先日、アニタ・オデイを取り上げた際に映画「真夏の夜のジャズ」とその舞台となったニューポート・ジャズ・フェスティヴァルのことを書きました。ロードアイランド州の海辺のリゾートで開かれるこのフェスは1954年に始まり、現在でも行われている有名な音楽祭です。映画に記録されているのは1958年のフェスの模様ですが、その前年の1957年にはヴァーヴ・レコードが同フェスに密着し、コンサートの模様を合計14枚ものレコードに記録しています。その顔ぶれは錚々たるものでビリー・ホリデイ、エラ・フィッツジェラルド、カウント・ベイシー、コールマン・ホーキンス、ソニー・スティット、ジジ・グライス&ドナルド・バード、セシル・テイラーetcとまさにスイングジャズからフリージャズまで様々なライブの模様を記録に残しています。日本人ピアニストの秋吉敏子の演奏も録音されているようです。
本日ご紹介する「ディジー・ガレスピー・アット・ニューポート」もそのうちの1枚で、ディジー・ガレスピー率いるビッグバンドのライブの模様を記録したものです。1940年代にチャーリー・パーカーとともにビバップの中心人物として活躍したガレスピーですが、わりと初期からビッグバンドでの活動も並行して行っており、50年代中旬以降はむしろスモールコンボよりビッグバンドの方に軸足を置いていました。
本ライブに参加したメンバーは合計15人。全員列挙はしませんが、トランペットにリー・モーガン含め4人、トロンボーンにアル・グレイ含め3人、サックスにベニー・ゴルソン、ビリー・ミッチェル、アーニー・ヘンリーら5人、リズムセクションはウィントン・ケリー(ピアノ)、ポール・ウェスト(ベース)、チャーリー・パーシップ(ドラム)と言う布陣です。なお、このメンバーからモーガン、グレイ、ミッチェル、ケリーらが抜け出したセッションが以前ご紹介した「ディジー・アトモスフェア」です。
曲はオリジナルLPで計6曲、CDにはボーナストラックで3曲が追加されています。ライブ録音と言うことでガレスピーの陽気なおしゃべりも入っているため演奏時間は長めでLPで48分、CDだと72分もあります。
1曲目はアレンジャーのA・K・サリームが書いた”Dizzy's Blues"。オープニングを飾るにふさわしいド派手な曲で、爆発するホーンセクションをバックにボスのガレスピーが火の出るようなトランペットソロを聴かせ、次いでバリトンのピー・ウィー・ムーア→アル・グレイ→ウィントン・ケリーとソロをリレーします。ガレスピーこの時39歳。まだまだ若い連中に負けてられん!と張り切っていますね。つづく"School Days"はブルース歌手のルイ・ジョーダンがヒットさせたジャンプ・ナンバーで、ここではガレスピーがヴォーカルを披露。お世辞にも上手いとは言えないのですが、独特のリズムでちょっとヒップホップとかラップみたいになっています。ウィントン・ケリーとビリー・ミッチェルがソロを取るのですが、こちらもノリノリでもはやジャズを飛び越えてロックンロール的な縦ノリですね。もちろん観衆は大喜びです。3曲目はホレス・シルヴァーの名曲"Doodlin'"。演奏に先だってガレスピーがユーモアたっぷりにピー・ウィー・ムーアを紹介します。彼は他ではあんまり見ない名前ですが、バンドでは人気者だったのでしょうか?ムーアが重低音バリトンで印象的なイントロのメロディを吹きますが、ソロを取るのは彼ではなくガレスピーです。
4曲目は40年代にガレスピーがコンガ奏者のチャノ・ポゾと共作したアフロ・キューバン・ジャズの名曲”Manteca"。いかにもラテンリズムの賑やかな曲ですが途中で現れるロマンチックなメロディが個人的には好きです。ベニー・ゴルソンが少しだけソロを取ります。5曲目はゴルソンが前年に亡くなったクリフォード・ブラウンに捧げて書いた”I Remember Clifford"。ガレスピーはブラウンと共演経験はありませんが、ブラウンが20歳の時に会ったことがあり、彼にプロのミュージシャンを目指すよう助言したと言うエピソードがあります。ここではガレスピーがバラードをじっくり歌い上げます。6曲目”Cool Breeze"はタッド・ダメロンの作曲したガレスピー楽団の持ち曲で、エネルギッシュな伴奏をバックにアル・グレイ→ガレスピー→ビリー・ミッチェルと存分にソロを取ります。
ここから先はボーナストラックで、詳しい解説は端折りますが、7曲目”Zodiac Suite"は女流ピアニストのメアリー・ルー・ウィリアムズが作曲した組曲でケリーの代わりに彼女がピアノを弾きます。続く”Carioca"はラテン調のスタンダード。最後の”A Night In Tunisia"はガレスピーの代表曲ですが、ここでトランペットソロを取るのはこれまで出番のなかったリー・モーガン。メンバー最年少でこの時まだ18歳でしたが堂々としたソロを聴かせ、その天才ぶりを見せつけます。後を受けるゴルソンもなかなかの熱演です。以上、少し長いですがライブならではの熱気に満ち溢れた傑作だと思います。