありますが、そのうちのいくつかを紹介したいと思います。
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