ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ケニー・バレル&ジミー・レイニー/トゥー・ギターズ

2024-12-31 21:21:08 | ジャズ(ハードバップ)

前回「エンカウンター」で60年代のプレスティッジについて解説しましたが、同レーベルの絶頂期が50年代半ばだったのは衆目の一致するところですよね。この頃のプレスティッジが得意としていたのは同じ楽器を複数集めたジャムセッション形式の作品で、トランペット2本の「トゥー・トランペッツ」、同3本の「スリー・トランペッツ」、トランペット2本とテナー2本の「インタープレイ」、テナー3本の「ウィーリン・アンド・ディーリン」、同4本の「テナー・コンクレイヴ」、アルト2本の「アルト・マッドネス」、同4本の「フォー・アルトズ」、アルト2本とトランペット2本の「ペアリング・オフ」等々です。どれも同レーベルに所属するスタープレイヤー達が競演したハードバップ黄金期ならではの作品です。

今日ご紹介するのはギター2本の競演作、その名もズバリ「トゥー・ギターズ」です。1957年3月の録音でリーダーはケニー・バレルとジミー・レイニー。バレルは前月に「ブルー・ムーズ」を吹き込むなどプレスティッジのハウス・ギタリスト的存在でしたが、ジミー・レイニーはスタン・ゲッツやボブ・ブルックマイヤーとの共演で知られる白人ギタリストでこの手のハードバップ系のセッションでは珍しい人選です。ギタリスト2人だけで十分だと思うのですが、ここにさらにドナルド・バード(トランペット)とジャッキー・マクリーン(アルト)を加えるのが全盛期プレスティッジならではの贅沢さで、マル・ウォルドロン(ピアノ)、ダグ・ワトキンス(ベース)、アート・テイラー(ドラム)のリズムセクションと合わせて超強力なラインナップですね。

全7曲。歌モノスタンダードは2曲のみで、後は全てメンバーのオリジナルです。特に前半の3曲"Blue Duke""Dead Heat""Pivot"は全てマル・ウォルドロンの作曲で、実質的な音楽的リーダーシップは彼が握っていたことがわかります。本作に限らずこの頃のプレスティッジのジャムセッションはマルが陰のリーダーになっていることが多いですね。どの曲もリーダー2人のギターにバード、マクリーン、マルが入れ代わり立ち代わりソロを取る構成。ギターの聴き分けですがジミー・レイニーのソロは正直そこまで馴染みがないですが、バレルの方は一発でわかりますね。いつもながらのスインギー&ソウルフルなソロが最高です。

その他のオリジナル曲はまずマクリーンの"Little Melonae"。マクリーン自身のほか、マイルス、コルトレーン、ジャズ・メッセンジャーズも取り上げた彼の代表曲です。マクリーンのいかにも彼らしいファナティックなアルトの後、マル→レイニー→バレルとソロをリレーします。ダグ・ワトキンス作の"This Way"は個人的に本作のベストトラックで、11分超の長尺ながらバレル→バード→マクリーン→レイニー→マルの順でハードバピッシュなソロをたっぷりと披露し、聴く者を飽きさせません。スタンダードの2曲はバードとマクリーンは参加せず、さらにギターも1人のみ。"I'll Close My Eyes"はバレル、"Out Of Nowhere"はレイニーがそれぞれマル・ウォルドロンのトリオをバックにじっくり聴かせます。

 

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ペッパー・アダムス/エンカウンター

2024-12-27 18:50:08 | ジャズ(モード~新主流派)

ブルーノート、リヴァーサイドとともに50年代のハードバップシーンを牽引し続けたプレスティッジ・レコードですが、60年代になると変化の波にさらされるようになります。活動自体が低調になったわけではなく、新作のリリース自体はコンスタントに続けていたのですが、ウェイン・ショーターやハービー・ハンコック、ジョー・ヘンダーソンら新世代のスターを起用して新主流派路線に活路を見出したブルーノートに対してどこかパッとしない印象は拭えません。特に60年代後半のプレスティッジはソニー・クリスやチャールズ・マクファーソンらハードバップの生き残りもいましたが、メインはオルガン入りのソウルジャズ路線でした。それらの中にはもちろん傾聴すべき作品もあるにはありますが、全体的にはR&B風のノリ重視で、50年代のハードバップ黄金期に比べると色あせて見えるのは致し方ないところです。

ただ、そんな中にも硬派な作品がいくつかありまして、その1つが1968年12月に録音されたペッパー・アダムス「エンカウンター」です。アダムスは本ブログでも何度か取り上げていますが、デトロイト出身で同郷のドナルド・バードとの双頭コンボ(「アウト・オヴ・ジス・ワールド」参照)が有名ですよね。白人でありながら共演者は圧倒的に黒人が多く、ハードバップ風なスタイルが持ち味です。

本作のメンバーですが、なかなか興味深い面々が集まっています。ピアノにトミー・フラナガン、ドラムにエルヴィン・ジョーンズと同じデトロイト出身者を持ってきたあたりは想定の範囲内ですが、テナーにズート・シムズを起用しているのが面白い。アダムスとズートは同じ白人ですが、ハードバップ寄りのアダムスに対し、ズートはスイング~中間派の流れを組むスタイルですからね。ベースも新主流派の代表格的なロン・カーターが加わっていて、このメンバーでどんな音が生み出されるのか?聴く前は予想が難しいですね。

実際に聴いてみた感想ですが、やはり60年代後半と言う時代背景を反映してか、旧来のハードバップではなく、ややモードジャズ寄りの演奏ですね。"Serenity"と"Punjab"はブルーノート新主流派の旗手的存在だったジョー・ヘンダーソンのカバーですし、アダムス自作の”Inanout"や”Cindy's Tune"もハードでメロディアスとは程遠い感じ。ゴリゴリ重低音を吹き鳴らすアダムスはいつも通りですが、まろやかなトーンが持ち味のズートやきらびやかなタッチが売りのフラナガンはやや"よそ行き"感が否めません。

個人的にはやはりモード路線ではなく通常のハードバップ風の曲が好きですね。おススメはまずサド・ジョーンズ作曲の”Elusive”。「ファビュラス・サド・ジョーンズ」収録の軽快なハードバップで、アダムスがブリブリ吹いた後、ズートのメロディアスなテナーソロ→フラナガンのエレガントなピアノソロがたっぷりフィーチャーされます。終始煽り続けるエルヴィン・ジョーンズのトラミングもグッジョブ!ですね。バラードではエリントンナンバーの"Star-Crossed Lovers"も悪くないですが、”I've Just Seen Her"が入魂の出来栄え。あまり他では聞かない歌モノスタンダード曲ですが、ここではズート抜きのワンホーンでアダムスがダンディズム溢れるバラードプレイを聴かせてくれます。ラストトラックの”Verdandi"はトミー・フラナガンの名盤「オーヴァーシーズ」収録曲。原曲はピアノトリオですが、ここではクインテットによるエネルギッシュな演奏。終盤のエルヴィン・ジョーンズのドラミングも圧巻です。

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ザ・ヤング・ライオンズ

2024-12-25 19:20:10 | ジャズ(モード~新主流派)

ヴェージェイ・レコード(Vee-Jay)と言うレーベルがあります。シカゴが拠点のレコード会社で本業はどちらかと言うとR&Bで、”Sherry"の大ヒットで知られる白人ドゥーワップ・グループのフォー・シーズンズや"Oh, What A Night"で有名なザ・デルズ等が所属していました。一方、50年代後半から60年代前半にかけてはジャズにも力を入れており、枚数は少ないながらリー・モーガンやウィントン・ケリー、ポール・チェンバースと言った大物の作品をリリースしています。モーガンの「ヒアズ・リー・モーガン」やケリーの「枯葉」、チェンバースの「ゴー」は名盤として知られていますね。

他に同レーベルがプッシュしていたジャズマンはウェイン・ショーターとフランク・ストロージャー。前者は泣く子も黙るジャズ・ジャイアントですが、デビュー作は同レーベルに残した「イントロデューシング・ウェイン・ショーター」。1959年11月録音でこの時26歳でした。時を同じくしてジャズ・メッセンジャーズに加入し、黄金期を築き上げます。後者のフランク・ストロージャーはさほどメジャーとは言えませんが、メンフィス出身の白人アルト奏者でシカゴをベースにした"MJT+3"と言うグループに参加し、ヴィージェイから何枚か作品を発表しています。

本作「ザ・ヤング・ライオンズ」は1960年4月に吹き込まれたリーダーレス・セッションで、上述のショーターとストロージャーに加え、同じくヴェージェイ・レーベルのスターだったリー・モーガンを加えた3管編成のセクステット。言わば同レーベルのオールスター共演ですね。これでリズムセクションにウィントン・ケリーとポール・チェンバースが加われば最強だったのですが、さすがにそこまでは揃わなかったのかボビー・ティモンズ(ピアノ)、ボブ・クランショー(ベース)、ルイス・ヘイズまたはアルバート・ヒース(ドラム)のトリオがバックを務めています。これでも十分豪華ですけどね。特にモーガン、ショーター、ティモンズの3人は同時期にジャズ・メッセンジャーズでもプレイしており、前月に「ザ・ビッグ・ビート」を吹き込んだばかりです。

全5曲。全てメンバーのオリジナルで、ショーターが4曲、モーガンが1曲と言う構成です。リーダーは誰とは決まっていませんが、ショーターが音楽的主導権を握っているのは明らかですね。オープニングトラックの"Seeds Of Sin"からショーター節が全開で、従来のハードバップとは明らかに違う少し調子っ外れの独特のメロディです。とは言え、前衛的とまではいかず普通に聴けるジャズの範囲にとどまっています。個人的ベストトラックは3曲目”Fat Lady"。いかにもこの時期のショーターらしいクール&ファンキーな曲で、ショーター→モーガン→ストロージャー→ティモンズとソロをリレーします。"Scourin'"や"Peaches And Cream"と言った曲もモードジャズを先取りしたような曲です。ラストトラックの”That's Right"はリー・モーガン作で11分を超すミディアムテンポのファンキーチューン。序盤の主役はボビー・ティモンズでいかにも彼らしいソウルフルなピアノソロを披露した後、ストロージャー→モーガンのカップミュート→ショーターとたっぷりソロを取ります。録音時でメンバー全員が20代。まさに才能溢れる若獅子達による意欲作です。

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リチャード・ウィリアムス/ニュー・ホーン・イン・タウン

2024-12-24 19:24:28 | ジャズ(ハードバップ)

本日はトランぺッターのリチャード・ウィリアムズをご紹介します。主に1960年代から70年代にかけて活躍し、参加した録音はかなりの数に上ると思うのですが、その割には地味な存在ですね。理由の一つは名前がありきたりすぎることでしょうか?日本だと高橋一郎とかそんな感じかな?同じトランペッターだとイドリース・スリーマンとかダスコ・ゴイコヴィッチとかインパクト強い名前ですもんね。

出身はテキサスで50年代半ばにニューヨークに進出。チャールズ・ミンガスに才能を見出され、1959年の「ミンガス・ダイナスティ」に起用。ミンガス作品にはその後も「ファイヴ・ミンガス」等5作品に出演します。また、ジジ・グライスからも寵愛を受け、「セイイング・サムシン」等に参加。その他にもスライド・ハンプトンのビッグバンドやオリヴァー・ネルソンにも起用されるなどまたたく間にシーンの寵児となります。そんな中、1960年11月19日にキャンディド・レコードに吹き込まれたのが本作「ニュー・ホーン・イン・タウン」です。

2管編成のクインテットでメンバーはレオ・ライト(アルトorフルート)、リチャード・ワイアンズ(ピアノ)、レジー・ワークマン(ベース)、ボビー・トーマス(ドラム)と言う顔ぶれ。リーダーのウィリアムズに負けず劣らず地味なメンツが揃っていますが、レオ・ライトはディジー・ガレスピー楽団に所属しており、同じ年にアトランティックからリーダー作「ブルース・シャウト」を発表したばかり(同作品にはウィリアムズもサイドマンで参加)。リチャード・ワイアンズやレジー・ワークマンも上述のジジ「セイイング・サムシン」でウィリアムズと共演済みとあって、気心の知れたメンバーによるセッションと言えます。

全7曲。うち3曲がスタンダード、残りがメンバーのオリジナルです。ウィリアムズと言えば上述のミンガス・グループや、ブッカー・アーヴィン、ユセフ・ラティーフらどちらかと言うとクセ強系ジャズメンとの共演が多く、ウィリアムズ自身も何となく彼らのイメージに引きずられがちだったのですが、実際にリーダー作を聴くとわりとストレートなハードバップ志向だというのが良くわかります。オープニングトラックの”I Can Dream, Can't I?"はサミー・フェイン作曲の歌モノスタンダードで、ミディアムテンポの快適なナンバー。リチャード・ワイアンズも洒落たタッチのピアノソロを聴かせてくれます。続く”I Remember Clifford"はベニー・ゴルソンが亡きクリフォード・ブラウンに捧げたおなじみの名曲で、トランペットでは何と言ってもリー・モーガンの決定的名演で知られています。この曲を取り上げるとはなかなか勇気ありますが、ウィリアムズはモーガンに肉薄する、とまではさすがに行かないもののストレートなバラード演奏を聴かせてくれます。レオ・ライトもフルートで彩りを添えます。

3曲目から5曲目まではオリジナル曲で、”Ferris Wheel"はリチャード・ワイアンズ作の快適ハードバップ、”Raucuous Notes"”Blues In Quandary"はウィリアムズ作で、特に前者が力強いバップナンバーで本作のハイライトと言って良いと思います。ウィリアムスのパワフルなトランペットソロに終盤のボビー・トーマスのドラミングも迫力満点です。6曲目は再び歌モノで有名な”Over The Rainbow"。ここではライトはお休みでウィリアムズがワンホーンで朗々と歌い上げます。リチャード・ワイアンズの玉転がしタッチのピアノソロも意外とロマンチックです。ラストはウィリアムズ作のハードドライヴィングな”Renita's Bouce"でビシッと締めます。デビュー後2年足らずでリーダー作まで発表し、前途洋々かに見えたウィリアムズですが、結局ソロ名義の作品は本作のみ。その後もサド=メル楽団に加入するなど精力的に活動を続けるものの、表舞台でスポットライトを浴びることはありませんでした。あと5年デビューが早ければハードバップ黄金期でもう少し活躍の場も広がったかもしれませんね。

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ベニー・カーター/ファーザー・デフィニションズ

2024-12-20 19:01:34 | ジャズ(スイング~中間派)

本日はベニー・カーターのインパルス盤をご紹介します。カーターについてはだいぶ前にコンテンポラリー盤「ジャズ・ジャイアント」をご紹介しましたが、1907年生まれでスイング時代から活躍する大ベテラン。本作が録音された1961年11月の時点で54歳とまさにモダンジャズ界の生き字引的存在でした。しかもカーターの凄いところはこの後もコンスタントに活動を続け、最後のリーダー作が録音されたのは何と1996年!実は私も90年代に来日したカーターの演奏をテレビ(久米宏の「ニュースステーション」で生演奏を披露した)で見た記憶があります。

ただ、それほどの長いキャリアを持つ割に日本のジャズファンからの人気は今一つと言ったところでしょうか?そもそも日本ではビバップ以降のジャズの方が人気ですし、バップ以前のジャズだとやはりビッグバンド、特にベイシーとエリントンの知名度が抜けてますからね。山ほどあるカーターの作品の中でもCDで手に入るのは本作を含めインパルスとコンテンポラリーの4~5作品ぐらいですね。

中でも本作はカーターの代表作と言って良く、4人のサックス奏者による見事なアンサンブルが聴けるゴージャスな内容です。メンバーはテナーにコールマン・ホーキンスとチャーリー・ラウズ、アルトにフィル・ウッズ、リズムセクションがリズムギターにジョン・コリンズ、ピアノがディック・カッツ、ベースがジミー・ギャリソン、ドラムがジョー・ジョーンズ(フィリーではなくパパの方)です。ホーキンス、コリンズ、パパ・ジョーらは同じくスイング時代から活躍するベテラン勢ですが、ラウズ、ウッズ、カッツらバップ世代もいますし、この後コルトレーンのカルテットに加入する若いジミー・ギャリソン(27歳)と意外とバラエティ豊かな人選です。

全8曲。全てスイング風の演奏ですが、名手達のソロが散りばめられており、聴き比べるのがなかなか楽しいですね。いつもながらマイペースで悠然と吹くホーキンス、ブリブリとファンキーに吹き鳴らすラウズ、パーカー直系の切れ味鋭いパピッシュなフレーズを連発するウッズとそれぞれ特徴があるので割と簡単に聴き分けられます。カーターのアルトは特にクセもなく、わりとストレートに歌い上げる感じです。なお、カーターはトランペットも吹く変わり種ですが、本作ではサックス1本で勝負しています。

曲は"Honeysuckle Rose”や”Crazy Rhythm"”Cotton Tail"”Cherry"と言ったバリバリのスイングナンバーももちろん楽しいですが、意外とバラードが良かったりします。おススメはまずクインシー・ジョーンズ作の”The Midnight Sun Will Never Set"。ベイシー楽団の「ワン・モア・タイム」で演奏されていた美しい曲で、まずコールマン・ホーキンスがダンディズム溢れるテナーソロを披露。カッツの短いソロを挟んでカーターが官能的なアルトを聴かせてくれます。カーター自作の”Blue Star"も素晴らしいですね。まるでスタンダードのような美しいメロディで、ここでもカーターが吹く美しいテーマの後、ホーキンスが貫禄のテナーソロを披露します。上記2曲ではウッズもラウズも大先輩2人を立て、アンサンブルに回っています。他の曲では彼らも漏れなくソロを取っており、定番スタンダードの”Body And Soul"ではウッズ→ラウズ→カーター→ホーキンスの順でバラードを歌い上げます。なお、カーターは本作の5年後の1966年にメンバーをガラリと変えて西海岸のテディ・エドワーズ、バディ・コレット、ビル・パーキンス、バド・シャンクらをゲストに迎え本作の続編とでも言うべき「アディションズ・トゥ・ファーザー・デフィニションズ」を同じインパルスに吹き込みますが、出来としては本作の方がずっと良いと思います。

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