ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ブロッサム・ディアリ―

2024-08-28 17:35:19 | ジャズ(ヴォーカル)

本日はブロッサム・ディアリ―です。女性ジャズヴォーカルはざっくり言うとどっしり黒人ヴォーカル系(エラ・フィッツジェラルド、サラ・ヴォーン、カーメン・マクレエetc)とハスキー白人ヴォーカル系(アニタ・オデイ、クリス・コナー、ジューン・クリスティ、ヘレン・メリルetc)に分かれますが、このブロッサムはどれにも属さないかなり個性的なヴォーカリストで、鼻にかかった独特の声で歌い方も少女っぽいです。ジャケットのようなアラレちゃん眼鏡(たとえが古い?)も何とも言えずチャーミングですよね。

では彼女が単なるアイドル歌手のような存在だったかと言うとそうではありません。基本全作品で弾き語りをしているようにピアノの腕前もなかなかですし、可愛い声に隠れがちですが歌も上手いですよ。本作は1956年9月にヴァーヴに吹き込まれた彼女のアメリカでのデビュー作で、ギターにハーブ・エリス、ベースにレイ・ブラウン、そしてドラムにジョー・ジョーンズ(フィリーではなくパパの方)とヴァーヴ・レコードが誇る一流のサイドメンをズラリと揃えています。

全14曲。どれも2~3分の短い演奏です。曲はスタンダードが中心ですが、注目すべきはフランス語の歌が何曲かあること。実はブロッサムは1952年から5年間フランスのパリに居住しており、現地で歌手活動を行っていたようです。また、その間にテナー兼フルート奏者のボビー・ジャスパーとも結婚していたとか(アメリカ帰国と前後して離婚)。フランス語でhow are you?を意味する”Comment Allez-Vous?"、very softlyを意味する”Tout Doucement"がそうで、男女混声コーラスも加わったフレンチ・ポップス風の作りです。また、”It Might As Well Be Spring"は曲自体はリチャード・ロジャースの有名スタンダードですが、本作では全編フランス語で歌っています。しっとりしたバラード演奏でささやくように歌うブロッサムが実に魅力的で、本作のハイライトと言っても良い名唱です。

英語曲の方ももちろん素晴らしく、”Everything I've Got"”Thou Swell"等定番のスタンダードを自身のピアノソロもまじえながら軽快に歌っていきます。ボブ・ヘイムズと言う人が書き下ろしたと思われる"You For Me""Now At Last"も良い曲です。ピアノ演奏もなかなかのもので”More Than You Know"ではヴォーカルは封印し、ハーブ・エリスのギターを伴奏にしっとりとしたバラードを聴かせます。ジャズヴォーカルの王道とは少し違いますが、たまにはこういう作品も良いですよね。

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ジャッキー&ロイ(ストーリーヴィル904)

2024-08-27 18:16:13 | ジャズ(ヴォーカル)

本日はジャッキー・ケインとロイ・クラールによる夫婦デュオ、ジャッキー&ロイを取り上げたいと思います。彼らについては6月にも同じタイトルの作品「ジャッキー&ロイ」を取り上げました。この2枚のアルバムについては、レコード会社がストーリーヴィル、録音年が1955年というところまで全く一緒なので、マニアの間では「顔」「足」の呼び名で区別されているようです(ブログのタイトルはレコード番号で区別しています)。「顔」の方は2人がおでこをぴったりくっつけておしどり夫婦ぶりをアピールしていますが、このジャケットは何なんでしょうか?ひび割れたコンクリートに壊れたピアノの部品?シュールですね・・・

詳しい録音年月日は記載されていませんが、時期的には「顔」が先で「足」が後のようです。メンバーも違っていて、「顔」の方がバリー・ガルブレイス(ギター)、ビル・クロウ(ベース)、ジョー・モレロ(ドラム)と東海岸のミュージシャンが脇を固めているのに対し、「足」の方はバーニー・ケッセル(ギター)、レッド・ミッチェル(ベース)、シェリー・マン(ドラム)と西海岸の面々です。ストーリーヴィル・レコードはボストンのレコード会社なのですが、録音は西海岸で行われたのでしょうか?謎です・・・

全12曲、スタンダード曲中心ですがジャズオリジナルも何曲かあります。スタイル的には主に3つに分かれており、まず1つ目がジャッキーとロイが夫婦で絶妙な掛け合いを見せるデュエット・スタイル。”Says My Heart""Let's Take A Walk Around The Block""You Smell So Good"等がそうですね。途中でスキャットやロイのピアノソロも交えたりしながら、お洒落なポップス風に仕上げています。ジャッキーもキュートな声で甘えるような感じで夫婦デュオ特有のラブラブ感を出しています。一方で"Spring Can Really Hang You Up The Most""Lazy Afternoon""Listen Little Girl"のようなバラードでは、ロイはピアノ伴奏に回り、ジャッキーがキーを1つ下げてじっくりと歌い上げます。声の伸びも素晴らしく、ジャッキーが本格的なソロ歌手に負けない歌唱力の持ち主だったことがよくわかりますね。

3つ目が最もジャズ要素の強いスキャットナンバー。”Bill's Bit”は西海岸のテナー奏者ビル・ホルマンの曲を、♪ピドゥピドゥップ、プンドゥルルル~と独特のスキャットで歌い切ります。ロイのスインギーなピアノソロ、バーニー・ケッセルのギターも最高ですね。本作のハイライトと言っても良い名曲です。"Tiny Told Me"はロイのオリジナルで、スキャットの合間にケッセル、ロイ、そしてミッチェルのベースがソロを取ります。"Dahuud"は少し綴りが違いますがクリフォード・ブラウンの”Daahoud"をスキャットでカバーしたもの。前年にブラウンが初演したばかりのこの名曲を取り上げるとは彼らの慧眼ぶりに驚きます。この曲もロイ→ケッセル→ミッチェルとソロを取ります。村上春樹も著書「ポートレイト・イン・ジャズ」で絶賛していましたが、これほどお洒落で洗練され、なおかつ大衆性も兼ね備えた音楽を生み出した50年代のアメリカの文化的土壌にあらためて憧憬の念を抱かずにはおれません。

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アニー・ロス/ア・ギャサー!

2024-08-26 18:30:36 | ジャズ(ヴォーカル)

ジューン・クリスティに続き、本日も女性ヴォーカルです。今日ご紹介するのはアニー・ロス。ソロシンガーとしても活動していますが、むしろデイヴ・ランバート、ジョン・ヘンドリックスと組んだトリオ、ランバート、ヘンドリックス&ロスの一員としての方が有名かもしれません。このトリオはヴォ―カリーズと呼ばれるスタイルを確立したことで知られています。ヴォ―カリーズとはサックスやトランペット等器楽奏者のソロに歌詞を付けて歌うというもので、ベイシー楽団はじめパーカー、マイルズ、ロリンズ等様々なジャズマンの曲を歌っています。ただ、私はこのヴォ―カリーズ自体があまり好きではないんですよね。ヴォーカル自体を楽器に見立てて自由にソロを取るスキャットと違い、もともとある器楽奏者のソロに後から歌詞を付けているので、無理矢理当てはめてる感が強い。後年に有名なマンハッタン・トランスファーもヴォ―カリーズ作品を発表していますが、こちらも個人的にはイマイチ。(マンハッタン・トランスファーの通常のヴォーカル作品は大好きです)

本作「ア・ギャサー!」は1959年にワールド・パシフィック・レコード(1957年にパシフィック・ジャズから改名)に吹き込まれたもので、この作品はヴォ―カリーズではなく、普通に歌っています。ただ、ぶっちゃけそんなに歌上手くないですよね?いや、もちろん下手ではないですが、他のジャズシンガー達に比べると、ちょっと声量とか声域の面で不安定さを感じるのは私だけでしょうか?

この作品の魅力はずばり共演者ですね。特にテナーのズート・シムズとピアノのラス・フリーマンが大々的にフィーチャーされており、半分くらい彼らを聴くための作品と言っても過言ではりません。実際、レコードジャケットの表面には派手な衣装を着たアニーが写っていますが、裏面にはズートとフリーマンがバッチリ写真入りで写っています。その他のメンバーはギターがジム・ホールまたはビリー・ビーン、ベースがモンティ・バドウィグ、ドラムがメル・ルイスです。ただし、8曲目”You're Nearer"と続く”I'm Just A Lucky So And So"の2曲はテナーがビル・パーキンス、ドラムがフランク・キャップに交代しています。

(表ジャケット)      (裏ジャケット)

 

作品はロジャース&ハートの”Everything I've Got"で始まります。ジャッキー&ロイやブロッサム・ディアリ―も歌ったスインギーな曲で、アニーのパンチの効いたヴォーカルも楽しめますが、注目はやはりズートのプレイでしょう。いつもながらのコクのあるテナーで歌心たっぷりのソロを披露します。続くフリーマンのピアノも良いですね。この曲に限らずズートは7曲目”You Took Advantage Of Me”までのほとんどの曲で存分にソロを取っており、”Lucky Day”等曲によっては主役のアニーを食わんばかりの存在感です。スインギーな曲はもちろんのこと、"I Don't Want To Cry Anymore"でのバラードプレイも見事です。唯一、3曲目の”I Didn't Know About You"だけはズートのソロはなく、アニーが切ないバラードを情感たっぷりに歌い上げます。途中で挟まれる乾いたギターソロはジム・ホールですね。8曲目"You're Nearer"と続く"I'm Just A Lucky So And So"はテナーがビル・パーキンスにチェンジしますが、彼のプレイも良いです。ヴォーカル作品としては上述のようにアニー・ロスの歌声に若干物足りない部分がありますが、ズートやフリーマンら西海岸の名手をたっぷり聴けるという点を加味すれば悪くない1枚と思います。

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ジューン・クリスティ/サムシング・クール

2024-08-24 17:38:07 | ジャズ(ヴォーカル)

先日gooブログの「今日のひとこと」で「夏に聴きたい曲は?」の質問があり、その時は2000年にヒットしたフランスのポップグループ、タヒチ80の”Heartbeat"と書き込みました。他にも定番のビーチ・ボーイズ等洋楽だと色々候補が出てきたのですが、ジャズではあまり思いつきませんでした。一瞬アート・ファーマーがミシェル・ルグランの名曲をカバーした”The Summer Knows"が思い浮かんだのですが、曲調的には哀愁漂う感じですしね。ガーシュウィンの”Summertime"に至ってはもっと暗いです。でも、夏の名曲と言えばこれがありました。ジューン・クリスティの”Something Cool”。暑い夏にはやっぱり冷たい清涼飲料ですよね!1954年にキャピトル・レコードから発売されたこの曲、歌手ジューン・クリスティの代表曲に挙げられるだけでなく、同名のアルバムもジャズヴォーカル史上に残る傑作として名盤特集等でも必ず挙げられます。

ジューンは1940年代半ばから1950年代初頭までスタン・ケントン楽団に在籍していましたが、本作でもケントン楽団時代からの盟友であるピート・ルゴロをアレンジャーに迎え、西海岸で活躍するケントニアン(ケントン楽団員)を多数起用しています。ジューンの夫であったボブ・クーパー(テナー)はもちろんのこと、トランペットにメイナード・ファーガソン、ショーティ・ロジャース、トロンボーンにフランク・ロソリーノ、アルトにバド・シャンク、バリトンにボブ・ゴードン、ピアノにクロード・ウィリアムソン、ドラムにシェリー・マンらですね。ただ、彼らはアンサンブルに徹しており、各楽器のソロはありません。

全部で11曲収録されていますが、最大の聴きどころはやはり1曲目でタイトルトラックの”Something Cool”でしょう。この曲はいわゆる昔から歌い継がれてきたスタンダード曲ではなく、ビリー・バーンズと言う作曲家の書き下ろしで、このジューン・クリスティのバージョンが最初のレコードだそうです。タイトルだけ見るともっと爽やかな曲かと思いますが、歌詞は中年女性がバーで冷たい飲み物(something cool)を片手に過ぎし日の華やかな思い出を寂しく独り語りするという切ないもので、センチメンタルなメロディをジューンが情感たっぷりに歌い上げます。文句なしの名曲と思うのですが、なぜか他の歌手にはあまりカバーされていません。youtubeで検索するとジュリー・ロンドンらのバージョンも出てきますが、数は少ないですし、内容も断然ジューンのオリジナルが優れています。やはりジューンの歌が決定盤として認知されているので他の歌手も取り上げにくかったのでしょうね。

2曲目以降は"It Could Happen To You"”This Time The Dream's On Me""Midnight Sun""I'll Take Romance"等お馴染みのスタンダードが並びますが、それらの出来も全て水準以上です。特にバラードの”The Night We Called It A Day”はなかなかの名唱と思います。ジューンの少しハスキーがかった伸びのあるヴォーカルは素晴らしいですね。ジューンはこの後もキャピトル・レコードの看板シンガーとして20枚以上ものアルバムを同レーベルからリリースします。本作以外では同じピート・ルゴロ楽団のサポートを受けた「フェア・アンド・ウォーマー」もおススメです。

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ビリー・ホリデイ/アラバマに星落ちて

2024-06-20 20:53:25 | ジャズ(ヴォーカル)

本日はビリー・ホリデイをご紹介したいと思います。言わずと知れた伝説的ジャズシンガーで女性ヴォーカル御三家の一人ですが、一方で全体像を評価するのがなかなか難しい存在でもあります。同じ御三家でもエラ・フィッツジェラルドやサラ・ヴォーンは全盛期が50年代以降でアルバムもたくさん残っており、それらを聴けば良いのですが、ビリー・ホリデイについては絶頂期が1930年代ということで当時のレコードはあまり残っていませんし、あったとしてもすごく録音状態が悪いです。彼女の代名詞としてあまりにも有名な”Strange Fruit(奇妙な果実)"も黒人差別を訴えた歌として歴史的価値は高いのかもしれませんが、なにせ1939年の歌なので日常的に聴くようなものではないと個人的には思います。

そんなわけで現在私が所有しているビリーのアルバムは本作1枚のみです。しかも購入した理由はサイドメンが豪華だからと言う理由なので、真のビリー・ホリデイ好きの人からしたらけしからん!と怒られるかもしれません。1957年1月にヴァーヴに吹き込まれた本作はコロンビア盤「レディ・イン・サテン」と並んで彼女の晩年の代表作に挙げられていますが、個人的にはストリングス入りの「レディ・イン・サテン」よりスモールコンボの本作の方が好きです。メンバーはハリー・"スイーツ"・エディソン(トランペット)、ベン・ウェブスター(テナー)、バーニー・ケッセル(ギター)、ジミー・ロウルズ(ピアノ)、レッド・ミッチェル(ベース)、アルヴィン・ストーラー(ドラム)から成るセクステット編成です。

曲は全6曲。全て有名なスタンダード曲ですが、ビリーの他の誰とも違う唯一無二のヴォーカルによって独特の世界が広がります。この頃の彼女の声は長年の麻薬とアルコールによって蝕まれており、しゃがれ声で声量もそこまで出ていないように思えますが、切々と語りかけるような歌い方は不思議な魅力があります。おススメは1曲目の"Day In, Day Out"と続く”A Foggy Day"、5曲目”Just One Of Those Things"の3曲。いずれもミディアムテンポの曲で悠然と自分の間合いで歌うビリーに続き、サイドマン達がたっぷりとソロを取ります。ひたすらミュート押しのスイーツ・エディソンは若干くどいですが、スインギーなバーニー・ケッセルのギター&ジミー・ロウルズのピアノ、何よりビリーとは30年代からの付き合いである御大ベン・ウェブスターの雄大なテナーが素晴らしいです。残りの曲はバラードで、中でも”One For My Baby"ではスイーツの枯れたミュート、すすり泣くようなベンのテナーをバックにビリーが切々と歌い上げます。結局、この2年後にビリーは44歳の若さで病死しますが、酒とクスリ、そして混乱した私生活のせいで心身ともにボロボロの状態だったようです。正直、このアルバムを聴いただけではビリー・ホリデイの紆余曲折に満ちたキャリアの一端を知ったに過ぎませんが、彼女の入門編としてはちょうど良い作品ではないかと思います。

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