ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

マックス・ローチ&クリフォード・ブラウン・イン・コンサート

2015-12-28 23:54:52 | ジャズ(ハードバップ)
2016年も終わりです。今年もペースにムラはありましたが、たくさんのCDを聴くことができましたが、締めはご存じブラウン=ローチ・クインテットのライブ録音をご紹介します。クリフォード・ブラウンはこのブログでも何度も取り上げているように私が最もリスペクトするジャズマンの1人ですね。特にドラマーのマックス・ローチと組んだクインテットによるエマーシー4部作(「インコーポレイテッド」「ブラウン&ローチ」「スタディ・イン・ブラウン」「ベイズン・ストリート」)は人類の文化遺産に認定したいぐらいですね。ただ、GNPというレーベルから出ている本ライブ盤は長らく所有していませんでした。理由は上記スタジオ録音と何曲か選曲がかぶること、あと一度試聴した時に音質があまり良くないと感じたからです。ただ、あらためて聴いてみるとやはりクインテット、特にブラウンの演奏が素晴らしく、上記のマイナスも吹っ飛んでしまいますね。



録音は2つのライブから成っています。まず、前半4曲が1954年8月の録音でリーダー2人にハロルド・ランド(テナー)、リッチー・パウエル(ピアノ)、ジョージ・モロウ(ベース)が加わったいわゆる皆の知るブラウン=ローチ・クインテットです。ここでは“Jordu”“Parisian Thoroughfare”(「ブラウン&ローチ」収録)“I Get A Kick Out Of You”(「インコーポレイテッド」収録)とスタジオ録音でおなじみの曲が演奏されますが、本盤にもライブならではの迫力があります。特に“I Get A Kick Out Of You”におけるブラウンの2分半に及ぶ怒涛のソロはまさに火を吹くようなという形容詞がピッタリの凄まじさで、後半のローチの嵐のドラミングと合わせて聴衆がエキサイトする様が伝わってくる感動的な演奏です。残りの1曲はスタンダードの“I Can't Get Started”でブラウンがワンホーンで切々とバラードを歌いあげます。

後半4曲はその4か月前の録音でメンバーが少し違い、ブラウン&ローチの他にテディ・エドワーズ(テナー)、カール・パーキンス(ピアノ)、ジョージ・ブレッドソー(ベース)が名を連ねています。どうやら結成当初のクインテットはこの5人だったようですね。ベースのブレッドソーのことはよく知りませんが、テディ・エドワーズとカール・パーキンスはいずれも西海岸を代表する名手ですから、この初期クインテットの実力もかなりのものだったことが伺えます。スタンダードの“All God's Chillun Got Rhythm”とエドワーズの自作曲“Sunset Eyes”はリーダー2人だけでなく、ソウルフルなブロウで迫るエドワーズとスインギーなピアノを聴かせるパーキンスのプレイも堪能できます。ただ、やはり真打ちは何と言ってもブラウンですよね。“Tenderly”と“Clifford's Axe”はどちらも彼の独壇場で、前者ではトランペットによるバラードプレイの極致とでもいうべき美しさと力強さを兼ね備えたソロを、後者では“The Man I Love”のコード進行をベースに7分に渡って自由自在のソロを繰り広げます。高速パッセージでも全く乱れることのない驚異のテクニックと、次から次へと泉のように湧き出てくるメロディアスなアドリブ。個人的にはリー・モーガンやドナルド・バードも大好きなんですが、ことトランペットの腕前に関してはクリフォード・ブラウンに勝る者はなし!そうあらためて納得させられる1枚です。
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ドン・バイアス&バド・パウエル/キャノンボールに捧ぐ

2015-12-23 22:52:17 | ジャズ(ヨーロッパ)
本ブログでは「ジャズ(ヨーロッパ)」というカテゴリーを設けて、50~60年代の欧州ジャズの名盤をたくさん取り上げてきました。当時のヨーロッパには多くの優れたジャズメンがいたわけですが、一方でアメリカから移住してきたいわゆる“亡命組”がシーンに与えた影響を忘れるわけにはいきません。特に黒人ジャズメン達は当時のアメリカでまだまだ根強く残っていた人種差別を嫌って、かなりの数がヨーロッパに移住しました。今日取り上げるアルバムも1961年にパリで録音されたものですが、それら亡命組が作り上げた作品です。まず、ジャケ写のリーダー、ドン・バイアスはスイング時代からビバップ黎明期に名を馳せたテナー奏者だそうですが、早くも1946年にパリに移住しています。キャリアが長い割にあまり録音を耳にする機会がないのも早々にアメリカのシーンから姿を消したためでしょう。コ・リーダーを務めるバド・パウエルについては今さら語る必要もないですよね。ビバップ期を代表する超大物ピアニストですが、彼も1959年にパリに活動の拠点を移しました。その他、ドラムのケニー・クラークも1956年からパリ住まい。ちょうどベルギー人のフランシー・ボランとクラーク=ボラン・ビッグバンドを結成したばかりです。後半の4曲のみに参加するイドリース・スリーマンもハードバップ初期にそれなりに活躍したトランペッターですが(プレスティッジ盤「ルーツ」「スリー・トランペッツ」参照)、1959年から北欧に居を定めました。5人中ベースのピエール・ミシュロだけがフランス人という構成です。



さて、そんなメンバーによるアルバムのタイトルがなぜ「キャノンボールに捧ぐ」なのかと言うと、ちょうどパリにいたキャノンボール・アダレイがこのセッションをプロデュースしたからだそうな。いっそのこと一緒に演奏に加わってくれたらもっと盛り上がったのにと思いますが、ボーナストラックの“Cherokee”でちょろっと参加するだけで後は監修に徹しています。肝心の演奏ですが、バイアスのテナーはコールマン・ホーキンスを彷彿とさせるややオールドファッションなスタイルです。パウエル、クラーク、スリーマンも年齢高めとあって、落ち着いた内容かと思いきや、演奏の方は意外とエネルギッシュです。“Just One Of Those Things”“Cherokee”等古くからのスタンダード曲も取り上げていますが、前年に発表されたばかりのデューク・ピアソン作“Jeannine”を取り上げるなど進取の気性も感じられます。定番スタンダード“All The Things You Are”もハードバピッシュな熱い演奏ですね。2曲あるオリジナルは唯一のフランス人ミシュロが書いたものですが、渋めのバラード“Jackie My Little Cat”、熱きバップチューン“Myth”とどちらもなかなかの佳曲です。ヨーロッパに移住したからと言って決して楽隠居してるわけではないんだぞ!とメンバー達が主張してるかのような拾いモノの好盤でした。
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ジ・エミネント・J・J・ジョンソンVol.1

2015-12-20 22:20:19 | ジャズ(ビバップ)

本日は前々回に引き続きJ・J・ジョンソンの作品をご紹介します。J・Jのキャリアの絶頂は1950年代後半のコロンビア時代で「ファースト・プレイス」「ブルー・トロンボーン」、「ダイアル・J・J・5」等の傑作を次々と発表しました。本作はそれより少し前の1953年から54年にかけてブルーノートに録音されたもので、53年6月のセッションがクリフォード・ブラウン(トランペット)、ジミー・ヒース(テナー)、ジョン・ルイス(ピアノ)、パーシー・ヒース(ベース)、ケニー・クラーク(ドラム)を加えたセクステット。54年9月がウィントン・ケリー(ピアノ)、チャールズ・ミンガス(ベース)、ケニー・クラーク(ドラム)のリズムセクションにサブー・マルチネスのコンガを加えた変則的ワンホーン作品となっています。なお、本作には「Vol.2」があり、そちらはハンク・モブレーやホレス・シルヴァーとのクインテットだそうですが、未聴です。



メンツだけを見ると53年のセッションが天才クリフォード・ブラウンのトランペットが聴けるとあって、ついそちらに注目してしまいがちですが、主役はあくまでJ・J。“Lover Man”や“It Could Happen To You”等のバラードではソロはJ・Jのみですし、“Turnpike”“Get Happy”“Capri”等アップテンポの曲でもブラウンの切れ味鋭いソロは聴けるものの、出番も短いですし、あくまで3管編成の一員という扱いです。ブラウン目当てで聴くとやや肩透かしを食うかも。リーダーのJ・Jもどちらかというと3管のアンサンブルを重視してソロも控えめな印象を受けます。ちなみにあまり目立たないもののリズム・セクションは初代MJQのメンバーです。

個人的には1954年のセッションの方が魅力的ですね。まだメジャーになる前のウィントン・ケリーのスインギーなピアノも良いですし、サブーのコンガが絶妙のスパイスとなっています。とりわけ自作の“Jay”は本作のベストトラックでサブーの野性的なコンガに煽られるようにJ・Jが1分半にわたって超高速パッセージを一気に吹き切ります。ここでのJ・Jのソロはまさに神技とでも言うべきもので、タイトル通り彼があまたのトロンボーン奏者の中でもEminent=傑出した存在であったことを証明しています。同じく自作曲の“Coffee Pot”もアップテンポのナンバーでメンバー全員が快調に飛ばします。一方、スタンダードの“It's You Or No One”は通常アップテンポで演奏されることが多いですが、ここではスローバラードで演奏されており、J・Jの卓越したバラード演奏が堪能できます。なお、ベースを務めるのは超個性派のミンガスですが、本作の時点ではまだ“俺様”的な要素は微塵も見せず、いたってオーソドックスなプレイに徹しています。

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ジョン・ジェンキンス/ジャズ・アイズ

2015-12-13 23:39:14 | ジャズ(ハードバップ)

本日は幻のアルト奏者ジョン・ジェンキンスのリーダー作「ジャズ・アイズ」をご紹介します。録音は1957年9月、サヴォイ傘下のリージェントというマイナーレーベルの作品です。金髪美女の頭部だけがデーンとアップになったジャケットがシュールですが、これはサヴォイ特有のセンスです。(他にもアート・ペッパーの「サーフ・ライド」はじめ変テコなデザインのジャケットが多い)。メンバーは何気にすごいメンツですよ。おそらく一番マイナーなのがリーダーのジェンキンスで、後はドナルド・バード(トランペット)、カーティス・フラー(トロンボーン)、トミー・フラナガン(ピアノ)、ダグ・ワトキンス(ベース)、アート・テイラー(ドラム)とビッグネーム揃い。とは言え、録音当時はまだ全員20代だったので“有望な若手”くらいの扱いだったのでしょうが・・・



さて、なぜジェンキンスが“幻のアルト”と呼ばれるかですが、それは活動期間の短さにあります。もともとジェンキンスはシカゴで演奏活動をしていたのですが、1957年にニューヨークに進出。4月にプレスティッジ・オール・スターズ名義の「クーリン」というアルバムに参加し、その後半年の間に同じアルトのジャッキー・マクリーンと組んだ「アルト・マッドネス」、クリフ・ジョーダン&ボビー・ティモンズとの「ジェンキンス、ジョーダン&ティモンズ」、そしてブルーノート盤「ジョン・ジェンキンス・ウィズ・ケニー・バレル」、そして本作「ジャズ・アイズ」と4枚のリーダー作を発表。サイドメンとしてもハンク・モブレー、クリフ・ジョーダンのブルーノート作品に顔を出しています。まさに一躍ハードバップ・シーンの寵児となったわけですが、なぜか翌年以降プッツリと姿を消すのです。別にクリフォード・ブラウンのように急死したわけでも、デクスター・ゴードンのように麻薬で服役したわけでもなく、ただ単に録音から遠ざかったと言うのが実情のようですが、残された作品群はどれも良質なハードバップ作品ばかりなので、突然のフェイドアウトが謎です。

本作は全5曲。うち“Darn That Dream”は後からCD化の際に付け加えられたようですが、なかなか秀逸なバラード演奏です。オリジナル盤は全4曲で、ハイライトは何と言っても1曲目の“Star Eyes”。チャーリー・パーカーはじめ多くのジャズメンに演奏された有名スタンダードですが、個人的には代表的名演として挙げさせてもらいます。冒頭ドナルド・バードのブリリアントなトランペットに導かれ、その後ジェンキンス、フラー、フラナガンらが順番に卓越したソロを取っていきます。2曲目以降はジェンキンスの自作曲。“Orpheus”はマイナー調のメロディがややベタ過ぎますが、続く熱血ハードバップ“Honeylike”、ミドルテンポのブルース“Rock-A-Way”と好演が続きます。ジェンキンスのアルトはパーカーの影響を強く受けたと思しきものですが、スタイル的には至って正統派です。他のメンバー、特に当時飛ぶ鳥を落とす勢いだったドナルド・バードのトランペットも素晴らしく、ハードバップ好きなら持っておいて間違いはない1枚です。

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J・J・ジョンソン/ファースト・プレイス

2015-12-12 23:53:27 | ジャズ(ハードバップ)

本日のピックアップはジャズ・トロンボーンの第一人者J・J・ジョンソンがコロンビアに残した「ファースト・プレイス」です。本ブログでは以前にもJ・Jの代表作「ブルー・トロンボーン」をご紹介しましたが、録音時期も同じ1957年でメンバーも全く同じです。そのメンバーとはすなわちトミー・フラナガン(ピアノ)、ポール・チェンバース(ベース)、マックス・ローチ(ドラム)。まさに最強のリズムセクションで、特にフラナガンが全編に渡って素晴らしいピアノを聴かせてくれます。タイトルのFirst PlaceとはJ・Jが各種のジャズ雑誌の人気投票で1位に輝いていたことから付けられたもので、まさにこの頃のJ・Jはトロンボーン界の頂点に君臨していました。(実はちょうど同じ1957年にデトロイトからカーティス・フラーがニューヨークに進出してきて、J・Jを凌駕するほどの活躍を見せるのですが、それは後の話です。)



J・Jがなぜ一番人気だったのか、理由はやはり驚異のテクニックでしょう。冒頭のスタンダード“It's Only A Paper Moon”からまるで当たり前かのように高速パッセージを連発していきます。トロンボーンは楽器の構造上アドリブに不向きと言われていたのですが、スピーディかつメロディアスなフレーズを次々と繰り出すJ・Jのプレイは圧巻です。同様の高速ソロはスタンダードの“Be My Love”、自作曲の“Nickels And Dimes”でも堪能できます。もちろん速く吹くだけが能ではなく、ソニー・ロリンズの名曲“Paul's Pal”ではゆったりしたテンポで歌心あふれるソロを聴かせてくれますし、マット・デニス作“That Tired Routine Called Love”ではミュート奏法でミディアムナンバーを軽く料理しています。前述したようにリズムセクションも素晴らしく、J・Jの自作曲“Commutation”では冒頭から1分以上に渡ってトミー・フラナガンが目の覚めるようなピアノソロを披露した後で、満を持したようにJ・Jのトロンボーンが登場。その後マックス・ローチのパワフルなドラム・ソロ、ポール・チェンバースのアルコ・ソロと続くまさに本盤のショウケースのようなナンバーです。

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