本日は久々にヴォーカルものでカーメン・マクレエの代表作「トーチ」をご紹介します。カーメンと言えばエラ・フィッツジェラルド、サラ・ヴォーンに次ぐ黒人女性ヴォーカルの重鎮として50年代から80年代まで一線で活躍し続けましたが、とりわけ50年代にデッカ・レーベルに残した作品群が有名です。レイ・ブライアント・トリオをバックに従えた「アフター・グロウ」、タッド・ダメロン・オーケストラと共演した「ブルー・ムーン」は私も愛聴しております。本作はそれより前の55年に録音されたもので、今でも彼女の代表作に挙げられています。トーチソングとは失恋の歌のことで、ジャケットには嘆き悲しむ(?)カーメンのドアップが使われております。正直ちょっとコワいですが、インパクトは強烈ですね。
全12曲、うち8曲をラルフ・バーンズ・オーケストラ、4曲をジャック・ブライス・オーケストラが伴奏しています。インストゥルメンタルのソロはほとんどなく、もっぱらカーメンのヴォーカルだけに焦点を当てた作品です。個人的にはジャズヴォーカルでもコンボとの共演の方が好きで、オケ伴奏ものはあまり聴かないのですが、本作はカーメンの情感ほとばしる名唱だけで十分傾聴に値します。ほとんどが有名なスタンダード曲ですが、“If You'd Stay The Way I Dream About You”“I'm A Dreamer Aren't We All”など馴染みのない曲も含まれています。後者がなかなかの佳曲ですね。定番スタンダードでは“Last Night When We Were Young”“But Beautiful”“Midnight Sun”が素晴らしい出来です。
ジャズ界には奇人・変人がたくさんいますが、その代表として真っ先に思い浮かぶのが盲目の奇才、ローランド・カークではないでしょうか。何本もの楽器を口に含んで演奏したり、フルートを鼻で吹いたり、時計のアラームや手回しサイレンを楽器代わりにしたり、とにかくエキセントリックなプレイスタイルで注目を集めていました。ただ、その分キワモノのイメージが強く、食わず嫌いになっているジャズファンも多いのではないでしょうか?かく言う私も実はそうでした。ただ、少なくとも彼の初期の作品、マーキュリー盤の「ドミノ」やプレスティッジ盤の本作(1961年7月録音)を聴いた限りでは、演奏そのものはいたって真っ当なジャズなんですよね。確かに使っている楽器は独特で、本作でもマンゼロというアルトサックスの変形楽器、ストリッチというソプラノサックスの変形楽器を使用していますが、そこから生み出されるフレーズ自体はメロディアスで誰が聴いても楽しめる内容です。
サポートメンバーはジャック・マクダフ(オルガン)、ジョー・ベンジャミン(ベース)、アート・テイラー(ドラム)。ピアノではなくオルガンが入ることにより、ソウルフルな空気が濃厚に感じられます。特に冒頭“Three For Dizzy”はマクダフの糸を引くような粘っこいオルガンが印象的なディープなブルース。カークがフルートを奏でる“Funk Underneath”、テナーとストリッチでワイルドにブロウする“Kirk's Work”もソウルジャズ路線です。かと言ってソウルジャズ一辺倒ではなく、軽快にドライブする“Makin' Whoopee”、歌心あふれる“Too Late Now”などスタンダード曲も充実。ラストの“The Skaters Waltz”は有名なワルトトイフェルのクラシック曲をジャズにアレンジしたもので、バラエティ豊かな楽曲構成で楽しいアルバムに仕上がっています。
サポートメンバーはジャック・マクダフ(オルガン)、ジョー・ベンジャミン(ベース)、アート・テイラー(ドラム)。ピアノではなくオルガンが入ることにより、ソウルフルな空気が濃厚に感じられます。特に冒頭“Three For Dizzy”はマクダフの糸を引くような粘っこいオルガンが印象的なディープなブルース。カークがフルートを奏でる“Funk Underneath”、テナーとストリッチでワイルドにブロウする“Kirk's Work”もソウルジャズ路線です。かと言ってソウルジャズ一辺倒ではなく、軽快にドライブする“Makin' Whoopee”、歌心あふれる“Too Late Now”などスタンダード曲も充実。ラストの“The Skaters Waltz”は有名なワルトトイフェルのクラシック曲をジャズにアレンジしたもので、バラエティ豊かな楽曲構成で楽しいアルバムに仕上がっています。
もっぱら50~60年代のジャズばかりを取り上げている当ブログですが、今日は時代が下って70年代後半の作品をピックアップします。と言ってもフュージョンでもクロスオーバーでもなく何の変哲もない直球ハードバップなんですけどね。何せリーダーがソニー・スティットですから。当ブログでも過去2回(「トップ・ブラス」、「サキソフォン・スプレマシー」)取り上げていますが、40年代半ばにシーンに登場して以来、生涯一度もスタイルを変えることなくバップ一筋で生涯を終えた孤高のジャズメンです。スティットは1982年に58歳で病死しますが、本作はその5年前の77年の録音。バリー・ハリス(ピアノ)、レジー・ワークマン(ドラム)、トニー・ウィリアムズ(ピアノ)というオールスターメンバーをバックに実に快調な演奏を繰り広げます。
曲はスティットのオリジナルが3曲、有名スタンダードが4曲。前者はこれぞ典型的ビバップと言ったナンバーばかりですが、冒頭“West 46th Street”が特にお薦めです。後者は“Who Can I Turn To?”“Moonlight In Vermont”“It Might As Well Be Spring”とどれもスティットの溢れんばかりの歌心が堪能できる曲ばかり。どの曲もお得意のテロテロフレーズが炸裂します。残る1曲“Constellation”は若い頃に何かと比較されたチャーリー・パーカーの曲。こういうビバップをやらせたらスティットは天下一品ですね。70年代はジャズ不毛の時代と言われますが、そんな時代の隠れた逸品です。
曲はスティットのオリジナルが3曲、有名スタンダードが4曲。前者はこれぞ典型的ビバップと言ったナンバーばかりですが、冒頭“West 46th Street”が特にお薦めです。後者は“Who Can I Turn To?”“Moonlight In Vermont”“It Might As Well Be Spring”とどれもスティットの溢れんばかりの歌心が堪能できる曲ばかり。どの曲もお得意のテロテロフレーズが炸裂します。残る1曲“Constellation”は若い頃に何かと比較されたチャーリー・パーカーの曲。こういうビバップをやらせたらスティットは天下一品ですね。70年代はジャズ不毛の時代と言われますが、そんな時代の隠れた逸品です。
本日はキャノンボール・アダレイが1962年、ニューヨークの名門クラブであるヴィレッジ・ヴァンガードで録音したライブ盤をご紹介します。メンバーはリーダーのキャノンボール、その弟ナット・アダレイ(コルネット)、ユーゼフ・ラティーフ(テナー)、ジョー・ザヴィヌル(ピアノ)、サム・ジョーンズ(ベース)、ルイス・ヘイズ(ドラム)の6人です。キャノンボール・アダレイのライブと言えば59年の「イン・サンフランシスコ」がファンキージャズを代表する名盤として名高いですが、その象徴であったピアノのボビー・ティモンズがジョー・ザヴィヌルに代わり、さらにラティーフが加わり3管編成となっています。2人の加入により音楽性にも若干の変更が見られ、ファンキー一辺倒からモーダル&スピリチュアル路線にシフトしつつあります。特に“Planet Earth”“Syn-Anthesia”の2曲を提供したユーゼフ・ラティーフの影響は顕著です。ただ、個人的には本作に限らずラティーフの作る変に東洋趣味っぽい摩訶不思議なジャズは取っつきにくくて苦手です。
と言う訳でキャノンボールはやっぱりファンキーチューンに限るでしょう。冒頭キャノンボールのMCに続く“Gemini”はテナー奏者ジミー・ヒースの作曲。ラティーフのフルートが一瞬エキゾチックな空気を漂わせますが、その後は熱いソロの応酬で盛り上がります。アーニー・ウィルキンスの“Dizzy's Business”は思わず口ずさみたくなるキャッチーなメロディに続き、全員が軽快にスイングします。ラティーフもこういう曲ではごく普通のハードバピッシュな演奏を聴かせてくれます。ザヴィヌル作の“Scotch And Water”も楽しいファンキー・ジャズ。最後は“Unit 7”の別称の方が有名な“Cannon's Theme”でメンバー紹介を交えながら幕を下ろします。ザヴィヌル&ラティーフの参加でややバンドの方向性にも変化の兆しが見られる過渡期の録音ですが、まだまだ良い意味でキャノンボールらしいファンキージャズが楽しめる作品です。これ以降のキャノンボールは私からすれば徐々に魅力を失っていくのですが・・・
と言う訳でキャノンボールはやっぱりファンキーチューンに限るでしょう。冒頭キャノンボールのMCに続く“Gemini”はテナー奏者ジミー・ヒースの作曲。ラティーフのフルートが一瞬エキゾチックな空気を漂わせますが、その後は熱いソロの応酬で盛り上がります。アーニー・ウィルキンスの“Dizzy's Business”は思わず口ずさみたくなるキャッチーなメロディに続き、全員が軽快にスイングします。ラティーフもこういう曲ではごく普通のハードバピッシュな演奏を聴かせてくれます。ザヴィヌル作の“Scotch And Water”も楽しいファンキー・ジャズ。最後は“Unit 7”の別称の方が有名な“Cannon's Theme”でメンバー紹介を交えながら幕を下ろします。ザヴィヌル&ラティーフの参加でややバンドの方向性にも変化の兆しが見られる過渡期の録音ですが、まだまだ良い意味でキャノンボールらしいファンキージャズが楽しめる作品です。これ以降のキャノンボールは私からすれば徐々に魅力を失っていくのですが・・・
前回に引き続き澤野工房発ヨーロピアン・ジャズの名盤です。本日ご紹介するのはフランスが生んだ名トランペッター、ロジェ・ゲランです。日本での知名度はあまり高くないかもしれませんが、ヨーロッパではデンマークのアラン・ボッチンスキー、イギリスのジミー・デューカーらと並んでハードバップ期を代表するトランペッターで、クラーク=ボラン・ビッグバンドにも在籍していました。本作の録音は1958年12月。当時ジャズ・メッセンジャーズの一員としてヨーロッパをツアー中だったベニー・ゴルソン(テナー)とボビー・ティモンズ(ピアノ)をゲストに迎え、ピエール・ミシュロ(ベース)、クリスティアン・ギャロス(ドラム)らの現地メンバーとの米仏混合チームで臨んだ力作です。
アルバムはゴルソンの代表的ナンバー“Stablemates”で始まり、続いて当時のジャズ・メッセンジャーズのレパートリーだった“Moanin'”“Blues March”“I Remember Clifford”と続きます。この頃のメッセンジャーズにはご存知天才リー・モーガンがいたわけですが、本作でのゲランのプレイはそのモーガンに匹敵する、とまではいかないものの十分に説得力のあるプレイを聴かせてくれます。ただ、個人的ベストチューンは1曲だけメンバーの代わったゲランの自作曲“Not Serious”。ゴルソンとティモンズが抜け、ヴァイブのミシェル・オーセ、ピアノのマルシアル・ソラルが加わったフランス人ばかりの演奏ですが、実にエネルギッシュな痛快ハードバップです。ゲランのブリリアントなトランペットソロが圧巻です。