約2ヶ月ぶりのブログ更新です。今回は珍しく室内楽で、ベートーヴェンのピアノ三重奏曲第5番「幽霊」とピアノ三重奏曲第6番をご紹介します。ベートーヴェンは生涯に7曲のピアノ三重奏曲を完成させましたが、最も有名なのが第7番「大公」で私も既にコレクション済みです。今日ご紹介する第5番「幽霊」はその次くらいでしょうか。第6番は特に愛称が付いてないことからもわかるように地味で取り上げられる機会はあまりありません。2曲とも1808年の作曲です。この頃のベートーヴェンは前年に交響曲「田園」を、翌年にピアノ協奏曲「皇帝」を発表するなど創作活動が一つのピークに差し掛かっていた頃で、本作もピアノ、ヴァイオリン、チェロのコンパクトな編成ながら内容的には大変充実しています。CDはダニエル・バレンボイム(ピアノ)、ピンカス・ズーカーマン(ヴァイオリン)、ジャクリーヌ・デュプレ(チェロ)の豪華トリオによる1969年の録音です。当時夫婦だったバレンボイムとデュプレは当然のことながら息ぴったりですし、そこに若き日の名手ズーカーマンも加わり素晴らしいハーモニーを奏でています。
まずは第5番から。「幽霊」という愛称はベートーヴェンが付けたものではなく、後世に付けられたものです。第2楽章の始まりが不安を煽るようなものだったからとか由来は諸説ありますが、正直聴いても「どこが?」と言う感じです。確かに第2楽章は静かで暗めではありますが、別に不気味というほどではありません。まあ日本語の幽霊と言うとどうしてもお岩さん的なおどろおどろしいイメージを思い浮かびますが、西洋のゴーストだと少し違うのかも?いずれにせよ、暗めの曲調は第2楽章だけで、第1楽章なんて冒頭からエネルギッシュな始まりですし、第3楽章も伸びやかで開放的な雰囲気で、全体的には明るめの作品です。
続く第6番は第5番「幽霊」とほぼ同時期に発表された兄弟的な作品ですが、有名な「幽霊」と「大公」の間に挟まれて存在感の薄い作品です。ただ、聴いてみるとそんなことはなく、内容的には全く遜色ない出来の傑作です。全体的に穏やかな曲調で派手さはありませんが、旋律はどれも美しいです。特に子守唄のような優しい旋律の第3楽章と天国的な雰囲気に満ち溢れた第4楽章が出色の出来です。