ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

スタン・ゲッツ/ライヴ・アット・モンマルトル

2017-08-31 12:21:31 | ジャズ(ヨーロッパ)

スティープルチェイス第3弾はスタン・ゲッツのライブ盤です。ゲッツについては本ブログでもすっかりお馴染みになりましたが、彼は北欧と縁が深く、奥さんはスウェーデン人ですし、1950年代の終わり頃にはコペンハーゲンにも住んでいました。その頃の演奏は「インポーテッド・フロム・ヨーロッパ」「スタン・ゲッツ・アット・ラージ」で振り返ることができます。本作の録音は1977年で、この頃の彼は北欧には住んでいなかったようですが、馴染みの街でもあるコペンハーゲンで思う存分にプレイをしています。会場はカフェ・モンマルトル。コペンハーゲン随一の名門ジャズクラブで、ベン・ウェブスターやデクスター・ゴードン、ジャッキー・マクリーンらのライブ盤でも知られています。



さて、ジャケ写の肉付きのよい中年顔からわかるようにゲッツも御年50。功成り名を遂げて、キャリア的にもすっかり落ち着いた頃ですが、内容はと言うと、選曲といい演奏といいかなり攻めの姿勢を貫いています。特筆すべきは選曲。もともとゲッツはスタンダードの演奏に定評があり、60年代からはボサノバもレパートリーに加えましたが、本作ではフュージョンやモード・ジャズにも果敢にチャレンジしています。前者はヒューバート・ローズが72年にヒットさせた“Morning Star”、チック・コリアの名曲“La Fiesta”。後者はウェイン・ショーターの“Infant Eyes”に“Lester Left Town”、ベーシストのスティーヴ・スワロウが書いてピート・ラロカの名盤「バスラ」に収録された“Eiderdown”です。特にゲッツとショーターなんて同じテナー奏者とは言え、全然ジャンルが違うとジャズファンなら思いがちですが、そんな固定概念を吹き飛ばしてくれます。

もちろんお得意のブラジリアン(ミルトン・ナシメントの“Cançao do Sal”)もありますし、バップの古典であるガレスピーの“Con Alma”、ビリー・ホリデイに捧げた名曲“Lady Sings The Blues”、定番スタンダードの“Lush Life”、そして自作のブルース2曲“Stan's Blues”“Blues For Dorte”と全11曲実にバラエティに富んだ演奏です。ゲッツも年を感じさせないエネルギッシュなプレイで、ライヴ盤と言うこともあって1曲あたり10分を超える演奏もあります。おかげで2枚組110分に迫るボリュームですが、決してダレることはない充実の内容です。バックのメンバーは、ピアノが女流ピアニストとして当時売り出し中だったジョアン・ブラッキーン。曲によっては電子キーボードでフュージョン寄りのアプローチも見せます。ベースがスティープルチェイスお馴染みのニールス・ヘニング・ペデルセン、ドラムがビリー・ハートという面々です。

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テテ・モントリュー/カタロニアン・ファイア

2017-08-29 12:24:03 | ジャズ(ヨーロッパ)
前回に引き続き、スティープルチェイスからの1枚をご紹介します。北欧デンマークで生まれた同レーベルですが、売りにしていたのはどちらかと言うとアメリカから移住してきたミュージシャン達。デクスター・ゴードン、ケニー・ドリュー、デューク・ジョーダンらがレーベルの“顔”でした。ただ、同レーベルにもヨーロッパ人で主力として活躍したジャズマンが2人います。1人はデンマーク出身の世界的ベーシストであるニールス・ヘニング・ペデルセン、もう1人がスペインのバルセロナ出身のテテ・モントリューです。テテは生まれながら目が見えませんでしたが、同じく盲目の天才ピアニストであるアート・テイタムに憧れてジャズピアノを習得。1960年代からリーダー作を発表し始め、70年代以降スティープルチェイスに10枚を超えるリーダー策を残しました。本作は1974年5月に残された彼のリーダー作で、タイトルは出身地であるカタルーニャ地方からとったものです。メンバーはベースが前述のペデルセン、ドラムがアルバート・ヒースです。アルバートはヒース3兄弟(お兄さんがMJQのパーシー・ヒースとテナー奏者のジミー・ヒース)の末弟ですが、彼もこの頃北欧に移住していたのでしょうか?詳しいことはわかりません。



曲は全7曲。まずは歌手のブロッサム・ディアリーが作曲した“Sweet Georgia Fame”から始まりますが、この演奏が素晴らしいの一言。イントロの1分近いカデンツァの後、ベースとドラムが絡まり、そこからテテが目の覚めるような素晴らしいソロを繰り広げていきます。大袈裟でなくこのアルバムはこの1曲だけで購入の価値ありと言って良いでしょう。他はテテの自作曲“Blues For Perla”、チャーリー・パーカーの“Au Privave”もドライブ感抜群の演奏です。テテの縦横無尽のピアノソロはもちろんのこと、ペデルセンの骨太のベース、ヒースの煽り立てるドラミングもさすがです。一方、いわゆる歌モノスタンダードは個人的には若干くどい。“Falling In Love With Love”“Old Folks”“Body And Soul”とよく知られた曲ばかりですが、テテがちょっと張り切って“弾き過ぎ”てるんですよね。超絶技巧なのはわかるのですが、ちょっと聴いててお腹一杯になります。ただ、繰り返しますが、“Sweet Georgia Fame”は本当に素晴らしいので、是非ご一聴あれ。
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ホレス・パーラン/アライヴァル

2017-08-24 12:20:54 | ジャズ(ヨーロッパ)
今回からしばらくはデンマークの名門レーベルであるスティープルチェイス(SteepleChase)の再発シリーズを取り上げたいと思います。同レーベルはニルス・ウィンターという人物が1972年にコペンハーゲンで立ち上げたレーベルです。当時のデンマークにはアメリカからジャズミュージシャンが多数移住してきており、またデンマーク人の中にも実力あるミュージシャンが多くいたため(ジャズ・クインテット60ビャーネ・ロストヴォルドの頁を参照)、コペンハーゲンのジャズシーンは活況を呈していました。70年代のアメリカはフュージョン全盛期で、バップの流れを汲むモダンジャズは時代遅れとみなされていましたが、このスティープルチェイスはあくまで正統派ジャズにこだわり、デクスター・ゴードン、ジャッキー・マクリーン、ケニー・ドリュー、デューク・ジョーダンらハードバップの時代を生き抜いた大物ジャズマン達に多くの録音機会を提供しました。



今日取り上げるホレス・パーランもアメリカからの移住組の一人。個性派ピアニストとして1960年代にブルーノートに7枚ものリーダー作(うち「ヘディン・サウス」は本ブログでも紹介しました)を発表した彼ですが、その後のジャズシーンの変化についていけなかったのか、1973年にコペンハーゲンに移住。本作はその年の12月に録音された作品です。共演者はイドリース・スリーマン(トランペット)、ベント・イェディク(テナー)、ヒューゴ・ラスムッセン(ベース)、エド・シグペン(ドラム)の4人。うちスリーマンとシグペンはパーランと同じく移住組。前者は50年代に主にプレスティッジで活躍、後者は言わずと知れたオスカー・ピーターソン・トリオの一員ですね。イェディクとラスムッセンはデンマーク人で、特に前者は北欧を代表するテナー奏者だったそうです。

曲は全10曲。半数の5曲がクインテット編成で、残りはトリオ編成です。クインテット編成の方はブルーノート時代を思い起こさせるような王道ハードバップで、タイトル曲でもあるパーラン自作の“Arrival”、ランディ・ウェストン作の“Saucer Eyes”、パーラン作の“Back From The Gig”と粒揃いの名曲ばかりです。パーランの躍動するピアノはもちろんのこと、スリーマン&イェディクのフロントラインの演奏も素晴らしいです。一方でトリオの方はどちらかと言うとミディアム&バラード系が中心。ブルーノート時代のファンキーさは影をひそめ、夢見るようなタッチのロマンチックなピアノを聴かせてくれます。このあたりは北欧で新たに生み出したスタイルでしょうか?自作の“Norma”と“Waltz No.1”が特に秀逸です。1曲だけバップの古典“Bag's Groove”だけは往年を思わせるファンキーなタッチです。この作品を皮切りにパーランは多くの録音をスティープルチェイスに残し、第二の黄金時代を迎えることになります。ブルーノート時代とは一風違いますが、北欧時代のパーランもなかなか良いですよ。
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バッソ=ヴァルダンブリーニ・セクステット

2017-08-10 23:28:53 | ジャズ(ヨーロッパ)
前回エントリーで「チェット・ベイカー・イン・ミラノ」をアップしましたが、本日はその流れでイタリアのジャズメン達の力作をご紹介しましょう。上述の録音にも参加していたテナーのジャンニ・バッソがトランぺッターのオスカル・ヴァルダンブリーニと組んだバッソ=ヴァルダンブリーニ・セクステットによる1962年の作品ですね。このグループに関しては2年前にもバッソ=ヴァルダンブリーニ・クインテット名義の作品をご紹介しましたが、トロンボーンが増えて5人から6人編成になっています。当時は本場アメリカでもジャズ・メッセンジャーズがカーティス・フラーを加えた3管編成で注目を浴びていましたから、それに合わせたのかもしれませんね。メンバーはバッソ(テナー)、ヴァルダンブリーニ(トランペット)に加え、ディノ・ピアナ(トロンボーン)、レナト・セッラーニ(ピアノ)、ジョルジョ・アッゾリーニ(ベース)、リオネッロ・ビアンダ(ドラム)と言った面々です。



曲は全7曲。「バッソ=ヴァルダンブリーニ・クインテット」は全曲オリジナルで固めた作品でしたが、本作は4曲が本場アメリカのジャズメン達のカバーで3曲がオリジナルとなっています。カバー曲はジャッキー・マクリーン作でマイルスの演奏で知られる“Dr. Jackle”、デイヴ・ブルーベックの“In Your Own Sweet Way”、ジュニア・マンスの“Jubiliation”、そしてベニー・ゴルソン作でジャズ・メッセンジャーズも演奏した“Are You Real”です。1曲だけバラードの“In Your Own Sweet Way”は正直イマイチですが、他は本場アメリカのジャズメン達に負けじとかなり気合の入った演奏です。特に典型的な黒人ジャズである“Jubiliation”や“Are You Real”にイタリア人の彼らが果敢に挑んでいる様は痛快です。一方でオリジナルもなかなか捨て難い。バッソ作の“Coltrane Style”は文字通りジョン・コルトレーンに捧げた曲ですが、曲風の方は当時モード路線を突っ走っていたコルトレーンとはちょっと違い、ベニー・ゴルソン風のファンキー・ジャズ。ヴァルダンブリーニ作の“Monotonia”は彼の切れ味鋭いトランペット・ソロから始まるハードなナンバーです。“Vinnie's Components”はジョージ・グルンツと言うスイスの作曲家の曲らしいですが、ちょっと暗めの曲で、これは正直イマイチ。とは言え、全体的に見ると粒揃いの演奏が多く、イタリアン・ハードバップここにあり!と言った感じですね。
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チェット・ベイカー・イン・ミラノ

2017-08-01 13:00:21 | ジャズ(ヨーロッパ)
本日はチェット・ベイカーがイタリアのミラノで録音したジャズランド盤をご紹介します。チェットのイタリア録音と言えば以前に本ブログで「チェット・イズ・バック!」を取り上げましたが、あちらは1962年1月のローマ録音。イタリア滞在中に麻薬所持で捕まったチェットの釈放後の演奏を記録したものです。本作は1959年10月の録音でまだ前科がつく前の作品です。(とは言え、この頃のチェットは既に麻薬にどっぷりハマっていたようですが・・・)。共演メンバーは全て地元イタリアのミュージシャンで、ジャンニ・バッソ(テナー)、グラウコ・マゼッティ(アルト)、レナト・セッラーニ(ピアノ)、フランコ・チェッリ(ベース)、ジーン・ヴィクトリー(ドラム)から成るセクステット編成です。うちバッソとセッラーニの2人は、以前にも取り上げたバッソ=ヴァルダンブリーニ・クインテットの一員としても活躍していました。



曲は全8曲。うち2曲はボーナストラックで、チェットがスタンダードの“Indian Summer”と“My Old Flame”をワンホーンで演奏したもので、特筆すべき内容ではありません。聴き所はそれ以外の6曲で、タッド・ダメロン“Lady Bird”、チャーリー・パーカー“Cheryl Blues”、マイルス・デイヴィス“Tune Up”、ジェリー・マリガン“Line For Lyons”、ソニー・ロリンズ“Pent Up House”と言ったビバップ~ハードバップの名曲を軽快に演奏していきます。1曲だけジェローム・カーン作のミュージカル曲“Look For The Silver Lining”も入っていますが、こちらもなかなか秀逸です。チェットはこの時期ボーカリストとしても活躍し、アイドル的人気を博していましたが、本作ではトランペット1本で勝負。バッソ、マゼッティ、セッラーニらイタリアのジャズメン達を交えて、実にストレートアヘッドな演奏を聴かせてくれます。とりわけ力強い“Tune Up”や“Pent Up House”が最高です!
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