ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ジュニア・マンス・トリオ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード

2024-10-03 18:32:47 | ジャズ(ピアノ)

ニューヨークの名門ジャズクラブ、ヴィレッジ・ヴァンガードについては以前にビル・エヴァンス「カリフォルニア・ヒア・アイ・カム」で自身の思い出とともに取り上げました。今もマンハッタンに現存する同クラブでは他にもエヴァンスの「ワルツ・フォー・デビ―」「サンデー・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード」が収録されていますし、それ以外にもソニー・ロリンズ、ジョン・コルトレーン、ケニー・バレル、キャノンボール・アダレイサド=メル楽団、グレイト・ジャズ・トリオなど数多くのジャズ・ジャイアンツ達がライブ録音を残しています。日本人ピアニストの大西順子のライブ盤もありましたね。

今日ご紹介するのはシカゴ出身のピアニスト、ジュニア・マンスが1961年2月22日から23日にかけて同クラブで行ったライブを録音したものです。マンスはジャイアント、とまでは呼べないかもしれませんが、50~60年代のジャズシーンに確かな足跡を残した人で、ダイナ・ワシントンの歌伴、エマーシー時代のキャノンボール・アダレイ・クインテットのピアニストを務めた後、この頃はジョニー・グリフィン&エディ・ロックジョー・デイヴィスの双頭コンボで活躍していました。前年の1960年におそらくグリフィンつながりでリヴァーサイドと契約し、同レーベル及び傍系のジャズランドに6枚のリーダー作を残しており、本作もそのうちの1枚です。メンバーはラリー・ゲイルズ(ベース)とベン・ライリー(ドラム)。2人ともグリフィン&ロックジョーの作品群にマンスとともに参加しており、おそらくこの頃は常に一緒にプレイしていたものと思われます。

アルバムはまずマンスのオリジナル曲”Looptown"で幕を開けます。Loopとはシカゴ市内を走る環状電車の愛称でおそらく古巣シカゴを想って書いたのでしょう。オープニングを飾るにふさわしい迫力満点のファンキーチューンで、のっけから息もつかせぬ勢いでマンスが弾きまくります。後半のベン・ライリーのドラムソロとの掛け合いも見事です。続く”Letter From Home"もマンス作のややゴスペルチックな曲でマンスが右手と左手で一人コール & レスポンスを披露します。3曲目”Girl Of My Dreams"はスイング時代のサニー・クラップと言う人が書いたスタンダード曲で、楽しく軽やかなトリオ演奏です。

4曲目”63rd Street Theme"はシカゴ時代からの盟友であるジョニー・グリフィン作で「リトル・ジャイアント」に収録されていた曲。静かに燃え上がるような演奏ですが、その分前の3曲に比べて客席のおしゃべり(演奏聴いてないやん!)やおそらくマンスが発しているであろうウ~と言う唸り声が若干気になります。続く”Smokey Blues"もマンスが唸りながらブルースを演奏しますが、4分~5分あたりに見せる怒涛のピアノ連弾が鳥肌モノの凄さです。

後半にかけてはややリラックスしたムードで、まずはベイシー楽団のレパートリー"9:20 Special"をスインギーに演奏します。7曲目”Bingo Domingo"はエディ・ロックジョー・デイヴィス作でマンスも参加したグリフィン&ロックジョーの「ザ・テナー・シーン」収録の陽気な曲。この曲では、ラリー・ゲイルズのベースが大々的にフィーチャーされます。ラストは本作中唯一のバラードであるロジャース&ハートの”You Are Too Beautiful"。ブルースやファンキーチューンがメインの本作ですが、マンスはバラードの上手さも抜群で、最後はロマンチックなピアノトリオで締めてくれます。

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レイ・ブライアント・トリオ

2024-09-30 21:02:42 | ジャズ(ピアノ)

前回がドン・バグリーと言うマニアックな選択だったので、今回はド定番でレイ・ブライアントのプレスティッジ盤を取り上げたいと思います。先日ご紹介したシグナチャー盤「レイ・ブライアント・プレイズ」と並んで、彼の代表作に挙げられる1枚です。マイルス・デイヴィスやソニー・ロリンズとの共演を経て、カーメン・マクレエの歌伴を務めていたブライアントが当時のレギュラーメンバーであるアイク・アイザックス(ベース)とスペックス・ライト(ドラム)と組んだもので、ジャズ名盤特集にも必ずと言って良いほど取り上げられる有名盤です。

さて、名盤特集でこのアルバムを解説する時に必ず取り上げられるのが1曲目の”Golden Earings"。レイ・ブライアントと言えばこの曲!とされるぐらいの定番曲ですね。原曲はサラサーテの「ツィゴイネルワイゼン」と言うヴァイオリン曲(以前に当ブログでも紹介しました)ですが、その後にヴィクター・ヤングが映画音楽用に編曲したそうです。特に日本のジャズファンの間で人気が高いようですが、やや歌謡曲っぽい旋律が受けたのでしょうね。ただ、個人的には続くマット・デニス作”Angel Eyes"やチェット・ベイカーも歌ったアンニュイな”The Thrill Is Gone”同様にメロディがベタ過ぎてそこまで好きではありません。

私としてはむしろブライアントの自作曲を含めたジャズオリジナルの方を推したいと思います。特に自作の2曲が素晴らしく、まずは3曲目の”Blues Changes"。ブライアントも参加した「マイルス・デイヴィス & ミルト・ジャクソン」に収録されていた”Changes"と同じ曲で実にリリカルな名曲です。続くアップテンポの”Splittin'"は個人的に本作中最もお気に入りの曲で、いかにもブライアントらしいファンキーなピアノソロが堪能できます。この曲は同じ年にジジ・グライス&ドナルド・バードのジャズ・ラブにもカバーされています。残りは他のジャズメンの曲で、"Django"はMJQ「ジャンゴ」、”Daahoud"は「クリフォード・ブラウン&マックス・ローチ」、”Sonar”はケニー・クラーク「テレフンケン・ブルース」にそれぞれ収録されていた曲のカバーですが、中では”Sonar”が出色の出来です。

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クロード・ウィリアムソン/ラウンド・ミッドナイト

2024-09-19 18:46:34 | ジャズ(ピアノ)

本日はクロード・ウィリアムソンをご紹介します。キャリア自体は非常に長く、2000年代になっても作品を発表するなど大変長寿だったようですが、ジャズファンに親しまれているのは50年代のウェストコースト時代の作品群ですね。特にアルトのバド・シャンクとは関係が深く、有名な「バド・シャンク・カルテット」はじめこの時期ほとんどの作品で共演しています。トランぺッターのステュ・ウィリアムソンのお兄さんでもあります。

さて、クロード・ウィリアムソンは”白いバド・パウエル”の異名を持つほどのバリバリのパウエル派らしいのですが、上記のバド・シャンク作品やアート・ペッパー、バーニー・ケッセルの作品でのプレイを聴いても正直ピンときませんでした。ただ、この人は自身のリーダー作となると人が変わるんですよね。以前にご紹介したベツレヘム盤「クロード・ウィリアムソン・トリオ」でも、オリジナルの"June Bug"等でファンキーなタッチを聴かせますし、同じ年(1956年12月)に発表された本作も同様で、お洒落なピアノトリオ的な先入観をぶっ飛ばすド迫力の演奏です。共演するのはレッド・ミッチェル(ベース)とメル・ルイス(ドラム)。いずれも西海岸を代表する名手ですね。

全12曲、ほとんどが歌モノスタンダードですが、ジャズ・オリジナルが2曲あり、1つがタイトルにもなっているセロニアス・モンクの”’Round Midnight"です。こちらはウィリアムソンの無伴奏ソロですが、正直そんなにインパクトはないですね。むしろ推したいのはホレス・シルヴァー作の”Hippy"です。名盤「ホレス・シルヴァー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ」に収録されていた必殺のファンキーチューンで、ウィリアムソン含めトリオのノリノリの演奏が楽しめます。

スタンダード曲の方は意外とバラードが少なめで”I'll Know”と”Pola Dots And Moonbeams"ぐらいでしょうか?後はほぼアップテンポの演奏でオープニングの”Stella By Starlight"から始まり”Somebody Loves Me"”The Surrey With The Fringe On Top"”Just One Of Those Things""The Song Is You"とお馴染みのスタンダード曲を躍動感たっぷりの演奏で料理していきます。中でも圧巻なのが”Tea For Two"で、通常はバラードで演奏されるこの定番スタンダードを凄まじい速弾きで弾き切ります。その圧倒的なテクニックはまさに”白いパウエル”の名にふさわしいですね。負けじとついていくレッド・ミッチェル&メル・ルイスのリズム隊もさすがの一言です。ウエストコースト風の軽い演奏というイメージを良い意味で裏切ってくれるピアノトリオの傑作です。

 

 

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レイ・ブライアント・プレイズ

2024-09-09 18:31:52 | ジャズ(ピアノ)

本日はレイ・ブライアントです。リーダー作を紹介するのは本ブログでは今回が初めてですが、サイドマンとしてはこれまでもたくさん取り上げてきました。特に「ベニー・ゴルソン&ザ・フィラデルフィアンズ」「ミート・オリヴァー・ネルソン」で見せるブルージーなプレイは、時にリーダーもかすむほどの存在感を見せています。

本作「レイ・ブライアント・プレイズ」はプレスティッジ盤「レイ・ブライアント・トリオ」と並んでハードバップ期におけるブライアントの代表作です。原盤はシグナチャー・レコードと言うマイナー・レーベルに1959年10月から11月にかけて吹き込まれたもので、レコード時代はマニア垂涎の名盤だったらしいですが、CDでは比較的容易に手に入るようになりました。トリオを組むのはベースの1歳上の兄トミー・ブライアント、ドラムのオリヴァー・ジャクソンです。

全12曲。いわゆる歌モノスタンダードは1曲もなく、かと言って自作曲はファンキー調の"Sneaking Around"の1曲のみ。後は全て他のジャズマンの有名曲です。スイング時代からはエリントン楽団の”Take The A Train"、ビバップ期からはチャーリー・パーカー"Now's The Time"等のド定番を取り上げていますが、同時代のジャズマンの曲も多く、MJQの”Delauney's Dilemma"、セロニアス・モンクの"Blue Monk"、エロール・ガーナーの"Misty"、ホレス・シルヴァーの”Doodlin'"、ミルト・ジャクソンの”Bags' Groove"、マイルス・デイヴィスの"Walkin'"、ベニー・ゴルソンの”Whisper Not"とおなじみの有名曲をブライアントが時にスインギーに、時にソウルフルに、時にロマンチックに演奏します。基本的に3~4分の演奏が多く、あまり難しいことを考えずに楽しむ感じですね。

知らない曲も何曲かあり、ディジー・ガレスピー作の急速調バップ"Wheatleigh Hall"は前年にブライアント兄弟もサイドマンで参加したガレスピーの「デュエッツ」で初演された曲らしいです。デューク・エリントンの美しいバラード”A Hundred Dreams From Now"もビッグバンド時代の曲ではなく、エリントンが同時期に発表したトリオ作品からの曲とのこと。他では聴いたことがない曲ですが、しみじみとしたバラードで個人的には本作中最もお気に入りの曲です。それ以外では思わず口ずさみたくなるほどキャッチーな”Doodlin'"も最高ですね。

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トミー・フラナガン/オーヴァーシーズ

2024-08-22 20:00:14 | ジャズ(ピアノ)

トミー・フラナガンは私にとって特別に思い入れのあるピアニストです。と言うのもいわゆるジャズ・ジャイアンツの中で唯一生のライヴを見たことがあるのが彼だからです。忘れもしない1999年12月。旅行でニューヨークを訪れていた当時まだ20代の私はここぞとばかりに一緒に行った友人たちとジャズクラブ巡りをしました。最初に赴いたのは伝説のヴィレッジ・ヴァンガード。憧れの聖地に足を踏み入れて感激したのですが、当日出演していたのは聞いたことないディキシーランド・ジャズのバンドのライブで、演奏内容は正直ピンと来ませんでした。有名なブルーノートにも行きましたが、当日やっていたのは映画「アラジン」の主題歌”Whole New World"で有名なレジーナ・ベルのライブ。これはこれでとても良かったのですがジャズとは少し違う。

そんな時にたまたま見つけたのがトミー・フラナガンのライブ。あまり聞いたことのないミッドタウンのジャズクラブで名前は失念しましたが、これが素晴らしい体験でした。フラナガンは当時69歳。年齢的にはまだ老ける年ではないのですが、正直ステージに上がるまでの動きは重そうでした。2年後の2001年に病気で亡くなってしまうのでこの時すでに体調が悪かったのかもしれません。ただ、ひとたび鍵盤の前に座ると背筋もシャキッとし、そこからは目もくらむようなきらびやかなタッチで鮮やかなソロを繰り出します。当時の私はまだジャズを聴き始めて5年ぐらいでライブで演奏されている曲も正直知らない曲の方が多かったですが、それでも生で見る一流ピアニストの演奏に圧倒されたのを鮮明に覚えています。

思い出話が長くなりましたが、本日ご紹介する「オーヴァーシーズ」はそんなフラナガンの代表作に挙げられる1枚です。ピアニストとして「サキソフォン・コロッサス」「ジャイアント・ステップス」はじめ数多の名盤に参加したフラナガンですが、自身のリーダー作を本格的に発表し始めるのは70年代以降で、50~60年代に発表されたのは本作とプレスティッジ盤「ザ・キャッツ」、ムーズヴィル盤「トミー・フラナガン・トリオ」の3作品しかありません。本ブログでも彼の参加した作品は数えきれないほど紹介してきましたが、リーダー作となると本作が初ですね。

録音年月日は1957年8月15日。当時フラナガンはJ・J・ジョンソン・クインテットの一員としてヨーロッパを訪問中で、そのうちリズムセクションの3人(フラナガン、ウィルバー・リトル、エルヴィン・ジョーンズ)がストックホルムのメトロノーム・スタジオで録音しました。海外で録音されたということでOverseasのタイトルが付いたわけですが、ジャケットを見るとOVERの下に、CCCCCCと大量のCが書かれており、OverCsとちょっとしたシャレになっています。なお、再発盤のCDはフラナガンがタバコを吸うジャケットがメインになっており、このデザインのジャケットは今ではあまりお目にかからないかもしれません。

全9曲、最初の2曲とラストの"Willow Weep For Me"以外は全てフラナガンのオリジナルです。オープニングの"Relaxin' At Camarillo"はチャーリー・パーカーのバップ曲。3分余りの短い演奏なのですがジャズピアノトリオの魅力が詰まったような名演でリスナーの心をガッチリ掴みます。続く"Chelsea Bridge"はビリー・ストレイホーンが書いたエリントン楽団の定番曲で、こちらはしっとりした演奏です。3曲目”Eclypso"はフラナガンの代表曲で、上述の「ザ・キャッツ」でも演奏していました。タイトルから想起されるようにカリプソの陽気なリズムに乗ってフラナガンがきらびやかなフレーズを紡いでいきます。フラナガンは後の80年にもこの曲をフィーチャーした「エクリプソ」というアルバムを発表しており、そちらも名盤の誉れが高いです。4曲目"Beat's Up"は文字通りアップビートのキャッチーなナンバーで、フラナガンはもちろんのこと、ベースとドラムにもスポットライトが当たります。

5曲目”Skål Brothers”はおそらくスウェーデン人の名前で、スコール兄弟(誰?)に捧げたブルースでしょうか?続く”Little Rock"もブルースですが、この辺りは少し似たような曲調が続きます。7曲目”Verdandi"は北欧神話に出てくる女神の名前から取った曲で、2分超と短いながらもエネルギッシュなナンバーです。8曲目"Delarna"はカタカナにするとダーラナでスウェーデンの地名とのこと。スウェーデンの原風景を残している美しい場所らしく、曲の方も実にチャーミングな美しい旋律を持った名曲で、本作のハイライトと言っても過言ではありません。ラストの"Willow Weep For Me"は定番のスタンダード。私はこの曲暗くてあまり好きではないのですが、本作のバージョンは途中でテンポも早くなったり工夫を凝らしていて悪くありません。全編を通じてフラナガンのピアノはもちろんのこと、ウィルバー・リトルのベース、エルヴィン・ジョーンズのドラムも存在感を放っており、まさにトリオの三位一体となった演奏が楽しめます。

上述のライブを見た後、感激した私は現地で発売されていたフラナガンの「シー・チェンジズ」というアルバムを買いました。1996年発表の新しいアルバムだったのですが、収録曲には”Verdandi""Delarna""Eclypso""Beat's Up""Relaxin' At Camarillo"と5曲もの曲が再演されています。40年近く経っても繰り返し演奏するぐらいの愛奏曲ばかりが収録された本作はフラナガンの中でも特別なアルバムだったのでしょうね。

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