ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ハイドン/ピアノ協奏曲第11番&第4番

2018-08-23 12:11:57 | クラシック(協奏曲)
本日は少し珍しいところでハイドンのピアノ協奏曲を取り上げたいと思います。交響曲を104曲、弦楽四重奏曲を83曲も残した多作家のハイドンですが、協奏曲については本ブログでも紹介した2曲のチェロ協奏曲とトランペット協奏曲が有名なぐらいで、ピアノ協奏曲やヴァイオリン協奏曲が演奏される機会はあまりありません。そもそもピアノ協奏曲もヴァイオリン協奏曲も他人の偽作が含まれていたり、楽譜が紛失した作品もあったりして一体何曲あるのかよく分かっていないというのが実情のようです。(一応、作品番号が付いているもので言うとピアノ協奏曲は11曲、ヴァイオリン協奏曲は4曲)。そんな中で比較的有名なのがピアノ協奏曲第11番で、単に“ハイドンのピアノ協奏曲”と言えばこの曲をさすことが多いようです。他の曲がまだハイドンが20~30歳の頃に書かれた作品であるのに対し、この11番は50歳の時の作品でだいぶ円熟味が出てきた頃の傑作です。特に第1楽章が素晴らしく、冒頭からオーケストラが天国的な明るい旋律を奏で、その後にきらびやかなピアノ独奏が加わります。静謐な美しさの第2楽章、跳ねるようなロンドの第3楽章も魅力的ですね。ピアノ協奏曲と言えば同時代のモーツァルトの作品がどれも傑作ぞろいですが、少なくともこの1曲に関してはハイドンも負けてはいないと思います。



CDですが、数は決して多くはないものの、マルタ・アルゲリッチ等が録音を残しています。私が買ったのはイタリアの巨匠アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリがエドモン・ド・シュトウツ指揮チューリッヒ室内管弦楽団と共演したものです。このCDにはハイドンのもう1曲のピアノ協奏曲である第4番が収録されています。こちらはハイドンが30代半ばの時に書かれた作品で、規模的にもピアノと弦楽合奏のみでバロックの面影を強く残す作品です。第11番よりさらに輪をかけてマイナーで、録音もほとんどないと思いますが、第1番の優しい旋律、楽し気なロンドンの第3楽章となかなか魅力的な小品です。
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ウォルトン/ベルシャザールの饗宴

2018-08-07 12:31:48 | クラシック(声楽)
本日は久々にオラトリオを取り上げたいと思います。3年ほど前にオラトリオの魅力に目覚めて、ハイドンの「天地創造」やメンデルスゾーンの「エリヤ」等の古典的名作をいくつか取り上げましたが、今日ご紹介するのはイギリスの作曲家ウィリアム・ウォルトンが1931年に発表した作品です。ウォルトンについては以前にヴァイオリン協奏曲のエントリーでも書きましたが、20世紀の作曲家でありながら前衛的な要素はほぼなく、わかりやすい曲想が持ち味です。このオラトリオも難解な旋律はほぼない上に、時間的に30分強とコンパクトにまとまっているので、むしろ2時間前後の大作が多い古典の名作よりオラトリオ初心者には取っ付きやすいかもしれません。物語は旧約聖書の「ダニエル書」から取られていて、古代バビロニアの王ベルシャザールが異教の神々を崇拝して神を冒涜したところ、天罰が下って死に、バビロンに捕らえられていたユダヤ人達が解放されたというお話です。とは言え、内容はともかく、音楽的には宗教色はそれほど感じず、大規模な合唱とオーケストラサウンドで作り上げる一大スペクタクルと言った感じです。



作品は全9曲に分かれていますが、通しで演奏されるため実際は1曲です。盛り上がる場面は2カ所。まずは3曲目から4曲目にかけてベルシャザール王が酒宴を開き、異教の神々を称賛する場面。そして、フィナーレの神の栄光を讃える場面。どちらも迫力ある合唱とフルオーケストラが奏でるゴージャスなサウンドが一体となった壮大な音世界で、聴く者を陶酔させてくれます。20世紀の合唱音楽と言えばオルフの「カルミナ・ブラーナ」ばかりが有名ですが、個人的には本作もそれに負けない傑作だと思います。その割に人気は高いとは言えず、本国イギリスを除けば演奏機会も多くないのが残念でなりませんが、幸いCDだと私の買ったポール・ダニエル指揮イングリッシュ・ノーザン・フィルハーモニアによるナクソス盤が国内版でも入手可能ですし、youtubeだと尾高忠明がBBCプロムスを指揮した映像が視聴可能です。どちらも本当に素晴らしい演奏ですので、未聴の方々にはおススメです。
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サクソフォン協奏曲集

2018-08-01 11:59:41 | クラシック(協奏曲)
本日は珍しいところでサクソフォン協奏曲のオムニバスをご紹介します。ジャズの世界ではトランペットと並んで花形楽器のサックスですがクラシックの世界ではマイナー楽器扱い。管楽器に限定してもフルートやクラリネット、ホルンの方がオーケストラアンサンブルでも重要視されますし、ソロ楽器としての地位も確立しています。理由は楽器としての歴史の浅さ。ベルギー人のアドルフ・サックスによってサクソフォンが発明されたのが19世紀の半ば。その頃には今のオーケストラの形と言うのはほぼ出来上がっていて、新参者のサックスに付け入る隙はなかったんですね。もしあと100年早くサックスが誕生していたらきっとモーツァルトやハイドンあたりがサックスのための作品を書き下ろしていたことでしょう。

今ではサックスもすっかりメジャー楽器となり、クラシックでも現代音楽の分野ではサックスを主楽器とした作品も多く作られているようです。ただ、当ブログでは現代音楽は守備範囲外ですので、20世紀前半に著名な作曲家が書いたサックスと管弦楽のための作品にスポットライトを当てたいと思います。CDで購入したのは英国人サックス奏者のジョン・ハーレがネヴィル・マリナー指揮アカデミー・オヴ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズをバックに演奏したものです。収録されているのはドビュッシー、イベール、ヴィラ=ロボス、グラズノフ、リチャード・ロドニー・べネット、デイヴ・ヒースと計6人の作曲家による作品。うちべネットとヒースは現代音楽なので割愛します。



まずは印象派の巨匠ドビュッシーによる「サクソフォーンと管弦楽のための狂詩曲」。1908年に書かれた曲で、クラシックの世界でサクソフォンのために書かれた曲の中ではさきがけ的存在と思います。ドビュッシーの代表作である「海」、「夜想曲」などに通じる幻想的なサウンドで、なかなかの佳作と言えるでしょう。続いては「寄港地」で知られるフランスの作曲家イベールが1935年に書いた「アルト・サクソフォーンと11の楽器のための室内小協奏曲」。第1楽章の浮き立つような華やかな旋律が印象的です。

3曲目は「ブラジル風バッハ」で有名なブラジルの作曲家エイトル・ヴィラ=ロボスによる「サクソフォンと室内管弦楽のための幻想曲」。ヴィラ=ロボスの作品の中でもマイナーでほとんど知られていない曲ですが、これはなかなかの名曲だと思います。特に第1楽章が素晴らしく、ソプラノ・サックスが奏でる切なげで優しさに満ちた旋律が胸を打ちます。やや物憂げな第2楽章を経て、ドラマチックに盛り上がる第3楽章も良いです。個人的には本CD中ベストの曲だと思います。

最後はグラズノフの「アルト・サクソフォーンと弦楽オーケストラのための協奏曲」。グラズノフは過去に本ブログでも「四季」ヴァイオリン協奏曲を取り上げましたが、チャイコフスキーの流れを組むロシア・ロマン派の巨匠と言うイメージが強く、実際に代表作はほとんどが19世紀末から20世紀初頭の帝政ロシア時代に書かれたものです。ただ、ロシア革命後のソ連時代も細々と作曲活動を続けており、本作は亡くなる2年前の1934年に書かれたものです。この頃のソ連はショスタコーヴィチ等新世代の作曲家が全盛のころですが、グラズノフの音楽は多少は現代的な響きは見られるもののあくまでロマン派の範疇にとどまっています。そのため当時は保守的と評されたそうですが、古典派・ロマン派のレパートリーが存在しないサクソフォンにとっては貴重な正統派のコンチェルトと言ってよいでしょう。内容的にも上述のヴァイオリン協奏曲等には劣りますが、まずまずの佳作と言えます。
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