ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

メイナード・ファーガソン/ア・メッセージ・フロム・ニューポート

2016-07-26 12:21:17 | ジャズ(ビッグバンド)
本日もJAZZ MASTERS COLLECTIONシリーズからメイナード・ファーガソンのアルバムをご紹介します。メイナードはカナダ出身で1950年代から活躍する白人トランぺッターですが、一般的な音楽ファンにはジャズ作品よりも1970年代に入ってからのフュージョン作品の方がなじみがあるかもしれません。特に映画「スター・トレック」のテーマ曲のカバー・バージョンは、日本で「アメリカ横断ウルトラクイズ」のテーマ曲に使われ、私のようなアラフォー世代で知らない人はいないでしょう。この曲でもそうですが、メイナードの特徴は超高音域(ハイノート)を持続して演奏することで、ジャズ界随一のハイノートヒッターとして有名です。エリントン楽団のキャット・アンダーソン等もハイノートで有名ですが、曲のクライマックスの部分でハイノートを鳴らす彼らと違い、メイナードの場合は最初から最後までハイノート。その肺活量の凄さには驚嘆するばかりですが、一方で音楽的な側面からするとやや単調なのは否めない。本ブログでも過去にエマーシー盤「ジャム・セッション」を取り上げましたが、目の覚めるようなアドリブを次々と繰り出すクリフォード・ブラウンの横でひたすらハイノートを連発するメイナードはどうしても一本調子に聞こえてしまいます。



そんなメイナードですが、1950年代の後半から60年代半ばまで自身がリーダーとなったビッグバンド、その名もバードランド・ドリーム・バンドを結成していました。ここでもメイナードはソロではお得意のハイノートを存分に披露しますが、単に自分が目立つだけでなく、サックス、トロンボーン、リズムセクションも一体となったサウンドを追求しており、なかなか質の高いビッグバンドジャズを聴かせてくれます。メンバーの中に後に自らもビッグバンドを結成するスライド・ハンプトン、後に名アレンジャーとして名を馳せるドン・セベスキーらを擁していたのもこのバンドの強みかもしれません。本作「ア・メッセージ・フロム・ニューポート」は1958年にルーレット・レーベルから発売された作品で、そんなメイナード・ファーガソン楽団の代表作です。メンバーは総勢13名。トランペットがリーダーのメイナードに加え、ビル・チェイス、クライド・リージンガー、トム・スレイニー、トロンボーンがスライド・ハンプトン、ドン・セベスキー、サックスがウィリー・メイデン&カーメン・レッギオ(テナー)、ジミー・フォード(アルト)、ジェイ・キャメロン(バリトン)、リズムセクションがジョン・バンチ(ピアノ)、ジミー・ラウザー(ベース)、ジェイク・ハナ(ドラム)です。ハンプトン、セベスキー、メイデンの3名は交代でアレンジャーも務め、作曲・編曲もしています。

全9曲、いわゆるスタンダード曲は一つもなく、全てオリジナル曲です。どの曲も標準以上の出来ですが、特に4曲目以降が全て名曲揃いです。まず、4曲目の“Tag Team”はサックスのウィリー・メイデンの書いた曲で、ドライブ感あふれる快適なナンバー。ハンプトン、メイデン、メイナードの順でソロを取りますが、ここでのメイナードはお得意のハイノートではなく、ヴァルヴトロンボーンを吹いています。続く“And We Listened”はアレンジャーのボブ・フリードマン作曲でベイシー楽団を思い起こさせるようなスローなグルーヴの名曲です。ここではジミー・フォードのアルトとメイナードのハイノートがソロでフィーチャーされます。6曲目“Slide's Derangement”は「スライドの発狂」と言う意味で、題名通りスライド・ハンプトンが作曲・編曲していますが、彼自身はソロを取らず、もっぱらアレンジに徹しています。「発狂」というだけあって、爆発するような強力なホーンアンサンブルをバックに、メイデン→フォード→レッギオのサックス陣、続いてメイナードが脳天を突き刺すようなハイノートを聴かせます。最後のジェイク・ハナのドラムソロも圧巻ですね。7曲目“Frame For The Blues”もハンプトンのペンによるものですが、こちらは一転して美しいバラード。静かに燃え上がるアンサンブルをバックに、レッギオ→メイナード→セベスキーが情熱的なソロを取ります。このあたりの「動」から「静」への切り替わりも見事ですね。8曲目“Humbug”はドン・セベスキー作編曲の急速調のナンバー。バンド全体が前のめりにスイングする中、メイナードが最初はトロンボーン、続いてハイノートでパワフルなソロを取ります。メイデン、フォードのサックス陣も短いながら切れ味鋭いソロを聴かせます。ラストの“Three Little Foxes”はトロンボーン3人の競演で、メイナード→セベスキー→ハンプトンの順でソロを取ります。セベスキーと言えばアレンジャーの印象しかないですが、なかなか力強いトロンボーンを聴かせてくれます。以上、曲良し演奏良しの内容で、ズバリ名盤と言って差し支えないでしょう。メイナードのハイノートは正直あまり好きではない私ですが、バンドリーダーとしては評価したいと思います。メイナードのビッグバンドにはもう1枚「ア・メッセージ・フロム・バードランド」というアルバムが数年前にCD化されていますが、そちらも負けず劣らずの名盤です。
コメント

ジョー・ニューマン&ズート・シムズ/ロッキング・ホーンズ

2016-07-21 23:05:30 | ジャズ(スイング~中間派)
本日もJAZZ MASTERS COLLECTIONシリーズから、ジョー・ニューマンとズート・シムズの共演盤をご紹介します。このアルバム、もともとはラマ(Rama)という超マイナーレーベルから発売されたそうですが、その後レーベルごとルーレット・レコードに買い取られたそうです。とは言え、ルーレット自体もお世辞にもメジャーなレーベルとは言えないので、これまではCD化もされておらず、知る人ぞ知る作品でした。でも、内容はなかなか充実していますよ。白人テナー奏者の最高峰であるズートとカウント・ベイシー楽団でサド・ジョーンズとともに看板トランぺッターだったニューマン。白人と黒人の違いはあれど、スタイル的には直球ハードバップというより、どちらかと言うとスイング~中間派の流れを組む路線。サポートメンバーもジョニー・エイシア(ピアノ)、オスカー・ペティフォード(ベース)、オシー・ジョンソン(ドラム)とややシブめの顔ぶれで、ややオールドスタイルながら味わい深い演奏を聴かせてくれます。



全10曲、スタンダードは含まれておらず、1曲を除いて全てメンバーの自作というなかなか野心的な構成。中でもピアノのエイシアが5曲を作曲しており、リーダー2人に劣らない重要な役割を果たしています。このエイシアというピアニスト、グラント・グリーンの「ラテン・ビット」等で名前を見たことはありますが、地味な存在なため注目していませんでしたが、なかなか良い曲を書きますね。ラテン調の楽しい“Mambo For Joe”、スタンダード曲のような美しいメロディを持つバラード“Midnight Fantasy”、ズートとニューマンが全編に渡ってスリリングなアドリブ合戦を繰り広げる“’Tater Pie”、メンバー全員が快調にソロを取った後オシーのドラムソロで締める“Oh Shaye”、ほんわかした曲調“Susette”とどれも佳曲揃いです。他の曲ではオープニングトラックの“Corky”がニューマンの作曲で力強いリフ・チューン、ラストの“Similar Souls”がオシー・ジョンソンの作曲で快適なミディアム・チューンでそれぞれお薦めです。演奏面で言うとやはりズートのアーシーでコクのあるテナーと、ニューマンの乾いた音色のトランペットが聴きモノです。原題の“Locking Horns”は「(角突き合わせて)格闘する」と言う意味らしいですが、内容はリーダー2人の激しいバトルというより、全編リラックスしたムードの共演と言った趣きです。全曲オリジナルというのも好感が持てますし、なかなかの隠れ名盤ではないでしょうか?
コメント

ソニー・スティット・プレイズ

2016-07-14 12:56:47 | ジャズ(ハードバップ)
6月末にワーナーからJAZZ MASTERS COLLECTIONシリーズというのが発売されました。このシリーズはルーレット、ルースト等のちょいシブめのレーベルからのセレクトが多いのが特徴で、なかなか通好みのラインナップとなっております。今日ご紹介するのはソニー・スティットが1955年にルーストに吹き込んだ1枚で、邦題では「ニアネス・オヴ・ユー」の副題が付いていますが、原題は単にSonny Stitt Playsです。スティットは過去に本ブログでも何度か(アトランティック盤「トップ・ブラス」、ヴァーヴ盤「サキソフォン・スプレマシー」「ヴァーモントの月」)取り上げましたが、40年代から一貫してビバップ一筋を貫き通したジャズマンです。作風はワンパターンと評されることもありますが、反面スティットならではの魅力があるのも事実です。



曲は全8曲。うち5曲がいわゆる歌モノスタンダードで、残り3曲が自作のバップ・ナンバーです。メンバーはハンク・ジョーンズ(ピアノ)、ウェンデル・マーシャル(ベース)、シャドウ・ウィルソン(ドラム)のトリオを基本に、前半4曲でベイシー楽団のフレディ・グリーン(ギター)が参加しています。グリーンはここでもズンズンズンとリズムを刻むのみで、後はひたすらスティットがアルトを吹きまくり、そこにハンク・ジョーンズが短いながらもキラリと光るピアノ・ソロを挟むというパターンです。スティットの演奏は良く言えばフレージングが豊か、悪く言えば音数が多すぎるところがありバラードやスローなブルースだと正直ややくどい。解説ではバラードの“Nearness Of You”が名演と絶賛されていますが、個人的には「そこまでフレーズをこねくり回さなくても・・・」と思ってしまいます。“Yesterdays”や自作の“Blues For Bobby”も然り。一方でミディアムやアップテンポの曲は素晴らしい。リズムセクションと一体となって、スティットがノリノリのアドリブでぐいぐい引っ張っていきます。楽曲でいうと冒頭の“There Will Never Be Another You”や“My Melancholy Baby”、そして急速調バップの“Afterwards”あたりですね。サックスを吹くスティットの周りを熱気がもうもうと立ち込めるジャケットも印象的ですね。
コメント