ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ベルリオーズ/夏の夜&ドビュッシー/選ばれし乙女

2020-04-18 06:25:57 | クラシック(声楽)

本日は珍しく歌曲です。このジャンルは正直あまり得意分野ではなく、当ブログで過去に取り上げたのもリヒャルト・シュトラウスの「4つの最後の歌」やマーラーの「亡き子をしのぶ歌」と言った管弦楽付き歌曲のみで、シューベルトやシューマン、ブラームスらによるドイツ歌曲の世界はほぼ未踏の分野です。きっと奥が深い世界なのだとは思いますが・・今日ご紹介するのはフランス語による管弦楽付き歌曲で、ベルリオーズの「夏の夜」とドビュッシーの「選ばれし乙女」です。歌うのは世界的メゾソプラノ歌手のフレデリカ・フォン・シュターデ、演奏は小澤征爾指揮ボストン交響楽団、録音は1983年です。

「夏の夜」はベルリオーズが友人であるテオフィル・ゴーティエと言う詩人の6つの詩に曲を付けたものです。オラトリオやミサ曲等の宗教音楽の分野ではあまり歌詞に注目しない私ですが、この曲に関してはやはり詩が素晴らしく、歌詞対訳を見ながら聴くとより一層曲の理解が深まります。特にお薦めは第2曲「ばらの精」。舞踏会の花飾りのために手折られたばらの花が自らのはかない運命を歌う実に美しい曲です。別れた恋人への思慕を切々と歌う第4曲「君なくて」の静謐な美しさも格別です。他では死んだ恋人への思いを歌った悲哀に満ちた第3曲「入江のほとり」、墓地の木に止まる鳩を歌ったミステリアスな雰囲気の第5曲「墓地で」も捨て難い魅力があります。管弦楽は後年のマーラーやリヒャルト・シュトラウスと違いあくまで伴奏程度ですが、曲の美しさだけで十分聴くに値します。

一方、ドビュッシー作曲の「選ばれし乙女」はロセッティの絵画にインスパイアされて書かれた20分弱の短いカンタータで、こちらは独唱に加えて女声コーラスも加わっています。ドビュッシーと言えば「牧神の午後への前奏曲」「海」等が印象主義音楽の代表作として名高いですが、この曲はそれらの作品が発表される前の初期の作品です。まだ後年のような様式は確立されてはいませんが、極めてロマンチックな旋律に彩られた美しい曲です。管弦楽の使い方も素晴らしく、特に前奏部分はうっとりするような美しさです。歌のパートももちろん充実しており、フォン・シュターデの歌声と女声コーラスが幻想的な雰囲気を生み出しています。ドビュッシー初期の作品と言うことであまり取り上げられる機会はありませんが、隠れた傑作と思います。

 

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ドヴォルザーク/聖ルドミラ

2020-04-04 18:50:31 | クラシック(声楽)

前回の交響曲第5番に引き続き本日もドヴォルザークです。あまり注目されることはありませんが、ドヴォルザークは宗教音楽にも力を注いでおり、有名な「スターバト・マーテル」をはじめ、レクイエムやテ・デウム、カンタータ、ミサ曲等も残しており、今日ご紹介するオラトリオ「聖ルドミラ」もその一つです。作曲は1886年。交響曲第7番とほぼ同時期で、円熟期を迎えつつあったドヴォルザークが書き上げた大作です。ただ、宗教音楽と言うこともあってか演奏機会はほとんどなく、CDも数えるほどしかありません。私が購入したのは最近発売されたナクソス盤でレオシュ・スワロフスキー指揮スロヴァキア・フィルハーモニー管弦楽団のものです。

作品はチェコのキリスト教会にとって重要な存在である聖ルドミラを題材にしています。ウィキペディア情報によると、ルドミラは9世紀に実在した人物で当時のチェコを支配したボヘミア公ボジヴォイと結婚し、夫とともにキリスト教へ改宗したとのこと。曲の内容も当然その史実を下敷きにしており、第1幕はルドミラが民衆達と異教の神々に祈りを捧げているところに、イヴァンという伝道師が現れ偶像を雷で破壊します。第2部ではルドミラが森の中に住むイヴァンのもとを訪れると、ボジヴォイが狩りの途中で立ち寄り、ルドミラを見初めます。イヴァンに心酔するルドミラだけでなく、イヴァンが獲物の鹿を生き返らせる奇跡を目にしたボジヴォイも改宗を決意。第3部ではボジヴォイとルドミラが洗礼を受け、最後は神を讃えてめでたしめでたしと言う内容。ただ、現実の歴史はそこまでハッピーエンドではなかったようで、ボヘミアではその後もキリスト教徒と異教徒が対立。特にルドミラの息子の嫁であるドラホミーラと言う人物が異教徒で、宗教の対立に権力争いも絡んでルドミラは暗殺されてしまいます。そこら辺の骨肉の争いはドラマチックでオペラなんかにすると面白いかもしれませんが、オラトリオはあくまで神を讃える歌ですので、改宗の場面までしか描かれていません。

 肝心の音楽についてですが、全編を通じてドヴォルザークらしい歌心たっぷりの旋律とドラマチックな管弦楽法が融合した聴き応えのある内容となっており、2枚組1時間50分弱のボリュームながら途中でダレることもありません。特に第1部は全てが魅力的と言っても過言ではないでしょう。とりわけ素晴らしいのが第3曲、民衆が春の訪れを異教の神に感謝する場面、第5曲のルドミラ登場シーンの美しいアリア、第8曲イヴァン登場時の重々しくも厳粛さに満ちたアリア、第10曲ルドミラがイヴァンの教えにより真実に目覚める場面のアリアと続く第1部終幕の場面の壮麗なコーラス等です。クライマックスに当たる第3部も圧巻で、2曲目のルドミラとボジヴォイの二重唱からフィナーレの神を讃える大合唱まで名旋律のオンパレードです。宗教音楽&2枚組の長尺と言うことで聴く前は心構えが必要ですが鑑賞後は期待以上の満足感を味わうことができます。ドヴォルザークの知られざる名作としてもっと多くの人に聴いていただきたい作品です。

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ベルリオーズ/レクイエム

2019-09-27 23:55:13 | クラシック(声楽)
本日はベルリオーズの声楽曲「レクイエム」をご紹介します。モーツァルト、フォーレ、ヴェルディのいわゆる「三大レクイエム」に比べればマイナーですが、ベルリオーズ円熟期の傑作として声楽ファンの間では評価の高い作品です。コンサートで上演される機会は決して多いとは言えませんが、その理由として挙げられるのが編成の巨大さ。独唱者はテノール1名だけですが、合唱はなんと200人、オーケストラが160人強、さらにバンダと呼ばれる金管楽器の別動隊を四方に配置し、その人数が約40人、全部合わせて400人と途方もない人数です。なおかつ演奏時間も75分強と長く、演奏する側も大変ですし、聴く側も心構えが必要という訳です。もちろん演奏が成功した場合は、それに見合うだけの感動が得られるのも事実で、今日ご紹介する小澤征爾指揮ボストン交響楽団&タングルウッド音楽祭合唱団のCDもベルリオーズの残した壮大な音世界を堪能できる一枚です。



曲はまず厳粛な「レクイエムとキリエ」で始まります。かなり暗めの出だしですが死者のためのミサ曲なので当然と言えば当然です。続く第2曲「怒りの日(ディエス・イレ)」も引き続き暗めですが、中間部でトランペットが鳴り響きそこからド迫力の大合唱が始まります。ここが第一の山場ですね。その後男女の混声合唱で高らかに歌い上げる第4曲「畏るべき御稜威の王(レックス・トレメンデ)」、無伴奏で静かに歌い上げる第5曲「われを探し求め(クエレンス・メ)」を経て、第二の山場である第6曲「涙の日(ラクリモーサ)」へ。耳に残る印象的な旋律を合唱隊が繰り返し歌い上げながら最後はフルオーケストラで華々しく締めくくります。第7曲「奉献唱(オッフェルトリウム)」は一風変わった曲で合唱はつぶやくように弱々しく、弦楽オーケストラが哀調を帯びた旋律を繰り広げていきます。地味な曲なので最初は聞き流しがちですが、だんだんと良さがわかっていきます。同じような雰囲気の第8曲「賛美の生贄(オスティアス)」を挟んで、第三の山場である第9曲「聖なるかな(サンクトゥス)」へ。全体的に暗めの本作の中で唯一天国的な美しさを持つ曲で、テノール独唱と混声合唱が代わる代わる胸に沁みる感動的な旋律を歌い上げます。小澤盤では黒人歌手のヴィンソン・コールが素晴らしい歌声を聴かせてくれます。最終曲「神の小羊(アニュス・デイ)」はこの手の曲にしては珍しくさほど盛り上がりを見せず、最後は美しい「アーメン」の合唱で静かに幕を閉じます。ライヴ録音とのことですが、この大曲を見事にまとめ上げた小澤征爾の指揮はさすがだと思います。
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モーツァルト/大ミサ曲

2019-09-21 23:19:54 | クラシック(声楽)
先日はモーツァルトの秘曲「孤児院ミサ」を紹介しましたが、今回は彼のミサ曲の中でもメジャー作品であるミサ曲ハ短調、通称「大ミサ曲」をご紹介したいと思います。この作品はモーツァルト26歳の時に書かれたもので、交響曲第35番「ハフナー」やオペラ「後宮からの誘拐」とほぼ同時期でモーツァルトが円熟期に差しかかったころの作品です。ただ、作品的には未完のままで、ミサ曲の後半の重要部分である「アニュス・デイ」等が書かれていません。晩年の「レクイエム」は完成を待たずにモーツァルトが死んでしまったので仕方ありませんが、この曲に関してはいくらでも時間があったにもかかわらずモーツァルトは手をつけませんでした。理由はいろいろ推測されていますが、この曲はモーツァルトが珍しく自発的に作曲した作品で貴族や教会等の依頼主がおらず、完成を急ぐ必要がなかったため結局そのまま放置されたというのが実情のようです。ただ、それでも残された部分だけでも60分に及ぶ大規模な曲で、完成度の高さもあいまって「大ミサ曲」の名にふさわしい名曲と言えるでしょう。



曲は短調の作品だけあって全体的にはやや暗め。1曲目「キリエ」は重々しい始まりで厳粛な雰囲気が漂います。第2曲「グローリア」は一転して雰囲気が変わり、力強い合唱「天のいと高きところには、神に栄光」で盛り上げ、続くソプラノ独唱「我らは主をほめ」はまるでオペラのアリアを思わせるような歌心あふれる曲です。ただ、その後は再び暗い展開に逆戻り。特に「主のみ聖なり」のあたりはバロック的な旋律をくどいまでに繰り返します。このあたりは聴いていても若干しんどい。ただ、後半の「イエス・キリストよ」あたりで光が差し、そのままこの曲の山場である第3曲「クレド」に突入します。前半の力強い合唱「我は信ず、唯一の神」も素晴らしいですが、何より続くソプラノ独唱「聖霊によりて」がため息の出る美しさ。9分あまりに渡って天上の調べを思わせる至上の音楽が繰り広げられます。本来の最終曲である「アニュス・デイ」こそありませんが、ラストを飾る「サンクトゥス」「ベネディクトゥス」もなかなかのものです。CDは古今東西の名指揮者が録音を残していますが、私が購入したのはヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィルハーモニーの1981年の作品です。この盤は歌手陣が豪華でソプラノにバーバラ・ヘンドリックス、テナーにペーター・シュライアーと当時のオペラ界のスターを揃えて素晴らしい歌唱を聴かせてくれます。特にヘンドリックスのソプラノ独唱が絶品ですね。
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モーツァルト/孤児院ミサ

2019-08-19 22:56:04 | クラシック(声楽)
本日はモーツァルトのミサ曲ハ短調、通称「孤児院ミサ」をご紹介したいと思います。名称の由来はこの曲がウィーンに建設された孤児院の献堂式のために書かれたものだからだとか。モーツァルトは生涯に19曲のミサ曲を作曲しており、有名なのはモーツァルト23歳の時に書かれたハ長調の「戴冠式ミサ」、26歳の時に書かれたハ短調の「大ミサ曲」ですが、この曲はそれよりもっと早くなんと12歳の時に書かれた曲だそうです。モーツァルトは早熟の天才として知られており、交響曲第1番は8歳の時、ピアノ協奏曲第1番は11歳の時にそれぞれ作曲したと言うことはよく知られています。しかし、これらの作品を含めた初期の作品群はボリューム的にはどれも10分からせいぜい20分までと短く、内容的にも習作に近い作品というのが定説です。ところがこの「孤児院ミサ」は曲の長さも40分以上もあり、楽器編成的にも大規模な本格的なミサ・ソレムニス(荘厳ミサ曲)です。いくら幼少期から音楽の英才教育を受けてきたとしても12歳にしてこのスケールの曲を書き上げるのはまさに天才としか言いようがありません。



作曲年は1768年とあって、全体的にまだバロックの影響が強く、旋律的にも後年の作品で聴かれる唯一無二のモーツァルト節みたいなものはまだ確立されているとは言えません。ただ、厳かな雰囲気の中にも耳に残るフレーズが繰り返される1曲目「キリエ」、後半のソプラノ独唱が美しい2曲目「グロリア」、冒頭のトロンボーンの音色が美しい5曲目「アニュス・デイ」と随所に聴く者の心を捉える旋律を聴くことができます。

CDですがモーツァルト初期の作品とあってさすがに数自体は「大ミサ曲」や「戴冠式ミサ」に比べて圧倒的に少なく、唯一出回っていると言えるのがクラウディオ・アバド指揮ウィーン・フィルハーモニーの演奏です。指揮者、オケとも超一流なのに加え、独唱者にグンドゥラ・ヤノヴィッツ(ソプラノ)、フレデリカ・フォン・シュターデ(アルト)らオペラ界で活躍するディーヴァ達を迎えた豪華な1枚です。録音は1975年でジャケットのアバドもまだまだ若々しいですね。
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