本日はダイナ・ワシントンです。彼女は”ブルースの女王”の称号で呼ばれていることからもわかるように、純粋なジャズシンガーと言うよりブルースやR&Bを含めた広義の黒人音楽の世界で足跡を残した人です。1963年に薬物の過剰摂取で39歳で亡くなりますが、それまでにマーキュリー/エマーシー系列の看板スターとして大量の録音を残しています。その中でもジャズファンの中で評価が高いのが1954年に吹き込んだ「ダイナ・ワシントン・ウィズ・クリフォード・ブラウン」です。ただ、この作品、原題はシンプルにDinah Jamsとなっており、クリフォード・ブラウンの名前が特にフィーチャーされているわけではありません。ご承知のとおりブラウンはこの2年後に25歳の若さで事故死し、神格化された存在となっていきますので、後に邦題を付けるときに彼の名を冠したのでしょう。ブラウンは他にヘレン・メリルやサラ・ヴォーンの歌伴を務めていますが、同じように日本盤は全て「~ウィズ・クリフォード・ブラウン」のタイトルが付いています。
本作に参加しているミュージシャンは合計10人。全員が当時エマーシーに所属していたジャズマン達です。録音はLAで行われ、当時西海岸で活動していたブラウン=ローチ・クインテット、すなわちブラウン(トランペット)、マックス・ローチ(ドラム)、ハロルド・ランド(ピアノ)、リッチー・パウエル(ピアノ)、ジョージ・モロウ(ベース)が全員加わっています。それに加えてダイナの歌伴を務めていたジュニア・マンス(ピアノ)とキーター・ベッツ(ベース)、さらにはトランペットにクラーク・テリーとメイナード・ファーガソン、白人アルトのハーブ・ゲラーも加わっています。トランペットが3人いるのも多いですが、ピアノとベースが2人ずつと言うのが異例ですね。何でもこのセッションは長時間のマラソン形式で行われたらしく、交代しながらでないと体が持たなかったのかもしれません(ドラムはローチ1人ですが)。なお、このセッションの模様は他に「ジャム・セッション」「ジャムズ2」と言うタイトルでも発売されています。
全5曲。どれも有名スタンダードばかりですが、ダイナの迫力満点のヴォーカルと一流ジャズマン達の華やかなソロのおかげで聴き応えのある作品に仕上がっています。ただし、この一連のセッションはスタジオ録音なのになぜか観客を入れて行われたらしく、拍手や歓声がしょっちゅう入ります。それも曲の終わりとかなら良いのですが、ご丁寧に誰かのソロの順番が終わるたびに拍手喝采するものですから正直耳障りでしかない。一体なぜこんな趣向にしたのか謎ですが、せっかくの素晴らしい演奏に水を差していると個人的には思います。
1曲目は"Lover Come Back To Me”。10分近い長尺の演奏でまずダイナがパンチ力抜群のヴォーカルを聴かせ、続いてクラーク・テリー→ハロルド・ランド→クリフォード・ブラウン→ベースソロ→ハーブ・ゲラー→メイナード・ファーガソン→マックス・ローチ→ピアノソロと続きます。最後のピアノはジュニア・マンスとリッチー・パウエルが2人同時に弾いているようです。トランペットが3人いますが、聴き分けはそんなに難しくなく、ややオールドファッションなテリー、ハイノートを連発するファーガソン、そしていつもながらブリリアントなブラウンと言う感じです。テリーもファーガソンもかなりの実力者ですが、やはりフレージングの滑らかさ、巧みさでブラウンが頭一つ抜きん出ていますね。
2曲目はメドレーでハロルド・ランドが”Alone Together"、ファーガソンが”Summertime"、ダイナが”Come Rain Or Come Shine"をそれぞれ受け持ちます。続くバラードの”No More"はダイナがピアノトリオをバックに歌います。ここら辺は2~3分程度のわりと軽めの演奏です。3曲目”I've Got You Under My Skin"はダイナとトランペット3人の競演です。テリー→ファーガソン→ブラウンの順でソロを取りますが、スタイルは多少違えど音の力強さは全員共通しています。何より彼らに負けないダイナのパワフルな歌声がさすがですね。
4曲目”There Is No Greater Love"は2分ほどの短いバラードで、箸休めでしょうか?ラストが11分を超す大曲”You Go To My Head”で、まず最初の2分はダイナがピアノをバックにじっくり聴かせ、3分過ぎから管楽器奏者達も加わりテンポアップします。ソロはハーブ・ゲラーが先頭でパーカー直系のアルトソロを披露し、その後はマンス→テリー→ランド→ブラウン→キーター・ベッツと受け渡し、最後はダイナが強烈なシャウトでビシッと締めます。