スタン・ゲッツについては本ブログでもたびたび取り上げてきましたが、白人テナー奏者の最高峰で特に50年代後半に多くの傑作を残しました。60年代に入ってからは一転ボサノヴァ路線で商業的成功を収め、中でも1964年に発表した「ゲッツ/ジルベルト」はビルボードのアルバム・チャートで2位、さらにはグラミー賞の最優秀アルバム賞を受賞とジャズの垣根を飛び越えた記録的ヒットとなりました。ただ、一躍売れっ子になったことが必ずしも良いことばかりではなかったようで、というのもゲッツ自身は決してジャズからボサノヴァに乗り換えたわけではなく、以前と同じようにジャズ・アルバムを作ろうとしたのですが、レコード会社側が「せっかく売れてるんだから次もボサノヴァで」的なスタンスだったため、結果的にこの時期に録音されたゲッツのジャズ・アルバムはお蔵入りとなってしまうのです。一つは1964年5月に収録された「スタン・ゲッツ&ビル・エヴァンス」。あのビル・エヴァンスとの共演で内容的にはもちろん名盤なのですが、先に述べた理由で74年まで未発表でした。そしてもう一つが今日ご紹介する1964年3月収録の「ノーバディ・エルス・バット・ミー」。こちらは何と30年後の1994年にようやく日の目を見ることになります。「スタン・ゲッツ&ビル・エヴァンス」の方は今ではすっかりゲッツの代表作の仲間入りをし、CDでもたびたび再発売されていますが、こちらの「ノーバディ~」の方は取り上げられる機会も少なく、今回もひさびさのCD化です。
内容ですが、当時ゲッツがバンドを組んでいたヴァイブ奏者のゲイリー・バートンを大きくフィーチャーしたカルテット作品です。ピアノレスの珍しい編成で、ジーン・チェリコ(ベース)とジョー・ハント(ドラム)がリズム・セクションを務めています。バートンは1960年代に入って颯爽と登場した新進気鋭のヴァイブ奏者で当時まだ21歳。67年ににフュージョンの先駆けとなる「ダスター」を発表し、70年代はジャズ・シーンを牽引する存在となりますが、この頃はまだオーソドックスなスタイルです。とは言え、自身の作曲による“6-Nix-Quix-Flix”や“Out Of Focus”は従来のバップとは異なる清新な曲風です。ただ、それら後のフュージョンを予見させる曲でも、ゲッツのアドリブはいささかも淀むことなく、次々と魅力的なフレーズを紡ぎ出していきます。特に“Out Of Focus”でのほとばしるような熱いソロは圧巻のパフォーマンスです。一方でおなじみのスタンダード演奏も相変わらず素晴らしい。マイナー調の“Summertime”“Here's That Rainy Day”あたりはややベタかもしれませんが、“Little Girl Blue”では胸に沁み渡るハートウォーミングなバラード演奏を、ラストの思い切って急速テンポで演奏した“What Is This Thing Called Love?”ではバートンと共にアグレッシブなソロを繰り広げます。何より素晴らしいのがタイトル曲である“Nobody Else But Me”。ミディアムテンポのハートウォーミングな曲調の中、ゲッツが真骨頂である歌うようなアドリブを次々と繰り広げていきます。続くバートンの爽やかなヴァイブも絶好のアクセントになっています。これだけのクオリティの作品がゲッツの生前は一度も発表されずじまいだったのは実にもったいない話ですね。
年度末は仕事が忙しく、1ヶ月ぶりのブログ更新となりました。本日取り上げるのはビル・エヴァンスとジム・ホールが1966年に残したデュオ作品「インターモデュレーション」です。エヴァンスとホールのデュオ作品はもう1枚ユナイテッド・アーティスツに残した「アンダーカレント」という作品があり、そちらは名盤特集などにもかなりの頻度で取り上げられるのでご存じの方も多いと思います。ただ、私は基本的にベースとドラムが入ってない静かなジャズは性に合わない方で、「アンダーカレント」もジャズ初心者の頃に購入したものの良さがわからず、中古屋に売り払ってしまいました。にもかかわらず、同じデュオ作品である本作を購入するきっかけとなったのは本ブログでも取り上げたライブ盤「カリフォルニア・ヒア・アイ・カム」に収録されていたエヴァンスの自作曲“Turn Out The Stars”がもともと本作に収録されていることを知ったからです。いざ聴いてみるとお目当ての“Turn Out The Stars”はもちろん素晴らしいものの、他の曲も粒揃いでなかなかの傑作でした。
収録は全6曲。うち最初の2曲がいわゆるジャズ・スタンダードで、コール・ポーターの“I've Got You Under My Skin”、そしてガーシュウィンの「ポーギーとべス」からの1曲“My Man's Gone Now”です。前者はスインギーな演奏で、後者はけだるいムードの漂う大人のジャズです。3曲目はお目当ての“Turn Out The Stars”。実にエヴァンスらしいリリカルなメロディを持った名曲で、エヴァンスの夢見るようなピアノソロが圧巻です。続く“Angel Face”はジョー・ザヴィヌルがキャノンボール・アダレイのために書いた曲だそうですが、こういう隠れた名曲を取り上げて、まるで自分の曲のように演奏してしまうのもエヴァンスの得意技ですね。続く“Jazz Samba”はアレンジャーとしても有名なクラウス・オガーマンの曲。タイトル通り陽気なサンバ風の曲で落ち着いた曲風の多い本作の中で絶妙のアクセントとなっています。ラストはジム・ホールの自作曲である“All Across The City”。メランコリックなメロディが印象的なバラードでしっとりと幕を閉じます。アルバム全編を通してエヴァンスはいつもと同じようにきらびやかなソロを繰り広げますが、一方でホールはあまり派手にソロを取るでもなく、あくまでエヴァンスの脇に回るという感じです。名手なのにあえて控え目にプレイするのは大人の余裕というやつでしょうか?でも、だからこそエヴァンスはデュオの相手に2度もホールを選んだのかもしれませんね。
収録は全6曲。うち最初の2曲がいわゆるジャズ・スタンダードで、コール・ポーターの“I've Got You Under My Skin”、そしてガーシュウィンの「ポーギーとべス」からの1曲“My Man's Gone Now”です。前者はスインギーな演奏で、後者はけだるいムードの漂う大人のジャズです。3曲目はお目当ての“Turn Out The Stars”。実にエヴァンスらしいリリカルなメロディを持った名曲で、エヴァンスの夢見るようなピアノソロが圧巻です。続く“Angel Face”はジョー・ザヴィヌルがキャノンボール・アダレイのために書いた曲だそうですが、こういう隠れた名曲を取り上げて、まるで自分の曲のように演奏してしまうのもエヴァンスの得意技ですね。続く“Jazz Samba”はアレンジャーとしても有名なクラウス・オガーマンの曲。タイトル通り陽気なサンバ風の曲で落ち着いた曲風の多い本作の中で絶妙のアクセントとなっています。ラストはジム・ホールの自作曲である“All Across The City”。メランコリックなメロディが印象的なバラードでしっとりと幕を閉じます。アルバム全編を通してエヴァンスはいつもと同じようにきらびやかなソロを繰り広げますが、一方でホールはあまり派手にソロを取るでもなく、あくまでエヴァンスの脇に回るという感じです。名手なのにあえて控え目にプレイするのは大人の余裕というやつでしょうか?でも、だからこそエヴァンスはデュオの相手に2度もホールを選んだのかもしれませんね。