ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

マイルス・デイヴィス/ディグ

2025-04-06 17:43:50 | ジャズ(ハードバップ)

このブログはタイトルに"ハードバピッシュ"と歌っているように、モダンジャズ黄金期である50年代半ばから60年代前半にかけてのハードバップを重点的に取り上げています。では、そのハードバップはいつ始まったのか?一般的にはクリフォード・ブラウンらを擁した1954年のアート・ブレイキー・クインテット「バードランドの夜」が"ハードバップの夜明け"と呼ばれることが多いようです。ただ、私が以前愛読していたジャズ批評ブックスの「ハードバップ入門」によると、それよりも3年前の1951年10月に吹き込まれたマイルス・デイヴィスのプレスティッジ盤「ディグ」が最初のハードバップ作品となっていました。

もっともビバップとハードバップの間に明確な線引などなく、実際に演奏しているマイルスらも「今日から新しい音楽をやるぞ」など思っていなかったでしょうから、あくまで後から評論家が勝手にジャンル付けしているだけの話ではあります。とは言え、本作が従来のビバップと異なる点は明確にありまして、まず何といっても演奏時間が長い。それまでのビバップがだいたい2~3分の演奏が主だったのに対し、このアルバムは一番短い演奏でも5分、長いので10分近くもあります。これには当時の録音技術の進化もあり、長時間再生が可能なLPレコードが普及し始め、プレスティッジ・レコードにとっても本作が初のLPだったそうです。マイルスらも思う存分アドリブを取れることに意気込みを感じていたとか。

また、メンバーの面でも新しさがあり、当時21歳でまだ駆け出しだったソニー・ロリンズや20歳になったばかりで本作が初レコーディングのジャッキー・マクリーンら後にジャズ・ジャイアントと呼ばれる面々の初々しい演奏を聴くことができます。なお、その他のメンバーはウォルター・ビショップ・ジュニア(ピアノ)、トミー・ポッター(ベース)、アート・ブレイキー(ドラム)です。

アルバムはまずタイトルトラックの"Dig"で始まります。スタンダードの"Sweet Georgia Brown"をもとにマイルスが書いた曲で、ソロ先発はロリンズ、この頃の彼はまだリーダー作も発表していない駆け出しの若手でしたがなかなか勢いのあるテナーを聴かせてくれます。続いてはマイルス。後にミュート演奏を多用するマイルスですがこの頃はオープン奏法がメインで乾いた感じのトランペットですね。続くマクリーンはまだ後年の独特のマクリーン節ではなく純粋なパーカー風のアルトです。他ではウォルター・ビショップはこの曲含めてほぼソロはなく伴奏要員ですが、アート・ブレイキーは派手なドラムソロこそないものの終始煽り続けるドラミングで存在感を示しています。2曲目は唯一のスタンダードである"It's Only A Paper Moon"。この曲はマクリーンはお休みでマイルス→ロリンズと軽快にソロをリレーします。3曲目"Denial"はチャーリー・パーカーの"Confirmation"をアップテンポに改変したもので序盤の3管のリフが印象的です。この曲もブレイキーの疾走感溢れるドラムをバックにマイルス→ロリンズ→マクリーンとソロを繋ぎ、後半にはマイルスとブレイキーの掛け合いも聴けます。なお、この曲は後にエルモ・ホープの名盤「インフォーマル・ジャズ」で"Weeja"のタイトルで演奏されています。

後半(B面)1曲目はマイルス作のブルース"Bluing"。本作でも一番長くて10分近くあり、マイルス→ロリンズ→マクリーンとたっぷりソロを受け回します。ただ、正直地味な曲ではあります。ラストトラック"Out Of The Blue"は典型的なバップ曲で再びマイルス→ロリンズ→マクリーンと軽快にソロをリレーします。この曲はレッド・ミッチェルが「プレゼンティング・レッド・ミッチェル」で取り上げていました。なお、CDにはボーナストラックとして同日のセッションで収録された"Conception"と"My Old Flame"が収録されています。前者は盲目のピアニスト、ジョージ・シアリングの曲でマイルスは「クールの誕生」で"Deception"のタイトルで演奏しています。後者はスタンダードのバラードですが内容は平凡かな?。以上、全体的な完成度と言う点では数年後に発表する一連の"マラソン・セッション"や「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」等の名作群と比べるとどうしても粗削りで洗練されていない印象は拭えませんが、ジャズの歴史を知る上でも一聴の価値はある作品と思います。

 

 

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ブルー・ミッチェル/ザ・カップ・ベアラーズ

2025-04-01 21:52:38 | ジャズ(ハードバップ)

モダンジャズでトランペットとサックスの名コンビと言えば、まず思い浮かぶのはアート・ファーマー&ベニー・ゴルソンのジャズテットでしょうか?テナーではなくバリトンですがドナルド・バード&ペッパー・アダムスの双頭クインテットも有名です。一方、彼らのような正式なユニットではないですがブルー・ミッチェルとジュニア・クックのコンビも忘れてはいけません。彼らは当時ハードバップシーンを代表するグループだったホレス・シルヴァー・クインテットに1958年に加入。その後1964年までの6年間で「ブロウイン・ザ・ブルース・アウェイ」「ホレス=スコープ」「ザ・トーキョー・ブルース」「ソング・フォー・マイ・ファーザー」はじめ多くの傑作をうみだします。それと並行してジュニア・クックのリーダー作「ジュニアズ・クッキン」にはミッチェルがゲスト参加、ブルー・ミッチェルの「ザ・カップ・ベアラーズ」「ザ・シング・トゥ・ドゥ」「ダウン・ウィズ・イット」「ブリング・イット・ホーム・トゥ・ミー」等計6作品に今度はクックがゲスト参加と蜜月関係を築いています。

今日ご紹介する「ザ・カップ・ベアラーズ」は1962年8月にリヴァーサイドに吹き込まれたミッチェルのリーダー作。メンバーにはミッチェル&クックの2人以外もジーン・テイラー(ベース)、ロイ・ブルックス(ドラム)とまさに当時のホレス・シルヴァー・クインテットの面々がそのまま参加しています。ただ、ピアノにシダー・ウォルトンを起用することにより、シルヴァー・クインテットとは異なる味わいを生み出しています。問題はこのジャケット!cup bearerなのでカップをたくさん並べたのでしょうが、あまりにもセンスのないジャケットに唖然とします。ブルー・ミッチェルは「アウト・オヴ・ザ・ブルー」もボルトがで〜んと写った珍ジャケットですが、一方で有名な「ブルース・ムーズ」や「ビッグ6」のようなカッコいいジャケットもあり、落差が激しいです。

全7曲。スタンダードは2曲のみで後は全てジャズマンによるオリジナル曲です。スタンダードの2曲のうち"Why Do I Love You?"はミッチェルのカップミュートとクックの歌心溢れるテナーが味わえるほのぼのとした雰囲気の演奏ですが、"How Deep Is The Ocean?"は正直イマイチ。バラードでも一曲ぐらい入れといた方が良いとの判断だったのかもしれませんが、特に必要なかったような。

おススメはオリジナル曲です。ただ、ミッチェルやクックの曲はなく、唯一シダー・ウォルトン作のオープニングトラック"Turquoise"のみがメンバーによるオリジナルです。リリカルなメロディーを持ったマイナーキーの佳曲でややモーダルな香りもします。このあたりシルヴァー・クインテットにはない魅力ですね。一方、3曲目バリトンサックス奏者のチャールズ・デイヴィスが書いた"Dingbat Blues"がシルヴァー・クインテットっぽい感じ。ファンキーでキャッチーなメロディに乗ってミッチェル→クック→ロイ・ブルックスのドラムソロ→ウォルトンとソロをリレーします。

トム・マッキントッシュ作曲の"Capers""The Cup Bearers"も良いです。どちらも魅力的な曲で前者はちょっぴりラテンっぽさもあるマイナーキーの曲で、後にヒューバート・ローズも「ザ・ローズ・オヴ・ジャズ」でカバーしています。後者もハードバップの中にモーダルな雰囲気も漂わせる佳曲です。マッキントッシュは当時ジャズテットのトロンボーン奏者でしたが、なぜか演奏には参加せず曲の提供だけです。他にはトランぺッターのサド・ジョーンズも演奏ではなく”Tiger Lily”と言う曲だけを提供しています。こちらもなかなかキャッチーなメロディの曲で、ソロ一番手のシダー・ウォルトンが魅力的なピアノソロを聴かせてくれます。私が調べた限りサド・ジョーンズ自身がこの曲を演奏した記録はなく、どう言う経緯でミッチェルらに曲が提供されたのか分かりませんがきっとジャズマンの間で色々コネクションがあったのでしょうね。

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ソニー・スティット/リアリン・バック

2025-03-23 21:21:57 | ジャズ(ハードバップ)

ソニー・スティットの50年代〜60年代の多作ぶりについては先日インパルス盤「ナウ」のところでご紹介しました。この頃のスティットは特定のバンドメンバーも持たず、様々なジャズマンをバックにあちこちのレーベルにリーダー作を残しています。良く言えばハードワーキングまたはエネルギッシュ、悪く言えば節操がなく手当たり次第に吹き込んでいると言ってもいいくらいです。あまりにも作品が多いせいかこの頃のスティットには代表作と言えばこれ!と言ったようなアルバムがなく、似たような内容のアルバムが分散している感じです。

そんな中で私が秘かに愛聴しているのが今日ご紹介する「リアリン・バック」。シカゴのレコード会社であるアーゴ・レコードに1962年9月に吹き込まれたもので、15年ほど前に紙ジャケで発売されていました。買う前は大して期待してもいなかったのですが予想以上に内容が良く、私の所有するスティット作品群の中でも上位に位置するぐらい気に入っています。ただこの作品、評論家やジャズファンの評価はあまり高くなく、スティットの名盤特集でもまず出てきませんし、他の方が書いたジャズブログでも本作は全然ヒットしません。

一因はまずジャケット。目の下にクマを作った顔色の悪いスティットのドアップ。まるでヤクを一発決めてきましたと言わんばかりです(実際にスティットは麻薬常用者だったらしいですが・・・)。顔面アップを使うにしてももう少し良い写真があっただろうに、と思わずにはおれません。あと、メンバーも地味ですね。ピアノがロニー・マシューズ、ベースがアーサー・ハーパー、ドラムがレックス・ハンフリーズと言うラインナップ。うちマシューズは60年代にそこそこ活躍したピアニストなのでまあいいとして、ベースのハーパーは私もこの作品ぐらいでしか見たことがありません。

ただ、内容は充実しています。この頃のスティット作品はだいたい3分の2がスタンダードで残りが自作のブルースやバップと言う構成が多いですが、本作に関しては7曲中5曲がオリジナルでしかも良い曲が多いです。まず、オープニングのタイトルトラック”Rearin’ Back"。スティットが書いたカリプソ風の明るいナンバーでスティットが歌心溢れるアルトソロをたっぷり聴かせ、次いでマシューズもトロピカルなピアノソロで華を添えます。2曲目と3曲目はカバー曲で、まず”Wee”はビバップ期の名ドラマー、デンジル・ベスト(有名な”Move”の作曲者)の典型的なビバップ曲。スティットのパーカーを思わせる好調なアルトの後、マシューズ→ハンフリーズのドラムソロと続きます。続く”Little Girl Blue”は本作中唯一のスタンダードでスティットがテナーでムードたっぷりにバラードを歌い上げます。4曲目”Cut Plug”はスティット自作のブルースで、この曲もテナーでお得意の音数の多いテロテロフレーズを披露します。

後半(B面)は全てオリジナル曲。5曲目”Queen”はマイルス・デイヴィスの”Four”をミディアムテンポにしてさらにメロディアスにしたような感じの魅力的な曲。スティットの歌心たっぷりのソロはもちろんのこと、マシューズのピアノソロも素晴らしいですね。6曲目”Carpsie’s Groove"はコテコテのブルース。スティット、マシューズともに泥臭いプレイに徹します。7曲目”Bunny R"も”Queen”と少し似た感じの香り高いハードバップ。ミディアムテンポにも関わらず隙間なく音を敷き詰める感じの素早いフレーズを繰り出す独特のスティット節が最高です!以上、ジャケットはイマイチですが、”Rearin’ Back""Queen""Bunny R"とオリジナルの名曲揃いで個人的にはスティットの隠れ名盤としてプッシュしたい1枚です。

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ソニー・スティット/ナウ!

2025-03-13 19:04:12 | ジャズ(ハードバップ)

本日はソニー・スティットです。スティットはとにかく多作なことで知られ、生涯に発表したリーダー作の数はなんと100(!)以上。特に50年代後半と60年代前半が凄まじく、その10年間だけで50枚を超えるアルバムを残しています。平均して年に5枚ですから超ハイペースですね。主な録音先はヴァーヴやルースト、プレスティッジですが、それ以外もアーゴ、アトランティック、インパルス、パシフィック・ジャズと言葉は悪いですが手当たり次第に吹き込んでいる感じですね。内容も似たり寄ったりで収録曲の大体2/3がスタンダードで残りが自作のブルースやバップナンバーと言った具合です。正直ワンパターンですし、中にはマンネリ気味の凡作もあります。

ただ、もちろん良い作品もたくさんあり、本日ご紹介するインパルス盤「ナウ!」もその代表格ですね。本作は1963年6月の録音。インパルス・レコードにはもう1枚エリントン楽団のテナー奏者ポール・ゴンサルヴェスとのツインテナー「ソルト&ペッパー」も吹き込んでいますが、内容的にはこちらの方が良いと思います。ワンホーンカルテットでメンバーはハンク・ジョーンズ(ピアノ)、アル・ルーカス(ベース)、オシー・ジョンソン(ドラム)とベテラン中心のラインナップです。

全8曲。スティットの自作曲が3曲、スタンダードが5曲です。オープニングは"Surfin'"。スティット自作の典型的なバップナンバーです。スティットはアルトとテナーどちらも吹きますが、本作はこの曲含めてテナーの方が多いですね。いつも通りの音数の多いスティット節にハンク・ジョーンズも軽快なピアノソロで華を添えます。ハンクは全編で素晴らしいピアノソロを披露しており、本作のもう1人の主役と言って良いと思います。2曲目はレスター・ヤングの名曲”Lester Leaps In"。この曲もスティットはテナーです。3曲目はメキシコの作曲家マヌエル・ポンセの名曲”Estrellita"。ヤッシャ・ハイフェッツのヴァイオリン演奏が有名らしいですが、ここではスティットがアルトでエモーショナルに歌い上げます。4曲目”Please Don't Talk About Me When I'm Gone"は小粋な歌モノで、スティットが再びテナーで快調に演奏します。

続いて後半(B面)ですが、まず"Touchy"はスティットのオリジナルで、”Surfin'"と同じようなバップ曲です。正直言ってスティットの書く曲は大体どれも似たような感じで、ビバップかブルースのどちらかです。6曲目”Never ---SH!”はそれで言うと後者の方ですね。ここではアルトでこってりしたブルース演奏を聴かせます。7曲目”My Mother's Eyes"はアベル・ベアと言う人が書いた映画の挿入歌であまり他では聞きませんが、スティットはお気に入りだったのか前月に吹き込んだパシフィック・ジャズ盤「マイ・マザーズ・アイズ」でも演奏しています。とても優しいメロディを持った魅力的な曲で、スティットの慈しむようなテナーソロとハンク・ジョーンズの短いながらもキラリと光るピアノソロが素晴らしいです。ズバリ本作のベストトラックと言って良いと思います。ラストは有名スタンダードの”I'm Getting Sentimental Over You"で、スティットがアルトで軽快にソロを取ります。以上、内容的にはワンパターンかもしれませんが、私のようなスティット好きにはたまらない一品です。

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ウェス・モンゴメリー/ソー・マッチ・ギター!

2025-03-12 18:57:43 | ジャズ(ハードバップ)

60年代ジャズ最大のスターと言っていいウェス・モンゴメリーですが、実は彼は遅咲きのジャズマンでした。1923年生まれ(実はマイルス・デイヴィスより3つも年上)のウェスが地元インディアナでプロのギタリストとして活躍し始めたのは1940年代半ば。1948年にツアーで訪れたライオネル・ハンプトンに見込まれ、彼のバンドに加入する機会を得ますが、なぜか2年間の活動で大きな脚光を浴びることなく、再び故郷に引っ込みます。(この頃のハンプトン楽団の録音も残ってはいるようですが、私はまだ聴いたことがありません。)

その後はベーシストの兄モンク、ヴァイブ奏者の弟バディらとモンゴメリー・ブラザーズを結成し、西海岸のパシフィック・ジャズに何枚かのアルバムを残しますが、そこでもまだブレイクとまでは行かず。ウェスがようやくスターダムに駆け上がったのは1959年にリヴァーサイド・レコードと契約してからです。彼を社長のオリン・キープニュースに推薦したのはキャノンボール・アダレイでした。この時ウェスは既に36歳。随分回り道をしたなあというのが正直な感想です。

ただ、その後のウェスはそれまでの苦労が嘘かのように次々とリーダー作を発表します。デビュー盤「ウェス・モンゴメリー・トリオ」を皮切りに、翌1960年に「インクレディブル・ジャズ・ギター」「ムーヴィン・アロング」、続く1961年に今日ご紹介する「ソー・マッチ・ギター!」、ミルト・ジャクソンとの「バグス・ミーツ・ウエス」、そして1962年に超名盤「フル・ハウス」と言った具合です。本作はコンガを加えた変則的クインテット編成で、メンバーはハンク・ジョーンズ(ピアノ)、ロン・カーター(ベース)、レックス・ハンフリーズ(ドラム)、レイ・バレト(コンガ)と言う布陣です。ハンク・ジョーンズはウェスより年上の大ベテランですが、後にジャズ・ジャイアントに数えられるロン・カーターはまだ24歳。ウェスとは違って早い段階から天才ベーシストとして注目されていました。

全8曲。ウェスのオリジナルは2曲だけで、後はスタンダードが中心です。オープニングトラックは自作曲の"Twisted Blues"。のっけからノリノリのファンキーチューンで、ウェスがダイナミックなギターソロを存分に披露します。ハンク・ジョーンズのピアノソロに続きカーターのベースソロも聴けます。もう1曲のオリジナル曲は6曲目"Somethin' Like Bags"。バグスの愛称で知られるミルト・ジャクソンに捧げた曲で、いかにもミルトを思わせるソウルフルな曲です。ウェスとミルトは8ヶ月後に「バグス・ミーツ・ウェス」を発表しますが、この頃から親交があったのでしょうか?

スタンダードはビッグバンドものと歌モノが3曲ずつです。まずはビッグバンドものからで2曲目のデューク・エリントン”Cotton Tail"。通常はミディアムテンポで演奏されることが多いですが、ここではかなり速めのテンポで料理されており、ウェスが圧倒的なテクニックで速弾きを披露します。4曲目”I'm Just A Lucky So-And-So"もエリントン・ナンバーですが、こちらはかなりブルージーな演奏。ウェスはもちろん、ハンク・ジョーンズのピアノソロもさすがです。5曲目”Repetition"はニール・ヘフティの作曲で、彼のオーケストラがチャーリー・パーカーをゲストに迎えた演奏が有名です。本作のバージョンはコンガとドラムが刻むリズムに乗った疾走感溢れる名演で、ウェスとハンクが見事なソロをリレーします。

残り3曲は歌モノで全てバラード演奏です。ウェスはバラードの名手でもありますが、3曲目”I Wish I Knew"はその見本とも言えるようなロマンチックな演奏ですね。7曲目”While We're Young"は無伴奏ギターソロ。「フル・ハウス」の”I've Grown Accustomed To Her Face"を思い起こさせます。ラストの”One For My Baby"はシナトラ、ビリー・ホリデイ、メル・トーメら多くの歌手が歌った名バラードですが、ウェスはブルーステイストをまぶしながらじっくり歌い上げます。以上、同時期の「フル・ハウス」等の傑作の陰に隠れがちですがなかなか充実した内容の一枚だと思います。

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