ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

チャイコフスキー/交響曲第1番「冬の日の幻想」

2020-05-22 21:24:02 | クラシック(交響曲)

チャイコフスキーは番号なしの「マンフレッド交響曲」を含めて7曲の交響曲があり、本ブログではあらかた紹介してきました。一般的に有名なのは後期の3大交響曲(第4番第5番第6番ですが、知名度の低い第3番「ポーランド」第2番「小ロシア」も捨てがたい魅力があります。唯一未聴だったのが本日ご紹介する第1番「冬の日の幻想」で、これでチャイコフスキーの交響曲はコンプリートです。本作はチャイコフスキー26歳の時に書かれたキャリアの中でも初期の作品ですが、意外と人気が高く、演奏会で取り上げられることもそれなりに多いようです。CDは、カラヤン指揮ベルリン・フィルのものもありますが、私が購入したのは第3番、第2番に続きムスティスラフ・ロストロポーヴィチ指揮ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団のものです。

曲は標準的な4楽章形式です。第1楽章はチャイコフスキー自身が「冬の旅の幻想」と標題を付けましたが、特定の情景を描写したわけではなくあくまでイメージです。標題からすると寒風吹きすさぶロシアの大地をイメージしますが、意外に力強く堂々とした曲風です。第2楽章は「陰気な土地、霧の土地」の副題が付けらており、チャイコフスキーの真骨頂とでも言うべき哀調を帯びながらも思わず口ずさんでしまうような歌心溢れる旋律です。第3楽章はスケルツォですが中間部ではロマンチックなワルツ風の旋律も顔を見せます。第4楽章はロシア民謡をベースにした哀愁溢れる第1主題で静かに始まりますが、中間部で高揚感に満ちた第2主題が現れます。その後再び暗い第1主題に戻った後、最後はエネルギーを爆発させるかのようなド派手なフィナーレを迎えます。初期の作品ではありますが、親しみやすい旋律にフィナーレの盛り上がりとチャイコフスキーらしさが存分に発揮された傑作だと思います。

コメント

ドヴォルザーク/交響曲第5番

2020-03-19 12:57:06 | クラシック(交響曲)

本日はドヴォルザークの交響曲第5番をご紹介します。ドヴォルザークの交響曲と言えば第9番「新世界」を筆頭に、第8番第7番までが比較的有名ですね。それより若い番号については余程のドヴォルザーク好きでないとあえて聴かないでしょうが、以前に紹介した第6番も意外に良かったですし、この第5番もなかなか魅力的な作品です。作曲は1875年、ドヴォルザーク34歳の時で、国際的な知名度はまだまだですが、チェコ国内(と言っても当時はオーストリア領でしたが)でようやく活躍が認められ始めた頃の作品です。CDは第6番と同じく、オットマー・スウィートナー指揮シュターツカペッレ・ベルリンの演奏によるものです。

まずは第1楽章。朗らかな木管の響きに導かれるように、オーケストラが春の農村風景を思い起こさせるような牧歌的な調べを奏でていきます。この曲は愛好者たちの間ではドヴォルザークの「田園」とも呼ばれているそうですが、なるほどそんな感じです。第2楽章はやや暗めの緩徐楽章でこの曲の中では一番地味です。第3楽章は冒頭こそ静かですが、途中から舞曲風の軽快な旋律に。ただし、そこまで賑やかな展開ではなく、オーケストラは抑制気味です。第4楽章はその分序盤からエネルギーを爆発させるかのような盛り上がりです。途中で一旦落ち着きますが、フィナーレはフルオケでド派手に締めくくります。なお、CDにはカップリングで序曲「わが家」が収録されています。こちらはチェコの民謡をベースに作曲されたもので、ゆったりした序奏の後、躍動感溢れる旋律が次々と現れてきます。ベートーヴェン的力強さと民俗音楽が融合した名曲です。

コメント

ブルッフ/交響曲第3番

2020-03-17 21:38:14 | クラシック(交響曲)

本日はマックス・ブルッフの交響曲第3番をご紹介します。世間一般ではヴァイオリン協奏曲第1番のみの一発屋扱いされがちなブルッフですが、他にも多くの隠れた名曲を残しており、当ブログでは交響曲第1番&第2番ヴァイオリン協奏曲第2番&第3番、さらにチェロと管弦楽のための「コル・ニドライ」などの名曲を取り上げてきました。この交響曲第3番は1887年に発表されたもので、彼にとって最後の交響曲です。ブルッフの他の作品と同様にドイツ・ロマン派の王道を行くもので、個人的には文句なしの傑作と思いますが、他の交響曲と同様に全くと言っていいほど取り上げられることはありません。ほぼ同世代のブラームスに比べてなぜブルッフがこれほどの過小評価を受けているのかは本当に謎ですね。CDもほとんどなく、一時ジェイムズ・コンロンの交響曲全集が発売されたのを除けば今日ご紹介するナクソス盤ぐらいですね。演奏はハンガリー国立交響楽団、指揮はマンフレート・ホーネックです。ホーネックと言えば現ピッツバーグ交響楽団音楽監督で今や世界を代表する指揮者の1人と言って良いぐらいですが、この曲が録音された1987年はまだ29歳で、指揮者としてはほんの駆け出しの頃です。

曲は伝統的な4楽章形式で書かれています。特に標題のようなものはありませんが、生まれ故郷であるラインラント地方への郷愁が反映されていると言われ、「ライン」の副題を付ける予定もあったそうです。第1楽章はライン川の夜明けを思わせる静かで厳かな雰囲気で始まり、そこからこれぞドイツ・ロマン派!と言った格調高い旋律へと移行します。 第2楽章はアダージョ。やや暗めの曲で中盤までは地味ですが、終盤に弦楽合奏がドラマチックな盛り上がりを見せます。第3楽章は生き生きとしたスケルツォ。中間部は民俗舞踊を思わせるような活気溢れる曲です。第4楽章はフィナーレにふさわしい壮麗な旋律で感動的に締めくくります。以上、ブルッフならではの旋律の親しみやすさに加え、交響曲ならではの重厚感も兼ね備えており、シューマンやブラームスの交響曲群と比べても決して劣らないと思います。

なお、CDにはカップリングとして「ロシアの主題による組曲」が収録されています。これはイスラメイの作者でもあるバラキレフが収集したロシア民謡集にブルッフがオーケストレーションを施したものです。ドイツ人のブルッフがなぜにロシア民謡?と思うかもしれませんが、他にも「スコットランド幻想曲」や「スウェーデン舞曲」等も作曲しているので、純粋に色々な国の民族音楽が好きだったみたいです。ブルッフらしいロマンチックな旋律の合間に、いかにも民謡と言った素朴なメロディが次々と現れる楽しい曲です。

コメント

コルンゴルト/交響曲

2020-02-04 20:30:40 | クラシック(交響曲)
前々回のラフマニノフ、前回のバーバーとたまたま20世紀のロマン派音楽を取り上げましたが、今日もその流れでエーリッヒ・コルンゴルトの作品をご紹介します。1897年オーストリア生まれ、10代の頃から神童として注目を浴び、ウィーン楽壇の寵児となりますが、やがてオーストリアがナチスに併合されるとユダヤ系の出自ゆえに迫害を受け、アメリカに亡命。渡米後は映画音楽の作曲家として大成功を収めますが、それと反比例するように純粋なクラシック音楽の作曲家としては評価されなくなります。保守的なクラシックの世界では映画音楽=大衆向けの商業音楽と言う認識が強く、一段低く見られたようですね。(現在でもジョン・ウィリアムズをクラシックの作曲家と見なす人が少ないのと同じです。)ただ、死後に再び評価が高まり、特に本ブログでも取り上げたヴァイオリン協奏曲は20世紀を代表するヴァイオリン協奏曲の傑作として今では世界中で演奏されています。今日ご紹介する交響曲も1952年の作品で生前はまともに評価されませんでしたが、最近になってヴァイオリン協奏曲の人気に引っ張られるように演奏機会も増えてきているようです。ただ、CDとなるとレアで国内盤で入手可能なのは今回購入したアンドレ・プレヴィン指揮ロンドン交響楽団のみと思います。



曲は4楽章形式で50分を超える堂々とした作品です。曲調は完全に後期ロマン派で、1952年完成ながら現代音楽の要素は皆無です。第1楽章は不安げな幕開け。フルートが奏でるやや調子っ外れな旋律の第1主題をオーケストラ全体が引き継ぎます。中間部で優美な旋律の第2主題が現れ、その後は両方の主題を繰り返しながらドラマチックな盛り上がりを見せます。第2楽章は一転して生き生きとしたスケルツォ。きびきびした弦楽合奏の後に現れる冒険映画を思わせるようなキャッチーな旋律はコルンゴルトならではの魅力です。第3楽章はマーラーを彷彿とさせる長大なアダージョでやや哀調を帯びた美しい旋律が終盤に向けて静かに燃え上がるような展開。第4楽章は再び快活なアレグロで映画音楽のようなファンタジックな展開を見せた後、第1〜第3楽章の主題の再現を随所に盛り込みつつフィナーレを迎えます。以上、どの楽章も異なる魅力を持った充実の内容で、個人的には20世紀に書かれた交響曲の中でも指折りの傑作かと思います。ヴァイオリン協奏曲に比べるとまだまだ知名度は低いですがこれからどんどんメジャーになっていくことを期待します。

CDには他にシェークスピア劇「から騒ぎ」の付随音楽から4曲が収録されています。こちらは交響曲より33年も前、コルンゴルト22歳の時の作品です。後期のヴァイオリン協奏曲や交響曲とは全く違いますが、かつてモーツァルトの再来と呼ばれた若きコルンゴルトの才能が感じられます。とりわけ優雅な「花嫁の部屋の乙女」と溌溂とした「仮面舞踏会」が素晴らしいです。
コメント

ラフマニノフ/交響曲第3番

2020-01-22 20:05:12 | クラシック(交響曲)
本日はラフマニノフの交響曲第3番をご紹介します。ラフマニノフは生涯に3曲の交響曲を残し、うち第2番が最も有名ですが、この第3番はその30年後の1936年に作曲されました。なぜこれほど長いブランクが空いたかについては彼のキャリアを振り返る必要があります。ラフマニノフがピアノ協奏曲第2番や第3番、前述の交響曲第2番らの傑作群を発表したのは彼が20代半ばから30代半ばまで、年代にして1900年から1910年までの間です。その後1917年にロシア革命が起こり社会主義体制が成立するとラフマニノフは西側に亡命。アメリカを拠点にコンサートピアニストとして活動するようになります。もともとピアノのヴィルトゥオーゾとして知られたラフマニノフの演奏活動は大いなる成功を収めましたが、一方で作曲活動は低調で、亡命後に書いたオーケストラ作品は25年あまりでわずか4曲。「ピアノ協奏曲第4番」、「パガニーニ狂詩曲」、「交響的舞曲」と本曲のみです。ラフマニノフの作品はロシア音楽の王道とでも言うべき濃厚なロマンチシズムに溢れていますが、やはり祖国から遠く離れた外国での生活からは作曲家としてのインスピレーションは湧かなかったのかもしれません。

ただ、上記の4作に凡作は一つもなく、どれも丁寧に作りこまれたことがわかる佳曲ばかりです。作風的には全てロマン派でこの頃にもてはやされていた無調音楽やストラヴィンスキーらの新古典主義とは完全に一線を画しています。そのため、当時の評論家からは保守的、時代遅れと評されることも多かったようですが、現代の我々からすればやはりラフマニノフはメロディの美しさがあってこそですよね。今日ピックアップする交響曲第3番も全編にわたって華やかなオーケストラサウンドと色彩豊かなメロディに彩られています。特に素晴らしいのが第1楽章で、エネルギッシュに始まる冒頭部分から次々と胸躍るような旋律があふれ出て来ます。第2楽章は前半は哀調を帯びたアダージョで、後半は一転して勇ましいスケルツォに変わります。第3楽章は再びオーケストラが爆発するようなエネルギッシュな始まり方で、途中様々な主題をはさみつつフィナーレはド派手に締めくくります。



CDですが、古今の指揮者による演奏が目白押しの第2番に比べると第3番はやや寂しいラインナップ。そんな中で私が購入したのはアンドレ・プレヴィン指揮ロンドン交響楽団のものです。プレヴィンは交響曲第2番も歴史的名盤とされていますが、この第3番も充実の出来です。本盤には他にラフマニノフのオペラ「アレコ」から「間奏曲」と「女たちの踊り」が収録されています。こちらは第3番から遡ること44年前、なんとラフマニノフが19歳の時の作品です。どちらも3〜4分程度の短い曲ですが、前者は幻想的な美しい旋律が、後者はややオリエンタルな響きが印象的で、若きラフマニノフの才能が感じられるなかなか魅力的な小品です。
コメント