ハードバピッシュ&アレグロな日々

CD(主にジャズ・クラシック)の感想を書き留めます

フィエスタ!

2019-02-28 22:21:07 | クラシック(管弦楽作品)
本日は少し変わったところでラテンアメリカのクラシック音楽を取り上げたいと思います。クラシックの本場ヨーロッパから見ると“辺境”に過ぎなかった中南米ですが、20世紀も後半になると多くの指揮者や演奏家を輩出するようになりました。本日ご紹介するCD「フィエスタ!」を指揮するベネズエラ出身のグスタボ・ドゥダメルはその代表格で、ロサンゼルス・フィルの音楽監督を務めるかたわら世界中の一流オーケストラで客演する現代を代表するマエストロです。ただ、ここで彼が指揮するのは地元ベネズエラのジモン・ボリバル・ユース・オーケストラ。貧しい子供たちに音楽教育を施す目的で作られたオーケストラで、ドゥダメル自身もこのオケ出身です。本作は8つの作曲家による作品を集めたオムニバス盤ですが、レナード・バーンスタインの「マンボ」を除けばあとは全て中南米の作曲家による作品。いわば自分達のなじみの音楽を演奏するわけですから、ヨーロッパの一流オケよりも彼らの方が適任でしょう。



全8曲ですが、私がお薦めするのはそのうち5曲。まずは2曲目、ベネズエラの作曲家イノセンテ・カレーニョが1954年に作曲した「マルガリテーニャ」。どことなくリヒャルト・シュトラウスの「アルプス交響曲」を彷彿とさせる雄大な曲です。ただし、脳裏に思い浮かぶのはマッターホルンやモンブランではなく、ギアナ高地のテーブルマウンテンです。続いて4曲目はメキシコの作曲家アルトゥロ・マルケスの「ダンソン・ヌメロ・ドス」。直訳すれば「舞曲第2番」ですが、それでは雰囲気が出ないのかスペイン語の題名で呼ばれています。こちらはなんと1994年の作曲で超現代の作品ですが、急速に有名になり今では世界中のオーケストラのレパートリーに加えられています。理由は耳について離れない独特のメロディ。まるでラテン歌謡のようなベタな旋律なんですが聴いているうちにクセになります。フィナーレに向けて徐々に盛り上がって行くところが圧巻ですね。クラシックでこんなに興奮する曲も他にないんじゃないでしょうか?5曲目の「フーガ・コン・パハリージョ」も同系統の曲。こちらはベネズエラの作曲家アルデマロ・ロメーロが1990年に発表した曲。「ダンソン・ヌメロ・ドス」ほどの中毒性はありませんが、静かに燃え上がる曲です。

6曲目から9曲目はアルゼンチンの作曲家ヒナステラによる組曲「エスタンシア」。おそらく本CDの中で一番有名な曲でしょう。「エスタンシア」は大農園のことで、そこで暮らす人々の様子が描かれていきます。4曲合わせて12分ほどですが、どれも魅力的な旋律に彩られています。ハイライトはフィナーレを飾るエネルギッシュな舞曲「マランボ」でしょうが、個人的には2曲目の「小麦の踊り」もお薦めです。農園の朝の情景を描いた静かな曲で美しい旋律が胸に染みます。アップテンポの曲が多い本CDの中では清涼剤のような作品です。10曲目はベネズエラの作曲家エベンシオ・カステジャノスの1954年の作品「パカイリグアの聖なる十字架」。こちらは16分あまりの大作ですが、その中で次々とメロディが変化していく大変楽しい曲です。序盤はいかにも南米らしい陽気なリズムで始まり、中盤では抒情的で美しい旋律も現れたかと思うと、終盤にかけてはラテンらしい情熱的な旋律で華々しいフィナーレを迎えます。以上最初は知らない作曲家の知らない曲ばかりで、正直あまり期待していなかったのですが、聴きこんでみると本当に素晴らしい曲ばかりで私の中でクラシック音楽の裾野を広げてくれた1枚です。超お薦めです!
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プーランク/シンフォニエッタ&田園のコンセール

2019-02-21 22:18:57 | クラシック(管弦楽作品)

前回のヒンデミットに続き、本日も20世紀の作曲家であるフランシス・プーランクを取り上げたいと思います。プーランクについては過去にも当ブログでバレエ音楽「牝鹿」合唱曲「グローリア」を紹介しましたが、現代の作曲家では異端と言えるほど古典的で明快な作風を持ち味にしています。それでいて単にハイドンやモーツァルトの真似事に終わるのではなく、ドビュッシー等の近代フランス音楽のエッセンスも取り込んで洗練された楽曲に仕立てあげているところが素晴らしいですね。本日紹介する「シンフォニエッタ」「田園のコンセール」もまさにその好例といってもよい作品です。CDはシャルル・デュトワ指揮フランス国立管弦楽団のもので、こちらには上記2曲の他に「フランス組曲」と「牝鹿」も収録されていますが、前者は1~2分程度の短い曲ばかりを集めた小品、後者は以前のブログで解説していますので割愛します。



まずは「シンフォニエッタ」から。この曲が書かれたのは第二次大戦直後の1947年ですが、そんな時代背景からは想像もつかないくらい軽妙で明るい曲です。きびきびした序奏から一転して優美な旋律が現れる第1楽章、跳ねるようなスケルツォの第2楽章、穏やかなアンダンテ・カンタービレの第3楽章、疾走感あふれる導入部に引き続いて次々と魅惑の旋律が現れる第4楽章。どこを切り取っても親しみやすい旋律ばかりで、なおかつおフランス的な上品さも感じられます。

「田園のコンセール」はチェンバロを主楽器とした協奏曲形式の作品。チェンバロはバロック時代に鍵盤楽器として最もポピュラーだったもので、バッハによる一連のチェンバロ協奏曲群が有名です。ただ18世紀にピアノが発明されると徐々にそちらに取って代わられ、ロマン派の時代にはすっかり過去の遺物になっていました。にもかかわらずあえてピアノではなくチェンバロのために曲を書いたのが古典志向の強いプーランクならではです。とは言え、20世紀の作品ですので随所に現代的な旋律も挟み込まれており、いかにもバロック的なチェンバロの響きと複雑なオーケストラサウンドが組み合わさったユニークな曲です。もちろんこの曲でもプーランクの稀代のメロディメーカーぶりは存分に発揮されており、第2楽章アンダンテの優美な旋律と第3楽章の壮麗なフィナーレが特に素晴らしいです。

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ヒンデミット/画家マティス&ウェーバーの主題による交響的変容

2019-02-14 22:25:29 | クラシック(交響曲)

本日は20世紀のドイツを代表する作曲家であるパウル・ヒンデミットを取り上げたいと思います。ヒンデミットは1895年生まれの1963年没と言うことで時代的には完全に現代の作曲家ですが、同時期のシェーンベルクやウェーベルンらの十二音技法のような難解さはなく、比較的聴きやすい方です。もっともそれは現代の我々から見てであって、時のナチス政府からは“無調の騒音”と非難され、内容も頽廃的であるとして上演禁止の憂き目にあいます。ヒトラーはご存知のとおりワーグナー至上主義でしたので、そんな彼から見れば現代音楽は十把一絡げに悪とされたのでしょう。この一連の騒動は後に“ヒンデミット事件”と呼ばれ、彼を擁護した指揮者のフルトヴェングラーはベルリン・フィルの常任指揮者の座を終われ、ヒンデミット自身もその後アメリカへ亡命する羽目になります。

当ブログで取り上げるのはそんなヒンデミットの代表作である交響曲「画家マティス」と「ウェーバーの主題による交響的変容」。CDはヘルベルト・ブロムシュテット指揮サンフランシスコ交響楽団のものです。前者は上述のヒンデミット事件の直接のきっかけともなった曰く付きの作品で、もともとオペラとして作曲されたものを交響曲化したものです。ちなみに画家マティスとは有名なフランスの画家アンリ・マティスではなく、「イーゼンハイムの祭壇画」で有名なルネサンス期のドイツ人画家マティアス・グリューネヴァルトのことです。曲はリヒャルト・シュトラウスあたりをややおどろおどろしくした感じと言えばいいでしょうか?確かに現代的な響きでありますが決して無調ではなく、ちゃんとメロディはあります。特にフィナーレのスペクタキュラーな盛り上がりはなかなかのものです。

続く「ウェーバーの主題による交響的変容」はアメリカ亡命後の1943年に作曲された作品で、文字通りウェーバーの楽曲を素材にヒンデミット風解釈で再構築した作品。ウェーバーの曲といっても以前当ブログでも取り上げた「魔弾の射手」などの有名な曲ではなく、ピアノ連弾集や劇音楽「トゥーランドット」(プッチーニのオペラとは同名異曲)などマイナーな作品を元ネタにしているため、ほぼヒンデミットのオリジナルとして楽しめます。全部で4曲ありますが、中国風のメロディが耳について離れない第2曲、華々しいオーケストレーションで盛り上がる第4曲が特にお薦めです。

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