本日は珍しく歌曲です。このジャンルは正直あまり得意分野ではなく、当ブログで過去に取り上げたのもリヒャルト・シュトラウスの「4つの最後の歌」やマーラーの「亡き子をしのぶ歌」と言った管弦楽付き歌曲のみで、シューベルトやシューマン、ブラームスらによるドイツ歌曲の世界はほぼ未踏の分野です。きっと奥が深い世界なのだとは思いますが・・今日ご紹介するのはフランス語による管弦楽付き歌曲で、ベルリオーズの「夏の夜」とドビュッシーの「選ばれし乙女」です。歌うのは世界的メゾソプラノ歌手のフレデリカ・フォン・シュターデ、演奏は小澤征爾指揮ボストン交響楽団、録音は1983年です。
「夏の夜」はベルリオーズが友人であるテオフィル・ゴーティエと言う詩人の6つの詩に曲を付けたものです。オラトリオやミサ曲等の宗教音楽の分野ではあまり歌詞に注目しない私ですが、この曲に関してはやはり詩が素晴らしく、歌詞対訳を見ながら聴くとより一層曲の理解が深まります。特にお薦めは第2曲「ばらの精」。舞踏会の花飾りのために手折られたばらの花が自らのはかない運命を歌う実に美しい曲です。別れた恋人への思慕を切々と歌う第4曲「君なくて」の静謐な美しさも格別です。他では死んだ恋人への思いを歌った悲哀に満ちた第3曲「入江のほとり」、墓地の木に止まる鳩を歌ったミステリアスな雰囲気の第5曲「墓地で」も捨て難い魅力があります。管弦楽は後年のマーラーやリヒャルト・シュトラウスと違いあくまで伴奏程度ですが、曲の美しさだけで十分聴くに値します。
一方、ドビュッシー作曲の「選ばれし乙女」はロセッティの絵画にインスパイアされて書かれた20分弱の短いカンタータで、こちらは独唱に加えて女声コーラスも加わっています。ドビュッシーと言えば「牧神の午後への前奏曲」「海」等が印象主義音楽の代表作として名高いですが、この曲はそれらの作品が発表される前の初期の作品です。まだ後年のような様式は確立されてはいませんが、極めてロマンチックな旋律に彩られた美しい曲です。管弦楽の使い方も素晴らしく、特に前奏部分はうっとりするような美しさです。歌のパートももちろん充実しており、フォン・シュターデの歌声と女声コーラスが幻想的な雰囲気を生み出しています。ドビュッシー初期の作品と言うことであまり取り上げられる機会はありませんが、隠れた傑作と思います。