ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ディジー・リース/サウンディン・オフ

2024-04-30 18:51:00 | ジャズ(ハードバップ)

本日はジャマイカ出身のトランぺッター、ディジー・リースをご紹介します。ジャマイカと言えば何と言ってもレゲエ。ボブ・マーリーやジミー・クリフの名前をまず思い出しますが、彼らが台頭するのは60年代後半になってからのこと。それ以前の40年代~50年代はジャズが結構盛んだったようです。ジャマイカ出身のジャズマンには他にピアニストのモンティ・アレキサンダー、テナー奏者のウィルトン・ゲイナー等がいます。当時のジャマイカはまだイギリス領(独立は1962年)。リースも他のジャマイカ人ジャズメン同様に距離的に近いアメリカではなく、まずロンドンに向かいます。ロンドンを中心にヨーロッパ各地で演奏活動を行い、名を上げたリースに注目したのがブルーノート社長のアルフレッド・ライオン。1958年に「ブルース・イン・トリニティ」、翌年に「スター・ブライト」の2枚のリーダー作を吹き込み、1960年5月12日録音の本作が3作目にあたります。(それ以外にお蔵入りになったスタンリー・タレンタインとの「カミン・オン」というセッションがあるようですが私は未聴です)

本作「サウンディン・オフ」はリースのワンホーンカルテットで、メンバーはウォルター・ビショップ・ジュニア(ピアノ)、ダグ・ワトキンス(ベース)、アート・テイラー(ドラム)です。ちなみにタイトルに使われているsound offとはサウンドをオフにする=静かにするという意味ではなく、むしろ逆で大声でまくし立てるという意味らしいです。その通りにリースが全編で高らかにトランペットを鳴り響かせますが、決してうるさいわけではなく、きちんとコントロールもされています。

曲はスタンダード中心ですが、注目したいのがその選曲。1曲目のバラード”A Ghost Of A Chance”、2曲目ミディアムの”Once In A While"ともにクリフォード・ブラウンの名演で知られる曲です。なかなかチャレンジングなチョイスですが、リースはブラウンばり、とまではさすがに言えないものの十分に説得力のあるプレイを聴かせてくれます。3曲目”Eb Pob"も偉大なる先輩トランペッター、ファッツ・ナヴァロの楽曲。Be Bopを逆さ読みした軽快なバップ曲です。続く定番スタンダード”Yesterdays"”Our Love Is Here To Stay"はややベタな気もしますが、最後は自作曲の痛快ハードバップ”Blue Streak"で鮮やかに締めくくります。ウォルター・ビショップ・ジュニアはじめリズムセクションも安定のサポートぶりです。

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ハロルド・ランド/ハロルド・イン・ザ・ランド・オヴ・ジャズ

2024-04-28 16:34:26 | ジャズ(ハードバップ)

本日はハロルド・ランドをご紹介します。ランドと言えば何と言ってもブラウン=ローチ・クインテットのテナー奏者。「スタディ・イン・ブラウン」はじめ同クインテットの傑作群を通じてほとんどのジャズファンは彼のテナーを耳にしたことがあると思います。一方でクインテットの主役はあくまでクリフォード・ブラウンとマックス・ローチ。ランドは脇役の存在であったことは否めません。その後ブラウン=ローチ・クインテットは東海岸に拠点を移しますが、ランドは同行せず、引き続きロサンゼルスで活動を続けました(代わりに加入したのがソニー・ロリンズ)。黒人ハードバップの中心地ニューヨークに行かなかったことがランドが実力のわりに地味な存在に甘んじている要因の一つかもしれません。どうしてもジャズファンの間では西海岸=白人ジャズという固定観念があり、ランドに限らず西海岸で活躍する黒人ジャズマンは過小評価されがちです。

本作「ハロルド・イン・ザ・ランド・オヴ・ジャズ」は西海岸を代表するコンテンポラリー・レーベルに吹き込まれたランドの初リーダー作で、ランドだけでなく西海岸の黒人バッパー達が一堂に会しています。ピアノが夭折したカール・パーキンス、ベースがリロイ・ヴィネガー、ドラムがフランク・バトラーと全員名手揃い。トランペットが唯一白人でスウェーデン出身のロルフ・エリクソンが参加していますが、彼も後にミンガス・グループやデューク・エリントン楽団に在籍するなど隠れた実力者として知られています。

全7曲、うち2曲がスタンダード、残りがオリジナルです。オープニングはクルト・ヴァイルの名曲”Speak Low”で、序盤からランドが好調なソロを聴かせてくれますが、途中のエリクソンのカットインがやや乱暴で毎回聴いていてドキッとします。3曲目も定番スタンダード”You Don’t Know What Love Is"でこれはランドのワンホーン。ロリンズやコルトレーンでも知られるバラードをランドが渋く吹き切ります。ただ、個人的には残りのオリジナル曲、特にランドの自作曲を推したいです。2曲目”Delirium”はタッド・ダメロンにも同名の曲がありますが完全な別曲。ちなみにdeliriumは精神病用語で譫妄(せんもう)と言う意味らしいです。変なタイトルですが、曲自体はメロディアスなバップ曲です。6曲目”Lydia’s Lament"はややモーダルな雰囲気のするバラード曲。何となく60年代のジョーヘンっぽい感じです。7曲目”Smack Up”は痛快ハードバップで、2年後にアート・ペッパーがカバーし、アルバムタイトルにも取り上げた名曲です。これらの曲を聴けばランドがテナーマンとしてだけでなく作曲のセンスがあったこともよくわかります。ランドはこの後コンテンポラリーに1枚、ジャズランドに2枚、ブルーノートに1枚のリーダー作を吹き込みますが、それらは皆廃盤扱いでCDでの入手は不可能です。幸い今の時代YouTubeで聴くことはできますが、いつか再発売してほしいですね・・・

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テナー・コンクレイヴ

2024-04-26 20:05:56 | ジャズ(ハードバップ)

ジャズマニアの間で行われる遊びでブラインドフォールド・テストと言うものがあります。レコードのアドリブだけを聴いて一体誰のソロかを当てる、という奴ですね。私は基本的にはジャズはリラックスして楽しく聴けば良いという考えなので、こういうマニアの高尚な知識比べには否定的なのですが、今日ご紹介するプレスティッジ盤「テナー・コンクレイヴ」などは思わずそういう聴き方をしたくなってしまいます。何せ集めも集めたりテナー4本、しかもハンク・モブレー、ジョン・コルトレーン、ズート・シムズ、アル・コーンと名だたる顔ぶればかりです。リズムセクションもレッド・ガーランド(ピアノ)、ポール・チェンバース(ベース)、アート・テイラー(ドラム)となかなか豪華なのですが、4本のテナーの前には霞んでしまいますね。録音年月日は1956年9月7日です。なお、プレスティッジはこういう企画が大好きで、他にフィル・ウッズらアルト4本の「フォー・アルトズ」(ただし、CD廃盤のため私は持っていません)、テナー3本の「ホイーリン&ディーリン」、トランペット3本の「スリー・トランペッツ」、テナー4本の「ヴェリー・サクシー」等があります。

まずはオープニングのモブレー作のタイトル曲"Tenor Conclave"。4人が順にイントロを吹いた後、各自のソロに入ります。1番手はクセのないまろやかなトーン、モブレーでしょうか?続いては同じくまろやかなトーンですが随所にひねりが入るあたりがズートっぽい。続いてややオールドスタイルな感じのテナーは正直ピンと来ませんが、逆に言うと消去法でアル・コーンですかね。最後のコルトレーンは1人だけ全然違うので一発でわかります。2曲目はオールドスタンダードの”Just You, Just Me”。同じような聴き分けでモブレー→ズート→コルトレーン→コーンと推測します。3曲目”Bob's Boys"はコルトレーンが一番手で、後はコーン→モブレー→ズートでしょう。4曲目はアーヴィング・バーリンのバラード”How Deep Is The Ocean?"。コーン→ガーランドのピアノソロ→ズート→チェンバースの弓弾きソロ→コルトレーン→モブレーかな?

結果はと言うと、自分の予想とライナーノーツを照らし合わせたところ全曲正解でした。ジャズを聴き始めて25年。ようやく一人前のジャズ通になれた!と言いたいところですが、こんな聴き方リラックスできないですよね。とは言え、はっきり言ってこの作品、普通に聴いてても特に面白くないんです。何せ4曲中最初の3曲が同じようなミディアムテンポの曲ですからね。随所にガーランドらのソロも入りますが、基本ひたすらテナーなのでさすがにダレます。私はコルトレーンもモブレーもアル&ズートも全員好きですけど、いっぺんに4人はtoo muchです。タイトルにあるコンクレイヴとはラテン語でコンクラーヴェ=ローマ法王を選ぶ枢機卿会議、のことらしいですが一部ジャズファンの間でタイトルをもじって「テナー根比べ」なんて呼ばれているのも納得です。

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フィリー・ジョー・ジョーンズ/ブルース・フォー・ドラキュラ

2024-04-25 21:15:19 | ジャズ(ハードバップ)

ジャズのジャケットには芸術的なものが多く、それだけで一つのアートと呼んでいいぐらいですが、一方で珍ジャケット、迷ジャケットにも事欠きません。吸血鬼ドラキュラがスティックを持ってドラムを叩く本作「ブルース・フォー・ドラキュラ」もその一つではないでしょうか?マイルス・デイヴィス・クインテットでも知られる名ドラマー、フィリー・ジョー・ジョーンズが1958年にリヴァーサイドに吹き込んだ作品で、メンバーもナット・アダレイ(コルネット)、ジョニー・グリフィン(テナー)、ジュリアン・プリースター(トロンボーン)、トミー・フラナガン(ピアノ)、ジミー・ギャリソン(ベース)と一流ジャズメンをズラリと揃えているのですが、一体どんな内容なのか思わず身構えてしまいますよね。

内容の方はいたって正統派ジャズ、と言いたいところですがそうとも言い切れません。1曲目”Blues For Dracula”は3管のリフをバックに、フィリー・ジョーがオオカミの遠吠えを真似た後でI'm Count Dracula. I'm a bebop vampireうんたらかんたらと2分半もしゃべり続けます。どうやらフィリー・ジョーはモノマネが得意で、特にドラキュラ役で有名なハンガリー出身の俳優ベラ・ルゴシが鉄板ネタだったらしいです。当時はウケたのでしょうが、現代の我々からすると元ネタを知らないのでキョトーンですよね。語りが終わった後は3管のファンキーなソロが繰り広げられ、ようやくジャズっぽくなりますが、最後は再びドラキュラ伯爵のセリフで終わります。変テコな曲ですね・・・

ただ、2曲目”Trick Street”以降はおふざけはなくストレートアヘッドなジャズが楽しめます。しかも普通より上質のハードバップと言って良いでしょう。何せナット・アダレイ、ジョニー・グリフィン、ジュリアン・プリ―スターの3管から成る豪華ホーンセクションにピアノが名手フラナガンですからね。とりわけ素晴らしいのが3曲目カル・マッセイ作の”Fiesta"。チャーリー・パーカーの演奏でも知られている曲で、タイトル通りラテンっぽい祝祭的な旋律の名曲・名演です。グリフィン、アダレイ、プリースター、フラナガンが順にソロを取った後、フィリー・ジョーも2分間近くに渡って圧巻のドラムソロを披露します。他ではバップスタンダードのマイルス・デイヴィス”Tune Up"やディジー・ガレスピー”Ow"も充実の出来。一通り聴けばハードバップ好きなら気に入ること間違いなしの作品です。

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イントロデューシング・ケニー・バレル

2024-04-24 21:08:38 | ジャズ(ハードバップ)

本日は私のフェイバリット・ギタリスト、ケニー・バレルの記念すべき初リーダー作を取り上げます。デトロイト出身のバレルが盟友のトミー・フラナガンらとニューヨークにやって来たのが1956年初頭のこと。サド・ジョーンズの「デトロイト=ニューヨーク・ジャンクション」やサヴォイ盤「ジャズメン・デトロイト」への参加を経て、早くも5月29日にブルーノートにリーダー作を吹き込みます。この当たりの動きの速さはさすが慧眼で知られたアルフレッド・ライオンならではですね。参加メンバーはフラナガン(ピアノ)、ポール・チェンバース(ベース)のデトロイトコンビに加え、ベテランのケニー・クラーク(ドラム)。さらにはキューバ出身のキャンディドがコンガ&ボンゴ奏者として参加しています。

アルバムはハロルド・アーレンの有名スタンダード”This Time The Dream's On Me”で幕を開けます。のっけからアクセル全開でスインギーなギターを聴かせるバレル。フラナガンの華麗なピアノソロを挟んでドラム&コンガがソロの応酬を繰り広げます。3曲目バレルのオリジナル”Takeela”もラテン調の軽快なナンバーで、ボンゴの野性的なリズムに乗せられてフラナガン→バレルが目の覚めるようなソロをリレーします。この2曲ではバレル、フラナガンだけでなくキャンディドが大活躍しますが、その路線を突き詰めたのが6曲目”Rhythmorama"。ここではリーダーのバレルが登場せず、何とキャンディドとケニー・クラークのデュオです。打楽器オンリーで6分間もズンドコチャカポコと演奏するのは当時としては(今でも?)かなり挑戦的ですが、こう言った音楽的冒険もブルーノートならではですね。とは言え、私はもちろんバレル入りの曲の方が好きです。上記の曲以外では美しいバラードの”Weaver Of Dreams"、ブラウン&ローチで有名な”Delilah"、バレルお得意のブルージーなギターが冴え渡る”Fugue 'N Blues""Blues For Skeeter"と充実の内容です。

 

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