ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

トニ・ハーパー/トニ

2016-10-28 23:28:24 | ジャズ(ヴォーカル)
本日は再びジャズヴォーカルで「Verve 60th レア盤コレクション」からトニ・ハーパーの作品をご紹介します。ただ、正直彼女の名前を知っているジャズファンは多くないでしょう。私も知りませんでしたし。解説によると1937年生まれで子供の時から歌がうまく、天才少女としてテレビ等にも出演したとか。本作「トニ」は1955年、彼女が18歳の時に発売されたプロデビュー作ですが、人気絶頂のオスカー・ピーターソン・トリオがバックを務めるなど、ヴァーヴが彼女に並々ならぬ期待をかけていたことがうかがえます。ただ、そんな彼女ですがその後2枚のアルバムを残しただけで、1960年代には引退してしまいます。これでは知名度が低いのも仕方ないですね。とは言え、本作はジャズヴォーカルの隠れ名盤として一聴の価値ありです。



前回のエラ・フィッツジェラルドのエントリーでも述べましたが、ヴォーカル名盤の条件は①歌の上手さ、②伴奏の良さ、③選曲の良さですが、本作で強調すべきは何と言っても②でしょう。上述のようにオスカー・ピーターソン・トリオ、すなわちピーターソン(ピアノ)、レイ・ブラウン(ベース)、ハーブ・エリス(ギター)の3人にアルヴィン・ストーラー(ドラム)が加わったカルテットが彼女をサポートしています。歌伴なのでピアノやギターが前面に出てくる場面は多くありませんが、それでも随所でキラリと光るソロを披露してくれます。次に①の歌の上手さですが、トニは黒人ながらいわゆるパンチの利いたボーカルではなく、ハスキーがかった声でしっとり歌う系です。バラードも多く、全体的に落ち着いた大人の雰囲気ですね。とても18歳の歌手とは思えません。あえてケチをつけるなら③の選曲。全て有名スタンダード中心で意外性がないので、やや物足りなさが残ります。とは言え、しっとりバラードで歌った“Can't We Be Friends”“Bewitched, Bothered And Bewildered”“Little Girl Blue”、ピーターソンのピアノがドラマチックに盛り上げる“Love For Sale”等は聴き応えたっぷりです。
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チャーリー・パーカー・ストーリー・オン・ダイヤル

2016-10-26 23:31:59 | ジャズ(ビバップ)
今年1月のブログでチャーリー・パーカーの「ナウズ・ザ・タイム」を取り上げ、パーカーの魅力に開眼したようなことを書きましたが、実はその後も何枚かパーカーのCDを買ってみたはものの、イマイチのめり込めませんでした。名盤と呼ばれている「スウェディッシュ・シュナップス」「バード・アンド・ディズ」はそこまで楽曲が良いとは思いませんし、晩年の「プレイズ・コール・ポーター」は演奏がヘロヘロ。「エイプリル・イン・パリ」はパーカーのソロ自体は素晴らしいものの、バックの甘ったるいストリングスがちと苦手。最後の試しということでこれまで録音の悪さを理由に敬遠していた40年代後半のダイアル・セッションを買ってみました。これがなかなか素晴らしい。音質はさすがに悪いですが、それを補ってあまりあるパーカーの素晴らしい演奏と後にスタンダードとなる名曲のオリジナル演奏が堪能できます。

ダイアルと言うのは西海岸にあったレコード会社の名前ですが、他に有名な作品はなく、パーカーの全盛期を録音するためだけに存在したレーベルと言っても過言ではないでしょう。録音は1946年2月から1947年12月にかけて計8回行われ、合計37曲が2枚のCDにわたって収録されています。パーカーの他の作品はやたら別テイクが多く閉口することがありますが、本作は全てマスターテイクのみで曲の多さのわりにはすっきりした印象です。




まずはVol.1から。こちらは5つのセッションから成り、全て西海岸録音です。まず、1つ目のセッションは1946年2月のディジー・ガレスピーとの共演で、“Diggin' Diz”1曲のみが収録されていますが、さすがに録音状態が悪すぎてまともな評価はできません。2曲目から6曲目までは翌3月のセッションで、当時まだ19歳だったマイルス・デイヴィス(トランペット)に加え、ラッキー・トンプソン(テナー)、ドド・マーマローサ(ピアノ)らかなるセプテットの演奏。このセッションからは後にパーカーの代表曲となる“Moose The Mooche”“Yardbird Suite”が生まれており、どちらも素晴らしいの一言。その他に有名な“Ornithology”も収録されています。7曲目から10曲目はハワード・マギー(トランペット)との共演ですが、こちらは正直イマイチ。アルコールで酩酊状態だったらしく、演奏もどことなく冴えません。11曲目から15曲目は1947年2月のセッションで、“Misty”の作曲者としても知られているエロール・ガーナー(ピアノ)との共演。これがなかなか充実の出来で、“Bird's Nest”ではパーカーとガーナーが目の覚めるようなソロの応酬を繰り広げます。“Cool Blues”もいいですし、アール・コールマンのヴォーカルも入った“This Is Always”“Dark Shadows”ではパーカーの珍しい歌伴演奏も聴けます。16曲目から19曲目は再びハワード・マギーとのセッションで、パーカーと同じく夭折したワーデル・グレイ(彼については3月のブログ参照)のテナーも聴けます。パーカーの演奏自体は比較的好調ですが、自作曲が“Relaxin' At Camarillo”のみで後はマギーの作品と言うのがやや不満ですね。以上、雑多な寄せ集め感もあり、演奏も全てが上質と言うわけではありませんが、マイルス入りのセッションとエロール・ガーナーとの共演は必聴ですね。



Vol.2の方は1947年の10月から12月にかけてニューヨークで録音されたもので、Vol.1のような寄せ集め感はなくメンバーも固定です。そのメンバーとはマイルス・デイヴィス(トランペット)、デューク・ジョーダン(ピアノ)、トミー・ポッター(ベース)、マックス・ローチ(ドラム)。さらに13曲目から18曲目での6曲でJ・J・ジョンソン(トロンボーン)が追加で加わります。この一連のセッションは掛け値なしにジャズ史上に残る名演と言ってよいでしょう。若きマイルスやジョーダンも才能の片鱗をうかがわせていますが、何と言っても主役はパーカー。全盛期の彼の閃きに満ちたアドリブと彼のペンによる名曲の数々が多数収録されており、多少の録音の悪さなど吹き飛ばしてくれます。特に10月のセッションが圧倒的で、1曲目から“Dexterity”“Bongo Bop”“Dewey Square”“The Hymn”と名曲・名演のオンパレード。続いて“All The Things You Are”の変奏曲である“Bird Of Paradise”、スタンダード曲のメロディを鮮やかに再構築した“Embraceable You”とバラード演奏の素晴らしさも見せつけてくれます。翌11月のセッションも好調で、こちらも“Bird Feathers”“Klactoveedsedstene”“Scrapple From The Apple”と後に多くのジャズメンにカバーされる名曲のオリジナルが聴けます。他の3曲はスタンダードで“My Old Flame”“Out Of Nowhere”“Don't Blame Me”とロマンチックなバラード演奏が続きます。最後の12月のセッションはJ・Jのトロンボーンを加えたセクステット演奏ですが、内容的には上記2セッションには劣るものの“Drifting On A Reed”“Crazeology”は名演です。これまでパーカーと言えばジャズ史上の偉人であることは認めつつも、時代の古さもあってどこか取っつきにくさを感じていた私ですが、このダイヤル・セッションを聴いた今ではすっかりその魅力に取りつかれてしまいました。「パーカーを聴かずにジャズを語るなかれ」なんて年寄り評論家のたわ言とかつては反発していた私ですが、これからは同じセリフを発してしまいそうで怖いです・・・
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エラ・フィッツジェラルド/ウィスパー・ノット

2016-10-19 23:04:35 | ジャズ(ヴォーカル)
ほぼ1ヶ月ぶりの更新ですが、本日は久々にヴォーカル作品を取り上げたいと思います。さて、唐突ですがジャズヴォーカルにおける名盤の条件は何でしょうか?個人的には3つあると思います。まず第1の条件は当たり前ですが歌が上手いこと。ただ、これはほとんどのジャズシンガーがクリアしていると言っていいでしょう。2つ目は伴奏の出来。この辺りは好みによりますが、個人的にはストリングスをバックにした演奏より、管楽器つまりビッグバンドやスモールコンボによる伴奏の方が好きですね。3つ目が選曲の良さ。有名スタンダード曲の歌手による解釈の違いを聴き比べるのもジャズヴォーカルの楽しみの一つですが、やはり定番曲ばかりでは新鮮味がありません。今日ご紹介する「ウィスパー・ノット」はその3つを高い水準でクリアする名盤と言ってよいでしょう。1966年にロサンゼルスで録音された本作は50年代のエラの数々の名盤に比べるとマイナーで、これまで再発売される機会はありませんでしたが、このたび「Verve 60th レア盤コレクション」でめでたく初CD化されました。



先ほどの名盤の条件に戻りますと、まず第1の条件は“ジャズ界のファーストレディ”相手に議論するまでもありませんね。録音当時49歳、ジャケットに見るように体型も貫録が出てきた頃ですが、表現力豊かなヴォーカルには余裕すら感じます。第2の条件ですが、本作はニューヨークではなく西海岸で録音されたこともあり、ウェストコートを代表する名アレンジャーであるマーティ・ペイチ率いるビッグバンドが演奏を担当しています。メンバーもハリー・エディソン(トランペット)、ビル・パーキンス(テナー)、ジミー・ロウルズ(ピアノ)、シェリー・マン(ドラム)ら西海岸のトップミュージシャンばかり。ソロは“Time After Time”でビル・パーキンスがテナーソロを取るぐらいですが、一糸乱れぬゴージャスなアンサンブルは素晴らしいの一言です。ペイチはピアニストとしても活躍しアート・ペッパーと共演したりしましたが、アレンジャーの仕事により能力を発揮し、他にもメル・トーメやジョニー・ソマーズ等多くのヴォーカル名盤を手掛けています。第3の条件の選曲ですが、本作も“Sweet Georgia Brown”“Whisper Not”“Lover Man”等スタンダードの定番曲も含まれていますが、一方で他ではあまり聴く機会のない曲が多い。ジュール・スタイン作曲の知られざる名曲“I Said No”、30年代のミュージカル曲“Thanks For The Memory”等あまり聴いたことないですがエラの抜群の歌の上手さも手伝ってか、なかなかの名曲です。また、1960年代に作曲された比較的新しい曲も多く、サイ・コールマン作曲の“I've Got Your Number”、バート・バカラック作曲の“Wives And Lovers”、当時の大ヒットミュージカル「屋根の上のバイオリン弾き」から“Matchmaker, Matchmaker”等録音当時はまだホットだった曲をエラ一流のヴォーカルで歌い切っています。そんな中でも一番のサプライズは“Old MacDonald Had A Firm”。日本語名は「ゆかいな牧場」、♪いちろうさんの牧場でイーアイイーアイオー、のメロディで知られるアメリカ民謡を見事にジャズに料理しています。最初は原曲どおり動物の鳴き声をまじえてコミカルに歌いながら、最後はゴージャスなビッグバンドをバックにパンチの利いたヴォーカルで締めくくるあたりはさすがの一言です。
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