50年代のジャズシーンを語る時、東海岸では黒人中心のハードバップが隆盛を極め、西海岸では白人中心のウェストコーストジャズが花開いた、と言うような解説がよくなされます。ただ、実際にウェストコーストの作品群を深掘りすると、意外と黒人ジャズマンがたくさん活躍していたこともわかりますし、白人ジャズマン達も大なり小なりビバップ~ハードバップの影響を受けていることがわかります。本ブログでも過去に取り上げたハーブ・ゲラーやチャーリー・マリアーノは自他ともに認めるパーカー派でしたし、”白いパウエル”と呼ばれたクロード・ウィリアムソン、チャーリー・クリスチャンの後継者バーニー・ケッセル等がその代表でしょう。ただ、ウェストコーストジャズの”顔”と目されるアート・ペッパーについては彼のキャリアが40年代前半のビバップ誕生前まで遡ることもあり、スタイル的にはバップの影響はそこまで受けていないように思えます。少なくとも彼をパーカー派の括りに入れることはないですね。
今日ご紹介するコンテンポラリー盤「アート・ペッパー・プラス・イレヴン」はそんなバップとは無縁に思えるペッパーがバップ・スタンダードばかりを取り上げた珍しい企画です。全12曲のうち、ジェリー・マリガンやウディ・ハーマン楽団ら白人ジャズマンの曲は3曲だけで、後はパーカー、ガレスピー、モンク、マイルスらの定番曲に加え、ソニー・ロリンズやホレス・シルヴァーら同時代の黒人バッパーの曲も取り上げており、ペッパー自身の希望なのかレコード会社の選曲なのかわかりませんが、実にユニークな試みですね。
タイトル通りペッパー以外に11人のジャズマンを加えたミニビッグバンド編成で、指揮するのはマーティ・ペイチ。この人はピアニストとしても活躍しており、タンパにペッパーとの共演盤も残していますが、メル・トーメやエラ・フィッツジェラルドのヴォーカル作品等で巧みなビッグバンドアレンジを施しており、個人的にはアレンジャーとしての才能の方をより評価しています。録音は1959年3月から5月にかけて3回のセッションに分けて行われ、メンバーは多少入れ替わるのですがジャック・シェルドン、ピート・カンドリorアル・ポーシノ(トランペット)、ディック・ナッシュ、ボブ・エネヴォルセン(トロンボーン)、ヴィンセント・デローザ(フレンチホルン)、ハーブ・ゲラーorバド・シャンクorチャーリー・ケネディ(アルト)、ビル・パーキンスorリッチー・カミューカ(テナー)、メッド・フローリー(バリトン)、ラス・フリーマン(ピアノ)、ジョー・モンドラゴン(ベース)、メル・ルイス(ドラム)と西海岸を代表する白人ジャズマン達がズラリと集結しています。
曲はパーカー関連が2曲"Anthropology""Donna Lee”、ガレスピーが2曲”Groovin' High""Shaw 'Nuff"、マイルス関連が2曲"Move""Walkin'"、モンク”’Round Midnight"、ロリンズ”Airegin"、シルヴァー”Opus De Funk"が各1曲ずつと計9曲が黒人バッパーによる作品。残りの3曲がジェリー・マリガン関連の”Bernie's Tune""Walkin’ Shoes"とウディ・ハーマン楽団の”Four Brothers"です。
ほとんどの曲が3~4分程度の短い演奏で、ペイチが指揮するウェストコーストらしい洗練されたホーン・アンサンブルにペッパーの創造性豊かなソロが絡むという展開。どの曲もさすがのクオリティですが、中でも素晴らしいのは”Shaw 'Nuff"で、ペッパーの切れ味鋭い高速アドリブに思わずブラボー!と叫ばずにいられません。アルトではなくテナーで演奏した”Move""Four Brothers"”Walkin'"もなかなか味わいがありますね。”Anthropology”では珍しくクラリネットを披露しています。ペッパー以外のメンバーはほぼアンサンブル要員に徹していますが、ジャック・シェルドンだけは”Move"”Groovin' High"”Shaw 'Nuff"”Airegin"と4曲でトランペットソロを、ボブ・エネヴォルセンが"Move"で短いトロンボーンソロを取ります。以上、ビッグバンドでバップナンバーを吹きまくるペッパーと言う新たな魅力を発見できる1枚です。