ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ビル・エヴァンス/エンパシー

2024-02-29 20:59:44 | ジャズ(ピアノ)

本日は久々にビル・エヴァンスを取り上げます。エヴァンスについては当ブログでも70年代の作品をたびたび取り上げていましたが、本作は1962年にヴァーヴに残された1枚です。ご存じの通りエヴァンスはかの名盤「ワルツ・フォー・デビー」はじめリヴァーサイドに多くの傑作を残した後、ヴァーヴに移籍しますが、本作がその第1弾にあたります。メンバーはモンティ・バドウィグ(ベース)とシェリー・マン(ドラム)。ビル・エヴァンスとの絡みではあまり馴染みのないメンツではありますが、2人ともウェストコーストのジャズシーンには欠かせない存在として活躍しました。特にシェリー・マンはリーダー作を多数残している大物で、実際オリジナル盤のジャケットにもエヴァンスより先に名前が書かれています。1962年当時の格としてはマンの方が上だったのでしょうね。

とは言え、演奏内容では特にマンが前面に出過ぎるわけでもなく、いつもながらのビル・エヴァンスらしい耽美的な世界が広がっています。自作のオリジナルは1曲もなく、全て他人のカバーですが、それをまるで自分のために書かれた曲のように演奏してしまうのはさすがですね。うち1曲目"The Washington Twist"と3曲目”Let's Go Back To The Waltz"はどちらも名作曲家アーヴィング・バーリン作ですが、他では聞いたことのないナンバー。同年に発表された「ミスター・プレジデント」と言うミュージカルの曲らしいです。おススメは後者で、前半の静かな展開から転調し、後半はエヴァンスが躍動感あふれるソロを聞かせてくれます。2曲目”Danny Boy”は♪オー、ダニー・ボーイ、で始まる誰もが知る有名なアイルランド民謡。この曲をピアノ・トリオでしっとり仕上げられるのはエヴァンスならではの芸当でしょう。ロジャース&ハートの”With A Song In My Heart”、ゴードン・ジェンキンスの”Goodbye”、フランク・レッサーの”I Believe In You”はどれも多くのジャズマンによって演奏されていますが、エヴァンスは新たな解釈で演奏しています。ただ、 ”With A Song In My Heart”に関しては少し原曲のメロディをいじくりすぎな気も。エヴァンスの膨大な傑作群の中ではあまり顧みられることのない地味な作品であることは否めませんが、聴いてみて損はない1枚です

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ケニー・ドーハム&ザ・ジャズ・プロフェッツ

2024-02-28 20:18:38 | ジャズ(ハードバップ)

ケニー・ドーハムと言えば、アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズの栄えある初代トランぺッターとして有名ですが、レコードに残されたのは1955年11月の「カフェ・ボヘミアのジャズ・メッセンジャーズ」のみで、翌1956年にはグループを離脱します。そうして彼が結成したのがジャズ・プロフェッツ。伝言を届けるmessengersに対し、預言者の意味を持つprophetsと名付けたあたりに彼のグループ結成にかける意気込みが伝わってくるようです。ドーハム以外のメンバーは、J・R・モンテローズ(テナー)、ディック・カッツ(ピアノ)、サム・ジョーンズ(ベース)、アーサー・エッジヒル(ドラム)。1956年4月4日録音の本作は大手レコード会社のABCパラマウントから発売されました。

ただ、結果はと言うと、同グループが残したのはこの1作のみ。ジャケットにVol.1と書いているにもかかわらず、Vol.2が発売されることはありませんでした。あえて言うなら同年5月にブルーノートに吹き込まれたライブ盤「カフェ・ボヘミアのケニー・ドーハム」が、ピアノがボビー・ティモンズに代わり、ギターのケニー・バレルが加わっただけでほぼ同じメンバーですが、ジャズ・プロフェッツの名前は冠していません。1990年にアート・ブレイキーが亡くなるまで活動を続けたジャズ・メッセンジャーズとは対照的ですね。ドーハム自身は1960年代のモード/新主流派時代もリーダー作を出し続けるなどプレイヤーとしては常に第一線で活躍しましたが、リーダーとしてバンドをまとめるのはまた違った才能が必要だったのでしょうね。

全5曲。うち4曲はドーハムのオリジナルとなっていますが、1曲目"The Prophet"はソニー・ロリンズの"Airegin"、3曲目”DX"はジミー・ヒース作でマイルスやリー・モーガンが演奏した”C.T.A."によく似ています。2曲目"Blues Elegante"はサム・ジョーンズの重厚なベースソロから始まるスローブルースですが、後半に転調してテンポが上がるところがカッコいいです。4曲目は唯一のスタンダード曲で、ビリー・ホリデイのバラード"Don't Explain"。ドーハムがカップミュート奏法で彼特有の枯れた味わいを出します。ラストの"Tahitian Suite"は”タヒチ組曲”と言う意味ですが、全然南国っぽくない哀愁漂うナンバーです。演奏面では、力強いプレイの中にも哀愁を感じさせるドーハムのトランペットがもちろん主役ですが、J・R・ モンテローズとディック・カッツのプレイにも注目です。2人とも白人ですが作品を通して黒っぽい演奏に徹しています。

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アート・ペッパー/モダン・アート

2024-02-27 20:17:23 | ジャズ(ウェストコースト)

本ブログではタイトル通り黒人ジャズ、中でもハードバップを中心に紹介していますが、白人ジャズマンにも好きなアーティストがたくさんいます。中でもスタン・ゲッツ、ビル・エヴァンス、アート・ペッパーの3人はやはり別格ですね。彼らに共通して言えるのはアドリブの創造性の高さ、かつそれをあくまでメロディアスで聴きやすい演奏に消化しているところですね。3人ともまさに天才と言って良いと思います。今日取り上げるアート・ペッパーはデクスター・ゴードンら同時代の多くのジャズマンと同様に麻薬中毒で何度もキャリアを中断しましたが、1950年代後半は比較的順調に演奏活動を行っていた頃で(とは言えドラッグ絡みの小さなトラブルは絶えなかったようですが)、本作もその頃に発表された彼の代表作の一つです。後にブルーノートが版権を買い取ってCDで再発売しましたが、もともとはイントロというLAのマイナーレーベルに残されたレコードです。録音年月は1956年12月から1957年1月にかけてで、メンバーはラス・フリーマン(ピアノ)、ベン・タッカー(ベース)、チャック・フローレス(ドラム)です。

曲は全8曲でスタンダードが4曲、ペッパーのオリジナルが4曲という構成です。オリジナル曲では最初と最後に"Blues In"と"Blues Out"という即興のブルースが配置されています。ベースのみのデュオでペッパーのアルトが存分に堪能できますが、個人的にはやはりピアノとドラム入りの方が好きですね。疾走するリズムセクションをバックにペッパーがほとばしるようなソロを聴かせる”Cool Bunny”が最高です。スタンダードは”Bewitched, Bothered And Bewildered""When You're Smiling""Stompin' At The Savoy""What Is This Thing Called Love?"と全部有名な曲ばかり。選曲自体はベタですが、そこはさすがにペッパーで、独創性に満ちたソロで聴く者を魅了します。特に美しいバラードの"Bewitched"とスインギーな"When You're Smiling"が出色の出来です。ペッパーの陰に隠れていますが、ラス・フリーマンを中心とするトリオの堅実な演奏も聴きモノです。

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クリフ・ジョーダン&ジョン・ギルモア/ブロウイング・イン・フロム・シカゴ

2024-02-26 21:28:18 | ジャズ(ハードバップ)

本日はクリフ・ジョーダンとジョン・ギルモア、シカゴ出身の2人のテナーマンによる熱き競演をご紹介します。先日「ジャズメン・デトロイト」でデトロイト出身のジャズメン達を列挙しましたが、全米第3の大都市であるシカゴからも当然のことながら多くの才能が誕生しました。特にサックス奏者に逸材が多く、ビバップ期にまずジーン・アモンズ、ハードバップ期にはジョニー・グリフィン、ジョン・ジェンキンス、エディ・ハリス、レッド・ホロウェイ、そしてこの2人が登場します。彼らは皆デュセーブル高校と言うシカゴ市内の公立高校の出身だそうですが、これは単なる偶然ではなく、ウォルター・ダイエットと言う有名な音楽教育者にジャズの手ほどきを受けたからだそうです。(余談ですが同校は他にもナット・キング・コールやダイナ・ワシントン、ジョニー・ハートマンら多くのジャズメンを輩出しています)。

本作はそんなシカゴ出身の2人が1957年3月3日にブルーノートに吹き込んだものです。サポートするのはホレス・シルヴァー(ピアノ)、カーリー・ラッセル(ベース)、アート・ブレイキー(ドラム)。そう、ジャズ史上に名高いあの「バードランドの夜」と同じリズム・セクションです。このことからも当時のブルーノートが彼らの売り込みに力を入れていたことが推測されます。ただ、その後を見てみるとクリフ・ジョーダンの方は「クリフ・ジョーダン」で述べたようにブルーノートやリヴァーサイドを中心にそこそこ活躍しますが、一方のギルモアはリーダー作は結局本作のみ。その他サイドメンでも私のライブラリーには数えるほどしかありません。というのもギルモアは同じシカゴ出身の前衛ジャズの旗手サン・ラが率いる”アーケストラ”というバンドの中心人物として長年活動したらしいです。私は前衛音楽は門外漢なのでそれらの演奏を耳にしたことありませんが、そちらの世界では結構有名だったようです。もっとも本作でのギルモアのプレイは直球ハードバップで前衛音楽の痕跡は欠片も見られません。

曲はボーナストラックを含めて全7曲。歌モノスタンダードは1曲もありません。ただ、曲調的にはどこかで聞いたような旋律で、それもそのはず1曲目”Status Quo”は”There Will Never Be Another You"、2曲目"Bo-Till"は"What Is This Thing Called Love?" 、7曲目”Let It Stand”は”It’s You Or No One”とそれぞれスタンダード曲のコード進行をそれぞれ変えたものです。3曲目”Blue Lights”はジジ・グライス、4曲目”Billie’s Bounce"はチャーリー・パーカーのそれぞれ有名なバップナンバーです。個人的お薦めはハードドライヴィング調の”Status Quo”と”Billie’s Bounce"。アート・ブレイキーの怒涛のドラミングに煽られるようにメンバー全員が熱のこもったソロを聞かせてくれます。5曲目の”Everywhere”もホレス・シルヴァー作らしいメランコリックな旋律を持った佳曲です。リーダー2人のプレイはと言うと、どちらもよく似ていて、正直私にはどちらがジョーダンでどちらがギルモアか区別がつきません。テナーバトルと言っても2人のソロの対決のような雰囲気はなく、クインテットで一体となった演奏を楽しむべき作品です。

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ヒア・カムズ・ルイ・スミス

2024-02-24 11:38:13 | ジャズ(ハードバップ)

本日は「幻」のトランぺッター、ルイ・スミスを取り上げます。メンフィス出身でブルーノートから2枚のリーダー作を発表したものの、わずか数年でシーンから姿を消しました。サイドメンではケニー・バレルの「ブルー・ライツ」セッションや同じメンフィス出身のブッカー・リトル(実はいとこらしい)、フィニアス・ニューボーン、ジョージ・コールマンらと発表した「ダウン・ホーム・リユニオン」にも参加していますが、私の知る限りはそのくらいです。何でも早々に引退して高校で音楽の教師をしていたとか。せっかくの才能をもったいない!と思うかもしれませんが、基本的にジャズは今も昔もマイナー音楽。我々のような一部の熱心なファンに支えられてはいますが、レコードの売上という点では華やかなポップスの世界とは比較になりません。安定した生活を求めるなら学校の先生の方が良かったのでしょうね。ただ、スミスは1978年以降にデンマークのスティープルチェイスに10枚以上もの作品を吹き込みます。カッコ付きで「幻」としたのはそのためです。一番最後の作品が2004年と言うから、70歳過ぎまで活動していたようです。ただ、私はそれらの作品を聴いたことないですし、ジャズ愛好家の多くもやはりルイ・スミスと言えばブルーノートの作品群を思い浮かべるのではないでしょうか?

さて、本作品はブルーノート作品と言いつつ、1958年2月の録音時はボストンのレコード会社であるトランジションのために収録されたそうです。トランジションはわずか2年で消滅した泡沫レーベルですが、ドナルド・バードの「バーズ・アイ・ヴュー」「バード・ブロウズ・オン・ビーコン・ヒル」等を残しており、一部マニアには評価が高いレーベルです。ただ、本作がリリースされる前に倒産してしまい、そのままではお蔵入りになってしまうところをブルーノート社長のアルフレッド・ライオンが買い取ったという経緯です。ただ、アルバムを聴けばライオンのお眼鏡にかなったのも納得です。メンバーはリーダーのスミスに加え、キャノンボール・アダレイ(アルト)、ダグ・ワトキンス(ベース)、アート・テイラー(ドラム)、ピアノが2月4日のセッションがデューク・ジョーダン、2月9日がトミー・フラナガンという布陣です。ちなみにキャノンボールはレコード会社の契約の関係でバックショット・ラファンクという変名でクレジットされていますが、聴く人が聴けば丸わかりですね。

アルバムはまずスミスのトランペットが高らかに鳴り響く”Tribute To Brownie”で始まります。当時まだ駆け出しのピアニストだったデューク・ピアソンの作曲で、タイトル通り2年前に夭折したクリフォード・ブラウンに捧げた曲です。ここでのスミスのプレイはブラウンばり、とまではさすがに行きませんが、十分に力強いソロを聴かせてくれます。縦横無尽に吹きまくるキャノンボール・アダレイのソロも圧巻です。2曲目以降はスミスのオリジナル曲が中心。唯一のスタンダード曲”Stardust”ではスミスのバラード演奏が聴けますが、こちらの出来はまずまずと言ったところ。バラードの上手さに関してはリー・モーガンやドナルド・バードの方が上ですかね。残り4曲はスミスのオリジナルですが、3曲目”Ande”はほぼチャーリー・パーカー”Donna Lee”のパクリなので実質は3曲です。中では5曲目”South Side”とラスト6曲目”Val’s Blues”が上質のハードバップです。前者はラテンフレーバーを感じさせる明るい曲調で、全員が楽しそうに演奏しているのが伝わってきます。後者はブルースと言いながら急速調のパップ曲で、煽り立てるテイラーのドラミングに乗せられるようにキャノンボールとスミスが力強いソロを取り、フラナガンのピアノソロも良いアクセントをつけています。勢いに乗ったスミスは翌月「スミスヴィル」をブルーノートに吹き込みますが、こちらも良い作品なのでまた近いうちにご紹介します。

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