ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

ジョニー・グリフィン/ザ・ケリー・ダンサーズ

2024-10-31 21:40:10 | ジャズ(ハードバップ)

1958年にブルーノートからリヴァーサイドに移籍したジョニー・グリフィンは「ジョニー・グリフィン・セクステット」「ウェイ・アウト」「リトル・ジャイアント」とストレートアヘッドなハードバップ作品を次々と発表し、ジャズテナーのスターとしての地位を確立します。ただ、その後はエディ・ロックジョー・デイヴィスとのツインテナー”グリフ&ロック”として活動する一方、ソロ名義では少し変わった作風にチャレンジするようになります。

1961年の「チェンジ・オヴ・ぺイス」はフレンチホルンとベース2本でなおかつピアノレスと言う異色の編成。続く「ホワイト・ガーデニア」は亡きビリー・ホリデイに捧げたストリングス入りの作品です。ただ、正直言ってそれらの試みは成功しているとは言い難く、私的には上記2作は失敗作と言っても良いと思います。今日ご紹介する「ザ・ケリー・ダンサーズ」は「ホワイト・ガーデニア」の次に発表された作品で、ここでもグリフィンはアイルランドや英国のトラディショナルソングを大々的に取り上げており、試み自体はとてもユニークです。ただ、編成自体はシンプルなワンホーン・カルテットと言うこともあり、意外と普通に聴けるジャズに仕上がっています。なお、リズムセクションはバリー・ハリス(ピアノ)、ロン・カーター(ベース)、ベン・ライリー(ドラム)と言う顔ぶれです。

全8曲、うち前半(レコードのA面)4曲は全てトラディショナルソングです。タイトルトラックの"The Kerry Dancers"はアイルランド、2曲目"Black Is The Color Of My True Love's Hair"はスコットランド、3曲目"Green Grow The Rushes"はイングランドの民謡です。youtubeで原曲を検索するとジュディ・コリンズやケルティック・ウーマンが歌ったバージョンが出てくるので、聴き比べてみると面白いと思います。グリフィンはバリー・ハリス・トリオをバックに気持ちよくブロウしており、どの曲も快適なミディアムチューンに仕上がっています。4曲目"The Londonderry Air”は"Danny Boy"の名前で日本人にもすっかりお馴染みのアイルランド民謡。この曲はビル・エヴァンスも「エンパシー」で取り上げていましたが、ここでも美しいバラードに仕上がっています。

後半は民謡縛りから外れ、サラ・キャシーと言う人のオリジナル曲が2曲(”25½ Daze""Ballad For Monsieur")あります。この人のことは良く知りませんでしたが、デトロイト出身の黒人の女性ピアニストだそうです。前者はシンプルなリフのブルース、後者はタイトル通りバラードですがちと地味か?グリフィン唯一のオリジナル曲"Oh, Now I See"もバラードでこちらの方が良いですね。グリフィンのダンディズム香るバラードプレイがシブいです。残る1曲は”Hush-A-Bye"で、サミー・フェインが書いた映画音楽です。hush-a-byeは英語で♪ねんねんころり、という意味があるようですが、グリフィンのバージョンは寝た子も目が覚めるような力強いプレイで、グリフィンのソウルフルなテナーが素晴らしいです。

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ホレス・シルヴァー/ザ・トーキョー・ブルース

2024-10-30 20:26:19 | ジャズ(ハードバップ)

本日はホレス・シルヴァーが1962年にブルーノートに吹き込んだ「ザ・トーキョー・ブルース」をご紹介します。着物姿の美女2人に囲まれて笑みを浮かべるシルヴァーが印象的な1枚ですね。1960年代になると経済成長著しい日本に多くのジャズマンが訪れるようになり、また彼らを日本のジャズファンも熱烈に歓迎しました。代表例がアート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズで、例の「蕎麦屋の出前持ちが"Moanin'"を口ずさんだ」という伝説が生まれたくらいです。日本ツアーを機に大の親日家となったブレイキーは帰国後に「ウゲツ」「キョート」と日本語をタイトルに冠した作品を発表しています。同じくファンキー・ジャズの代表的グループであるホレス・シルヴァー・クインテットも同様で、1962年始めに日本ツアーを行った半年後に本作を発表しています。

メンバーはブルー・ミッチェル(トランペット)、ジュニア・クック(テナー)、ジーン・テイラー(ベース)とこの頃のクインテットの不動のメンバーが名を連らねています。唯一ドラムがロイ・ブルックスではなく、ジョン・ハリスと言うあまり知らないドラマーが加わっています。

全5曲。全て日本にちなんだオリジナル曲です。ただし、サウンド的には日本の伝統音楽を取り入れているわけではなく、ホレス・シルヴァーの十八番であるファンキー・ジャズの流れを組むものです。ただ、1962年という時代を反映してか、モードジャズの影響も濃厚に感じられます。1曲目”Too Much Sake"はそんな本作の雰囲気を代表する曲で、モーダルで魅力的な旋律です。2曲目”Sayonara Blues"は12分を超える長尺の曲で、ちょっと哀愁漂うミステリアスなナンバー。3曲目はタイトルトラックの”The Tokyo Blues"で、静かに燃え上がるファンキーチューンです。4曲目”Cherry Blossom"はシルヴァーにしては珍しいスローバラード、と思ったら作曲はピアニストのロンネル・ブライトでした。なかなか叙情的な旋律を持つ曲で、ミッチェルとクックがお休みの中、シルヴァーがトリオでしっとりとしたバラード演奏を聴かせます。最後の”Ah, So!"は変なタイトルで思わず笑ってしまいます。日本人がよく言う「あっそう」という相槌がよほど印象に残ったのでしょうね。ちょっと不思議な曲で、冒頭はピアノとシンバルで奏でるお寺の鐘みたいなゴーンゴーンと言う音で始まり、ちょっとフリーっぽいトランペットとテナーのユニゾンを経て、その後はいかにもシルヴァーらしいエネルギッシュなファンキージャズが繰り広げられます。全体的に曲名以外で日本的な要素はあまり感じられませんが、この頃のホレス・シルヴァーのモード混じりのファンキージャズを味わえる作品と思います。

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アート・ファーマー&ジジ・グライス/ホエン・ファーマー・メット・グライス

2024-10-26 10:01:18 | ジャズ(ハードバップ)

先日の「パーセプション」に引き続きアート・ファーマーです。ファーマーのスタイルの変遷については前回も話をしましたが、今日ご紹介するプレスティッジ盤「ホエン・ファーマー・メット・グライス」は1954年から1955年にかけての録音なので、ファーマーがバリバリのバップ・トランぺッターだった頃ですね。ジャケットの左側の人物がファーマーで握手しているのがコ・リーダーであるアルトのジジ・グライスです。

ジジについてもドナルド・バードと組んだジャズ・ラブの作品を中心に本ブログでもたびたび取り上げてきました。ジジは当時の黒人ジャズマンでは珍しくボストン音楽院で音楽理論を学んだエリートで、特に作曲能力に優れたものを発揮しました。もっとも、彼の作る曲は決して小難しいものではなく、あくまでビバップをベースにしながらメロディやハーモニーに工夫をこらしたものです。1950年代中盤はちょうどハードバップの黎明期にあたりますが、ジジの作る”洗練されたビバップ”がマイルス・デイヴィスやホレス・シルヴァーらの作った音楽とともにハードバップを形作ったと評価して良いと思います。

メンバーですが、1954年5月のセッションが、ホレス・シルヴァー(ピアノ)、パーシー・ヒース(ベース)、ケニー・クラーク(ドラム)。1955年5月のセッションがフレディ・レッド(ピアノ)、アートの双子の弟アディソン・ファーマー(ベース)、アート・テイラー(ドラム)です。メンツだけを見ればホレス・シルヴァーに当時のMJQ2人を加えた前者の方が豪華ですが、後者もなかなか興味深いメンバーです。特にフレディ・レッドの他人名義の作品への出演は珍しいので貴重です(レッドについては過去ブログ参照)。 

全8曲、スタンダードは1曲もなく、7曲がジジ、残りがファーマーの自作曲ですが、どれも名曲揃いです。1曲目"A Night At Tony's"はオープニングを飾るにふさわしいアップテンポの華やかな曲。後にアート・ブレイキーもカバーしています。2曲目"Blue Concept"は別名を”Conception"とも言い、ジジが1953年にライオネル・ハンプトン楽団に在籍していた時に書いた切れ味鋭いバップナンバーで、クリフォード・ブラウンのパリ・セッションにも収録されています。4曲目の”Deltitnu"もそうですね。なお、同時期のハンプトン楽団にはファーマーも在籍していましたので、2人は当時からの付き合いのようです。続く”Stupendous-Lee”は他ではあまり聴かない曲ですが、ミディアムテンポの佳曲です。

後半(B面)は"Social Call"で始まりますが、こちらはスタンダード曲を思わせるような優美なメロディの曲で、実際翌年にジョン・ヘンドリックスが歌詞を付け、歌手のアール・コールマンが歌っています。今ではすっかり本物のスタンダードとして定着し、多くの歌手にカバーされています。続く”Capri"も私の大好きな曲で、ジジ自身もジャズ・ラブで演奏していますし(RCA盤参照)、ベニー・ゴルソンも「ニューヨーク・シーン」で取り上げた名曲です。"Blue Lights"は個性派ピアニストのエディ・コスタのバージョンがすっかり有名になりましたが、クリフ・ジョーダンやコールマン・ホーキンスもカバーしたマイナーキーの曲。ラストの”The Infant's Song"だけはアート・ファーマーの作曲ですが、こちらもしみじみとした美しいバラードです。

演奏の方ですが、この頃はバリバリと小気味良いトランペットを吹いていたファーマー、パーカー直系の流麗なアルトを聴かせるジジに、シルバーやレッドらリズムセクションも堅実な仕事ぶりです。ファーマーとジジはこの後も「イヴニング・イン・カサブランカ」でコンビを組むなど、蜜月関係を築いていましたが、その後は袂を分かちます。どうやらジジは性格的に神経質なところがあったようですね。その後も息の長い活動を続けたファーマーに対し、ジジは60年代に入ると早々にシーンから姿を消しますが、本作は彼の作曲能力の高さを知ることができる1枚です。

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ドナルド・バード/バード・ブロウズ・オン・ビーコン・ヒル

2024-10-23 19:39:44 | ジャズ(ハードバップ)

1955年、デトロイトからニューヨークにやって来た23歳の青年ドナルド・バードは、瞬く間にトランペットのニュースターとして注目を浴び、あちこちのセッションに引っ張りだこになります。その活躍ぶりはすさまじく、1956年から1957年にかけてバードが参加した録音はプレスティッジ、ブルーノートを中心に数えられるだけで50本近くに上ります。

ただ、一方でこの頃のバードのリーダー作は意外と少ないです。彼がブルーノートと契約を結んで、本格的にリーダー作を発表し始めるのは1958年以降のことで、それまでは専らサイドマンとしての起用でした。プレスティッジ等他のレーベルも同様です。同じ頃に登場したリー・モーガンがデビュー作からリーダーで売り出したのと比べると差がありますね。この頃にバードが残した単独リーダー作はサヴォイ・レコードの「バーズ・ワード」、トランジション・レコードの3枚「バード・ジャズ」「バーズ・アイ・ヴュー」、そして今日ご紹介する「バード・ブロウズ・オン・ビーコン・ヒル」のみです。

トランジション・レコードはトム・ウィルソンと言う黒人の音楽プロデューサーがボストンで設立したレーベルで、実働期間わずか3年間、10数枚のレコードを残して倒産してしまいました。バードの3枚以外にはダグ・ワトキンスの「ワトキンス・アット・ラージ」(これも超名盤です!)等があります。また、ルイ・スミスの「ヒア・カムズ・ルイ・スミス」はトランジション倒産後にブルーノートに買い取られた作品です。

本作はバードのワンホーン・カルテットで、リズムセクションはデトロイト時代からの盟友であるダグ・ワトキンス(ベース)に加え、ボストンのローカル・ミュージシャンであるレイ・サンティシ(ピアノ)とジミー・ジターノ(ドラム)が名を連ねています。ジャケットでバードの背後にいる白人2人がそうですね。サンティシもジターノも一般的には無名ですが、地元ではそこそこ名が知られていたようで、同じボストン出身のサージ・チャロフ「ボストン・ブロウアップ」やハーブ・ポメロイ「ライフ・イズ・ア・メニー・スプレンダード・ギグ」に名前を発見できます。

全6曲、ほぼスタンダードで構成されていますが、1曲目の”Little Rock Getaway"だけはジョー・サリヴァンと言うピアニストがスイング時代に発表した曲とのこと。シンプルで歯切れの良いメロディの曲で、バードが元気いっぱいのトランペットを響かせます。サンティシのピアノソロもまずまず。2曲目は"Polka Dots And Moonbeams"で、定番のバラードをバードが高らかに歌い上げます。アドリブ部分に単調さが感じられなくもないですが、小手先のアレンジをせずメロディーをストレートに吹き切るところに好感が持てます。3曲目"People Will Say We're In Love"はバードが抜けたピアノ・トリオの演奏。地元の顔であるサンティシに花を持たせた感じですが、彼のピアノ自体に際立った個性はなく、無難にまとめている、と言うのが冷静な評価ですかね。

4曲目”If I Love Again"はクリフォード・ブラウンやサド・ジョーンズら名トランぺッター達に取り上げられている曲で、ここではバードがカップミュートを付けて演奏しています。リズムセクションもドライブ感たっぷりの演奏で曲を盛り上げており、終盤にジミー・ジターノも熱いドラムソロを披露します。5曲目”What's New"はダグ・ワトキンスのベースによるピチカートソロが全面的にフィーチャーされています。途中でサンティシのピアノソロも挟まれますが、主役はあくまでベースです。この曲でもバードは登場しません。ラストは”Stella By Starlight"をバンド全体で軽快に吹き切ってエンディングを迎えます。以上、全体的な完成度はもう一つという気もしますが、若き日のドナルド・バード(とその仲間達)の溌溂とした演奏が楽しめる1枚です。

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アート・ファーマー/パーセプション

2024-10-21 19:33:43 | ジャズ(ハードバップ)

本日はアート・ファーマーです。ファーマーについては最近も「イヴニング・イン・カサブランカ」「ファーマーズ・マーケット」と言った50年代半ばのプレスティッジ時代の名盤を取り上げてきました。この頃のファーマーはハードバップ路線ど真ん中でトランペットをバリバリ吹いていましたが、1960年代にハードバップが下火になると新たなスタイルを模索します。同時代に活躍したマイルスやリー・モーガンらはモードジャズ路線を突き進んて行く中、ファーマーが選んだのは楽器を変えることでした。

1961年10月にアーゴ・レーベルに吹き込んだ本作「パーセプション」を機に、ファーマーは本格的にフリューゲルホルンを使用し始め、以後キャリアを通じてこの楽器を吹き続けます。フリューゲルホルンはトランペットに似た金管楽器ですが、トランペットより一回り大きく、管の口径も広いことから、音的には優しく暖かみのある音色が出ます。一方でハイノートは出にくいので、激しい演奏には向かないようです(実際に演奏したことないので完全に受け売りですが)。結果、60年代以降のファーマーはソフトな演奏で売って行くようになります。

この頃のファーマーはソロ活動と並行してベニー・ゴルソンとの双頭コンボ、ジャズテットでも活動しており、本作「パーセプション」には当時のジャズテットのリズムセクションであるハロルド・メイバーン(ピアノ)、トミー・ウィリアムズ(ベース)、ロイ・マッカーディ(ドラム)が参加しています。ただし、テナーとトロンボーンはおらず、ファーマーのフリューゲルホルンにスポットライトを当てたワンホーン編成です。

全8曲。歌モノスタンダードとジャズ・オリジナルが半分ずつと言う構成です。アルバムはファーマーのオリジナル曲"Punsu"で幕を開けますが、ハロルド・メイバーンのピアノによるおしゃれなイントロを聴いた瞬間に「素敵な音楽が始まる♪」と思わせてくれますね。実際、その後のファーマーの歌心たっぷりのソロ、メイバーンの軽やかなタッチのピアノソロも期待に違わぬ出来です。7曲目”Change Partners"も素晴らしいですね。元々はフレッド・アステアが主演映画で歌っていた曲で旋律自体が魅力的ですが、演奏も最高です。この曲もハロルド・メイバーンのマッコイ・タイナーを彷彿とさせるような飛翔感溢れるソロに導かれるようにリズムセクションが躍動し、ファーマーも名人芸とでも言うべきメロディアスなソロを存分に聴かせてくれます。

以上、上記の2曲のみで名盤認定しても良いくらいですが、それ以外も哀愁たっぷりのスタンダード”Lullaby Of The Leaves"、ロジャース&ハートの2曲のバラード”The Blue Room"”Nobody's Heart"、オリジナルではファーマー作の軽やかなタッチの佳曲"Kayin"、レイ・ブライアント作のファンキーな”Tonk"も捨てがたい内容です。煙草片手にポーズを決めるファーマーのダンディなジャケットもカッコいいですし、地味ながらも隠れた名盤だと思います。

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