本日は久々にビル・エヴァンスを取り上げます。エヴァンスについては当ブログでも70年代の作品をたびたび取り上げていましたが、本作は1962年にヴァーヴに残された1枚です。ご存じの通りエヴァンスはかの名盤「ワルツ・フォー・デビー」はじめリヴァーサイドに多くの傑作を残した後、ヴァーヴに移籍しますが、本作がその第1弾にあたります。メンバーはモンティ・バドウィグ(ベース)とシェリー・マン(ドラム)。ビル・エヴァンスとの絡みではあまり馴染みのないメンツではありますが、2人ともウェストコーストのジャズシーンには欠かせない存在として活躍しました。特にシェリー・マンはリーダー作を多数残している大物で、実際オリジナル盤のジャケットにもエヴァンスより先に名前が書かれています。1962年当時の格としてはマンの方が上だったのでしょうね。
とは言え、演奏内容では特にマンが前面に出過ぎるわけでもなく、いつもながらのビル・エヴァンスらしい耽美的な世界が広がっています。自作のオリジナルは1曲もなく、全て他人のカバーですが、それをまるで自分のために書かれた曲のように演奏してしまうのはさすがですね。うち1曲目"The Washington Twist"と3曲目”Let's Go Back To The Waltz"はどちらも名作曲家アーヴィング・バーリン作ですが、他では聞いたことのないナンバー。同年に発表された「ミスター・プレジデント」と言うミュージカルの曲らしいです。おススメは後者で、前半の静かな展開から転調し、後半はエヴァンスが躍動感あふれるソロを聞かせてくれます。2曲目”Danny Boy”は♪オー、ダニー・ボーイ、で始まる誰もが知る有名なアイルランド民謡。この曲をピアノ・トリオでしっとり仕上げられるのはエヴァンスならではの芸当でしょう。ロジャース&ハートの”With A Song In My Heart”、ゴードン・ジェンキンスの”Goodbye”、フランク・レッサーの”I Believe In You”はどれも多くのジャズマンによって演奏されていますが、エヴァンスは新たな解釈で演奏しています。ただ、 ”With A Song In My Heart”に関しては少し原曲のメロディをいじくりすぎな気も。エヴァンスの膨大な傑作群の中ではあまり顧みられることのない地味な作品であることは否めませんが、聴いてみて損はない1枚です