ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ボビー・ジャスパー・ウィズ・ジョージ・ウォーリントン

2024-07-26 19:54:36 | ジャズ(ハードバップ)

本日はボビー・ジャスパーのリヴァーサイド盤をご紹介します。ジャスパーについては以前にフランス・コロンビア盤を取り上げましたが、ベルギー出身のマルチリード奏者で1950年代後半にアメリカに渡ってハードバップシーンで活躍しました。本業はテナーだと思われますが、フルートもよく吹いていてそちらのイメージも強いですね。特に日本ではウィントン・ケリーの名盤「ケリー・ブルー」でフルートを吹いているせいか、フルート奏者の認識の方が強いかもしれません。

今日ご紹介するリヴァーサイド盤は1957年5月に吹き込まれた彼のアメリカ時代の代表作です。ジャケットがとんでもなくダサい(サヴォイにはこういうジャケットが多いですが、リヴァーサイドでは珍しい)ので不安になりますが、内容はとても充実しています。メンバーで注目はジョージ・ウォーリントンですね。本ブログでも過去に何度も取り上げていますが、白人ながらバップシーンで大活躍したピアニストで、本作でも準リーダー的な位置付けです。他ではビバップ期から活躍するトランペットのイドリース・スリーマンが7曲中3曲で参加しています。リズムセクションはウィルバー・リトル(ベース)とエルヴィン・ジョーンズ(ドラム)で、当時ジャスパーとともにJ・J・ジョンソンのクインテットに在籍していました。彼らが参加したJ・Jの名盤「ダイアル・J・J・5」は同じ月の録音です。

曲は全7曲、スタンダードが2曲、メンバーのオリジナルが5曲と言う構成です。1曲目”Seven Up"はジャスパーのオリジナル。典型的なパップチューンでややモンクっぽい出だしのイントロから、スリーマン→ジャスパーのテナー→ウォーリントン→リトルとソロをリレーします。ジャスパーの意外とソウルフルなテナーソロに認識を改める人も多いのでは?2曲目はスタンダードの”My Old Flame"で、こちらは一転してフルートによる美しいバラード演奏です。3曲目”All Of You"はご存じコール・ポーターの名曲。マイルス・デイヴィス「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」のバージョンが有名ですが、本作も負けず劣らず素晴らしい。イントロからジャスパーのテナーが絶好調で、後半にはエルヴィンのドラムとのスリリングな掛け合いも聴けます。

4曲目”Doublemint"はスリーマンのオリジナルで痛快なハードバップ。5曲目”Before Dawn"はウォーリントン作のバラードで、同年のウォーリントンのサヴォイ盤「ジャズ・アット・ホッチキス」にも収録されました。マイナーキーの曲でジャスパーの哀愁漂うテナーとスリーマンのトランペットが印象的です。続く"Sweet Blanche"もウォーリントンのオリジナルで、伝説の名盤「ライヴ・アット・カフェ・ボヘミア」で演奏されていた曲。ここではジャスパーが再びフルートを手にし、軽やかにソロを紡いで行きます。ラストの”The Fuzz"はジャスパー作。オリジナルLPには入っていないボーナストラックで、シンプルなバップナンバーです。以上、2曲あるフルート演奏ももちろん良いですが、全体としては、テナー奏者ボビー・ジャスパーの魅力にスポットライトを当てた1枚だと思います。

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ドド・マーマローサ/ドドズ・バック!

2024-07-24 18:41:56 | ジャズ(ピアノ)

本日は謎のピアニスト、ドド・マーマローサをご紹介します。本名はマイケル・マーマローサと言い、ピッツバーグ生まれのイタリア系アメリカ人らしいです。ドドとは変わった名前ですが、Wikipedia情報によると子供の頃に頭が大きく胴が短いところが絶滅した大型の鳥”ドードー”に似ているという理由で付けられたあだ名らしいです。いや、それってイジメちゃうん?と思ってしまいますが、そのまま芸名にしたということは意外と本人も気に入ってたのでしょうね・・・となるとカタカナ表記はドードー・マーマローサとすべきなのか?と言う疑問も湧きますが、ドドで進めましょう。

話が脱線しましたが、このドド・マーマローサ、CDで入手可能なリーダー作はおそらく本作のみという幻のピアニストなのですが、1940年代のビバップ期にはかなり活躍したらしいです。そう言われればチャーリー・パーカーの伝説のダイヤル・セッションのうち9曲に名を連ねています。"Moose The Mooche"や"Ornithology"のバックでピアノを弾いているのがドドですね。ただ、1950年代はほぼ活動しておらず、シーンから姿を消してしまいました。原因の一端はお決まりの麻薬のようですが、それだけではなく私生活でも離婚したりといろいろトラブルを抱えていたようですね。1960年代に入ると再び演奏活動を再開し、1961年5月にシカゴのレコード会社であるアーゴ・レコードに復帰作として吹き込まれたのがこの作品です。なお、リズムセクションはシカゴを拠点にしていたリチャード・エヴァンス(ベース)とマーシャル・トンプソン(ドラム)が務めています。

全10曲。アルバムはまずドドのオリジナル曲”Mellow Mood”で幕を開けます。タイトル通りまさにメロウな雰囲気を持ったミディアムテンポの曲で、まるでスタンダードのような魅力的なメロディです。こう言った事前知識のない作品は1曲目でつまずくと2曲目以降を聴く気が失せるのですが、摑みはがっちりですね。ちなみにドドのオリジナルはもう1曲あり、9曲目”Tracy's Blues"がそうですが、残念ながらこちらはあまり印象に残りません。

その他の8曲は全て歌モノスタンダード。"Cottage For Sale""Everything Happens To Me""On Green Dolphin Street""Why Do I Love You?""I Thought About You"と定番スタンダードがずらりと並びます。ある意味ベタな選曲で、演奏が平凡だとつまらない作品になりがちなところですが、ドドの抜群のテクニックに裏打ちされた見事な演奏のおかげで十分に聴き応えのある内容となっています。中でもおススメは"On Green Dolphin Street"で、ウィントン・ケリーやビル・エヴァンスの名演で知られるスタンダードを全く遜色のないクオリティで弾き切っています。普段あまり耳にしない"Me And My Shadow"や"You Call It Madness"と言った曲も良いです。これだけの実力を持ちながら、結局ドドはメジャーな存在にはなれず、シカゴでしばらく演奏活動を行った後、故郷のピッツバーグで決して幸福とは言えない余生を過ごしたそうです。ジャズの世界で身を立てるのは厳しいというのをあらためて痛感しますが、このアルバム自体は数年前にもCDで再発売されましたし、半世紀以上たった今も聴き継がれているのはジャズマンとしては幸せなことなのかもしれません。

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レッド・ミッチェル & ハロルド・ランド/ヒア・イェ!

2024-07-23 18:55:48 | ジャズ(ハードバップ)

50~60年代のジャズを語る際に、我々はつい東海岸=黒人中心のハードバップ、西海岸=白人中心のウェストコーストジャズ、と区別しがちです。ただ、実際にはそう単純なものではなく、ウェストコーストにも黒人ミュージシャンはたくさんいましたし、白人の中にもハードバップ志向の強い演奏をするジャズマンも多くいました。本日ご紹介するレッド・ミッチェル=ハロルド・ランド・クインテットもそんな西海岸ハードバップの典型的なグループです。

メンバーのうちハロルド・ランドについては今さら語るまでもないですね。伝説のブラウン=ローチ・クインテットのテナー奏者で、本ブログでも少し前に「ハロルド・イン・ザ・ランド・オヴ・ジャズ」を取り上げました。もう1人のリーダーであるレッド・ミッチェルは西海岸で活躍した白人ベーシストです。本名はキースと言うらしいですが、赤毛ということでレッドの愛称がついたとのこと。黒人トランぺッターのブルー・ミッチェルとはもちろん赤の他人です。他のメンバーはまずトランペットが黒人のカーメル・ジョーンズ。パシフィック・ジャズ等にリーダー作を残しており、後にホレス・シルヴァーの「ソング・フォー・マイ・ファーザー」にも参加しています。ピアノのフランク・ストラゼリとドラムのレオン・ペッティーズはあまりよく知らない名前ですが、前者は名前的にイタリア系白人、後者は黒人のようです。2人ともジョーンズの「ザ・リマーカブル・カーメル・ジョーンズ」にも参加していたのでおそらく彼のバンドのメンバーと思われます。以上、白人2+黒人3から成るコンボです。

本作「ヒア・イェ!」は1961年にアトランティック・レコードに吹き込まれた作品です(どうでもいいですがジャケットの2人の背景にあるコンクリートの廃墟みたいなのは一体何なんでしょうか?)。全6曲、スタンダードは1曲もなく、全てメンバーのオリジナルと言う意欲的な構成です。1曲目”Triplin' Awhile"はハロルド・ランド作。2管による印象的なリフが繰り返されるファンキーチューンで、本作のハイライトと言って良い名曲・名演です。ランド、ジョーンズのソウルフルなプレイが最高です。2曲目”Rosie's Spirit"と3曲目”Hear Ye!”はミッチェルのオリジナル。前者は元気いっぱいのハードバップ、後者はキャノンボール・アダレイあたりが演奏しそうなソウルフレイバーたっぷりの曲でとても白人が書いたとは思えません。ランド、ジョーンズはもちろんのことストラゼリも黒っぽいプレイを聴かせてくれます。

4曲目”Somara”はカーメル・ジョーンズ作でこちらはちょっとホレス・シルヴァーっぽいですかね。5曲目ランド作の”Catacomb"は1961年という時代を反映してか、ちょっとモードジャズっぽい響きも感じられます。ラストの”Pari Passu"はフランク・ストラゼリのオリジナル。変なタイトルですが、ラテン語で”同じ歩調で”と言う意味らしいです。この曲もややモーダルな響きです。後半3曲は正直言って可もなく不可もなくと言った出来ですが、前半の3曲はなかなかにソウルフルで、ウェストコーストにも硬派ハードバップあり!という事実を知らしめてくれる1枚です。

 

 

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スタン・リーヴィ/ジス・タイム・ザ・ドラムズ・オン・ミー

2024-07-22 18:52:01 | ジャズ(ウェストコースト)

本日はウェストコースト3大ドラマーの1人、スタン・リーヴィを取り上げたいと思います。スタンについては先月にも「グランド・スタン」をご紹介しましたが、本日UPする「ジス・タイム・ザ・ドラムズ・オン・ミー」は同じベツレヘム・レコードに1955年9月に吹き込まれた作品です。この作品、CDでは「今こそドラムを叩く時」と言う邦題がついていますが、ちょっと直訳過ぎますよね。勘の良い方ならおわかりと思いますが、ハロルド・アーレンの有名スタンダード"This Time The Dream's On Me"にひっかけているのは明らかです。

この作品、メンバーに注目です。トランペットのコンテ・カンドリ、トロンボーンのフランク・ロソリーノの2人はスタン・ケントン楽団時代からの盟友で、「グランド・スタン」にも参加しているので順当なチョイスですが、テナーがデクスター・ゴードンというのが面白い。ジャズファンならご存じとは思いますが、50年代のゴードンは重度の麻薬中毒のため、ほとんどを塀の中で過ごします。1955年に一時的に出所し、ベツレヘム盤「ダディ・プレイズ・ザ・ホーン」、ドゥートーン盤「デクスター・ブロウズ・ホット・アンド・クール」、そして本作の3枚を録音するのですが、結局クスリを断ち切れず今度は1960年まで活動を停止します。本作にゴードンが参加した経緯はよくわかりませんが、久々にシャバに出てきた名テナーにスタンが声をかけたのでしょうか?なお、リズムセクションにはルー・レヴィ(ピアノ)、リロイ・ヴィネガー(ベース)が名を連ねています。

アルバムはジョージ・ハンディ作のバップ曲"Diggin' For Diz"で幕を開けます。チャーリー・パーカーの伝説のダイヤル・セッションの収録曲ですが、実はこのセッションでドラムを叩いていたのはスタンなんですよね。約10年ぶりの再演というわけです。演奏の方はコンテ・カンドリ→ゴードン→フランク・ロソリーノが各々実力十分のソロを披露します。続く”Ruby My Dear"はセロニアス・モンク作の名バラードで、コンテ・カンドリのトランペットが全面的にフィーチャーされます。3曲目”Tune Up"はご存じマイルス・デイヴィスの名曲。前半3曲の選曲を見ると当時の西海岸のジャズメン達が東海岸のバップシーンを熱心に追っていたことがよくわかります。4曲目"La Chaloupée"はオッフェンバックのオペラ「ホフマン物語」の旋律をボブ・クーパーがアレンジしたものらしいです。この曲はいかにもウェストコーストジャズって感じの明るい曲です。

続いて後半(レコードだとB面)ですが、5曲目"Day In, Day Out"はビリー・ホリデイも「アラバマに星落ちて」で歌っていたスタンダード曲。ウェストコーストらしい軽妙なアレンジに乗ってメンバー全員が軽快にソロをリレーします。6曲目”Stanley The Steamer"はゴードンのオリジナル。曲名はリーダーのスタンに捧げられたものですが、ソロ自体は全編にわたってゴードンが担っており、彼のショウケースとでも言うべきナンバーです。ラストの"This Time The Drum's On Me"はオスカー・ペティフォードの"Max Is Making Wax"の焼き直しだそうです。各メンバーのソロの後、リーダーのスタンが”今こそドラムを叩く時!”とばかりに怒涛のドラムソロを聴かせます。

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アート・ブレイキー・ビッグバンド

2024-07-20 16:20:53 | ジャズ(ビッグバンド)

ジャズファンの間ではアート・ブレイキー≒ジャズ・メッセンジャーズと認識している人は多いと思います。もちろんブレイキーはドラマーとしても超一流で、数多のセッションに名を連ねていますが、リーダー作となるとほとんどがジャズ・メッセンジャーズ名義なのでそう思ってしまうのも無理はありません。ただ、いくつか例外はありまして、今日ご紹介するベツレヘム盤「アート・ブレイキー・ビッグ・バンド」もその一つですね。1957年12月の録音で、計12人ものホーン奏者を加えた合計15人から成るビッグバンドです。

メンバーを列挙するとまずトランペットが4人(ドナルド・バード、ビル・ハードマン、イドリース・スリーマン、レイ・コープランド)、テナー2人(ジョン・コルトレーン、アル・コーン)、アルト2人(サヒブ・シハブ、ビル・グレアム)、バリトン1人(ビル・スレイピン)、トロンボーン3人(ジミー・クリーヴランド、フランク・リハック、メルバ・リストン)、リズムセクションがウォルター・ビショップ・ジュニア(ピアノ)、ウェンデル・マーシャル(ベース)、そしてブレイキーと言った布陣。ビッグバンド畑の人はあまりおらず、ハードバッパー達がブレイキーの呼びかけで集まった即席のバンドです。そのため、エリントン楽団やベイシー楽団のような緻密なアンサンブルではなく、色々なプレイヤーが入れ代わり立ち代わりソロを取ると言った感じです。

全8曲。スタンダードは1曲もなく、おそらく全てが新曲と思われます。そのうち3曲目”Tippin'"と4曲目”Pristine"はビッグバンドではなく、ドナルド・バードとジョン・コルトレーンをフロントに据えたクインテットです。前者はバード作のファンキー・チューン、後者はコルトレーン作の躍動感あふれるナンバーで、特に後者はなかなかの名曲です。ブリリアントなバードのトランペットに飛翔するコルトレーンのテナー。当時日の出の勢いにあった2人のプレイが存分に堪能できます。

その他は全てビッグバンド編成です。1曲目”Midriff"はトロンボーン奏者兼アレンジャーのジェリー・ヴァレンタインの曲。ソロは当時ジャズ・メッセンジャーズのトランペッターだったビル・ハードマンとコルトレーンです。2曲目”Ain't Life Grand"はアル・コーンの手によるスイング風のナンバー。レイ・コープランドがハイノートをヒットした後、再びコルトレーンが短いソロを取ります。ブレイキーのドラミングも存分にフィーチャーされます。5曲目”El Toro Valiente"はスペイン語で”勇敢な雄牛”と言う意味を持つラテン調の曲で、チーフィー・サラームと言うよく知らないトランペッターが書いた曲です。賑やかなリズムの中をジミー・クリーヴランドとサヒブ・シハブ、そしてブレイキーがソロを取ります。続く6曲目”The Kiss Of No Return"も同じくサラーム作のバラード。スタンダード曲のような美しいメロディを持った曲で、サヒブ・シハブが美しいアルトを聴かせます。この人、バリトン奏者のイメージが強いですがアルトもなかなか良いですね。イドリース・スリーマン、フランク・リハック、クリーヴランドも短いソロで彩りを添えます。7曲目”Late Date"は女流トロンボーン奏者で本作にも参加しているメルバ・リストンのファンキー・チューン。ただし、メルバ自身はソロを取らず、ドナルド・バードがホーンアンサンブルをリードします。ラストトラック”The Outer World"は再びアル・コーンの曲。重厚なホーン陣をバックにコルトレーンとスリーマンのソロがフィーチャーされます。以上、ブレイキーには珍しいビッグバンド作品として十分楽しめる内容ですが、コルトレーンの出番も多いので彼のファンにとっても聴き逃がせない作品ですね。

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