ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ディジー・ガレスピー・アット・ニューポート

2025-02-04 19:21:13 | ジャズ(ビッグバンド)

先日、アニタ・オデイを取り上げた際に映画「真夏の夜のジャズ」とその舞台となったニューポート・ジャズ・フェスティヴァルのことを書きました。ロードアイランド州の海辺のリゾートで開かれるこのフェスは1954年に始まり、現在でも行われている有名な音楽祭です。映画に記録されているのは1958年のフェスの模様ですが、その前年の1957年にはヴァーヴ・レコードが同フェスに密着し、コンサートの模様を合計14枚ものレコードに記録しています。その顔ぶれは錚々たるものでビリー・ホリデイ、エラ・フィッツジェラルド、カウント・ベイシー、コールマン・ホーキンス、ソニー・スティット、ジジ・グライス&ドナルド・バード、セシル・テイラーetcとまさにスイングジャズからフリージャズまで様々なライブの模様を記録に残しています。日本人ピアニストの秋吉敏子の演奏も録音されているようです。

本日ご紹介する「ディジー・ガレスピー・アット・ニューポート」もそのうちの1枚で、ディジー・ガレスピー率いるビッグバンドのライブの模様を記録したものです。1940年代にチャーリー・パーカーとともにビバップの中心人物として活躍したガレスピーですが、わりと初期からビッグバンドでの活動も並行して行っており、50年代中旬以降はむしろスモールコンボよりビッグバンドの方に軸足を置いていました。

本ライブに参加したメンバーは合計15人。全員列挙はしませんが、トランペットにリー・モーガン含め4人、トロンボーンにアル・グレイ含め3人、サックスにベニー・ゴルソン、ビリー・ミッチェル、アーニー・ヘンリーら5人、リズムセクションはウィントン・ケリー(ピアノ)、ポール・ウェスト(ベース)、チャーリー・パーシップ(ドラム)と言う布陣です。なお、このメンバーからモーガン、グレイ、ミッチェル、ケリーらが抜け出したセッションが以前ご紹介した「ディジー・アトモスフェア」です。

曲はオリジナルLPで計6曲、CDにはボーナストラックで3曲が追加されています。ライブ録音と言うことでガレスピーの陽気なおしゃべりも入っているため演奏時間は長めでLPで48分、CDだと72分もあります。

1曲目はアレンジャーのA・K・サリームが書いた”Dizzy's Blues"。オープニングを飾るにふさわしいド派手な曲で、爆発するホーンセクションをバックにボスのガレスピーが火の出るようなトランペットソロを聴かせ、次いでバリトンのピー・ウィー・ムーア→アル・グレイ→ウィントン・ケリーとソロをリレーします。ガレスピーこの時39歳。まだまだ若い連中に負けてられん!と張り切っていますね。つづく"School Days"はブルース歌手のルイ・ジョーダンがヒットさせたジャンプ・ナンバーで、ここではガレスピーがヴォーカルを披露。お世辞にも上手いとは言えないのですが、独特のリズムでちょっとヒップホップとかラップみたいになっています。ウィントン・ケリーとビリー・ミッチェルがソロを取るのですが、こちらもノリノリでもはやジャズを飛び越えてロックンロール的な縦ノリですね。もちろん観衆は大喜びです。3曲目はホレス・シルヴァーの名曲"Doodlin'"。演奏に先だってガレスピーがユーモアたっぷりにピー・ウィー・ムーアを紹介します。彼は他ではあんまり見ない名前ですが、バンドでは人気者だったのでしょうか?ムーアが重低音バリトンで印象的なイントロのメロディを吹きますが、ソロを取るのは彼ではなくガレスピーです。

4曲目は40年代にガレスピーがコンガ奏者のチャノ・ポゾと共作したアフロ・キューバン・ジャズの名曲”Manteca"。いかにもラテンリズムの賑やかな曲ですが途中で現れるロマンチックなメロディが個人的には好きです。ベニー・ゴルソンが少しだけソロを取ります。5曲目はゴルソンが前年に亡くなったクリフォード・ブラウンに捧げて書いた”I Remember Clifford"。ガレスピーはブラウンと共演経験はありませんが、ブラウンが20歳の時に会ったことがあり、彼にプロのミュージシャンを目指すよう助言したと言うエピソードがあります。ここではガレスピーがバラードをじっくり歌い上げます。6曲目”Cool Breeze"はタッド・ダメロンの作曲したガレスピー楽団の持ち曲で、エネルギッシュな伴奏をバックにアル・グレイ→ガレスピー→ビリー・ミッチェルと存分にソロを取ります。

ここから先はボーナストラックで、詳しい解説は端折りますが、7曲目”Zodiac Suite"は女流ピアニストのメアリー・ルー・ウィリアムズが作曲した組曲でケリーの代わりに彼女がピアノを弾きます。続く”Carioca"はラテン調のスタンダード。最後の”A Night In Tunisia"はガレスピーの代表曲ですが、ここでトランペットソロを取るのはこれまで出番のなかったリー・モーガン。メンバー最年少でこの時まだ18歳でしたが堂々としたソロを聴かせ、その天才ぶりを見せつけます。後を受けるゴルソンもなかなかの熱演です。以上、少し長いですがライブならではの熱気に満ち溢れた傑作だと思います。

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ザ・ポピュラー・デューク・エリントン

2025-01-21 21:34:21 | ジャズ(ビッグバンド)
昨日のカウント・ベイシー楽団に続き、本日はデューク・エリントン楽団をご紹介します。ベイシー楽団とエリントン楽団、まさに押しも押されぬビッグバンドの両横綱ですね。ただ、私個人の話で言うと、ベイシー楽団にはわりとジャズの聴き始めの頃から親しんでいましたが、エリントン楽団についてはそれほど馴染みがありませんでした。本作を買ったのは今から10数年前ですが、これがエリントン楽団で初めて買ったアルバムです。深い理由は特にないのですが、あえて挙げるとすればベイシー楽団はサド・ジョーンズ、フランク・フォスターらソロ活動を行っているメンバーが多く、ハードバップを聴いているうちに自然に彼らのプレイに触れていたというのがあります。一方、エリントン楽団の方はジョニー・ホッジスやポール・ゴンサルヴェスら一部を除いてあまりソロ活動は行っていませんしまたホッジスらにしてもスタイル的にはバップ以前のオールドスタイルなのであまり親しみがなく、若干敷居が高かったのが大きいです。

今日ご紹介するRCA盤「ザ・ポピュラー・デューク・エリントン」は私のようなエリントン入門者にも最適の1枚で、エリントン楽団の全盛期である30~40年代の名曲を、新たに1966年5月に録音したものです。メンバーは総勢15名。列挙してみましょう。トランペットがキャット・アンダーソン、クーティ・ウィリアムズ、息子のマーサー・エリントン、ハービー・ジョーンズ、トロンボーンがローレンス・ブラウン、バスター・クーパー、チャック・コナーズ、サックスがポール・ゴンサルヴェス(テナー)、ジョニー・ホッジス(アルト)、ハリー・カーニー(バリトン)、サックス兼クラリネットがジミー・ハミルトンとラッセル・プロコープ、リズムセクションが御大エリントン(ピアノ)、ジョン・ラム(ベース)、サム・ウッドヤード(ドラム)です。

全11曲。ほとんどの曲がエリントン楽団のレパートリーとして良く知られた曲です。オープニングを飾るのはその中でも最も有名であろう"Take The A Train"。彼らの代表曲にとどまらず、ジャズファン以外にも知られている超有名曲ですね。最初に御大エリントンが華やかなピアノソロを取り、その後はお馴染みのテーマを経てクーティ・ウィリアムズが派手なトランペットを響かせます。2曲目"I Got It Bad And That Ain't Good"はジョニー・ホッジスの官能的なアルトが味わえる名バラード。ホッジスと言えばパーカーやコルトレーンが憧れた存在として良く名前が出ますが、それも納得の素晴らしい演奏です。3曲目"Perdido"はかつてエリントン楽団員だったファン・ティゾルの名曲。バップ世代にも比較的よく取り上げられる曲ですが、ここではスイング風のオールドスタイルな演奏です。4曲目"Mood Indigo"は幻想的な雰囲気を持つ名曲で、ムードたっぷりのアンサンブルが奏でる独特の世界観はまさにエリントン楽団ならではで、ベイシー楽団にはないものです。続く"Black And Tan Fantasy"も同じく流れを組む曲で、ジャズと言うよりクラシックの管弦楽作品を思わせる凝った構成の曲です。ローレンス・ブラウンとクーティ・ウィリアムズがプランジャーやカップを駆使したワーワー・ミュートと呼ばれる独特のソロで盛り上げます。

後半1曲目は"The Twitch"。アルバム中唯一の新曲ですが、割とシンプルなブルースです。後半にド派手なトロンボーンを聴かせるのはバスター・クーパーです。続く"Solitude"と"Do Nothin' Till You Hear From Me"はどちらともエリントンのピアノとローレンス・ブラウンのトロンボーンをフィーチャーした曲。エリントンは67歳とは思えない力強くパーカッシブなピアノを披露し、ブラウンもワーワーではない正統派のトロンボーンソロでじっくりと聴かせます。特に"Solitude"は名演だと思います。"The Mooche"も独特の妖しげなムードで有名な曲で、この曲でもクーティーとブラウンのワーワーが炸裂します。"Sophisticated Lady"もエリントン楽団を代表する名バラードで、エリントンの独特の間のピアノソロが魅力的です。ラストトラックの"Creole Love Call"はあまり知らない曲ですが、これも幻想的な雰囲気を持った曲でクーティ・ウィリアムズがワーワーとミュートの両方を駆使します。個人的にはワーワーが若干うるさい気もしますがそれでも磨き上げられた鉄壁のアンサンブルはさすがの一言で、ベイシー楽団とはまた一味違うエリントン楽団の魅力を知るには最適の1枚と思います。

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カウント・ベイシー/アトミック・ベイシー

2025-01-20 20:00:38 | ジャズ(ビッグバンド)

本日はカウント・ベイシー楽団の名盤「アトミック・ベイシー」をご紹介します。このアルバム、実は原盤には単にBASIEとしか記載がなく、タイトルらしきものは特になかったようですが、原爆のキノコ雲を描いたジャケットから後に「アトミック・ベイシー」と呼ばれるようになったとか。それにしてもこの強烈なジャケット、今なら炎上間違いなしですよね。おそらくベイシー楽団の迫力あるサウンドを原子爆弾の威力に例えたのでしょうが、仮にも原爆を投下した側が無神経極まりない!とあちこちから抗議が殺到しそうです。ただ、発表した時点(1958年1月。録音は1957年10月)は本国では特に問題になっていませんし、日本のジャズファンからもベイシー楽団の名盤として昔から受け入れられていたようです。まあ昔はコンプライアンスなんて概念もなかったですし、良く言えば大らか、悪く言えば無神経な時代だったんでしょうね。私は野球好きですが、プロ野球でも松竹ロビンスの"水爆打線"なんてすごいニックネームもあったようですし、何より広島県の崇徳高校が甲子園で優勝した時の愛称が"原爆打線"だったと言う嘘のような本当の話もあります。

ネーミングの件はさておき、ディスコグラフィーの観点から言うと、これはベイシー楽団のルーレット第1弾にあたります。1950年代半ばにヴァーヴ・レコードにかの有名な「エイプリル・イン・パリ」等多くの名盤を残し、第2の黄金時代を迎えたベイシー楽団ですが、本作を機にルーレット・レコードに移籍し、1962年までの5年間で20枚と言う大量生産体制に入ります。この時期のベイシー楽団は、ニール・ヘフティ、クインシー・ジョーンズ、ベニー・カーターら作品によって様々なアレンジャーを起用していますが、本作で組んだのはニール・ヘフティです。元ウディ・ハーマン楽団のトランぺッターで、ベイシーとはヴァーヴ時代含め様々なアルバムで共演しています。

メンバーは総勢16名。全員列挙はしませんが、サド・ジョーンズ&ジョー・ニューマン(トランペット)、アル・グレイ(トロンボーン)、フランク・フォスター&フランク・ウェス(サックス)らソロプレイヤーとしても活躍するお馴染みの面々が迫力あるホーンアンサンブルを聴かせます。本作ではそれに加えてソウルジャズ系のテナー奏者であるエディ・ロックジョー・デイヴィスが参加し、随所でファンキーなテナーソロを聴かせます。リズムセクションは御大ベイシー、エディ・ジョーンズ(ベース)、ソニー・ペイン(ドラム)、そして"ミスター・リズム"ことフレディ・グリーン(リズムギター)と不動のラインナップです。

全9曲、どれも3~4分前後の曲で全てヘフティの書き下ろしです。オープニングは"The Kid From Red Bank"。レッドバンクとはベイシーの生まれ故郷であるニュージャージー州の街の名前で、そこから来た男=つまりベイシーのことです。この曲では爆発するホーンセクションをバックにベイシーがピアノソロを存分に聴かせます。ベイシーは普段はバンドリーダーの役に徹してソロはあまり弾かないことが多いのですが、この曲では異例の張り切りぶりですね。2曲目"Duet"はジョー・ニューマンとサド・ジョーンズの2人のトランぺッターの掛け合いで曲が進みます。ただ、どちらもカップミュートを付けているので、どことなくとぼけた味わいですね。

3曲目"After Supper"はスローブルースでエディ・ロックジョー・デイヴィスのテナーが大きくフィーチャーされます。ロックジョーは続く"Flight Of The Foo Birds"、6曲目"Whirlybird"でも存分にソロを取り、かなり目立っていますね。ベイシー楽団にはフランク・フォスター、フランク・ウェスと素晴らしいテナー奏者がいるのですが、ベイシーはことのほかロックジョーを気に入っていたようで、この2ヶ月後には「カウント・ベイシー・プレゼンツ・エディ・ロックジョー・デイヴィス」で彼を全面的にバックアップしています。私個人的にはホンカー・スタイルのロックジョーよりフランク・フォスターとかの方が好きなんですけどね。なお、テナーソロは7曲目"Splanky"でも含まれており、解説書ではこれもロックジョーとなっていますが、私は明らかに彼と違う(おそらくフランク・フォスターでしょう)と思います。

その他トロンボーンアンサンブルが主役の5曲目"Teddy The Toad"、8曲目フランク・ウェスのアルトソロが聴ける"Fantail"等を経て、ラストを飾るのが"Li'l Darlin'"。この後、ジャズスタンダード化し多くのジャズマンにカバーされる名バラードで、フレディ・グリーンの優しいリズムギターとたゆたうようなホーンアンサンブルをバックにウェンデル・カリーがミュートトランペットで味わい深いソロを取ります。ベイシーとヘフティは翌年に「ベイシー・プレイズ・ヘフティ」で共演。こちらもなかなかの傑作ですので合わせて聴くことをおススメします。
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チェット・ベイカー・ビッグバンド

2024-11-18 19:14:08 | ジャズ(ビッグバンド)

前回のソニー・ロリンズに続き、今日はチェット・ベイカーの珍しいビッグバンド作品をご紹介します。パシフィック・ジャズ・レコードに1956年10月に吹き込まれた1枚で、時系列的には「チェット・ベイカー&クルー」の後、「ピクチャー・オヴ・ヒース」の前になります。50年代のチェットはパシフィック・ジャズやリヴァーサイドに多くの名盤を残しているため、その中で本作が挙げられることはまずないですが、個人的にはなかなか充実した出来と思います。

メンバーは大きく2つに分かれており、10月18日&19日のセッションが6管編成によるノネット(9重奏)で、チェット、ボブ・バージェス(トロンボーン)、フィル・アーソ&ボブ・グラーフ(テナー)、フレッド・ウォルターズ(アルト)、ビル・フード(バリトン)、ボビー・ティモンズ(ピアノ)、ジミー・ボンド(ベース)、ドラムは18日がピーター・リットマン、19日がジェイムズ・マッキーンです。

10月26日の方は8管編成で、トランペットにコンテ・カンドリとノーマン・フェイが加わり、フランク・ロソリーノ(トロンボーン)、アーソ&ビル・パーキンス(テナー)、アート・ペッパー&バド・シャンク(アルト)、ティモンズ(ピアノ)、ボンド(ベース)、ローレンス・マラブル(ドラム)です。メンバーだけ見ればこちらの方が西海岸オールスターと言う感じで豪華ですが、彼らはほぼアンサンブルに徹しており、アート・ペッパーやボビー・ティモンズが少しソロを取るくらいです。

全10曲ありますが、日付毎に紹介した方がわかりやすいですね。オープニングの"A Foggy Day"、7曲目"Darn That Dream"、ラストトラックの"Tenderly"が10月26日のセッション。アレンジを担当したのはジミー・ヒースです。ヒースはこの頃麻薬禍で演奏活動から遠ざかっていましたが、チェットの次作「ピクチャー・オヴ・ヒース」にも携わるなどこの時期チェットと関係が深かったようです。どの曲もお馴染みのスタンダードですが、ヒースのモダンなアレンジのお陰でなかなか聴き応えのある演奏に仕上がっています。主役はもちろんブリリアントなチェットのトランペットですが、”Tenderly"ではアート・ペッパーの華麗なアルトソロも聴けます。

10月18日&19日収録の残り7曲はどちらかと言うとオリジナル曲中心。中でもクリスチャン・シュヴァリエとピエール・ミシュロと言う2人のフランス人が作曲にアレンジにと大きく関わっています。うちミシュロはフランスを代表するベーシストとしてマイルス「死刑台のエレベーター」、デクスター・ゴードン「アワ・マン・イン・パリ」等で知られていますが、シュヴァリエの方はあまり聞いたことない名前ですね。なぜ、チェットの作品に彼らが関わっているのかよくわかりませんが、チェットは前年に8ヶ月間にわたるヨーロッパツアーを行いましたのでその時の縁でしょうか?2人が手掛けた曲は”Mythe"”Chet"”Not Too Slow"”V-Line"の4曲で中では"Mythe"がなかなか魅力的なメロディを持った佳曲です。それ以外は「チェット・ベイカー&クルー」にも収録されていたバラードの”Worrying The Life Out Of Me"、フィル・アーソ作のハードバピッシュな”Phil's Blues"、歌モノスタンダードの”Dinah"も収録されています。なお、こちらのセッションではチェットだけでなく、他のメンバーもソロを取る機会が多く、フィル・アーソやボビー・ティモンズと言ったチェットのレギュラークインテットのメンバーだけでなく、ボブ・バージェス、ボブ・グラーフ、フレッド・ウォルターズ、ビル・フードと言った正直あまり聞いたことのないジャズメン達のソロも楽しむことができます。

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ソニー・ロリンズ/ブラス・アンド・トリオ

2024-11-17 21:38:28 | ジャズ(ビッグバンド)

本日はソニー・ロリンズの珍しいビッグバンド作品をご紹介します。原盤は「ソニー・ロリンズ・アンド・ザ・ビッグ・ブラス」と言い、MGM傘下のメトロジャズと言うマイナーレーベルからリリースされましたが、後にヴァーヴ・レコードが買い取り「ブラス・アンド・トリオ」の名でリイシューしました。その後CDで再発売されたのはヴァーヴ盤で、私の手元にあるのもそちらの方です。録音年月日は1958年7月。ロリンズが活動を休止し、3年間の充電期間に入る半年前の作品ですね。

さて、「ブラス・アンド・トリオ」の名前の通り、本作にはビッグバンド編成の4曲だけでなく、ピアノレスのトリオ編成の曲も4曲含まれています。ロリンズは前年1957年のコンテンポラリー盤「ウェイ・アウト・ウェスト」を皮切りに、ブルーノート盤「ア・ナイト・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード」、リヴァーサイド盤「フリーダム・スイート」とトリオ作品を立て続けに発表していた頃で、本作もその一環と言えます。トリオで相棒を務めるのはヘンリー・グライムス(ベース)とスペックス・ライト(ドラム)です。 

一方、ビッグバンドの方はナット・アダレイ(コルネット)、クラーク・テリー、アーニー・ロイヤル、ルノー・ジョーンズ(トランペット)、ビリー・バイヤース、ジミー・クリーヴランド、フランク・リハック(トロンボーン)、ドン・バターフィールド(チューバ)の計8名から成るブラスセクションにベルギー出身のルネ・トマ(ギター)、ディック・カッツ(ピアノ)、ヘンリー・グライムス(ベース)、ロイ・ヘインズ(ドラム)が加わった布陣。アレンジを手掛けるのはベイシー楽団出身の黒人アレンジャー、アーニー・ウィルキンスです。

全8曲、前半4曲がビッグバンド、後半4曲がピアノレストリオです。オープニングトラックはジョージ・ガーシュウィンの”Who Cares”。アーニー・ウィルキンスのシャープなビッグバンドアレンジに乗ってロリンズがメロディアスなソロを展開します。途中で挟まれるルネ・トマとディック・カッツのソロも良いですね。続く”Love Is A Simple Thing”も歌モノでキャッチーな感じです。3曲目”Grand Street”はロリンズのオリジナルで、やや歌謡曲っぽい独特のメロディが印象的。後にデイヴ・ベイリーやシャーリー・スコットらもカバーした名曲です。この曲ではナット・アダレイのソロも聴けます。4曲目”Far Out East”はアーニー・ウィルキンスのオリジナルでこちらもホーンアレンジがカッコいいですね。

一方、ピアノレストリオの方は全て歌モノで”What’s My Name""If You Were The Only Girl In The World""Manhattan"と言った曲でロリンズが思う存分にソロを吹きまくります。ただ、個人的にはどうもピアノレス作品ってのは馴染めませんね。後年の「橋」あたりはギターが入っていてリズム楽器の役割を果たしているのですが、ベースとドラムだけではちょっと物足りない。ラストの”Body And Soul”に至っては無伴奏テナーソロで当時のロリンズの求道者的な一面が良く出ています。評論家によってはピアノレスこそロリンズの真骨頂と評価する人もいますが、そこは好みの問題でしょうか?私は断然ビッグバンドの方をおススメします。

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