ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ソニー・サイド・アップ

2025-01-17 19:16:38 | ジャズ(ビバップ)

ジャズ界にはソニーと名の付く人がたくさんいます。ソニー・ロリンズ、ソニー・スティット、ソニー・クラーク、ソニー・クリスあたりがパッと思い浮かぶところで、他にもソニー・レッド、ベイシー楽団のトランぺッターのソニー・コーン、ドラマーのソニー・ペインがいます。マニアックなところでは前衛系アルト奏者のソニー・シモンズ、ソウル系オルガン奏者のソニー・フィリップス、フィル・ウッズと共演したベース奏者のソニー・ダラス、70年代のマイルスのバンドにいたテナーのソニー・フォーチュンなんてのもいますね。ちなみにソニーと言うのは"坊や"を意味するニックネームで本名は全員別にあります(ロリンズはセオドア、スティットはエドワード、クラークはコンラッドetc)。

今日ご紹介する作品はその中でも"2大ソニー"と言っても良いロリンズとスティットをフィーチャーした「ソニー・サイド・アップ」です。タイトルは目玉焼きを意味するsunny side upのもじりです。サックス界を代表する巨人2人の競演と言うだけで十分豪華なのですが、リーダーは彼らではなくむしろジャケット左側にデーンと位置するディジー・ガレスピーでしょう。本作が録音された1957年12月時点で40歳。まだ長老と呼ぶような年齢ではないですが、若者が多いバップ世代の中では重鎮的存在でした。(ちなみにスティットは33歳、ロリンズは27歳)。リズムセクションは25歳のレイ・ブライアント(ピアノ)、その兄で27歳のトミー・ブライアント(ベース)、28歳のチャーリー・パーシップ(ドラム)です。

全4曲。アルバムはまずスタンダードの"On The Sunny Side Of The Street"で始まります。ソロ先発はソニー・スティット。スティットはこのアルバムではアルトではなくテナーサックスを吹いていますが、同じテナーのロリンズとはスタイルが違うので混同することはないですね。ロリンズに比べてスティットの方が明らかに音数が多く、フレージングが細かいです。スティットの後はガレスピーのミュート→ロリンズと快調にソロをリレーしますが、残り1分のところで突然ガレスピーが歌い出し、思わずズッコケそうになります。彼が時にヴォーカルを披露することは知ってはいましたが、ここで飛び出すとは・・・正直美声とも言えないし、音程も怪しい。独特のユーモラスな味わい、と言うのが最大限ひねり出した誉め言葉でしょうか?

続く"Eternal Triangle"はスティット作とありますが、どこかで聞いたことがあるようなバップナンバー。目玉は何と言ってもテナー2人の競演で、まずはロリンズ→スティットの順でソロを取り、その後は2人の熱いチェイスが9分過ぎまで続きます。その後でようやくガレスピーが登場し、ブライアントの短いソロ→ガレスピーとチャーリー・パーシップのドラムのソロ交換と続きます。なかなかド派手な演奏です。3曲目"After Hours"はブルースのスタンダード曲で、冒頭の3分間はここまで目立たなかったレイ・ブライアントの独壇場です。その後はガレスピーのミュート→ロリンズ→スティットとブルージーなソロを受け渡していきます。ラストは歌モノの"I Know That You Know"で、まずはロリンズが力強いテナーソロを聴かせた後、ガレスピー→スティットとソロを取りますが、何よりメロディを崩さずに速射砲のような勢いでアドリブを連発するスティットのソロが圧巻ですね。日本のジャズファンの間ではソニー・ロリンズは半ば神格化されていて、この作品もどちらかと言うとロリンズ目当てで聴く人が多いかもしれませんが、個人的にはスティットも互角かそれ以上の出来と思います。御大ガレスピーも歌はともかく?、プレイの方はさすがの貫録です。

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モダン・ジャズ・セクステット

2024-12-19 20:04:14 | ジャズ(ビバップ)

本日はモダン・ジャズ・セクステットです。モダン・ジャズ・カルテットなら知ってるけどセクステットなど知らん!と思われる方もいるでしょうが、本作1枚のためだけに集められた即席のコンボなので知らなくても当然と言えば当然です。MJQとの混同を避けるためか、私が買った日本盤のCDはそもそもディジー・ガレスピーがリーダーで「モダン・ジャズ・セクステット」は作品名として扱われていますが、ジャケットを見る限り特にリーダーの記載はなく、一応メンバー6人が対等に参加しているようです。

企画したのは名プロデューサーのノーマン・グランツ。彼の設立したノーグラン・レコード(後のヴァーヴ・レコード)に1956年1月に吹き込まれたものです。ジャケットはグランツお抱えの名物画家デイヴィッド・ストーン・マーティンによるデザインで、右下でトランペットを持っているのがディジー・ガレスピー、左下でピアノを弾いているのがジョン・ルイス、その上でサックスを吹いているのがソニー・スティット、右上のベースがパーシー・ヒース、真ん中の方でゴチャゴチャっと書かれて判別しにくいのがギターのスキーター・ベストとドラムのチャーリー・パーシップです。6人対等と言いながらジャケットの絵の大きさからもガレスピー、ルイス、スティットの3人が音楽的リーダーシップを取っているのがわかります。なお、ジョン・ルイスに加えてパーシー・ヒースも参加していますので、MJQとはあながち無関係とも言えません。

さて、ノーマン・グランツはハードバップより少し前のビバップやスイング~中間派の音楽を愛好しており、起用するのもその世代のミュージシャンが多いですが、本作でもドラムのパーシップだけが26歳と若く、後は全員が30超えで40年代から活躍しているメンバーばかりです。そのせいか少し音的には古いと言えば古いですね。特にガレスピーのトランペットはちょうどこの時期に台頭しつつあったクリフォード・ブラウンやドナルド・バード(リー・モーガンはまだデビュー前)に比べると少しオールドスタイルな印象は拭えません。一方、スティットのアルトは絶好調で、お得意の音数の多いこねくり回すようなフレーズを全編で披露します。ルイスのピアノは評価が難しいですね。この人は作曲家・編曲家としては大変優れており、MJQでも独特の世界観を築き上げているのですが、1人のピアニストとしてはどうなんでしょうか?訥々としたピアノは好みが分かれるところかも。他ではスイング時代から活躍するスキーター・ベストも随所でギターソロを聴かせます。

肝心の曲の解説ですが、これは何と言っても1曲目"Tour De Force”が素晴らしいです。ディジー・ガレスピーのオリジナルで大変魅力的なメロディを持った名曲です。11分を超す大曲なのですが、スティット→ガレスピー→ルイス→ベストとたっぷりとソロを取り、最後までダレることがありません。2曲目”Dizzy Meets Sonny"は文字通りガレスピーとスティットのアドリブ合戦なのですが、絶好調のスティットに対し、ひたすらハイノートを連発するガレスピーのトランペットが個人的にはややしんどいかな?3曲目はスタンダード曲のメドレーで、スティットが”Old Folks"、ルイスが”What's New"、ガレスピーが”How Deep Is The Ocean"とそれぞれバラードを演奏しますが、個人的にはメドレーと言う企画自体があまり好きではないので評価の対象外です。4曲目はスタンダードの”Mean To Me”でミディアムテンポの軽快な演奏。ラストトラックはガレスピーとスティットの共作のブルースで前年に亡くなったチャーリー・パーカーに捧げた”Blues For Bird"。パーカーはガレスピーにとってはかつての"バード&ディズ”の相棒、スティットにとっては盟友であり比較の対象ともなったライバルと言うこともあり、両者とも情感たっぷりのプレイを繰り広げます。ジョン・ルイスの独特の語り口のピアノ、スキーター・ベストの意外とブルージーなギターソロも良いアクセントを加えています。

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ザ・リターン・オヴ・ハワード・マギー

2024-09-07 15:35:44 | ジャズ(ビバップ)

本日はハワード・マギーです。ディジー・ガレスピー、ファッツ・ナヴァロと並んでビバップ期を代表するトランぺッターで、本ブログでも紹介したチャーリー・パーカーのダイヤル・セッション等にも参加しています。ただ、彼も同時代の多くのジャズマンと同じように麻薬で道を踏み外し、1950年代に入ると一線から遠ざかるようになります。本作「ザ・リターン・オヴ・ハワード・マギー」はタイトルが示すようにマギーの数年ぶりの復帰作で1955年10月ににベツレヘム・レコードに吹き込まれたものです。ただ、その後のマギーがハードパップシーンでバリバリ活躍したかと言われるとそうではなく、この後再び麻薬禍に苦しみ、本格的に復帰するのは1960年代になってからです。

2管編成で相方に選ばれたのはバリトンサックスのサヒブ・シハブ、リズムセクションはデューク・ジョーダン(ピアノ)、パーシー・ヒース(ベース)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ドラム)と言う布陣です。ジャケットはベツレヘムの名物デザイナー、バート・ゴールドブラットによるもので、トランペットを吹くマギーの顔面をドアップにしたものですが、あまりにも近寄り過ぎで最初は何の絵面か分かりませんでした。

全11曲。スタンダードが6曲、マギーの自作曲が5曲です。全体的に2~3分程度の短い演奏がメインで、マギーのややオールドファッションなトランペットと相まって40年代風のビバップです。おススメは自作曲ではタヒチと言うよりややカリビアン調の"Tahitian Lullaby"、ほのぼのバラードの”You’re Teasing Me"等です。スタンダードではコールマン・ホーキンスの”Rifftide”とクリフォード・ブラウンの名演で知られる”I'll Remember April”が5分を超える熱演で各人のソロを存分に聴くことができます。

サイドマンでは後年デンマークに移住するサヒブ・シハブ(過去ブログ参照)がブリブリとバリトンを吹き鳴らしています。また、ビバップ期から活躍するデューク・ジョーダンもきらりと光るピアノソロを随所で聴かせてくれます。偶然ですがジョーダンも後にデンマークに移住し、スティープルチェイス・レコードの顔となります。リーダーのマギーはと言うと、その後も離脱と復帰を繰り返しながら1970年代まで活動していたらしいですが、大きな成功を収めることはできませんでした。結局40年代の名声を取り戻すことはありませんでしたが、早々に世を去ったかつての仲間達(パーカー、ナヴァロ、ワーデル・グレイ)に比べれば長生きできただけ幸せだったかもしれません。

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レナード・フェザー・プレゼンツ・バップ

2024-08-31 21:26:59 | ジャズ(ビバップ)

西海岸の幻のレーベル、モード・レコードについては以前に「エディ・コスタ・クインテット」のところで紹介しました。わずか30枚ほどのレコードを残して1年も経たずに倒産したレーベルですが、ジャズファンの人気は高く、昔から何度もCDで再発売されています。このレーベルの特徴の一つはエヴァ・ダイアナと言う女性画家が水彩画で各アーティストを描いたジャケットですが、全作品中6作品だけが異なるデザインです。これらのシリーズはビル・ボックスと言うデザイナーによるもので、全てベレー帽をかぶった眼鏡のおじさんを描いています。誰かの似顔絵なのか、それとも独自のキャラなのかよくわかりませんが、水彩画シリーズとは異なったひょうきんな味わいですね。

今日ご紹介する「レナード・フェザー・プレゼンツ・バップ」もそのおじさんシリーズの1枚です。レナード・フェザーと言う人はイギリス出身で、ピアニストや作曲家の顔も持っていたようですが一般的にはジャズ評論家としてよく知られています。50~60年代のジャズアルバムを収集していると、彼とアイラ・ギトラーの名前はよく目にしますね。本作でも彼自身はプレイせず監修に回っており、知己のジャズマン総勢7人を呼び集めています。メンバーは全曲に参加しているのがジョージ・ウォーリントン(ピアノ)、フィル・ウッズ(アルト)、カーリー・ラッセル(ベース)の3人で、トランペットが曲によってサド・ジョーンズとイドリース・スリーマン、ドラムがデンジル・ベストとアート・テイラーが起用されています。実質的なリーダーはおそらくウォーリントンで、彼のバンドに在籍していたウッズとともに中心的な役割を果たしています。

全10曲。アルバムタイトル通り全て1940年代のビバップ曲です。内訳はディジー・ガレスピーが4曲(”Be Bop""Salt Peanuts""Groovin' High""Shaw 'Nuff")、チャーリー・パーカーが3曲("Ornithology""Anthropology""Billie's Bounce")、その他ジョージ・ウォーリントンの”Lemon  Drop”、タッド・ダメロンの”Hot House”、ベニー・ハリスの”Little Benny”です。何でもこの企画は「近頃は真のビバップが何たるかが忘れられておる!」と嘆いたレナード・フェザーがビバップを再び世に問う意図で企画したアルバムだそうです。2024年の我々からするとこのアルバムが録音された1957年は古き良き時代ですが、十年一昔と言いますから当時の評論家からしたら流行のハードバップは”新しい音楽”で10年前のビバップを懐かしむ気持ちがあったのでしょう。

演奏で目立っているのはやはりフィル・ウッズでしょう。2年前に世を去ったチャーリー・パーカーの後継者としてノリに乗っていた頃で、全編にわたって素晴らしいアルトを聴かせてくれます。ウッズはまたこの年にパーカー未亡人のチャンと結婚しており、ジャケット裏面にはスタジオを訪れたと思しきチャン夫人がパーカーの遺児で5歳のベアード君を抱いた写真が掲載されています。実はベアード君は録音にも参加しており、ガレスピーの"Salt Peanuts"の可愛い掛け声はベアード君だそうです。

その他ではビバップ期から活躍するジョージ・ウォーリントンもバピッシュなピアノソロを聴かせます。自作曲”Lemon Drop”は発表当時はウディ・ハーマン楽団の演奏で有名になり、ウォーリントン自身は録音していないようなので本作が初のレコーディングになります。冒頭で♪ドゥビドゥビアッアッ、とユニークなスキャットが入りますが、歌っているのはフィル・ウッズとサド・ジョーンズだそうです。トランペットは当時ウォーリントンのバンドにいたドナルド・バードが呼ばれてもよさそうですが、彼だとモダンになり過ぎるからなのかサド・ジョーンズとイドリース・スリーマンが起用されています。彼らの少しオールドスタイルな感じのトランペットがビバップ復古の企画にマッチしています。

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クリフォード・ブラウン/メモリアル・アルバム

2024-05-14 18:31:38 | ジャズ(ビバップ)

クリフォード・ブラウンにはメモリアルと名の付くアルバムが2枚あります。1つは以前に取り上げたプレスティッジ盤「クリフォード・ブラウン・メモリアル」、もう一方が今日ご紹介するブルーノート盤「メモリアル・アルバム」です。どちらもクリフォード・ブラウンが1956年6月に自動車事故で悲劇の死を遂げた後にリリースされたものですが、完全に後出しというわけではなく、生前に発表されていた音源を再編集したものです。ブルーノート盤の方は1953年6月に吹き込まれたルー・ドナルドソン「ニュー・フェイシズ、ニュー・サウンズ」と1953年8月に吹き込まれたブラウンの初リーダー作「ニュー・スター・オン・ザ・ホライズン」で、どちらも10インチLPで20分にも満たないものを組み合わせたものです。特に6月のセッションはブラウンの初レコーディングということで歴史的価値が高いものです。

メンバーは6月のセッションがルー・ドナルドソン(アルト)、エルモ・ホープ(ピアノ)、パーシー・ヒース(ベース)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ドラム)。8月のセッションがチャーリー・ラウズ(テナー)、ジジ・グライス(アルト)、ジョン・ルイス(ピアノ)、パーシー・ヒース(ベース)、アート・ブレイキー(ドラム)です。いずれもモダンジャズを支えるジャズメン達が名を連ねています。ただ、もともと10インチLPということで演奏はどれも3~4分程度。アレンジもこなれておらず、後年のブラウン=ローチ・クインテットの時代と比較すると完成度と言う点ではもう一つなのは否めません。

とは言え、ブラウンのトランペットはこの時点で既に別格の輝きを放っています。とりわけ素晴らしいのが8月のセッションの”Cherokee”。ブラウン=ローチ・クインテットの「スタディ・イン・ブラウン」のバージョンも歴史的名演として名高いですが、本作ものっけからブラウンがおそらく彼にしかできないであろう超絶技巧のアドリブを見せつけます。後半のアート・ブレイキーとの痺れるようなソロの応酬も素晴らしいです。他では当時まだ若手トランぺッターだったクインシー・ジョーンズ作の”Wail Bait”もなかなかの佳曲です。6月のセッションは名義上はルー・ドナルドソンのリーダー作ということもあり、ドナルドソンのソロにもスポットライトが多く当たっています。ただ、冒頭の”Brownie Speaks”は文字通りブラウンが名刺代わりとばかりに力強いソロを見せつけており、存在感は圧倒的です。また、通好みのピアニスト、エルモ・ホープも自作の”De-Dah”を提供するだけでなく、随所で軽快なソロを聴かせてくれます。その他の曲は正直まずまずの内容と言ったところですが、ブラウンの短いながらも輝かしいキャリアの出発点をとらえた作品として一聴の価値はあると思います。

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