ハードバピッシュ&アレグロな日々

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マーティ・ペイチ/アイ・ゲット・ア・ブート・アウト・オヴ・ユー

2025-01-18 17:08:04 | ジャズ(ウェストコースト)

先日マーティ・ペイチ「ブロードウェイ・ビット」で予告したとおり、本日はその姉妹盤である”お風呂のペイチ”こと「アイ・ゲット・ア・ブート・アウト・オヴ・ユー」をご紹介します。前作の2ヶ月後の1959年7月に録音されたもので、内容もほぼ同じで西海岸のオールスターを集めたビッグバンドによるスタンダード曲集です。さてこの作品、昔からジャケットが話題ですよね。お風呂上がりの女性の裸がガラス越しに見えそうで見えない、というあたりが男性諸氏に受けたのでしょうか?ただ、私はこのジャケットあまり好きではないです。モデル女性の顔があまりタイプではないと言うのもありますし、何より肝心の音楽の素晴らしさが俗っぽいお色気ジャケットのせいで伝わっていないような気がします。

メンバーですが「ブロードウェイ・ビット」と半分以上かぶります。総勢13人のうちビル・パーキンス(テナー)、アート・ペッパー(アルト)、ボブ・エネヴォルセン(ヴァルヴトロンボーン)、ジョージ・ロバーツ(バストロンボーン)、ヴィンス・デローザ(フレンチホルン)、ヴィクター・フェルドマン(ヴァイブ)、メル・ルイス(ドラム)が引き続き参加のメンバーです。ただ、トランペットはコンテ・カンドリ、ジャック・シェルドン、アル・ポーシノと3人とも入れ替わっており、その他にバリトンサックスにビル・フードが参加。ピアノも前作はペイチが兼務していましたが、今回はアレンジャーに専念したためラス・フリーマンが入り、その他ベースにジョー・モンドラゴンが起用されています。

全8曲。内容も前回と同じくスタンダード中心、ペイチのシャープなアレンジに乗って、各楽器がソロを取ると言う趣向です。ただ、違いは前回がミュージカル曲ばかりだったのに対し、ジャズ曲、特にエリントン楽団絡みの曲が多いのと、特定のソリストにスポットライトを当てた曲が多いのが特徴ですね。エリントン・ナンバーは"It Don't Mean A Thing""What Am I Here For/Cotton Tail""Warm Valley""Things Ain't What They Used To Be"と半分の4曲もあり、ペイチのエリントンへの傾倒ぶりが伺えます。

ただ、ここで特にご紹介したいのは特定のソリストをフィーチャーした曲の方です。まずは2曲目"No More"。ビリー・ホリデイの歌で有名な曲らしいですが、トランペットを大々的にフィーチャーした美しいバラードに仕上がっています。前作同様に曲毎のソリストの記載がないのですが、哀愁漂うトランペットを吹くのはおそらくジャック・シェルドンではないかと推測します。コンテ・カンドリはリーダー作を何枚か持っていますが、こんな乾いた音色ではないはず(アル・ポーシノはよくわからないので除外)。7曲目のエリントン作のバラード"Warm Valley"も素晴らしいですね。ここでダンディズム溢れるバリトンサックスを披露するのはビル・フード。正直あまり馴染みがないミュージシャンですが、なかなか良いソロを聴かせてくれます。"Warm Valley"はジェローム・リチャードソンも「ローミン」で取り上げていましたのでバリトンサックスと相性の良い曲なのかもしれません。

そして何より素晴らしいのがアート・ペッパー絡みの2曲。まずは4曲目、ボビー・ティモンズの"Moanin'"。前年にジャズ・メッセンジャーズがヒットさせた黒人ファンキージャズの聖典をウェストコーストの白人達が取り上げているのが面白いですが、演奏の方も悪くない、どころか良いです。まずはラス・フリーマンの意外とソウルフルなピアノとホーンアンサンブルによるコール & レスポンスの後、ペッパーが独創的なアドリブを披露します。原曲とは全然違うアプローチですがこれがまた様になっています。続く高らかに鳴るトランペットはおそらくコンテ・カンドリでしょう。その後のホーン陣のアレンジも洒落ていてなかなかの名演です。続く"Violets For Your Furs"は歌手のマット・デニスが書いた名バラードでズート・シムズコルトレーンも名演を残していますが、ここでのペッパーのプレイはそれらをも凌駕する素晴らしさ。澄み切ったアルトの音色と紡ぎ出されるフレーズの美しさに思わず涙が出そうになります。その他の曲はビル・パーキンス、ボブ・エネヴォルセン、ヴィクター・フェルドマンらも加わり、各人が短いソロをつないでいく展開ですが、それらのソロの中でもペッパーのソロは一際輝きを放っており、ウェストコーストの俊英達の中でも傑出した存在だったことがわかります。本作はペイチのアレンジャーとしての手腕を堪能できるだけでなく、ペッパーの天才ぶりをあらためて実感できる1枚です。

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マーティ・ペイチ/ブロードウェイ・ビット

2025-01-07 19:23:58 | ジャズ(ウェストコースト)

本日はマーティ・ペイチです。彼については当ブログでもたびたび取り上げてきましたが、本職はピアニストでモード・レコードにトリオ盤を残したりもしていますが、どちらかと言うとアレンジャーとしての活躍の方が目立ちますね。特に歌伴には定評があり、メル・トーメの名盤「シューバート・アレイ」やエラ・フィッツジェラルドの「エラ・スウィングス・ライトリー」等で洒落たアレンジを施しています。ペイチの率いるバンドにはウェストコーストで活躍していたジャズマンが多数起用されており、アンサンブルの間に挟まれる各プレイヤーのソロも聴きモノですね。今日ご紹介する「ブロードウェイ・ビット」はそんなペイチが1959年5月にワーナーブラザースに吹き込んだ作品。ジャズマニアの間では昔から”踊り子”の通称で親しまれている1枚です。内容的には上述のヴォーカル作品群から歌を抜いたような演奏、と言えばイメージがしやすいでしょうか?歌がない分、各楽器にもソロパートがより多く割り当てられており、西海岸の名手達のプレイを存分に味わうことができます。

メンバーは総勢12人で、ステュ・ウィリアムソン&フランク・ビーチ(トランペット)、ビル・パーキンス(テナー)、アート・ペッパー(アルト)、ジミー・ジュフリー(バリトン&クラリネット)、ボブ・エネヴォルセン(ヴァルヴトロンボーン)、ジョージ・ロバーツ(バストロンボーン)、ヴィンス・デローザ(フレンチホルン)、ヴィクター・フェルドマン(ヴァイブ)、ペイチ(ピアノ)、スコット・ラファロ(ベース)、メル・ルイス(ドラム)です。注目はやはりアート・ペッパーですね。彼はペイチ作品の常連でタンパには共同リーダー作も残していますし、ペイチの手掛ける歌伴にもかなりの割合で参加しています。ビッグバンドなので一つ一つのソロは短いですが、フレーズの美しさが一頭抜きん出ていますね。

全9曲。タイトルどおり全てブロードウェイのミュージカルナンバーを集めたものですが、ほとんどの曲がスタンダード曲として定着しており、聴きなじみのある曲ばかりです。1曲目はコール・ポーターの"It's All Right With Me"。テーマ部分の重低音トロンボーンはジョージ・ロバーツでしょうか?その後はフェルドマン→エネヴォルセンらが軽快にソロをリレーします。2曲目の"I've Grown Accustomed To Her Face"は有名な「マイ・フェア・レディ」の曲ですね。たゆたうようなホーンアンサンプルをバックに、ジミー・ジュフリーのクラリネット→ペッパーと美しいソロを取ります。3曲目は"I've Never Been In Love Before"で、様々な楽器がソロを取りますが、何と言ってもペッパーのきらめきに満ちたソロが最高です。続く"I Love Paris"は少し変わったアレンジで、ホーン陣の重低音アンサンブルとクラリネット→ミュートトランペットの掛け合いで曲が進行します。

後半(B面)1曲目は"Too Close For Comfort"。この曲はペッパーが何度も演奏した得意曲で、ここでも彼のきらめきに満ちたソロで始まり、ウィリアムソン→フェルドマン→ジュフリーとソロをリレーします。6曲目はメドレーで前半は”Younger Than Spring Time"でジュフリー→ペッパー→ウィリアムソンのミュートとつなぎますが、途中で"The Surrey With The Fringe On Top"に変わり、ラストは2つの曲がミックスされる凝った作りです。7曲目"If I Were A Bell"はマイルス・デイヴィスで有名ですが、ここでは実際に鐘の音が鳴ります。ソロはジュフリー→ウィリアムソン→パーキンス→フェルドマン→エネヴォルセン→ペッパーの順でしょうか?8曲目"Lazy Afternoon"はフレンチホルンが主旋律を奏でる幻想的な曲でペッパーとフェルドマンのソロが挟まれます。ラストトラックの"Just In Time”はパーキンスがテーマメロディーと最初のソロを吹き、ウィリアムソン→エネヴォルセン→ペッパー→ジュフリーとソロをリレーして締めくくり。

なお、ジャケットにはソリストの記載はないので、全て私の推測です。トランペットはステュ・ウィリアムソンではなくフランク・ビーチかもしれませんが、そもそも誰それ?って感じですし、まあ大体合っているでしょう。なお、ワーナーには本作の姉妹盤としてシャワー中の美女がジャケットになった通称”お風呂のペイチ”がありますが、それについても近日中にご紹介します。

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アート・ペッパー・プラス・イレヴン

2024-12-10 19:39:31 | ジャズ(ウェストコースト)

50年代のジャズシーンを語る時、東海岸では黒人中心のハードバップが隆盛を極め、西海岸では白人中心のウェストコーストジャズが花開いた、と言うような解説がよくなされます。ただ、実際にウェストコーストの作品群を深掘りすると、意外と黒人ジャズマンがたくさん活躍していたこともわかりますし、白人ジャズマン達も大なり小なりビバップ~ハードバップの影響を受けていることがわかります。本ブログでも過去に取り上げたハーブ・ゲラーやチャーリー・マリアーノは自他ともに認めるパーカー派でしたし、”白いパウエル”と呼ばれたクロード・ウィリアムソン、チャーリー・クリスチャンの後継者バーニー・ケッセル等がその代表でしょう。ただ、ウェストコーストジャズの”顔”と目されるアート・ペッパーについては彼のキャリアが40年代前半のビバップ誕生前まで遡ることもあり、スタイル的にはバップの影響はそこまで受けていないように思えます。少なくとも彼をパーカー派の括りに入れることはないですね。

今日ご紹介するコンテンポラリー盤「アート・ペッパー・プラス・イレヴン」はそんなバップとは無縁に思えるペッパーがバップ・スタンダードばかりを取り上げた珍しい企画です。全12曲のうち、ジェリー・マリガンやウディ・ハーマン楽団ら白人ジャズマンの曲は3曲だけで、後はパーカー、ガレスピー、モンク、マイルスらの定番曲に加え、ソニー・ロリンズやホレス・シルヴァーら同時代の黒人バッパーの曲も取り上げており、ペッパー自身の希望なのかレコード会社の選曲なのかわかりませんが、実にユニークな試みですね。

タイトル通りペッパー以外に11人のジャズマンを加えたミニビッグバンド編成で、指揮するのはマーティ・ペイチ。この人はピアニストとしても活躍しており、タンパにペッパーとの共演盤も残していますが、メル・トーメやエラ・フィッツジェラルドのヴォーカル作品等で巧みなビッグバンドアレンジを施しており、個人的にはアレンジャーとしての才能の方をより評価しています。録音は1959年3月から5月にかけて3回のセッションに分けて行われ、メンバーは多少入れ替わるのですがジャック・シェルドン、ピート・カンドリorアル・ポーシノ(トランペット)、ディック・ナッシュ、ボブ・エネヴォルセン(トロンボーン)、ヴィンセント・デローザ(フレンチホルン)、ハーブ・ゲラーorバド・シャンクorチャーリー・ケネディ(アルト)、ビル・パーキンスorリッチー・カミューカ(テナー)、メッド・フローリー(バリトン)、ラス・フリーマン(ピアノ)、ジョー・モンドラゴン(ベース)、メル・ルイス(ドラム)と西海岸を代表する白人ジャズマン達がズラリと集結しています。

曲はパーカー関連が2曲"Anthropology""Donna Lee”、ガレスピーが2曲”Groovin' High""Shaw 'Nuff"、マイルス関連が2曲"Move""Walkin'"、モンク”’Round Midnight"、ロリンズ”Airegin"、シルヴァー”Opus De Funk"が各1曲ずつと計9曲が黒人バッパーによる作品。残りの3曲がジェリー・マリガン関連の”Bernie's Tune""Walkin’ Shoes"とウディ・ハーマン楽団の”Four Brothers"です。

ほとんどの曲が3~4分程度の短い演奏で、ペイチが指揮するウェストコーストらしい洗練されたホーン・アンサンブルにペッパーの創造性豊かなソロが絡むという展開。どの曲もさすがのクオリティですが、中でも素晴らしいのは”Shaw 'Nuff"で、ペッパーの切れ味鋭い高速アドリブに思わずブラボー!と叫ばずにいられません。アルトではなくテナーで演奏した”Move""Four Brothers"”Walkin'"もなかなか味わいがありますね。”Anthropology”では珍しくクラリネットを披露しています。ペッパー以外のメンバーはほぼアンサンブル要員に徹していますが、ジャック・シェルドンだけは”Move"”Groovin' High"”Shaw 'Nuff"”Airegin"と4曲でトランペットソロを、ボブ・エネヴォルセンが"Move"で短いトロンボーンソロを取ります。以上、ビッグバンドでバップナンバーを吹きまくるペッパーと言う新たな魅力を発見できる1枚です。

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マックス・ベネット・プレイズ

2024-11-07 19:12:23 | ジャズ(ウェストコースト)

本日は白人ベーシストのマックス・ベネットをご紹介します。あまりメジャーとは言えませんが、ベツレヘム・レコードを中心に50年代のウェストコーストジャズでそれなりに活躍した存在です。60年代から70年代にかけてはスタジオミュージシャンとしてポップスやロックの分野にも活動の場を広げ、ザ・モンキースやジョニ・ミッチェル、バーブラ・ストライザンド等の作品でベースを弾いていたようです。ジョニ・ミッチェルがジャズ~フュージョン畑のプレイヤーを起用した大名盤「コート・アンド・スパーク」にもトム・スコット、ジョー・サンプル、ラリー・カールトンと並んで彼の名前があります。

本作「マックス・ベネット・プレイズ」は1955年にベツレヘムに吹き込まれた1枚です。録音は2つのセッションに分かれており、1955年1月がロサンゼルス録音でフランク・ロソリーノ(トロンボーン)、チャーリー・マリアーノ(アルト)、クロード・ウィリアムソン(ピアノ)、スタン・リーヴィ(ドラム)と西海岸のオールスターメンバーから成るクインテット。同年12月のセッションがニューヨーク録音でカール・フォンタナ(トロンボーン)、デイヴ・マッケンナ(ピアノ)、メル・ルイス(ドラム)を加えたカルテットです。

全12曲、うち1月の西海岸セッションが8曲、12月の東海岸セッションが4曲です。まず、1月のセッションの方ですが、西海岸No.1トロンボーンのロソリーノ、パーカー派アルトとして絶賛売り出し中のマリアーノ、”白いパウエル”ことウィリアムソンが大きくフィーチャーされており、1曲目のロソリーノの自作曲”Rubberneck”、急速調のスタンダード"Jeepers Creepers"”Sweet Georgia Brown"では彼らのソロを存分に堪能できます。一方、”Just Max""T.K."ではロソリーノらはアンサンブルに回り、ベネットがピチカートソロでリーダーとしての面目を施します。一風変わっているのがヘレン・カーと言う女性ヴォーカル入りが2曲あること。”They Say"はあまり聞いたことない曲ですが、マリアーノとロソリーノのソロを挟んでスインギーに、”Do You Know Why"ではバラードをしっとり歌います。

一方、12月の東海岸セッションの方ですが、メンバーの知名度という点では西海岸に比べると一段落ちますね。カール・フォンタナは正直この作品ぐらいでしか名前を見かけないですし、デイヴ・マッケンナもズート・シムズの作品等に参加していますがお世辞にもメジャーとは言えません。ただ、スタンダードの”Taking A Chance On Love””Sweet Sue"あたりも悪くないですし、何よりベネット自作の”Blues"が良いです。他が全て3分前後の短い曲の中で唯一5分を超える演奏で、マッケンナのピアノソロに続き、フォンタナが歯切れの良いトロンボーンソロを聴かせます。"S'Posin'"は再びベネットのベースソロが大きくフィーチャーされます。

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アート・ペッパー/インテンシティ

2024-10-29 18:24:15 | ジャズ(ウェストコースト)

アート・ペッパーについては本ブログでもたびたび取り上げてきました。ウェストコーストを代表する天才アルト奏者として高い評価を受けていたペッパーですが、麻薬中毒のため1950年代半ばに一度シーンから姿を消します。1956年に「ザ・リターン・オヴ・アート・ペッパー」でカムバックを果たし、その後は「モダン・アート」「ミーツ・ザ・リズム・セクション」等の代表作を次々と発表し、キャリアの全盛期を迎えますが、その栄光の日々も1960年に一旦ピリオドが打たれます。この年に再び麻薬所持の罪で捕まったペッパーは、その後10年以上にわたって引退同然の状態となります。厳密には1964年や1968年に散発的に復帰して録音も残しているようですが、本格的なカムバックは1975年の「リヴィング・レジェンド」まで待たないといけません。

今日ご紹介する「インテンシティ」は1960年11月にコンテンポラリー・レコードに吹き込まれた1枚で、長期休養前の最後の作品です。ただ、一説ではペッパーは既に入獄していて、仮釈放中に吹き込んだ作品とも言われています。ワンホーン・カルテットでリズムセクションはドロ・コーカー(ピアノ)、ジミー・ボンド(ベース)、フランク・バトラー(ドラム)。全員が当時西海岸でプレイしていた黒人ジャズマンですが、演奏の方は特に黒っぽいと言うことはなく、あくまで主役のペッパーをサポートする役割に徹しています。

全7曲、オリジナル曲は1曲もなく、全てが歌モノスタンダードと言う構成です。しかもそのうちオープニングトラックの"I Can't Believe That You're In Love With Me"や4曲目"Long Ago And Far Away"、7曲目”Too Close For Comfort"はオメガテープ盤「ジ・アート・オヴ・ペッパー」でも演奏されるなど、ペッパー自身何度も取り上げているお馴染みの曲です。それ以外もコール・ポーター”I Love You"はじめ”Come Rain Or Come Shine"”Gone With The Wind"と定番中の定番とも呼べるスタンダード曲がずらりと並んでおり、はっきり言って目新しさは一つもありません。ペッパーは本作の直前に「スマック・アップ」と言う作品を発表しており、そこではオーネット・コールマンの曲を取り上げるなど新たな姿勢を打ち出していたのですが、本作ではあえて原点に立ち戻ったのか、それとも麻薬でヘロヘロでオリジナル曲を作曲する余裕がなかったのか・・・

以上、下手をするとありきたりでつまらない内容になってもおかしくないところを、聴く者を納得させるクオリティに仕上げているのはさすがペッパーと言ったところです。この頃の彼は心身とも麻薬に蝕まれており、コンディション的にはベストとは程遠かったと思うのですが、それでも美しいトーンで閃きに満ちたアドリブを次々と繰り出す様は圧巻ですね。とりわけ高速テンポで仕上げた"Long Ago And Far Away"が出色の出来です。録音の少ないドロ・コーカーも随所でキラリと光るピアノソロを聴かせてくれます。ペッパーの代表作に挙げられることはまずない作品ですが、全盛期の最後の1枚として聴いておいて損はない1枚です。

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