録音は2つのライブから成っています。まず、前半4曲が1954年8月の録音でリーダー2人にハロルド・ランド(テナー)、リッチー・パウエル(ピアノ)、ジョージ・モロウ(ベース)が加わったいわゆる皆の知るブラウン=ローチ・クインテットです。ここでは“Jordu”“Parisian Thoroughfare”(「ブラウン&ローチ」収録)“I Get A Kick Out Of You”(「インコーポレイテッド」収録)とスタジオ録音でおなじみの曲が演奏されますが、本盤にもライブならではの迫力があります。特に“I Get A Kick Out Of You”におけるブラウンの2分半に及ぶ怒涛のソロはまさに火を吹くようなという形容詞がピッタリの凄まじさで、後半のローチの嵐のドラミングと合わせて聴衆がエキサイトする様が伝わってくる感動的な演奏です。残りの1曲はスタンダードの“I Can't Get Started”でブラウンがワンホーンで切々とバラードを歌いあげます。
後半4曲はその4か月前の録音でメンバーが少し違い、ブラウン&ローチの他にテディ・エドワーズ(テナー)、カール・パーキンス(ピアノ)、ジョージ・ブレッドソー(ベース)が名を連ねています。どうやら結成当初のクインテットはこの5人だったようですね。ベースのブレッドソーのことはよく知りませんが、テディ・エドワーズとカール・パーキンスはいずれも西海岸を代表する名手ですから、この初期クインテットの実力もかなりのものだったことが伺えます。スタンダードの“All God's Chillun Got Rhythm”とエドワーズの自作曲“Sunset Eyes”はリーダー2人だけでなく、ソウルフルなブロウで迫るエドワーズとスインギーなピアノを聴かせるパーキンスのプレイも堪能できます。ただ、やはり真打ちは何と言ってもブラウンですよね。“Tenderly”と“Clifford's Axe”はどちらも彼の独壇場で、前者ではトランペットによるバラードプレイの極致とでもいうべき美しさと力強さを兼ね備えたソロを、後者では“The Man I Love”のコード進行をベースに7分に渡って自由自在のソロを繰り広げます。高速パッセージでも全く乱れることのない驚異のテクニックと、次から次へと泉のように湧き出てくるメロディアスなアドリブ。個人的にはリー・モーガンやドナルド・バードも大好きなんですが、ことトランペットの腕前に関してはクリフォード・ブラウンに勝る者はなし!そうあらためて納得させられる1枚です。