ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ハチャトゥリアン/ピアノ協奏曲

2019-09-30 23:41:32 | クラシック(協奏曲)
本日はハチャトゥリアンのピアノ協奏曲です。ハチャトゥリアンについては本ブログの記念すべき第1回でヴァイオリン協奏曲を、その後もガイーヌ&仮面舞踏会を取り上げており、久々の登場ですね。プロコフィエフ、ショスタコーヴィチと並んでソ連を代表する作曲家ですが、音楽性はかなり違います。プロコフィエフやショスタコーヴィチはロシア人で、ベースはあくまでロシア音楽なのに対し、ハチャトゥリアンはグルジア(今はジョージアですか)生まれのアルメニア人。地理的にはイランやトルコに近く、かなりオリエンタルな香りが強いです。今日ご紹介するピアノ協奏曲は1936年、ハチャトゥリアンが33歳の時に書かれた彼の出世作で、ここでも民族音楽の影響が濃厚に感じられます。



曲は冒頭からかなり荒々しい始まり。ピアノとオーケストラが一体となってオリエンタル風の旋律をエネルギッシュに奏でます。中間部以降はピアノのカデンツァも挟まれますが、このあたりは20世紀の音楽らしく調性もあまり感じられません。第2楽章はゆったりしたアンダンテで、哀調あふれる民族音楽風の旋律が全編を彩っています。途中でフレクサトーンという珍しい楽器が使われ、風を模したような♪ヒョヨヨ~ンというような音がさらにエキゾチックさを増します。聴きこむうちに耳について離れない独特のメロディですね。第3楽章は再び情熱的な展開で始まり、中間部で3分にも及ぶ長いピアノのカデンツァを挟んで、最後は華々しくフィナーレを迎えます。

CDはあまり数は多くありませんが、私が購入したのは1971年録音の小澤征爾指揮ニュー・フィルハーモニア管弦楽団、ピアノはフィリップ・アントルモンのものです。今ではすっかりご老体となった小澤さんも当時36歳。ちょうどサンフランシスコ交響楽団の音楽監督に任命されて、世界的なスターダムに駆け上がろうとしている頃ですね。このCDにはフランツ・リストの「ハンガリー幻想曲」も収録されています。こちらは16分程の作品で、ハンガリー民謡をもとにした作品のようですが、正直メロディはかなりベタかな。リストの数ある作品の中では上位に来る曲ではないです。
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ベルリオーズ/レクイエム

2019-09-27 23:55:13 | クラシック(声楽)
本日はベルリオーズの声楽曲「レクイエム」をご紹介します。モーツァルト、フォーレ、ヴェルディのいわゆる「三大レクイエム」に比べればマイナーですが、ベルリオーズ円熟期の傑作として声楽ファンの間では評価の高い作品です。コンサートで上演される機会は決して多いとは言えませんが、その理由として挙げられるのが編成の巨大さ。独唱者はテノール1名だけですが、合唱はなんと200人、オーケストラが160人強、さらにバンダと呼ばれる金管楽器の別動隊を四方に配置し、その人数が約40人、全部合わせて400人と途方もない人数です。なおかつ演奏時間も75分強と長く、演奏する側も大変ですし、聴く側も心構えが必要という訳です。もちろん演奏が成功した場合は、それに見合うだけの感動が得られるのも事実で、今日ご紹介する小澤征爾指揮ボストン交響楽団&タングルウッド音楽祭合唱団のCDもベルリオーズの残した壮大な音世界を堪能できる一枚です。



曲はまず厳粛な「レクイエムとキリエ」で始まります。かなり暗めの出だしですが死者のためのミサ曲なので当然と言えば当然です。続く第2曲「怒りの日(ディエス・イレ)」も引き続き暗めですが、中間部でトランペットが鳴り響きそこからド迫力の大合唱が始まります。ここが第一の山場ですね。その後男女の混声合唱で高らかに歌い上げる第4曲「畏るべき御稜威の王(レックス・トレメンデ)」、無伴奏で静かに歌い上げる第5曲「われを探し求め(クエレンス・メ)」を経て、第二の山場である第6曲「涙の日(ラクリモーサ)」へ。耳に残る印象的な旋律を合唱隊が繰り返し歌い上げながら最後はフルオーケストラで華々しく締めくくります。第7曲「奉献唱(オッフェルトリウム)」は一風変わった曲で合唱はつぶやくように弱々しく、弦楽オーケストラが哀調を帯びた旋律を繰り広げていきます。地味な曲なので最初は聞き流しがちですが、だんだんと良さがわかっていきます。同じような雰囲気の第8曲「賛美の生贄(オスティアス)」を挟んで、第三の山場である第9曲「聖なるかな(サンクトゥス)」へ。全体的に暗めの本作の中で唯一天国的な美しさを持つ曲で、テノール独唱と混声合唱が代わる代わる胸に沁みる感動的な旋律を歌い上げます。小澤盤では黒人歌手のヴィンソン・コールが素晴らしい歌声を聴かせてくれます。最終曲「神の小羊(アニュス・デイ)」はこの手の曲にしては珍しくさほど盛り上がりを見せず、最後は美しい「アーメン」の合唱で静かに幕を閉じます。ライヴ録音とのことですが、この大曲を見事にまとめ上げた小澤征爾の指揮はさすがだと思います。
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モーツァルト/大ミサ曲

2019-09-21 23:19:54 | クラシック(声楽)
先日はモーツァルトの秘曲「孤児院ミサ」を紹介しましたが、今回は彼のミサ曲の中でもメジャー作品であるミサ曲ハ短調、通称「大ミサ曲」をご紹介したいと思います。この作品はモーツァルト26歳の時に書かれたもので、交響曲第35番「ハフナー」やオペラ「後宮からの誘拐」とほぼ同時期でモーツァルトが円熟期に差しかかったころの作品です。ただ、作品的には未完のままで、ミサ曲の後半の重要部分である「アニュス・デイ」等が書かれていません。晩年の「レクイエム」は完成を待たずにモーツァルトが死んでしまったので仕方ありませんが、この曲に関してはいくらでも時間があったにもかかわらずモーツァルトは手をつけませんでした。理由はいろいろ推測されていますが、この曲はモーツァルトが珍しく自発的に作曲した作品で貴族や教会等の依頼主がおらず、完成を急ぐ必要がなかったため結局そのまま放置されたというのが実情のようです。ただ、それでも残された部分だけでも60分に及ぶ大規模な曲で、完成度の高さもあいまって「大ミサ曲」の名にふさわしい名曲と言えるでしょう。



曲は短調の作品だけあって全体的にはやや暗め。1曲目「キリエ」は重々しい始まりで厳粛な雰囲気が漂います。第2曲「グローリア」は一転して雰囲気が変わり、力強い合唱「天のいと高きところには、神に栄光」で盛り上げ、続くソプラノ独唱「我らは主をほめ」はまるでオペラのアリアを思わせるような歌心あふれる曲です。ただ、その後は再び暗い展開に逆戻り。特に「主のみ聖なり」のあたりはバロック的な旋律をくどいまでに繰り返します。このあたりは聴いていても若干しんどい。ただ、後半の「イエス・キリストよ」あたりで光が差し、そのままこの曲の山場である第3曲「クレド」に突入します。前半の力強い合唱「我は信ず、唯一の神」も素晴らしいですが、何より続くソプラノ独唱「聖霊によりて」がため息の出る美しさ。9分あまりに渡って天上の調べを思わせる至上の音楽が繰り広げられます。本来の最終曲である「アニュス・デイ」こそありませんが、ラストを飾る「サンクトゥス」「ベネディクトゥス」もなかなかのものです。CDは古今東西の名指揮者が録音を残していますが、私が購入したのはヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィルハーモニーの1981年の作品です。この盤は歌手陣が豪華でソプラノにバーバラ・ヘンドリックス、テナーにペーター・シュライアーと当時のオペラ界のスターを揃えて素晴らしい歌唱を聴かせてくれます。特にヘンドリックスのソプラノ独唱が絶品ですね。
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プッチーニ/交響的前奏曲&交響的奇想曲

2019-09-04 22:16:09 | クラシック(管弦楽作品)
本日は少し変化球でプッチーニの管弦楽作品をご紹介したいと思います。プッチーニは言うまでもなくイタリア・オペラを代表する作曲家。「ラ・ボエーム」「蝶々夫人」「トスカ」「トゥーランドット」はじめ多くの名作をすぐに思い浮かべることができます。ただ、プッチーニは交響曲や協奏曲の分野には全く関心を示さず、一つも作品を残していません。これはヴェルディら他のイタリアの作曲家もほぼ同じで、同時期のドイツやフランス、ロシアの作曲家達とは明らかに一線を画しています。20世紀に入るとレスピーギのように管弦楽の分野に強い作曲家も登場しますが、それまではイタリアでは作曲家はとにかくオペラを書いてなんぼの評価だったようです。ただ、そんなプッチーニにもわずかながら管弦楽作品が残されており、その代表が今日紹介する「交響的前奏曲」と「交響的奇想曲」です。

まず「交響的前奏曲」ですが、これは1876年にプッチーニがまだ18歳の時に書かれた8分あまりの曲。彼の最も初期の作品にあたりますが、この時点でプッチーニ特有のうっとりするようなロマンチックなメロディは完成されています。この曲に歌詞を乗せたら美しいアリアの出来上がりですね。一方の「交響的奇想曲」はその7年後に書かれた曲で、13分超とスケールも大きく、展開もよりドラマチックになっています。重厚なオーケストレーションで始まる導入部、歌心あふれる中間部と次々と魅力的な旋律が現れます。CDですが、巨匠たちの名演が目白押しのオペラ作品に比べると、管弦楽曲については数も少ないですね。現在入手可能なのはイタリアの2大巨匠リッカルド・ムーティとリッカルド・シャイーの演奏ぐらいですが、私の買ったのはムーティの方です。1998年の録音で、まだ50代のりりしいムーティの立ち姿が印象的です。



このCDの良いところは他の収録曲も魅力的なところ。まず、「前奏曲」と「奇想曲」に挟まれているのが、プッチーニ最初のオペラ「妖精ヴィッリ」からの間奏曲。オペラ自体はプッチーニ作品の中ではマイナーですが、勇壮な行進曲風のこの間奏曲はコンサートでもちょくちょく取り上げられます。プッチーニ以外にもポンキエッリとカタラーニのマイナー作品を取り上げていますが、これらもなかなか捨てがたい。ポンキエッリはオペラ「ラ・ジョコンダ」の収録曲である「時の踊り」のみが有名で、それ以外は取り上げることはまずありませんが、本CDの1曲目に収録されている「哀歌」は文字通り哀調を帯びた静かな旋律の中に、ハッとする美しさが感じられるなかなかの名曲。カタラーニはフランス映画「ディーヴァ」に使われたオペラ「ラ・ワリー」ぐらいしか知られていませんが、本盤収録の「瞑想」もロマンチックな旋律に彩られた佳曲です。どの作品も一般的にはあまり知られていない曲ばかりですが、意外にもクオリティの高い曲ばかりで掘り出し物の1枚でした。
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