本日はファンキー・ジャズの伝道師、ホレス・シルヴァーをピックアップします。シルヴァーと言えば言わずと知れたブルーノート・レコードの看板ピアニストで、50年代から60年代にかけて多くの名作を同レーベルから発表しています。本作「シルヴァーズ・ブルー」はそんな彼のキャリアの中では例外的にエピックから発売された作品で、それゆえに入手困難な1枚でしたがこのたび待望の再発売となりました。嬉しい限りです。全7曲、2つのセッションに分かれていて、メンバーが若干異なります。56年7月2日のセッションはリーダーのシルヴァーに加え、ジョー・ゴードン(トランペット)、ハンク・モブレー(テナー)、ダグ・ワトキンス(ベース)、ケニー・クラーク(ドラム)と言った布陣。7月17&18日のセッションはトランペットがドナルド・バードに、ドラムがアート・テイラーにそれぞれ代わっています。特に後者のラインナップはドラムをアート・ブレイキーに代えれば、当時のジャズ・メッセンジャーズと全く同じです。実はこの頃、ブレイキーとシルヴァーが袂を分かち、初代ジャズ・メッセンジャーズが分裂する微妙な時期だったようですね。
肝心の内容に関してはもう文句のつけようがないですね。シルヴァーはピアノソロでももちろん活躍していますが、むしろ作曲者として才能を発揮しており、前者のセッションでは“To Beat Or Not To Beat”“Shoutin' Out”、後者のセッションでは“Silver's Blue”“Hank's Tune”とハードバップのエッセンスを凝縮した名曲の数々を提供しています。後年のようにファンキー一辺倒ではなく、ミディアムテンポのナンバーが多いのがこの時期のシルヴァーの特徴ですね。ブルーノート盤「スタイリングス・オヴ・シルヴァー」に似たスタイルと言えば、コアなジャズファンならわかっていただけるでしょうか?スタンダード曲もバラードの“How Long Has This Been Going On?”はイマイチですが(シルヴァーはバラード演奏が苦手)、“I'll Know”“The Night Has A Thousand Eyes”と出色の出来。特に後者はコルトレーンのモードジャズバージョンが有名ですが、ややエキゾチックで哀愁を帯びた本バージョンの方が数段素晴らしく、同曲の決定的名演と言っていいでしょう。モブレー、バード、ゴードンら当時の俊英達のプレイも存分に堪能できますし、ハードバップ好きなら絶対に期待を裏切られない鉄板の1枚です。
本日はモダンジャズを代表するバリトンサックス奏者ジェリー・マリガンの作品をご紹介しましょう。40年代から活躍し、マイルス・デイヴィスの「クールの誕生」にも参加。50年代にはチェット・ベイカーらとともにウェストコーストジャズの第一人者として名を馳せたビッグネームです。ただ、個人的にはあまり馴染みがないというか、これまでに何枚かリーダー作を聴いたことはあるのですが魅力を感じませんでした。大きな理由はマリガンの作品が基本ピアノレスだということ。有名な「ナイト・ライツ」もそうですが、リズムセクションがベースとドラムのみで、他に管楽器が加わるという編成の作品がほとんどなのです。そこには彼なりのこだわりがあるのでしょうが、私の嗜好からは外れますね。
そんなマリガンもピアノ入り作品を何枚か残しており、そのうちの一つが1962年コロンビア盤の本作「ジェル」。トミー・フラナガン(ピアノ)、ベン・タッカー(ベース)、デイヴ・ベイリー(ドラム)、アレック・ドーシー(コンガ)のリズムセクションから成るクインテット編成です。注目は何と言ってもモダンジャズ界最高のピアニストであるフラナガンのプレイ。決して派手ではないものの、的確なバッキングとメロディアスなソロで演奏にアクセントを付けてくれます。う~ん、やっぱりどう考えてもピアノレスよりこっちの方が良いですよね。もちろんマリガンのプレイも素晴らしく、低音楽器であるバリトンをテナーやアルトのように軽快に吹き鳴らす様は圧巻です。全7曲、どれも水準以上の出来ですが、ラテンムードの“Capricious”、ミディアムテンポのスタンダード“Here I'll Stay”“You've Come Home”が特にお薦めです。
トロンボーンは低音をつかさどる楽器としてビッグバンドには欠かせない存在ですが、ソロ楽器としてはトランペットやサックスに比べどうしても地味な存在ですよね。やはりスライドを伸縮させて音を出すという楽器の構造上スピーディなアドリブができないのが致命的ですね。そんな中、別格の存在だったのがこのJ・J・ジョンソン。高速パッセージを難なく吹き切る超絶技巧を武器にビバップ期から第一線で活躍し、マイルス・デイヴィス、ソニー・ロリンズ、スタン・ゲッツなど超大物達と共演してきました。以前、ベツレヘム盤を紹介しましたが、カイ・ウィンディングとの双頭コンビも有名です。ハードバップ~モードの時代に活躍したカーティス・フラーと並んでトロンボーン界の両横綱と言っていい存在でしょう。
本作「ブルー・トロンボーン」はそんなJJが1957年にコロンビアに残した傑作。トミー・フラナガン(ピアノ)、ポール・チェンバース(ベース)、マックス・ローチ(ドラム)と言うこれ以上望みようがないくらい最高のリズムセクションをバックに充実の演奏を聴かせてくれます。全7曲、うち4曲はJJのオリジナルとなっていますが、著作権に大らかだった50年代らしく“Kev”はタッド・ダメロンの“Lady Bird”と同じコード進行ですし、最後の“100 Proof”はスタンダードの“What Is This Thing Called Love?”のパクリです。と言う訳で正真正銘のオリジナルはタイトルチューンでもある“Blue Trombone (Part I)”“Blue Trombone(Part 2)”だけなんですが、この2曲は同一曲の別テイク集などではなく、一つの曲を演奏途中でぶった切って編集したもの。Part IでJJのトロンボーンソロのあと、チェンバースのベースソロの時点でフェードアウト。すぐにフェードインし、ローチのドラムソロ、再びJJのソロと続きます。演奏自体は手に汗握る白熱の名演だけに、なぜこんな興醒めの編集をしたのか謎です。他はスタンダードが3曲ありますが、中ではハッピーな雰囲気にあふれた“Hello, Young Lovers”がイチ押しです。JJのトロンボーンが凄いのは言うまでもないのですが、全編にわたって冴え渡るフラナガンのソロも必聴です。
本作「ブルー・トロンボーン」はそんなJJが1957年にコロンビアに残した傑作。トミー・フラナガン(ピアノ)、ポール・チェンバース(ベース)、マックス・ローチ(ドラム)と言うこれ以上望みようがないくらい最高のリズムセクションをバックに充実の演奏を聴かせてくれます。全7曲、うち4曲はJJのオリジナルとなっていますが、著作権に大らかだった50年代らしく“Kev”はタッド・ダメロンの“Lady Bird”と同じコード進行ですし、最後の“100 Proof”はスタンダードの“What Is This Thing Called Love?”のパクリです。と言う訳で正真正銘のオリジナルはタイトルチューンでもある“Blue Trombone (Part I)”“Blue Trombone(Part 2)”だけなんですが、この2曲は同一曲の別テイク集などではなく、一つの曲を演奏途中でぶった切って編集したもの。Part IでJJのトロンボーンソロのあと、チェンバースのベースソロの時点でフェードアウト。すぐにフェードインし、ローチのドラムソロ、再びJJのソロと続きます。演奏自体は手に汗握る白熱の名演だけに、なぜこんな興醒めの編集をしたのか謎です。他はスタンダードが3曲ありますが、中ではハッピーな雰囲気にあふれた“Hello, Young Lovers”がイチ押しです。JJのトロンボーンが凄いのは言うまでもないのですが、全編にわたって冴え渡るフラナガンのソロも必聴です。
前回のバルネ・ウィランに引き続き、ヨーロッパ産のジャズをご紹介します。リーダーのチェット・ベイカーはもちろんアメリカ人ですが、他のメンバーは全員ヨーロッパ人で、録音も1962年1月ローマで行われたものです。サックスとギターを加えたセクステット編成で、ベルギー人のボビー・ジャスパー(テナー&フルート)、ルネ・トマ(ギター)、ブノワ・ケルサン(ベース)、スイス人のダニエル・ユメール(ドラム)、そしてイタリア人のアメデオ・トンマージ(ピアノ)という組み合わせです。50年代にウェストコーストジャズのスーパースターとして君臨していたチェットがなぜイタリアで、しかも“チェット復帰”を意味するタイトルの作品を発表したのか?その経緯は解説に書かれていますが、何でもチェットは重度の麻薬中毒に陥っており、60年8月にイタリアの演奏旅行中に不法所持で逮捕。そのまま1年以上をイタリアの刑務所で過ごしたそうです。本作は久々にシャバに出たチェットがヨーロッパのジャズメンに囲まれて思う存分吹きまくったセッションと言うことになります。
以上、いろいろ曰く付きの作品ですが、演奏内容自体はとても素晴らしいです。チェットのトランペットはブランクを感じさせない力強さで、むしろアイドル的人気を誇っていたウェストコースト時代に比べ、よりストイックで研ぎ澄まされたような印象すらあります。共演者もボビー・ジャスパーは過去エントリーでも取り上げたように、超一流のマルチリード奏者ですし、ルネ・トマもソニー・ロリンズのアルバムにも参加するなど当時ヨーロッパ最高のギタリストと呼ばれていたそうです。ピアノのトンマージは全く知りませんでしたが、無難なサポートぶりを見せています。全8曲、うち4曲がバップチューンで、セロニアス・モンク“Well You Needn't”、チャーリー・パーカー“Barbados”、ソニー・ロリンズ“Pent-Up House”、オスカー・ペティフォード“Blues In The Closet”と名演揃い。歌モノスタンダード3曲はうち2曲がバラード“These Foolish Things”“Over The Rainbow”ですが、それよりミディアムテンポの“Star Eyes”が素晴らしいですね。残りの1曲はアメデオ・トンマージが作曲したブルース“Ballata In Forma Di Blues”です。なお、今回発売されたCDには他にボーナスが4曲あり、チェットがエンニオ・モリコーネ指揮のストリングスをバックに、例の中性的な甘いボーカルでイタリア語の歌を歌うという企画ですが、個人的には全く無視!ハードバップトランペッター、チェットの真髄を味わうには前半8曲で十分です。
以上、いろいろ曰く付きの作品ですが、演奏内容自体はとても素晴らしいです。チェットのトランペットはブランクを感じさせない力強さで、むしろアイドル的人気を誇っていたウェストコースト時代に比べ、よりストイックで研ぎ澄まされたような印象すらあります。共演者もボビー・ジャスパーは過去エントリーでも取り上げたように、超一流のマルチリード奏者ですし、ルネ・トマもソニー・ロリンズのアルバムにも参加するなど当時ヨーロッパ最高のギタリストと呼ばれていたそうです。ピアノのトンマージは全く知りませんでしたが、無難なサポートぶりを見せています。全8曲、うち4曲がバップチューンで、セロニアス・モンク“Well You Needn't”、チャーリー・パーカー“Barbados”、ソニー・ロリンズ“Pent-Up House”、オスカー・ペティフォード“Blues In The Closet”と名演揃い。歌モノスタンダード3曲はうち2曲がバラード“These Foolish Things”“Over The Rainbow”ですが、それよりミディアムテンポの“Star Eyes”が素晴らしいですね。残りの1曲はアメデオ・トンマージが作曲したブルース“Ballata In Forma Di Blues”です。なお、今回発売されたCDには他にボーナスが4曲あり、チェットがエンニオ・モリコーネ指揮のストリングスをバックに、例の中性的な甘いボーカルでイタリア語の歌を歌うという企画ですが、個人的には全く無視!ハードバップトランペッター、チェットの真髄を味わうには前半8曲で十分です。
今日は久々にフランスのジャズをお届けします。当ブログでもこれまでにジョルジュ・アルヴァニタス、ロジェ・ゲラン、アンリ・ルノーらフランスのジャズメン達を取り上げてきましたが、彼らに共通して言えるのは演奏が本場顔負けのハードバピッシュなプレイだと言うこと。おフランス的な上品さを想像していると良い意味で裏切られます。フランスを代表するテナー奏者、バルネ・ウィランによる本作も全編に渡って熱きハードバップが繰り広げられる白熱の演奏。1959年4月、パリのクラブ・サンジェルマンでのライブ録音です。
メンバーはリーダーのバルネに加え、ケニー・ドーハム(トランペット)、デューク・ジョーダン(ピアノ)、ポール・ロヴェール(ベース)、ダニエル・ユメール(ドラム)によるクインテット。バップ界の重鎮であるドーハムとジョーダンの参加が目を引きますが、まだ22歳だったバルネのプレイも実に堂々たるものです。オリジナルはラストの“Temoin Dans La Ville(彼奴を殺せ)”だけで(これも“Walkin'”のパクリのような気がするが・・・)、後は全て“Stablemates”“Lady Bird”等有名なバップ曲ばかりをカバーしていますが、メンバー全員の熱のこもった演奏のおかげで実に聴き応えのある内容となっています。ジョーダンの“Jordu”、ドーハムの“Lotus Blossom”とメンバーの代表曲が聴けるのも嬉しいですね。歌モノスタンダードでは冒頭の“Besame Mucho”だけは歌謡曲風のメロディがちょっとベタ過ぎますが、他はデューク・ジョーダンの長尺のピアノソロが聴ける“I'll Remember April”、バルネがソプラノサックスに持ち替えた美しいバラード“Everything Happens To Me”と出色の出来。全8曲、70分というボリュームですが途中でダレさせない充実の名盤です。
メンバーはリーダーのバルネに加え、ケニー・ドーハム(トランペット)、デューク・ジョーダン(ピアノ)、ポール・ロヴェール(ベース)、ダニエル・ユメール(ドラム)によるクインテット。バップ界の重鎮であるドーハムとジョーダンの参加が目を引きますが、まだ22歳だったバルネのプレイも実に堂々たるものです。オリジナルはラストの“Temoin Dans La Ville(彼奴を殺せ)”だけで(これも“Walkin'”のパクリのような気がするが・・・)、後は全て“Stablemates”“Lady Bird”等有名なバップ曲ばかりをカバーしていますが、メンバー全員の熱のこもった演奏のおかげで実に聴き応えのある内容となっています。ジョーダンの“Jordu”、ドーハムの“Lotus Blossom”とメンバーの代表曲が聴けるのも嬉しいですね。歌モノスタンダードでは冒頭の“Besame Mucho”だけは歌謡曲風のメロディがちょっとベタ過ぎますが、他はデューク・ジョーダンの長尺のピアノソロが聴ける“I'll Remember April”、バルネがソプラノサックスに持ち替えた美しいバラード“Everything Happens To Me”と出色の出来。全8曲、70分というボリュームですが途中でダレさせない充実の名盤です。