ニューヨークの名門ジャズクラブ、ヴィレッジ・ヴァンガードについては以前にビル・エヴァンス「カリフォルニア・ヒア・アイ・カム」で自身の思い出とともに取り上げました。今もマンハッタンに現存する同クラブでは他にもエヴァンスの「ワルツ・フォー・デビ―」「サンデー・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード」が収録されていますし、それ以外にもソニー・ロリンズ、ジョン・コルトレーン、ケニー・バレル、キャノンボール・アダレイ、サド=メル楽団、グレイト・ジャズ・トリオなど数多くのジャズ・ジャイアンツ達がライブ録音を残しています。日本人ピアニストの大西順子のライブ盤もありましたね。
今日ご紹介するのはシカゴ出身のピアニスト、ジュニア・マンスが1961年2月22日から23日にかけて同クラブで行ったライブを録音したものです。マンスはジャイアント、とまでは呼べないかもしれませんが、50~60年代のジャズシーンに確かな足跡を残した人で、ダイナ・ワシントンの歌伴、エマーシー時代のキャノンボール・アダレイ・クインテットのピアニストを務めた後、この頃はジョニー・グリフィン&エディ・ロックジョー・デイヴィスの双頭コンボで活躍していました。前年の1960年におそらくグリフィンつながりでリヴァーサイドと契約し、同レーベル及び傍系のジャズランドに6枚のリーダー作を残しており、本作もそのうちの1枚です。メンバーはラリー・ゲイルズ(ベース)とベン・ライリー(ドラム)。2人ともグリフィン&ロックジョーの作品群にマンスとともに参加しており、おそらくこの頃は常に一緒にプレイしていたものと思われます。
アルバムはまずマンスのオリジナル曲”Looptown"で幕を開けます。Loopとはシカゴ市内を走る環状電車の愛称でおそらく古巣シカゴを想って書いたのでしょう。オープニングを飾るにふさわしい迫力満点のファンキーチューンで、のっけから息もつかせぬ勢いでマンスが弾きまくります。後半のベン・ライリーのドラムソロとの掛け合いも見事です。続く”Letter From Home"もマンス作のややゴスペルチックな曲でマンスが右手と左手で一人コール & レスポンスを披露します。3曲目”Girl Of My Dreams"はスイング時代のサニー・クラップと言う人が書いたスタンダード曲で、楽しく軽やかなトリオ演奏です。
4曲目”63rd Street Theme"はシカゴ時代からの盟友であるジョニー・グリフィン作で「リトル・ジャイアント」に収録されていた曲。静かに燃え上がるような演奏ですが、その分前の3曲に比べて客席のおしゃべり(演奏聴いてないやん!)やおそらくマンスが発しているであろうウ~と言う唸り声が若干気になります。続く”Smokey Blues"もマンスが唸りながらブルースを演奏しますが、4分~5分あたりに見せる怒涛のピアノ連弾が鳥肌モノの凄さです。
後半にかけてはややリラックスしたムードで、まずはベイシー楽団のレパートリー"9:20 Special"をスインギーに演奏します。7曲目”Bingo Domingo"はエディ・ロックジョー・デイヴィス作でマンスも参加したグリフィン&ロックジョーの「ザ・テナー・シーン」収録の陽気な曲。この曲では、ラリー・ゲイルズのベースが大々的にフィーチャーされます。ラストは本作中唯一のバラードであるロジャース&ハートの”You Are Too Beautiful"。ブルースやファンキーチューンがメインの本作ですが、マンスはバラードの上手さも抜群で、最後はロマンチックなピアノトリオで締めてくれます。