ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

バーバー/管弦楽作品集

2020-01-26 16:12:52 | クラシック(管弦楽作品)
本日はアメリカの作曲家サミュエル・バーバーをご紹介したいと思います。1910年生まれで亡くなったのが1981年なので完全に現代の作曲家ですが、現代音楽にありがちな前衛的要素は感じさせません。また、同じくアメリカを代表する作曲家であるガーシュウィンやコープランドがジャズやラテン、フォークソング等を取り入れたヨーロッパにはないアメリカならではのクラシック音楽を創造したのに対し、バーバーの音楽はあくまでロマン派音楽の王道を継承するもので、まるでドイツ音楽のようながっしりした曲作りが特徴的です。今日ご紹介するCDはデイヴィッド・ジンマン指揮ボルチモア交響楽団のバーバー作品集で、彼の代表的な管弦楽作品が収録されています。



まずは、1曲目の「弦楽のためのアダージョ」から。バーバーの全作品の中でも最も有名と言ってもよく、アメリカでは葬儀の場面等でも定番の使用曲だとか。確かに物哀しい旋律ですが、個人的には気分が暗くなるので日常的に聴きたいとはあまり思いません。2曲目の「悪口学校」序曲からがバーバーの真骨頂ですね。原題はSchool For Scandalで「悪口学校」と変に訳するより「スクール・フォー・スキャンダル」の方が良いと思います。シェリダンと言うあまり良く知らない作家の喜劇にインスパイアされて作った曲だそうですが、そんな背景の知識は不要できびきびとしたテンポで次々とメロディが変わっていく楽しい曲です。続いてが「オーケストラのためのエッセー」第1番と第2番。前者は穏やかな曲調ながらオーケストラが静かに燃え上がるような熱さを秘めた曲、後者はよりダイナミックでティンパニやドラム等打楽器が鳴り響くスペクタキュラーな楽曲です。「シェリーによる場面の音楽」はイギリスの詩人シェリーの詩にインスパイアされた曲でややミステリアスな美しさを持っています。最後に交響曲第1番ですがこちらは交響曲と言いながら20分弱の小品です。単一楽章ですが実際には4部に分かれており、壮麗な雰囲気の第1部、スケルツォ風の第2部、メランコリックな緩徐楽章の第3部を経て、重低音が鳴り響くスペクタキュラーな第4部フィナーレを迎えます。作風的にはブラームスの重厚さとリヒャルト・シュトラウスの派手さを足して2で割ったような感じで、コンパクトながら聴き応えのある曲だと思います。
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ラフマニノフ/交響曲第3番

2020-01-22 20:05:12 | クラシック(交響曲)
本日はラフマニノフの交響曲第3番をご紹介します。ラフマニノフは生涯に3曲の交響曲を残し、うち第2番が最も有名ですが、この第3番はその30年後の1936年に作曲されました。なぜこれほど長いブランクが空いたかについては彼のキャリアを振り返る必要があります。ラフマニノフがピアノ協奏曲第2番や第3番、前述の交響曲第2番らの傑作群を発表したのは彼が20代半ばから30代半ばまで、年代にして1900年から1910年までの間です。その後1917年にロシア革命が起こり社会主義体制が成立するとラフマニノフは西側に亡命。アメリカを拠点にコンサートピアニストとして活動するようになります。もともとピアノのヴィルトゥオーゾとして知られたラフマニノフの演奏活動は大いなる成功を収めましたが、一方で作曲活動は低調で、亡命後に書いたオーケストラ作品は25年あまりでわずか4曲。「ピアノ協奏曲第4番」、「パガニーニ狂詩曲」、「交響的舞曲」と本曲のみです。ラフマニノフの作品はロシア音楽の王道とでも言うべき濃厚なロマンチシズムに溢れていますが、やはり祖国から遠く離れた外国での生活からは作曲家としてのインスピレーションは湧かなかったのかもしれません。

ただ、上記の4作に凡作は一つもなく、どれも丁寧に作りこまれたことがわかる佳曲ばかりです。作風的には全てロマン派でこの頃にもてはやされていた無調音楽やストラヴィンスキーらの新古典主義とは完全に一線を画しています。そのため、当時の評論家からは保守的、時代遅れと評されることも多かったようですが、現代の我々からすればやはりラフマニノフはメロディの美しさがあってこそですよね。今日ピックアップする交響曲第3番も全編にわたって華やかなオーケストラサウンドと色彩豊かなメロディに彩られています。特に素晴らしいのが第1楽章で、エネルギッシュに始まる冒頭部分から次々と胸躍るような旋律があふれ出て来ます。第2楽章は前半は哀調を帯びたアダージョで、後半は一転して勇ましいスケルツォに変わります。第3楽章は再びオーケストラが爆発するようなエネルギッシュな始まり方で、途中様々な主題をはさみつつフィナーレはド派手に締めくくります。



CDですが、古今の指揮者による演奏が目白押しの第2番に比べると第3番はやや寂しいラインナップ。そんな中で私が購入したのはアンドレ・プレヴィン指揮ロンドン交響楽団のものです。プレヴィンは交響曲第2番も歴史的名盤とされていますが、この第3番も充実の出来です。本盤には他にラフマニノフのオペラ「アレコ」から「間奏曲」と「女たちの踊り」が収録されています。こちらは第3番から遡ること44年前、なんとラフマニノフが19歳の時の作品です。どちらも3〜4分程度の短い曲ですが、前者は幻想的な美しい旋律が、後者はややオリエンタルな響きが印象的で、若きラフマニノフの才能が感じられるなかなか魅力的な小品です。
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ショパン/ピアノと管弦楽のための作品集

2020-01-09 23:52:55 | クラシック(協奏曲)
新年第1弾はショパンを取り上げたいと思います。有名な「別れの曲」「ノクターン」を始め多くの名曲で知られるショパンですが、ほとんどの作品がピアノ独奏のための曲でオーケストラ付きの作品となると以前に当ブログでも紹介した2曲のピアノ協奏曲の他には、今日ご紹介する「ラ・チ・ダレム変奏曲」「ポーランド民謡による大幻想曲」「ロンド・クラコヴィアク」「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」の4曲のみです。いずれもピアノ独奏付きの管弦楽曲で広い意味でのピアノ協奏曲のようなものとも言えます。同時代に活躍し、ピアニストとしてショパンと並び称される存在であったリストが作曲面ではピアノ曲以外にも交響詩等の面で大きな足跡を残したのに対し、ショパンはあくまでピアニストとして演奏することを前提に曲を作っていたようです。2曲のピアノ協奏曲はともかく、これらの管弦楽作品を録音したディスクはあまりありませんでしたが、このたびヤン・リシエツキのピアノ、クシシュトフ・ウルバンスキ指揮北ドイツ放送エルプフィルハーモニー管弦楽団のCDを入手しましたのでそれをもとにご紹介します。



曲紹介は収録順ではなく作曲年順に行います。ますはショパンが17歳の時に書いた「ラ・チ・ダレム変奏曲」から。こちらは正式名称を「モーツァルトの『ドン・ジョヴァンニ』の『お手をどうぞ』による変奏曲」と言いますが、長すぎるので『お手をどうぞ』のイタリア語ラ・チ・ダレムを取ってこう呼ばれています。タイトル通りモーツァルトのオペラの有名なアリアを題材にした曲で、♫タンタタタンタンタンと軽快な旋律を緩急織り交ぜたさまざまなスタイルで演奏して行きます。続いて20歳の時に書かれた「ポーランド民謡による大幻想曲」と「ロンド・クラコヴィアク」。どちらもポーランドの民族音楽の要素が濃厚で、前者は第2楽章に「もう月は沈み」と言う美しい民謡が主題に使われていますし、後者もクラコヴィアクと言うクラクフ地方の民族舞踊に着想を得て作曲されています。ショパンはピアノ曲でも生涯にわたってマズルカやポロネーズと言オったポーランドの民族音楽にちなんだ作品を発表し続けましたので、これら管弦楽付きの曲もその一環と言えます。最後は「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」。ショパン24歳の時の作曲でこの曲を最後に生涯を通じてオーケストラ付きの作品を1曲も書きませんでした。実際この曲も前半のアンダンテ・スピアナートの部分はピアノ独奏ですし、後半のポロネーズもオーケストラが目立つのは最初と最後のみで途中はピアノの伴奏程度です。ショパンがオーケストラに力を入れなかった原因としては、彼が管弦楽法を熟知していなかったからと言う説もありますし、性格的に内向的なため多くの聴衆の前より少人数のサロンで演奏する方を好んだためピアノ独奏曲ばかりになったとも言われています。とは言え、ピアノ曲であろうがオーケストラ付きであろうが、旋律自体はどれも魅力的なことに変わりなく、スローテンポの曲は夢見るような美しさですし、ポロネーズやロンド等の舞曲ではきらびやかで明るさに満ち溢れた音の世界を堪能できます。



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