“ジャズの帝王”と呼ばれ、40年代後半のビバップ期から常にジャズシーンを引っ張ったマイルス・デイヴィスですが、私を含めた多くのジャズファンの心をとらえているのは結局1950年代のマイルスではないでしょうか?特に私はウェイン・ショーター加入後のフリーっぽい演奏もあまり得意ではありませんし、電子楽器導入後に至っては全く興味の範疇外です。今日取り上げるのは文字通り1958年当時のマイルスの演奏を集めたもの(一部1955年録音も含む)で、年表的にはモードジャズの初期にあたりますが、聴いた感じはまだまだハードバップ色が強いですね。実はこの作品、もともと正規のアルバムとして発表されたものではなく、録音当時はいろいろな理由でお蔵入りになっていたテイクを後に日本のCBSソニーがかき集めて発売したようです。悪く言えばボツ曲の寄せ集めですが、そこは黄金時代のマイルスだけあって演奏のクオリティも高く、一級品の作品に仕上がっています。
その理由は参加メンバーを見れば一目瞭然。ジョン・コルトレーン(テナー)、キャノンボール・アダレイ(アルト)、ビル・エヴァンス(ピアノ)、ポール・チェンバース(ベース)、ジミー・コブ(ドラム)。そう、あの「カインド・オヴ・ブルー」と全く同一のメンバーです。この顔ぶれで駄作など生まれようがないですね。冒頭、エヴァンスのロマンチックなイントロの後にマイルスがミュートを奏でる“On Green Dolphnin Street”で一発ノックアウトですね。その後に続くコルトレーン、キャノンボールのソロも実に素晴らしい。続くマイルス作の“Fran-Dance”、お得意のスタンダード“Stella By Starlight”はしっとりしたバラード。“Love For Sale”はキャノンボール&マイルスの「サムシン・エルス」にも収録されていましたが、ここではやや速めのコード進行で演奏されており、メンバー全員が熱いアドリブを繰り広げます。個人的にはこの「1958」バージョンの方が上と見ます。最後の“Little Melonae”だけは1955年の録音で、当時のクインテット、すなわちコルトレーン、レッド・ガーランド(ピアノ)、チェンバース、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ドラム)で演奏されています。いずれにしても名演ばかりでこれがボツになってたなんて、どれだけ当時のマイルスが高いレベルのものを求めていたかが実感できる一枚です。
昨日に引き続きプレスティッジ7000番台シリーズから通好みのピアニスト、エルモ・ホープをご紹介します。活躍期間も短く、録音数も決して多いとは言えませんが、クリフォード・ブラウン「メモリアル・アルバム」、ソニー・ロリンズ「ムーヴィン・アウト」、ジャッキー・マクリーン「ライツ・アウト!」等で印象深いプレイを聴かせてくれます。リーダー作では何と言ってもジョン・コルトレーン、ハンク・モブレー、ドナルド・バードら豪華メンバーを従えた「インフォーマル・ジャズ」が名盤の誉れが高いですね。今日取り上げる「ホープ・ミーツ・フォスター」はカウント・ベイシー楽団のテナー奏者フランク・フォスターとの共演作で、他のメンバーはトランペットがフリーマン・リー、ベースがジョン・オー、ドラムがアート・テイラーとなっています。録音は1955年10月です。
正直、メンバーだけを見ると「インフォーマル・ジャズ」より数段格落ちしますが、内容は決して悪くないですよ。まず、コ・リーダーであるフォスターのテナーが素晴らしい。ベイシー楽団ではアンサンブル重視なのでソロを取る機会は限られますが、ここでは思う存分に吹きまくっています。特にホープ作のワンホーン“Wail Frank Wail”はフォスターのテナーの腕を見せつけるショウケース的なナンバーです。意外と軽やかなタッチのホープのソロも素晴らしいですね。続く“Zarou”もホープ作で、こちらは典型的バップナンバー。この曲を含めて3曲にフリーマン・リーという素姓の知れないトランペッターが参加しますが、正直印象は薄いです。フォスターとのワンホーンの方がいいですね。4曲目の“Georgia On My Mind”は後にレイ・チャールズが全米No.1ヒットを放ち今ではそちらが本家みたいになっていますが、元々はホーギー・カーマイケルが作曲したスタンダード曲です。ここではミディアムテンポのスインギーな仕上がりになっており、うっかりするとレイ・チャールズのと同一曲とは思えません。ラストの“Yaho”はこってりしたブルースで、フォスターの力強いテナーとホープのブルージーなソロで締めくくります。ジャケットは全くの謎(白人と原住民の出会い?)ですし、メンバーも地味ですが意外と拾い物の一枚でした。
全5曲。うちメンバーのオリジナルが3曲で、ファーマー作のハードドライビングな“Skycoach”、スモールズ作のブルース“Cliff Dweller”、グリーン作のややラテン調の“Let's Stretch”と言ったラインナップ。特に“Let's Stretch”でのグリーンの長尺のソロが圧巻ですね。残りの2曲は有名スタンダードで私としてはこちらの方をお薦めしたいです。オープニングを飾る“My Blue Heaven”はファンキーなピアノのイントロからグリーン、ファーマー、スモールズが快調にソロを受け渡していきます。ラストの“Gone With The Wind”はミディアムテンポで演奏されることが多いですが、ここではスローなバラードで料理されており、これがまた素晴らしい。グリーンのムード満点のトロンボーンソロは思わずゾクゾクとする大人の色気さえ感じさせてくれます。ジャズにしては珍しく鮮やかな黄色をバックにしたジャケットも印象的な一枚です。
この組み合わせ、何よりメンバーが凄い。エリントン&ベイシーの2大巨頭はもちろんのこと、両楽団の生え抜きのソロイスト達がずらりと顔を揃えています。全員の列挙はしませんが、主要メンバーだけでもキャット・アンダーソン、レイ・ナンス、サド・ジョーンズ、ソニー・コーン(以上トランペット)、ポール・ゴンサルヴェス、ジミー・ハミルトン、フランク・フォスター、フランク・ウェス、バド・ジョンソン(以上テナー)、ジョニー・ホッジス、マーシャル・ロイヤル(以上アルト)、ハリー・カーニー、チャールズ・フォークス(以上バリトン)、ローレンス・ブラウン、ルー・ブラックバーン、クエンティン・ジャクソン(以上トロンボーン)。もちろん、「Mr.リズム」ことリズム・ギターのフレディ・グリーンも全曲でリズムを刻んでいます。
収録曲は全8曲。特にお薦めは、冒頭のエリントン作曲の爆発的な“Battle Royal”と続くサド・ジョーンズ作曲の美しいバラード“To You”。前者はスインギーなピアノに乗せて10人を超えるホーン奏者が火の出るようなソロの応酬を聴かせてくれますし(最後のキャット・アンダーソンのハイノートが強烈!)、後者は分厚いオーケストラのアンサンブルにより幻想的な音世界が繰り広げられます。他ではエリントン楽団の“Take The A Train”、ベイシー楽団の“Corner Pocket”“Jumpin' At The Woodside”等定番の曲がそれぞれの楽団のソロイスト達の演奏で楽しめます。ビッグバンド愛好者はもちろんジャズファンなら一度は聴いておいて損のない一枚ですね。
冒頭、いきなり12人のサックス・リレーによる“Fugue For Tinhorns”で幕を空けますが、その後の曲は各人のソロにも時間が与えられ、それぞれの妙技を楽しめるようになっています。アル&ズート、フィル&クイルがソロを受け渡す“Broadway”、ホーキンスの独壇場である美しいバラード“The Gypsy”、フィル&クイルの十八番“Night In Tunisia”、テナーバトルの聖典にアル&ズート、モーティ・ルイス、シュリンガーが挑む“Four Brothers”、パウエルとアル&ズートによるハートウォーミングな“Sometimes I'm Happy”、再びアル&ズートが流れるようなリレーを聴かせる“Tickle-Toe”、ジョージー・オールドによるメランコリックなバラード演奏が渋い“Sweet And Lovely”、ホーキンスとオールドによるスインギーな“Jumpin' With Symphony Sid”、美しいアンサンブルが絶品の“Early Autumn”、そして最後はアルト奏者4人のリレーによる“Axmobile”で幕を閉じます。オリジナル曲は最後のボブ・プリンス作“Axmobile”だけで後は30~40年代に流行したスイング・ジャズの名曲中心で、演奏も古典的なビッグバンド・ジャズですが、その中でバップ世代のプレイヤー達が溌剌としたソロを繰り広げています。「トロンボーンズ・インク」も名盤ですが、こちらはさらにその上を行く大名盤と言ってよいでしょう。どうせなら調子に乗って「トランペッツ・インク」とかも作ってくれたら良かったのですが実現しなかったのが残念!